つよきし

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月12日〜09月19日

リプレイ公開日:2006年09月21日

●オープニング

 いつも通りの、何でもない昼下がりのティータイム。そうなるはずだったある日の午後。
「そういえば、ボルダンチューク家の騎士が竜退治をしたとか、そんな話を聞いたな、タイニーだって話だが」
 何気なく上った話題。その騎士と知り合いの彼はふと思い出した話を口にした。
「貴方もその話! この前のお茶会ではあの娘の自慢を散々聞かされたわ、まったく忌々しい!」
 途端に、主である令嬢は顔色を変えた。穏やかなティータイムの空気が一変する。
「あの令嬢ならそう厭味をいうとは思えないんだがな‥‥どこかのとは違って」
 主従とはいえ、長い付き合いでもありあまり遠慮の要らない間柄、彼はいきり立つ令嬢の言葉に軽口で返した。
 まあ実際、思ったままを言っていた。彼の家の騎士と親しい彼は、当然その令嬢のことは良く話に聞いていたし、実際多少ながら面識もあった。そしてそれ以上に、彼は自分の主と日々接しているため彼女の負けん気の強さや、彼の家への対抗意識が強いことも知っていたのだ。それ故の言葉だったのだが。
「何か言ったかしら?!」
 目を吊り上げてキッと睨む自分の主に、彼は自分が踏んではならないところを踏んでしまったのを自覚した。
(これが俗に言うファイヤートラップにかかってしまったってヤツか!?)
 汗が頬伝うのを感じた彼は、あ、いや、別にー、などと口を濁す。その態度が逆に彼女の確信につながってしまう。
「へーそー。アンタもあの女の肩を持つんだ?」
 そんなにお茶会でヤな思いしたのか、目に見えて機嫌が悪くなっていく。本気で焦り始めた彼は、突然主がふっと目つきを弱めて穏やかな表情に戻ったのを見て安心した、が。
「まあいいわ。私が気にすることでもないし。退治したのはあの娘でなくて騎士だしね。ああ、ろくな騎士を持たずに自慢することがない私はなんて」
「なっ、‥‥言ったな!」
 思わぬ意趣返しに今度は彼が色をなす番だった。彼もまた、負けん気が強く、そしてそこまで言われて騎士として、男して黙ってはいられない。
「あ、あによ?!」
 彼の本気ぶりに、動揺し、思わず声が上ずってしまう。
「たしか領地の東南の外れの方でオーガ戦士が出て困っているって報告が入ってたな。俺はそれをやる。見てろよ!」
「な‥‥できるはずないでしょ?」
 すぐに彼女はそう言った。実力的にそう思ったわけではない。彼女もオーガ戦士の強さについて詳しく知っているわけではないが、彼の実力はそれなりにあることは良く知っていたからだ。
「ふん、俺に活躍させないようにしようったって無駄だからな」
 しかし、彼女には彼を止めたい事情があった。先ほど、その地方についての新しい報告を耳にした彼女は、彼の身を案じたのだ。しかし、言い合っていたという都合上、そして性格上、彼女は素直に心配だといって止めることは出来なかった。


