水浴びしたけりゃあのジェル倒せ!

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:6人

サポート参加人数:9人

冒険期間:07月11日〜07月16日

リプレイ公開日:2007年07月19日

●オープニング

 夏である。
 寒い寒いと特に比較的気候が穏やかな地方から来た者に言われるキエフだが、それでも当然のように夏は来るし、暑い。それも他国の者から見れば「まだマシ」と思うかもしれないが、やはり通常過ごしている気温と違えばそれはもう、嫌気が差すぐらいにはなる。
 で、それを吹き飛ばすにはやはり水浴びである。諸説異論あろうが、そうなのだ。


 薄布のみを身に纏った乙女たちが、水が澄んだ泉へと足をつける。冷たさに刺激されきゃあ、と可愛い、そして心地良さそうな悲鳴を上げる。それに触発され周りの友人たちも恐る恐る、だけどどこかたのしげに足を水へ浸す。
 あちこちで上がる歓声。いつしか、水の掛け合いが始まり、濡れた薄布は本来の役割を失いほんのりと肌色を映す。ちょっと、なにするのよ、いいじゃない女同士なんだし、それにこんな天気じゃすぐ乾く――
 正にこの世の楽園、と年頃の、いや年頃でなくとも枯れてなければ男性がみれば漏らしそうな光景。だが、そんな桃源郷を密かに脅かす影。
「きゃ、ちょっと何するのよ、服引っ張らないで?! 濡れるだけならともかく破けたら‥‥」
「え、何もしていないわよ? ってアンタ、そこなんか生地がなくなって――きゃあ!?」
 服の裾を押さえながら、抗議の声を上げた少女に、戸惑いの表情が返される。そして、その直後、当惑した表情が驚愕に染まる。水中を動く質感。水の色に紛れて気付かなかったけれど、それははっきりと意志を持った生命。
「いやぁ、服が、服が溶けっ――」
 時既に遅し。狙いを定めて這い上がってきたそれはあっという間に服を溶かして近付く。ぬるぬるとしたおぞましい感覚と共に、触れた肌が痛みを感じて涙混じりの悲鳴が上がる。
 それをさけるには、あわてて相手ごと服を脱ぎ捨てるしかなくて。ひらめく侵蝕された白布。そして、透けていたときの比ではなく肌色が露わに――


「という事態にならないために、その村――そうですね、キエフから二日程ですか――へ行き、モンスターを退治してください。ちなみに第一発見者は近くの森で肉体労働に従事していたむくつけお兄さんです。かいた汗を流そうとしたら被害に遭いました。帰るまで大変だったとか。――おや、どうかしたのですか、男性冒険者の方々? さっきまで意気揚々、鼻息を荒くしていたのにそんながっくりして?」
 ぶつぶつと呟いたりうなだれたりしている冒険者に眼差しを向ける女性係員。分かっててやってるのか天然なのか。女性冒険者が肩を竦めて首を振る。これだから、と口を開かずとも何となく伝わる意思。
「それでは続けさせて頂きますね。まあ皆様ほどになるとさした脅威でも無いでしょうし、楽な戦いだと思います。だから――」
 不謹慎にも依頼書で仰ぎ少しでも涼をとろうとしながら、係員は付け加えた。
 この天気ですし、終わったら少し楽しんできては如何でしょう? 澄んだ泉での、心地よいひと時を。

●今回の参加者

 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

野村 小鳥(ea0547)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィリッパ・オーギュスト(eb1004)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ レドゥーク・ライヴェン(eb5617)/ カーシャ・ライヴェン(eb5662)/ 水之江 政清(eb9679)/ イリーナ・ベーラヤ(ec0038)/ グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

「ふむ‥‥これぐらいの規模なら水辺で叩くべきなのだろうな」
 目の前に現われた澄んだ水を観察した、イリーナ・リピンスキー(ea9740)はそう言った。陽射しの強い中汗ばみながらやって来ながら、感想よりも考察が出るのは流石というべきか。
「水中では動きが違うから、そのほうがいいだろうな。まあ何れにせよ見分けるのが手間なのは変わらないが‥‥」
 思い出すように、自分の知っている知識と照らし合わせながらレイア・アローネ(eb8106)も答える。強くはないが厄介ではある相手、というのがこの泉にいるウォータージェルへの印象である。
「とりあえず見つけやすいようにしながら、といったところか。‥‥今も水浴びに使いたいぐらいなのだから、この先もっと人が来るだろうし、犠牲を出さぬためにも、退治せねばな」
 皇茗花(eb5604)が頷きながら、改めて依頼の重要性に決意を強くする。そう、まだ被害が『汗を流そうとしたがっちり系お兄さんが衣服を溶かされ帰るとき恥ずかしかった』というぐらいで抑えなくては。
「さて、では早速はじめるとするかのう。何かあったらすぐ手伝うから言うんじゃよ」
 小丹(eb2235)の言葉に、細工を考えていた各々は道具を取り出した。手伝いをすることにした丹の器用さのおかげとそもそも単純なものを作る予定だったのもあって、下準備は大した手間もなく終わりそうだ。


