地に蠢く死体、空を舞う黒い影

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月09日

リプレイ公開日:2006年09月11日

●オープニング

「ったく、大して期待はしていなかったがよ!」
 辺り一面の建物は、かろうじて元の形をしのばせるものの最早その役目を果たせないほど荒れてしまった、死んだ村。その中を男は元来た入り口を目指し必死に走っていた。
「こんな山の近くの村までわざわざ漁りに来て、金目のものどころか動く死体を見つけるなんて、とんだ果報者だよ俺は!」
 ――いや、『見つけられた』か。振り返り、追いすがるズゥンビの群れを確かめながら男は自嘲する。捕まったら命は無さそうだ、命乞いも聞いてくれそうになだろうし。
 肝を冷やす思いで村の中を駆け抜けながら、男は安堵しかけていた。振り返るたびに鈍重なズゥンビとの距離は広がっていく。このままいけば助かる――。
 そう思った刹那、前方右の物陰から現われる別のズゥンビの群れが視界に入る。
「なっ、くそ、他にもいただと?!」
 全力で走っていった男は急のことに対応しきれず、新たなズゥンビの集団に向かって突っ込んでいく形となってしまう。飛び込んできた獲物に、群れの先頭はゆっくりとその千切れかかった腕を振り下ろした。
「‥‥くっ!」
 とっさに男は両腕で顔を庇う。指にはめていた指輪が、厚い雲の隙間から差し込む薄い光に反射し、鈍い光を放った。その腕はズゥンビの爪に浅く裂かれた。
「畜生が!」
 痛みをこらえながら男はそのまま走りぬけた。挙動の遅いズゥンビは追いつけない。入り口はもう目の前だった。これなら、助かる――。
 しかしそんな男の期待は、空から降下する黒い影が打ち砕いた。黒い羽根を撒き散らしながらそれは男を爪で引っ掻き、嘴で突き回す。
「うわあ、何だこのカラス、ヤメロ!」
 無茶苦茶に腕を振り回し何とか追い払おうとする男。だが、その通常のカラスよりも倍ほどの大きさを持つそいつには通じない。そこへさらにもう一羽が男目掛けて現われてしまう。
「なっ、お前らに構っている暇は無いんだ、おい!」
 怒声を上げる男はその自分の声の大きさ故に気づけなかった。ヌチャり、ヌチャりとしたたり落ちるような足音が背後に迫っていたことに。ズゥンビ達の口が、開く。
 聞き届ける人のいないその村に、男の断末魔の叫びが響く。

 
 キエフの冒険者ギルド。そのカウンターで冒険者が新たに張り出された依頼の説明を受付嬢に求めていた。
「廃村のズゥンビ退治?」
「ええ、元々は開拓村でしたが、襲撃を――魔物か蛮族かは分かりかねますが、受けて滅んでしまって以来、放置されていたのですが。開拓を進めていく都合上そのままにしておくことはできないということで先日調査が行われたようなのです」
「そこで行ってみたらズゥンビの群れとご対面、ってことか」
 ええ、そうです。そして退治依頼が出されて今あなた方はその説明を受けている。そういうことです。受付嬢は答えた。
「なるほどね。だがそれにしても‥‥」
 報酬の額が少々高めではないだろうか。多少数が多いとはいえ、人の、しかも恐らく一般人のズゥンビ相手にしては。
 冒険者が疑問の表情を浮かべると、それが言葉にされる前に受付嬢は答えを用意する。
「実は、気になる情報が。村の入り口付近に比較的新しい布の切れ端‥‥恐らく服の。そして遠目に見たとのことですから、はっきりはしないのですが空に羽ばたく黒い影が少なくとも二つあったと‥‥ジャイアントクロウだろうと思われるのですが」
 ジャイントクロウ、そいつは力こそ強くないものの空を飛び、素早く動くという点では厄介な相手だった。単体でなく、今回推測されるケースのように他のモンスターと一緒に現われるのだとしたら、特に。
「つまり、ズゥンビとジャイアントクロウ、両方退治しろってことだな」
 やっぱりそう上手い話って言うのは存在しないんだな。あーあ、と諦めた感じで冒険者は尋ねた。
「いえ。村から危険が無くなればいいということなので、ズゥンビはともかく、その黒い影に関しては追い払えば――勿論、戻ってこないと思える状態という条件付きですが、それでいいそうですよ」
 さて、どうします? 受付嬢はあなたたちに問い掛けた。

