跪いて豚足をお舐め

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月08日〜07月13日

リプレイ公開日:2007年07月17日

●オープニング

「こ、こいつはひどい‥‥」
 救助された、魂の抜け殻のようになった男を見て思わず口を押さえてしまう。それほどまでに、襲われた男は精神にダメージを受けていた。
 正に惨状。一体どのような苦しみを味わえばこのようになってしまうのか。語らせるの不憫だとは思う。
 だが、聞かねばなるまい。そして、この悲劇の連鎖を止めなくては。


「というわけで、キエフから二日程言ったところにある街道で変態オークとゴブリンが出たわけだが」
 いや、そんな。普通に退治依頼を出すような調子で言われても。すかさず冒険者がつっこむが、
「いや、ふつーの退治依頼だ。普通の。うん、いたって普通の変態オーク退治。囮が居ないと姿を現さないだろうとか色々あるけど。至って普通に違いない」
 うんうん、と自ら頷く係員に冒険者は諦めたのか、「で、どんな変態?」と早速内容に話が移る。何と言うか、お互いこのような慣れが恨めしい。
「まあ、今回は『RK』とかそんなやつらじゃない‥‥だがある意味それ以上の恐怖だ‥‥襲われた側に行為を要求する‥‥無論、拒否しようのない状況で。より、心が傷ついてしまう」
「こ、『行為』を要求‥‥一体何を?」
 青ざめたり赤らめたりと対照的な反応を示しながら冒険者は係員に問う。重い口が開かれた。
「奴らにつかまった男達はオークにその足を突き出され‥‥押し付けられる。そう、『跪いて足をお舐め』と言わんばかりに! 許されざる狼藉! 尊厳を奪う行為だ! 昔から男が足を舐めていいのは勝気な女王様タイプ‥‥ってああ! そんな目で僕を見ないで! 離れていかないで! 軽蔑しないでくださぁーい!」

●今回の参加者

 eb5900 ローザ・ウラージェロ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7300 ラシェル・ベアール(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec0866 マティア・ブラックウェル(29歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1182 ラドルフスキー・ラッセン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec2700 フローネ・ラングフォード(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec2945 キル・ワーレン(26歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ec3084 一刀斎 村正(62歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ああ‥‥まったく。事前にちゃんと買っておくんでした。鞭がないと『説得』できないじゃないですか‥‥」
 前方を注視し、一定の距離を取りながら後をつける冒険者一行。その中で、ローザ・ウラージェロ(eb5900)はそう愚痴た。出発前に手に入れようと思っていたものが時間が無く手に入らなかったためだ。最も、依頼を出立してからは余程のものでない限り入手に時間をかけるわけにはいかないので仕方が無い。次から事前に準備しておくべきなのだろう。特に鞭なんてそう普通の店で気軽に売れないようなものは。何せ必要とするのは武器として使う冒険者や悪趣味な尋問官、そして(検閲削除)な行為を好む方々だけなのだから。
「鞭で説得って‥‥えーっと」
 そんなローザの道具と行為とのかけ離れ具合に上手く言葉を返せないのはラシェル・ベアール(eb7300)。このまま私も何かこの敵味方入り乱れた混沌に流されてしまうんでしょうか、と一抹の不安が過ぎる。
「‥‥あ、来たみたいです! では私はあちらへ‥‥きゃっ!?」
「うゎ、危な‥‥って私も!?」
 が、辛うじて寸断されるそんな空気。敵が囮に釣られて姿を現したのだ。
 ‥‥いや、確かにある意味では混沌が増してる気もするがそれはそれ。早速退治の準備にと木へと登ろうと手近な樹木へ駆け寄るラシェル。
 しかし悲しいかな、彼女はおっちょこちょい。技量はあったのに手が滑って落ちそうに。それを見たローザは咄嗟に駆け寄ろうとするが数歩も走らないうちにつんのめってしまう。別にドジっ子とかそういうのではない。彼女は『説得』に必要なもう一つの道具として『踏んだら痛そうな靴』を選んでいたのだ。履き慣れていない。まあそんなんで急に駆け出したらバランス崩すわけで。
「だ、大丈夫ですか‥‥?」
 身体を打った二人のもとへ心配したフローネ・ラングフォード(ec2700)が駆け寄ってくる。まぁ、特に怪我も無く治療の必要もなさそうだ。
「ま、時間はありそうだからそう焦らずとも良さそうですよ。とりあえず囮の方がじっくりとひきつけてくれるでしょうし」
 囮と敵が相見え、危険な香りが立ち込め始めたのを確認しながら、ウォルター・ガーラント(ec1051)はきわめて冷静にそう言った。囮が聞いたら悲しさで涙がとまらなそうだが、まぁ、この手の依頼の常である。ガンバレ囮。