「‥‥あの石の周り、少し様子が変わっているような‥‥」
 イリーナが泉を漂わせてる、スリング用の石をつけたロープを指差す、先ほどから目標物ごと区切って観察をしていた桐沢相馬(ea5171)の言葉に、冒険者達は目を向けた。
 確かに普通の水とは違う、違和感。澄んだ水とは違い、何か質感を持ったような‥‥。
 冒険者達は警戒を強め、手元の武器を改めて握りなおし動きに備える。
 そして、水が撥ねる音と共に、水辺からウォータージェルが飛び出してきた。
「もうここまで来ていたのか‥‥っ!?」
 不意をつかれたが辛うじて攻撃をかわしたイリーナが水中へと戻ろうとするジェルをイシューリエルの槍デビルスレイヤーで貫く。しかし、さほど動きを鈍らせることもなく、水中へと戻る。
「やはり突きは効きづらいのか?」
「どっちかっていうと、元々のタフさと外見のせいで分かりにくいだけ、のような気がするがな」
 一応モンスターについての知識があるレイアが推測を述べながら、戻ったと思しき瞬間、ローズホイップ+1をおもいっきり水面に叩きつける。派手な音と共に、飛沫が舞う。高く高く上がった滴が、降り注ぎ辺り、薄く濡らした。
「――こうしても、効果の程が分からないことだし」

「出てくれば分かるが戻ってしまえば見つけづらい、か。目を凝らしても難しいなら、大人しく水中に入るしかないか?」
「うーむ、相手の領域じゃからのぉ。既に浅瀬まで近付いているようじゃし‥‥」
 眉を顰める茗花の提案に、唸りながら答える丹。たしかにこちらも水に入れば、すぐには気付かなくとも一度見つければそうは見失いはしないだろう。
「うーん、でもそれは最終手段ですよね。どうしても危険が‥‥!」
 いいかけのセシリア・ティレット(eb4721)がハッとする。レイアの攻撃による揺れが収まりつつある中水中から再び伸びるように青いゼリー状の触手のような物が伸びてくる。虚を突かれながらとっさにブリトヴェンをかざしセシリアは身を守る。
「これなら浅瀬も水辺も、あまり変わりは無さそうじゃのぉ」
 丹は戻すまいチェーンホイップを振るう。しなやかな動きでそれはウォータージェルを捉え、すり抜けそうな様子ながら絡め取る。
「よし、これで‥‥むぅ!?」
 もう一つ、自らに迫る影に気付くのが丹は遅れてしまう。左手に持つ魔剣「ブルー・グリーン」が新たなウォータージェルの身を裂くが、彼もまた接触を受けてしまう。生じた緩みに乗じて捉えたジェルは再び水中へ。
「それ以上は止して貰おうか」
 それでも裂かれた傷を気にしたのか、水中に戻ろうとするウォータージェル。だが、轟音と共に振り下ろされた桐沢の大錫杖「昇竜」+1が泉の手前でジェルを地に叩き落し大地に押し付けると、そこへさらに重さを乗せたレイアの鞭による一撃。
 べちゃり、とやな音がすると共にウォータージェルは急激に動きを鈍らせる。だがそれでも水中へと再び身を潜めようとするところを、イリーナの振るった穂先が貫いた。

「‥‥軽い怪我だな。触られただけというのを考えるとそういうのも少しおかしい気はするが」
 丹の傷をリカバーで治療する茗花が触られた箇所に目を通して呟いた。知性が低いだけあって狙いのつけ方はそう上手くはないが、酸でできた身体は侮り難い。
「ホーリーフィールドをはってもすぐに破られてしまいそうだが‥‥入るか?」
「それでもこのままだと見つけるのも一苦労みたいですし‥‥動きを制限させながら、でやれば何とかなると思います」
 セシリアの言葉に頷く一同。ならばその前に、と治療を終えた丹、そしてレイアが鞭を構えて水辺へ近付いた。
「まずは、入るところの安全確保、といくべきだな」
 そう言って叩き付けれた薔薇の茎を使った鞭は再び派手に飛沫を上げ、鎖の鞭は水中を薙ぐ。振り切った鞭の先、不運なウォータージェルの一匹が打ち上げれた。そのまま相馬の錫杖が叩き付けれられ、飛び掛った所を軽くいなされているうちセシリアのコアギュレイトに捕まり、抵抗が不可能になったそいつはあっという間にその身体を保っていた生命を失い、ドロリと崩れ落ちた。