●今回の参加者

 ea6251 セルゲイ・ギーン(60歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8206 カナリー・グラス(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5657 アーリア・アウラ・サーレク(25歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb5976 リリーチェ・ディエゴ(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb5986 リナ・フィルファニア(16歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●不安
「大量発生したズゥンビにジャイアントクロウ。腕試しにはちょうど良いわね」 
「ま、確かに迷える死者を放って置くわけにはいかないな。しかしまだジャイアントクロウと決まったわけではないが‥‥実際どうなのか、お二方?」 
 廃村への道中、カナリー・グラス(ea8206)が意気込んで言った台詞に、皇茗花(eb5604)が応えつつ、依頼での不確定だった情報について知識のある仲間に尋ねた。
「あ、はい。遠くから見ても大きく見えたのならさすがにジャイアントクロウのはずですよ。普通のカラスの倍くらいありますし、それに、アンデットと一緒って言うのも良く有るみたいですし」
 レンジャーのルンルン・フレール(eb5885)が答えると、
「そうですねー、大きくなっても光物への執着は変わらないみたいですからそれを利用して誘き寄せちゃいましょー。‥‥カラスは幼い日にやっと手に入れた食料を取られた時から敵なので容赦しませんよ」
 と、同じくレンジャーのリリーチェ・ディエゴ(eb5976)がさらっと凄まじい過去をにおわせながら肯定した。
 そんな道行く冒険者一行に付き従う大きな、というよりがっちりとした影二つ。ローブを着込んだその影の正体は、ナイトのアーリア・アウラ・サーレク(eb5657)とリリーチェのペットであるスモールストーンゴーレム。それぞれロードオブオブシィディア、ウルリクンミと名づけられていた。ローブは目立たせないための工夫で、「傍から見ればれば騎士と従者に‥‥?」とは、アーリアの談。語尾に疑問符が付いてる辺り本人も自信を持てなかったようだが、実際にそのようなニュアンスが的確といったところだった。
(それにしても‥‥大丈夫だったのかな?)
 懐のゴーレムと対となる魔法のメダルを取り出して見つめながら、リリーチェはふと今朝のことを思い出す。『私に着いて来て』と命令しても前日までのようにウルリクンミは来なかった。もう一度念じ直したところ、今までどおり動いたのでそれ以上気にせず行くことにしたが、消えない不安がリリーチェの心にこびりついていた。

「‥‥見えたわ」
 前方に目的の廃村を初めに認めたのは抜きん出た視力を持つカナリー。
「さて、ジャアイントクロウとズゥンビ、出来れば別々に相手にさせてほしいものだが」
「任せてくださいよー。先に鴉さんは誘き寄せちゃいましょう」
 茗花の言は、冒険者一行の総意であった。待ってました、とリリーチェはバタフライブローチを手に取り掲げる。
「あ、その前に偵察行きましょう、リリーチェさん」
 ルンルンがスクロール片手に、ゴーレムに駆け寄ろうとしたリリーチェに声をかけた。

●黒い影
 バタフライブローチをつけたウルリクンミ、銅鏡をつけたロードオブシディアが村の入り口に向かう。
 暗い雲の合間から光が差し込み、蝶をあしらった装飾具が乱反射できらきらと輝く、と同時に村の奥のほうから近付く二つの黒い影。
「来たわ!」
 いち早く視認したカナリーの声で冒険者に準備する余裕が生まれた。
「マジ狩るアーチャー、推参ですー♪」
「絶対近づけさせないから!」
 ブローチをつけたウルリクンミを二羽のジャイアントクロウの爪が裂こうとしたかと思われたその刹那、弦のはじかれる音と矢が風を切る音。そして一瞬の静寂の後に響き渡る濁った鳴き声。それぞれ矢が深く突き刺さった二羽の鴉はゴーレムの手前で宙へ行き先を変更することを余儀なくされていた。傷ついた翼で何とか浮かべる低い空へと。積年の恨みを籠めたリリーチェと、ルンルンの射撃は、ジャアイントクロウに深手を負わせていた。脅威を体で知った二羽はよろめきながら離れようとする。
「逃さんよ」
 印を組むと同時に淡い青の光に包まれたセルゲイ・ギーン(ea6251)の手から、吹雪が起こる。アイスブリザード。高速での確実な成就のため威力を抑えられたその魔法は、それでも弱ったジャイアントクロウの止めには充分だった。瀕死の傷を負った二羽にもう空を翔る力はなく地に墜ちた。

「これでジャイアントクロウは全てでござるか?」
 念のため構えたナイフを手持ち無沙汰に弄びながら、偵察を行った二人に聞く武道家の磧箭(eb5634)。ルンルンは首を振り、
「いえ、村に入らないぐらいの位置ではブレスセンサーに引っかかりませんでした。先ほどの二羽も、です」
「カラスの生態からして、もうちょっといるかもしれませんねー」
 補足したリリーチェは、なぜか楽しそうだ。一矢ではまだ恨みが晴れていないのかもしれない。
「警戒はすべき、ということだな。さて、行こうか」
 茗花が促し、冒険者一行は村の中へ足を踏み入れた。

「何で…こんな事になる前にどうにか出来なかったのですか!」
 吹き抜ける風が、あちこちが折れ、破れた家屋を揺らす。悲惨な村の現状を目の当たりにして、アーリアは憤慨した。
「ほんと、一体何があったんだろう」
 リナ・フィルファニア(eb5986)も心を痛めて嘆息する。
「ええ、そうね‥‥っと、来たみたいね!」
 6体のズゥンビの集団の姿に、カナリーが詠唱を始める。同時に、ルンルン、リリーチェは弓に矢を番え、アーリアと箭は武器を構える。
 長い間の月日を日も当たる場所で過ごしたそのズゥンビたちは白骨を覆う腐肉はどの個体も僅かだった。