 その依頼人は、冒険者ギルドに入るとすぐさま受付までつかつかと向かい、ルキヤノフ家のファイーナ、と手短に名乗ると同時に貨幣の入った革袋をカウンターに載せ、前置きも無く話し始めた。
「道周りのモンスターを退治してほしい? その山ではなくて」
「そうよ。むしろ山のほうには手を出さないで」
 簡潔に説明された依頼。その手短さや、今はファイーナの傍らに立つ老執事が彼女の後を追って慌てて入ってきたことからかなり急いでいることが受付嬢にひしひしと伝わってくる。
 だが、その依頼の内容に、受付嬢は首をかしげた。
 その山のほうに強力なオーガ戦士が現われた、という情報は入っていた。そして、村が襲われるといったことは起きていないが周辺の住民にとって大変な脅威で迂闊に山にも入れないといったことも。
 そして最近、その山へ向かうまでの道の辺りでも、それほど強力ではないがオーガ種のモンスターが複数現われている、といった情報もあった。
 それなのに、退治する相手からオーガ戦士を外すのは、報酬の限度の懸念がある周りの住民ならともかく、領主である貴族の依頼としては腑に落ちなかった。
 受付嬢の怪訝な表情に、ファイーナは、ふう、とため息一つ。諦めたように口を開いた。
「ウチの意地っ張りな騎士の一人、セルゲイって言うんだけどそいつがオーガ戦士倒すって言い出しちゃってね。そっちの敵はともかく、複数のほうはさすがに無勢かな、って」
 やれやれ、といった表情で語るファイーナ。大方の事情が察せた受付嬢は、ああ、と頷いた。 
「ホント、あの意地っ張りったら冷静になれず勝手なことを‥‥後始末する私の身にもなってみなさいっていうの」
「そうですね、確かに心配する側の気持ちを考えずに行動に走られると」
 何気なく同意した受付嬢はそこまで言ってハッとなった。ファイーナが突然顔を赤らめたからだ。
「な、な、な、だ、だ、誰が心配ですって! べ、べべ別に私は心配なんかしてないわよっ!」
 やっきになって否定するファイーナ。だが口が回っておらず動揺しているのは明らかだ。
「わ、私はただアイツが怪我でもしたら私の評判に響くから仕方なく依頼を出しただけなのよっ、し・か・た・な・く!」
「え、ええ、ハイ」
 ファイーナの勢いに、受付嬢はただただ圧倒されてしまう。口を挟む余地など無く、相づちをうつのが精一杯。
「あ、それとできる限り早く! あのバカと鉢合わせないように! 間違っても私から依頼を受けたなんていっちゃダメよ!」
 絶対なんだからね、ファイーナは念を押す。
 意地っ張りなのはそのセルゲイって騎士だけじゃない、絶対に。受付嬢は心のうちでそう叫んだ。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5072 ヒムテ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb6674 ユーリィ・ラージン(25歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

「まったく、意地を張ったばかりに面倒なことになってますね。まあ、仕事ですから面倒見て上げますよ」
 ええ、仕事なんですから、と繰り返すシャリオラ・ハイアット(eb5076)。やたらと「仕事」を強調。
「うーん、若い、若いですねぇ‥‥素直じゃないのがいいですねー♪」
 と、オリガ・アルトゥール(eb5706)はそんなシャリオラを見たまま楽しそうに言う。
「‥‥依頼人さん達がですよね? 何故私を見て?」
「いやですねぇ、気にしすぎですよ♪」
 シャリオラの抗議に、視線を外しながらにこやかな表情を崩さずにオリガは答えた。
「いやはや、なんとも面白い‥‥あっ、依頼人主従の関係がだぞ?」
 向けられた厳しい視線に、ヒムテ(eb5072)は慌てて付け足す。
 そんな感じで後発の冒険者たちは慌てず進んでいた。 

 一方、先行した冒険者たちはモンスターが出るらしい村の近くで情報収集を始めていた。
「全く‥‥素直じゃないこと。初めからそんな意地なんて張らなければ良いのにね‥‥」
 モンスターの数や出現場所の目撃情報を集めながら、アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)は呟く。
 こちらでも依頼人主従は言及される。あの手の意地っ張りは、大抵周りが何か言いたくなってしまうものらしい。
「そろそろ街道辺りに出ておかないと、合流に手間がかからないか?」
 ある程度情報を集めると、日の傾き具合を見ながらユーリィ・ラージン(eb6674)はそう促した。街道へ戻る一行。
 その中でもアッシュ・ロシュタイン(eb5690)は、保存食を用意し忘れエチゴヤへ行き出遅れ、馬を乗りこなすには充分な技量が無かったため、到着が遅れ然程情報収集できなかった。