 少しばかり時間を遡って囮組。街道を、何も知らない哀れな犠牲者を装い(ある意味本当になるかもしれないが)歩くのは、
「まったく、男の尊厳を身も心も奪うなんて悪趣味にも程があるわ! 徹底的に懲らしめてあげなきゃ」
 と、意気揚々、オネェ言葉だけど根はしっかりとしている男子を主張するマティア・ブラックウェル(ec0866)。そして、
「‥‥男の尊厳? 身も心も? だから一体何が起こってるんだよー? みんなに聞いても生温かい視線しか返ってこないしー」
 と、全く事情が分かっていないキル・ワーレン(ec2945)。純朴な彼はきっと断れない性分を係員あたりに利用されでもしたのだろうか。可哀想に。
「アンタホントに分かってないのねぇ‥‥ボウヤにはまだ早いのよ」
「なっ‥‥もう十分大人だよ!」
 半ば呆れたマティアの言葉に、反発するキル。まあ確かにもう十分大人と言っていい歳ではあるのだが。
「ハイハイ‥‥さて、そろそろ真面目にいくか」
 それを軽く受け流しながら、マティアは口調を切り替え、周囲を注視し始める。そろそろ被害が多発する区域だ。

 そうして、そのまま少し歩いた二人は、荒い鼻息を聞いたかと思うと、直後、ぞろぞろとゴブリンを引き連れたオークが現われる。何と言うか、やる気十分。やな意味で。
「こんなに‥‥だけど、困ってる人のためにも!」
「さてさて、後ろはちゃんとやってくれんるんだろうな?」
 決意を秘めた瞳で敵を睨みつけるキル、そして後ろのほうを不安げに振り返るマティア。というか目の当たりにしてまだ気付かないのかキル‥‥。
「やぁっ! 何があったかはわからないけど、今まで苦しめられた人たちのため、そしてこれ以上の犠牲者を出さないためにも決して負けない!」
「さわるなよ‥‥触ったら絶対ゆるさないからなぁ!?」


 さて、そんなこんなで囮が捕まっているころ、こっそりとオーク達の後ろに忍び込もうとする影。ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)。
「さて囮の人には気の毒だがこれはれっきとした戦術だしな。仕方がない。うん、本当に。さて、じゃあ足を舐めるくらいまでは待って‥‥」
 パキッ。
 んっ? と突然の音を感じて足元にラドルフスキーが視線を落とす。不注意にも小枝を踏んでしまったらしい。
 再び視線を正面に。今の音で気付いたオーク達がこちらを見ている。物欲しそうな目で。どうやら不注意にも気を引いてしまったらしい。
「‥‥くっ、やめろ、来るなぁ!」
 咄嗟にマグナブローを撃って近付くゴブリン達を制しようとするラドルフスキー。だが、炎から逃れた数体が尚も向かってくる。鼻息を荒くして。

 ‥‥単独行動するにはそれ相応の技術がないと孤立してやばいってばっちゃが言ってた。冒険者の皆さん、気をつけましょうね!


 ※諸事情により音声のみでお送りします。

「よしっ‥‥まずは一体! このまま‥‥って何処を狙って!?」
「く、来るな‥‥そんなに群がるなやめろぉーっ!?」

「さて、始まりましたね。囮は十分機能しているようです」
「あなたも結構冷静というか酷薄というか‥‥まぁ、私も『油断してもらうために』しばらく待つのは大賛成だけど」
「すみません、また滑っちゃって‥‥」
「気にせずに。時間はまだ十分ありますし。落ち着きましょう」
「い、いいんですか‥‥かなり困っちゃってますけど‥‥ってラドルフスキーさん?!」

「ぐっ‥‥寄るな! 触れるな! 焼き払って‥‥っ! この距離では、うわぁ!?」

「あー、ばれてしまいましたね。あれじゃ油断誘うのにはもう少し待たないといけませんね。ラシェルさーん、落ち着いて登ってじっくり狙っていいですよー」
「は、はい、分かりました‥‥!」
「ラシェルさん‥‥流されましたね」

「なっ、やな汗で手がすべ‥‥し、しまった! 押さえつけて何を‥‥しょ、処刑の真似事なんかには臆さないからな! ‥‥って、あれ、何で足をだして‥‥踏む気‥‥いや、なんで顔に近付け‥‥っ!?」
「ヤメロさわるなと言っているだろう雌豚が! そんな汚いものを押し付けてくるなぁ!?」

「詠唱に集中するってレベルじゃないですね‥‥あれじゃあ」
「あのー、ローザさん?」
「あ、ラシェルさん、もう少し待機で。今いいところですし」
「あ、はい‥‥」

「い、いくら全体で勝利を収めればいいといってもこれは‥‥くぁお!?」

「ら、ラドルフスキーさんも不味いですよ‥‥粘ってますけど、凄い困ってます!」
「落ち着いてくださいフローネさん。正攻法では難しいので、囮を十分に生かしてから出ないと」
「えーっと、でもかなりピンチっぽいんですが」
「いやいや、アレを見てください。あれは足を舐めると決めた男の顔です邪魔したら悪いですよ」
「さすがローザさん。見るところが違う」

「(お伝えできない悲鳴)」
「(検閲削除な罵声)」

「‥‥いや、そろそろ始めますか。これ以上は報告書的に不味くなりますし」
「これって困ってる人を助けるためじゃあ‥‥」
 極めて冷静な判断をウォルターが下し、まさに命がけでオーク達を引きつけた囮に報いるため、冒険者達は各々の獲物を手に取った。眼前の色々描写しづらい光景を終わらせるために!