●誤算
「轟け雷鳴、唸れ稲妻、ライトニングサンダーボルト!!」
 詠唱を終えたカナリーが放つ一撃が、いまだ遠いズゥンビの一角を貫く。そこへ更にルンルンのライトロングボウから放たれた一撃が突き刺さる。しかしその群れは一向に止まらない。
「‥‥しんどそうじゃのう」
 そう呟きながら、セルゲイも詠唱を始めた。早期発見と障害物のない村のつくりが幸いして、いまだ距離はある。
 再びカナリーの稲妻が放たれ、そして射程に捕らえたリリーチェも加わった射撃。さらに、
「水の精霊よ!わしに呼応したまえ!
 出でよ雪嵐!アイスブリザード!」
 再び吹き荒れる魔法の吹雪。今度は威力を抑えられずに放たれたその魔法が、ズゥンビ達を丸ごと覆った。
「これなら‥‥!」
 リナがその凄まじさに感嘆しながら、吹雪が去った後を注視する。そこには、期待と裏腹にいまだ歩みを止めないズゥンビの群れがあった。

「さて‥‥時間稼ぎでござるよ」
「容赦は、しませんよ!」
 じりじりと迫るズゥンビとの距離。格闘戦で壁となろうと、箭とアーリアが前に立つ。
「黒耀の王、貴方も――」
 メダルに念じゴーレムを動かそうとするアーリア。しかし、当のロードオブオブシィディアはズゥンビのほうを窺ったまま、動かない。
「――どうしてっ!?」
 もう一度念じる。しかしゴーレムの様子に変わりはない。‥‥絆の不足。
「Missアーリア、今は目の前に集中を!」
 動揺するアーリアを、箭は叱咤する。もう、ズゥンビ達は目の前だった。
「くっ‥‥はあああああぁっ!」
 焦る心を抑えながら、アーリアは武器の重さを載せた一撃、スマッシュを目の前のズゥンビに叩きつけた。強力な魔法を浴び続けたその亡者の身体がようやく崩れた。
「十二形意拳奥義、龍飛翔!」
 眼前の敵との戦いに気を戻したアーリアを、ズゥンビの爪を軽く避けながら確かめた箭は、自分の相手に奥義を放つ。本来ならズゥンビ相手でも中々当たらないだろうその一撃は、受けたダメージで動きがさらに鈍ったズゥンビの顎を打ち砕く。他の一体が大技後の隙を狙ったかのか偶然か、箭へ襲い掛かったがこれもいままでと変わらず簡単に外された。

●急襲
(くっ‥‥これでは!)
 声をかければ近接戦闘が始まっても範囲魔法を打てる。セルゲイの目論見は視界の先で立ち往生しているように見えるゴーレムで狂わされた。既にその主は指示を出す余裕はなく、それを動かすことの出来るものはいない。
「――ジャイアントクロウ!」
 リナの声に、ハッとしたときは既にその黒い影は迫っていた。高速での詠唱も間に合うか。視界の中の動きがひどく遅く再生される。
「させない!」
 突如現われた腕にカラスは驚き宙へ舞う。あらかじめミミクリーを使っておいたリナその腕が特に脅威となるものではないと気づいたときには手遅れだった。我に返ったセルゲイの高速詠唱・アイスブリザード。間髪置かず立て続けに放たれたその吹雪に、3羽目のジャイアントクロウも空から弾き落とされた。
「あー、カラスを狩るのは私ですよー」
 軽口と共にリリ−チェの放った矢が、前方のズゥンビの一体を射抜く。また一体が、ようやく崩れ落ちその身体は地に還る。

「横だっ!」
 茗花が声を上げたときには、既に別のズゥンビの一団はリナのホーリーフィールドの境界すぐ側。建物の陰、そしてジャイアントクロウの急な出現で注意が甘くなっていた。無造作に振り下ろされた一撃に結界が崩れる。そのままリナに向かって殺到。立ち尽くすリナ。
「させないでござる!」
 いつの間にか後退していた箭が、リナを突き飛ばし攻撃の軌道から無理やり外し、さらに爪撃を打ち込んだ。
「アーリアは、一人!?」
「大丈夫でござる! 奴らではMissアーリアを傷付けられん!」
 雷撃と怒号を同時に放つカナリーに、素早い身のこなしで全ての攻撃をかわしながら箭は答えた。
 前方で戦うアーリア一人に、ズゥンビ三体。盾で受ける一撃以外の二体からの攻撃を受けるアーリアだったが、その鎧とCOの守りの前にはカスリ傷すらつかない。彼女の重い槍撃が、また一体ズゥンビを潰した。

●祈り
 ひやっとする場面もあったが、機動力の差で上手く距離を空け、また片方の群れを潰した冒険者達は、もう一方も数と質の優位で、手間こそかかったが問題なく殲滅することが出来た。受けた傷も僅かなもので、茗花のリカバーにより全て回復した。
 村を後にする前に、一行は無念の死を遂げた村人に祈りを捧げた。
 ついでに、カラスの墓標を作ろうとしたリナにリリーチェが露骨に反対したということも記しておく。