 獲物が来た、と襲い掛かったゴブリンが浴びたのは、魔法の吹雪。
 オリガが紡いだそれは、ただの一撃でほとんどのゴブリンの戦意を刈り取った。回れ右して逃げ出そうとするゴブリン達。しかしその直後、一番先に群れから離れたゴブリンの背に矢が突き刺さる。ヒムテが梓弓から放った一撃だ。
「んー、逃げるのは無しだぜ?」
『た、戦うしかないゴブ、逃げないで向かうゴブ!』
 群れの中で一回り大きい、リーダーと思しきホブゴブリンが何やら喚き散らし、ゴブリン達は再び向かってきた。そこに襲い掛かる二度目の吹雪。
「そう簡単には、いかせません」
 今度のアイスブリザードを放ったのはシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)。
 しかし、逃げても遅いとやぶれかぶれの突撃を仕掛けてくる群れは止まらない。粗末ながら鎧を身に纏うホブゴブリンが前に出る。二度の吹雪に抵抗したのか、まだ余力がありそうだった。
 そこへアッシュが立ち塞がる。ホブゴブリンは構わず、力任せに斧を振り下ろした。
「さて‥‥と」
 その切っ先から簡単にアッシュは逃れる。太刀を構えた腕に力を籠めた。
「全力でいくことにするぜ!」
 同じく武器を振り下ろし威力を増し一撃を放つアッシュ。その一撃はホブゴブリンの斬撃と違い、かわされることも、受けられることも無くしっかりと目標を捉えた。
『ホブッ!?』
 悲鳴を上げるホブゴブリン。本能が恐怖を訴えとにかく離れようとしたが、アッシュの二の太刀が先だった。響く断末魔。
 リーダーが屠られ、今度こそ一目散に去っていこうとするゴブリン達。しかしそれを逃す冒険者ではない。後衛に向かうゴブリンを阻んでいたユーリィのスピアが貫き、ジュラ・オ・コネル(eb5763)のショートソードが奔り、ゴブリンは地に倒れる。何とか距離をとったものにも、ヒムテの矢が、シャリオラのブラックホーリーが逃れることを許さなかった。

「一つ目のところはコレでいいんだよな?」
 足元に痕跡か何か無いか調べながら、ヒムテが先行した仲間に尋ねる。
「あぁ、ゴブリンとホブゴブリン、小柄なやつにちょっと大きいのが混じってたという話だから間違いない。ただもう一つの方は、油断できない」
 視覚と聴覚を研ぎ澄まして周りを警戒しながら、ユーリィは答えた。
「大柄なやつが複数、ってことらしいからな」
 同様に目で何か動きはないか探りながらアッシュはユーリィの後を引き取る。先ほどの戦闘で主導権を握れたのは、彼の優れた視力によるところが大きかった。