「‥‥冷たい。でも、今はこっちに集中しないといけませんね」
 右手の刀を鞘に仕舞い、ロザリオを手にしながらセシリアが呟く。安心して涼をとるために、ウォータージェルの排除が必要なのだから。
「この強さならすぐ破れてしまうだろうが‥‥大きさ的には、丁度、か」
 指輪に祈りを捧げ詠唱を終わらせた茗花は、辺りを見回しながら呟く。不可視の結界が成就したということは、一応内にはいないということ。あまり表情に出てはいないが、内心で胸を撫で下ろした気分だった。詠唱にかかった10秒間は、安全を確認しているとはいえ長く感じるものだった。
「‥‥っと、もう来たか。やはり楽しませてはくれそうにないか」
 静かに揺れる水面から、勢いよく飛び出してきた影に相馬はため息を下げながら武器を向ける。
 結界に阻まれたことで、襲い掛かってきたウォータージェルが露わになる。ホーリーフィールド自体は一回の接触で解呪されてしまったが、それでも十分。こちらに向かう前に二本の鞭が叩きつけれる。激しいしぶきあがる中、近付いた相馬の錫杖がジェルを潰す。
「‥‥やはり、中々タフだな。だが」
 水の中を滑るように尚も近付くウォータージェルへ、再び重い杖が叩きつけられた。
「また、来ましたか‥‥! でもっ」
 だが、その一体を倒したの喜びも束の間、接近していた他のウォータージェルの攻撃に辛うじて気付いたセシリアは盾で何とか防ぐ。予想はしていたが、水中では自分達が動きづらく相手はかなり動きやすそうだ。ロザリオを素早く戻すと、セシリアは名刀「村雨丸」+1を抜刀する。そしてそのまま、水に浸からずともほのかに濡れた刀身を持ったんその刀で、流れるような一撃でウォータージェルを裂いた。

 その後も数匹が向かってきたが、実力差は歴然としていたため、冒険者達は全て返り討ちにした。軽く怪我をしたものもいたが、それもすぐさま茗花のリカバーによって治療がなされた。襲ってくるジェルがいなくなり、適当に武器などで既に全滅したのを確認すると、冒険者達は溜飲を下げながら泉から出る。
 時間が経過したため、丁度太陽も高いところにあり良い陽気だ。


「あの‥‥それで涼などとろうと思うのですが‥‥」
 おずおずと話すセシリアの提案に一行は同意。折角の機会、生かさないのは勿体無い。それに皆さんご期待である(誰が何を)ことだし。
「えっと‥‥それで‥‥順番は構いませんから、男性の方と、時間をずらして‥‥」
「下手に不心得者が迷い込まないように見張りでもしておこう。俺は後で軽く拭うぐらいでいいのでな」
「わしも見張りじゃな。それとわしは浴びれんから十分ゆっくりと楽しむがよかろう」
 セシリアの言わんとしたことを察した相馬と丹は、さいごまで言い終わらないうちに辞退。あまり興味がないらしい。
「あ‥‥ありがとうございます」


「ん‥‥やっぱり冷たい‥‥けど心地いい」
 ゆっくりと足を水につけながら、気持ち良さそうにするセシリアから笑みがこぼれる。
「うん、そうだな。やはり、同じ泉に入るのでも、楽しむために入るのではまた違う」
 レイアも同様に楽しそうにしている。本来温かい方に浸かるほうが好みの彼女だが、この陽気ならば涼をとるのも大歓迎だ。
「それにしても茗花さん、何もそのまま入らなくても‥‥」
「これでも僧侶なのでな、仕方あるまい。‥‥まあ、この陽気ならすぐに乾くだろう」
 セシリアが上着も脱がないままに泉に足を入れる茗花へ勿体無さそうに言うが、あくまで茗花は堅持する。
「そうか、すぐ乾くのだな‥‥ならっ!」
「きゃあっ!?」
「むぅっ!?」
 そう言ってニヤリとわらったレイアが茗花へ水を浴びせる。近くに居たセシリアにもかかり、冷たさに驚き声が上がる。
「やりましたね‥‥お返しですよ!」
 そう言って、笑いながらセシリアも反撃。歓声と水が跳ぶ音が大きくなる。
「おーい、折角だからイリーナも見張りせずにどうだ?」
 不意の闖入者がないか見張っていたイリーナに、レイアが声をかける。元々のグラマラスな身体に加え、薄着、しかも水を浴びて楽しそうにしているレイアは色っぽさに輪がかかっている。
「ああ、私は‥‥いや」
 ふう、と軽く息をついてイリーナは首を振る。
「そうだな、まあ軽く足を浸すぐらいのことはさせてもらうか。‥‥前もって言っておくが、水はかけるなよ?」
「ああ、わかってるって」
「ええ、大丈夫ですよ」
 そう言って泉へと向かうイリーナだったが、二人の言葉を聞いて手前で足を止める。
「そうか‥‥ならば、何故貴殿らは今にも水をかけれるような体勢で私に向いているのだろうな?」


 十分女性陣が堪能した後、残る二人の男性陣はごく淡白に泉を味わったようだ。相馬は上半身の汗を泉に浸した手ぬぐいで拭くだけ、丹にいたっては葉巻で一服するだけ。
「何でそんなに入りたがらないんだ?」
「大人の事情と言う奴なのじゃよ‥‥」
 思わず気になったレイアが尋ねたが、謎めいたセリフで返す丹だったが、なぜかやたら口元の髭を気にしていたとか何とか。


 暑い陽射しに負けないよう、涼をとることの出来る澄んだ泉。冒険者の手によって取り返されたそれは、今後も村人達の夏の癒しとなるのだろう。