「オクゥ!?」
 キルの顔に足を押し付けていたオークが悲鳴を上げる。ウォルターがルナティックボウ+2からはなった矢がその分厚い脂肪をも貫き傷を与えたのだ。
「た‥‥助かった‥‥いや‥‥」
 呆けた表情から少しずつ瞳に理性の光を取り戻していくキル。近くに転がっていた自らの剣を手にする。
「まだ終わっちゃいないよ‥‥これでオムコさんに行けなくなったらどうしてくれんるのかなお前達はー!」
 今までの恨みとばかりに剣を振り回すキル。とてもさっきまで吹け飛ぶような真っ白い灰の如き状態だったとは思えない!


「ゴブッ!? ゴブゴブっ!?」
 突如上からの射撃に混乱するゴブリン達。その隙にと、戒めから逃れたラドルフスキーがよろめきながら距離を取る。ようやくゴブリン達がそのことに気付いた時には、彼らは既にマグナブローによって炎に包まれていた。
「炎による破壊を‥‥燃えろ」
 更に続けられる攻撃に、ゴブリン達は倒れ、あるいは運の良いものは散っていく。
「‥‥大丈夫ですか?」
 樹上から手足を狙い、殺さず戦意を削ぐことに集中していたラシェルが場所換えも兼ねて降りてきた。若干血走っている感じがする目をゴブリン達に向けるラドルフスキーに、思わず心配の言葉をかけるラシェル。ラドルフスキーは視線を逸らしながら、
「大事なのは全体の勝利だ。俺個人のことは‥‥」
 言葉に反して、彼の横顔はとても寂寥感が漂っていた。


「あらー、いい物持ってますねー。借りますよー?」
 彼女のウィンドスラッシュなど味方の攻撃で傷付き地に伏したオークが手から離した鞭を取り上げる。ローザ。ちなみにオークは戦闘では使わず(使えず?)相手を捕まえてから使おうとしてたとか。何かそこら辺の使い分けしてるあたりが余計嫌な感じであった。
「よくもアタシの柔肌に傷つけようとした挙句、(検閲削除)や(検閲削除)なことまでしようと。許さないわよぉ?」
 同様に、解放され普段の口調に戻ったマティアも凄んでいる。青筋浮かんでる辺り怒り心頭なのをご理解いただきたい。倒れたオークは、抜け出した彼のプラントコントロールにより拘束された後グラビディーキャノンにより地に伏すこととなっている。まさに立場逆転。
「さぁ、私をご主人様と呼びなさい!」
「何度でも地面とキッスさせてあげるわよぉっ!」
 ローザの鞭や踏み付け、マティアのグラビティーキャノンにより、ボッコボッコにされあげく自分がしたように靴をつきだされるオーク。因果応報なのだが、加虐趣味全開の場面を見せられるともはや哀れみすら禁じえない。


「しかし、何体かは散り散りになって行ってしまったが‥‥良かったのだろうか?」
 遠い目でそんな凄惨な光景を眺めつつ、ポツリと呟くラドルフスキー。
「まぁ、これで懲りて襲わなくなるなら無理に命まで取らなくても大丈夫だと‥‥私は思います」
「頭のオークは討ちましたし。率いられてだけの連中ならそれでもう大丈夫でしょう」
 ラシェルがどこかほっとしたように、ウォルターが微笑を浮かべながらそう答える。逃がしたうちには入らないだろう。この程度なら。

「えっと、傷大丈夫でしょうか‥‥? オークにどこか」
「言わないで、その名はもう聞きたくないんだよー!」
 隅っこで膝を抱えて小さくなるキルを心配したフローネが覗き込みながら声をかけるが、オークと聞いただけでキルは取り乱してしまった。ピュアであったがためにこのような体験は彼にとってかなり苦痛が大きかったのだろう。


 まあ、そんなわけで周辺の男性を恐怖のどんぞこに陥れていたオークは退治された。かなり心が傷ついた冒険者もいるが、それもきっと明日の糧になる‥‥はず。また、キエフへ帰還した後「真実を伝えるため」今回の依頼の話を脚色してローザは広めようとしたが、忌避する層は聞いてくれず、聴ける口の連中はそろそろ慣れてきた感があったりで、特に噂話が得意というわけでもないローザの手には余ったようだ。
 ただ、広がろうと広がるまいと事実は事実なわけで。しばらく普通に生活できなくなってしまった冒険者もいるとかいないとか。