 潜みやすそうな木々の茂みを荒らしながら進むジュラの側の茂みが不自然に揺れたのに、初めに気付いたのはアッシュだった。彼が声をかけるのとほぼ同時に、ただ漏れになっていた殺気に気付いたジュラが慌てて飛びのく。直後、さっきまで彼女がいたところに現われたオーガが手に持つ棒を振り下ろしていた。その背後から続くのは二体のバグベア、二体のオーク。
 今からアイスブリザードを放つには距離が近すぎたし、既に日は傾きかけ。アイスコフィンで封じ込めるにも時間ロスは厳しいと、シシルフィアリスは判断せざるを得ない。
 距離をつめそのまま襲い掛かろうとするバグベアとオーガは、アッシュとアーデルハイトに阻まれた。続くオークも、ジュラとユーリィが後衛には近寄らせない。
 バグベアの振るう棒を軽く避けたアッシュは、返しの刃でバグベアを捉えようとしたその刹那、脇から振るわれた攻撃に気づいて慌てて飛びずさった。
 難を逃れたバグベアと、危機を救ったバグベア。二体の視線が交錯し、小さく声を上げる。それはあたかも
『くっ‥‥助けてなんて言ってないんだからな! 礼はいわんバグ!』
『ふん、お前がやられたら不味いから仕方なく助けただけだバグ!』
 と交わすように見えたとか。
「さすがにバグベアは少し厳しいわね‥‥だけど!」
 アーデルハイトが振るった刃がバグベアの肌を裂く。バグベアは見た目の傷の深さ以上に苦しそうな声で吼えた。
「この刀があれば如何にか戦えるわ!」
 彼女の魔法の太刀は、オーガに大して絶大な威力を発揮する。しかし、彼女の強みはそれだけでない。
『バグウゥゥ!』
 怒りに任せてバグベアが振るった反撃の棒は、簡単にかわされた。重い武器で削がれた行動力を補える回避の技量が、彼女に優位を与えていた。
「アイスブリザード、行きますよ!」
 後方からのオリガの声を耳にした冒険者たちは、すぐさま自分が渡り合っていた敵から距離をとり脇に避けた。直後に猛烈な冷風が吹き荒れる。
 よし、これで・・・・冒険者が戦局の優勢を確信したそのとき、吹雪が終わらないうちにオーガが唸り声を上げて突っ込んできた。
『グガアアァ!』
 誰も巻き込まないように魔法が使われた、つまり、その射線上はがら空き。阻める者はいない。放ったオリガ本人は射程の長さから距離があったが、それよりも射程の短い無防備なシャリオラまでの距離は簡単に詰められた。ジェラやユーリィが動こうとするが、間に合いそうも無く、また自分たちが阻むオークの戦意は消えていない。シシルフィアリス、オリガも防ごうと詠唱を始めたが、既にオークはシャリオラの眼前だった。咆哮と共に棍棒が振り下ろされた。
 その時、脇から人影が飛び出した。棍棒が何かで止められたのか鈍い音がし、思わず目を閉じたシャリオラの耳に聞こえた。
「別に助けようと思ったわけじゃねえ」
 その武器がをシャリオラに届くのを阻んだのは、一人の青年騎士が掲げた盾。
「ただ、俺の前で死人が出ると目覚めが悪い。それだけなんだからな!」
 騎士の持つ剣が、オーガの身体を裂いた。オーガは慌てて後ずさり、騎士と対峙する。心当たりのあるその騎士を見止めた冒険者は、ひとまず眼前の敵へと注意を戻した。
 たじろぐオーガに黒い光が打ち込まれた。ひるんだ一瞬の隙に騎士の剣はオーガを捉えた。ふらりと、オーガがよろめく。
「んー、今の狙いは中々だったぜ。ほい、残念賞」
 そこに突き刺さるヒムテの矢。しかしオーガは倒れない。その足元から氷が身体を覆い始めていたからだ。
「‥‥後でボコろうと思ったんですが、必要なかったかもしれないですね」
 シシルフィアリスのアイスコフィン。先程慌てて唱えたそれがいま効果を発揮していた。オーガは何やら喚いていたがすぐ氷に覆われ沈黙。騎士が光を放った主のほうを向いた。
「わ、私だってべ、別に助けたわけじゃないの。ここで死なれても私は弔いの祈りはあまり得意じゃないので困るだけですから」
 負けじとシャリオラは言い返した。

 氷漬けのオーガ以外との決着がついた頃には既に空は茜色となり始めていた。
「よう大将。アンタもモンスター狩りかい?」
 剣を収め、予想通りセルゲイと名乗った騎士に、用意しておいた対応策に従ってヒムテは気さくに声をかけた。
「まあな。‥‥ところで、この近くのオーガ戦士を退治しろとか依頼を受けてないよな?」
「いえ、そうではありません」
 ユーリィは礼節に沿って丁寧に、手短に答えた。
「あぁ、俺らはこの辺に湧いてんのを片付けるよう依頼されたんだが」
 足りない分を、ヒムテが付け足す。
「そうか。いや、うちの性悪が挙動不審だったんで妨害しようと冒険者送ったんじゃないないかと予定を早めたんでな。ま、こっちの話だ」
「へえ、性悪?」
 怪しく目を光らせたシシルフィアリスが、水を向ける。
「ん、まあ俺の主なんだがな」
 つい話すセルゲイ。文句の裏に心配やら隠れた感情が見え隠れするその話を、彼女はこっそり書き留めた。
 
 ちなみに既に重傷のオーガは氷が解けると同時に一斉に攻撃され息絶えた。


 余談だが、ギルドへ報告に帰るとファイーナがいて、セルゲイに会ったかとか様子とか、尋ねた。本人曰く依頼の何たらとかやたら小難しい理由をつけていたが、心配からなのは明らか。
 ちなみにその際、シシルフィリアスがセルゲイの言動を記したものをフィアーナにこっそり渡すと、軽くその中身目を通したファイーナは途端に顔を赤らめ、
「し、仕方ないわね、わざわざ書いてくれたものをつき返すわけにはいかないから受け取るわ!」
 と言いつつ金貨1枚、シシルフィアリスの手に握らせたとか。