駒と指し手

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:5 G 1 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月08日〜05月14日

リプレイ公開日:2008年05月27日

●オープニング

「まったく、高官どころか親父まで、俺のことを認めやしない!」
 荒い言葉を吐きながら、豪奢な服装をした青年は乱暴に椅子に座る。その顔は怒りで薄く赤く染まっているが、その表情はどちらかというと拗ねた子どものように見えた。
「‥‥今日の結果で認めるような方々がそのような役職に就いているなら、私としてはむしろこの国の将来を憂いてしまうわけですが」
「う‥‥うるさいっ! あっ、あれはイレギュラーだ! というかむしろ指揮どおりに動けないほうの問題なんだ! はいじゃあよろしくとそのときになって貸し与えられた連中じゃあむしろ俺の能力が発揮されないの!」
 冷たい言葉を背後から投げかけたのは、直立していたメイドであった。投げかけた言葉と寸分違わず、彼女の表情は氷のように冷え切っている。青年のほうは、痛いところを突かれたのか、火の精霊魔法でも発動する時のような顔色に変色し反論。
(それは誰もが同じ条件なのですが‥‥まあ、そこまで突っ込むのは控えましょう。駄々こねるような語尾になるまで取り乱してるようですし)
「ええ、ほんとそう」
「‥‥おっ、お前‥‥」
 まったく気持ちのこもって無い肯定の返答に、青年は目に涙を湛え、身体を震わす。 
(あー、若、思っていたより傷ついていたんですねぇ‥‥これはやってしまいましたか)
「うるさいうるさいうるさーい! 間違ってるのは俺じゃないの世界のほうなのー!!」
 よく分からない叫びが、屋敷に木霊した。


「で、落ち着きましたか?」
「‥‥ふん、俺は始めから冷静だ。取り乱してなどいない」
 努めて平静でいようとしても、泣き痕が見えたんじゃあなぁ、と彼女は口に出さない。またぐずられても困るからだ。淹れた紅茶を青年の手元に運ぶ。
「ですね。では書類のほうの処理を。確か面倒ごとがあったと聞いていますが」
 その言葉に青年はパラパラと束をめくり――1枚の羊皮紙を手に取る。
「これか? 強力なオークの集団が現れてるのをどうにかしてほしい、か。んー、面倒な‥‥や、待てよ?」
 あ、またなんかよからぬことを考え付いたな。これは早めに冷や水をかけて抑えなければ厄介なことに‥‥
「そうだ、これの討伐の指揮を俺が華麗にこなせばいいんだ! そうすれば親父も俺を認めざるを得ないだろう! よし、そうと決まったらさっさと取り掛かるぞ!」
 間に合わなかったらしい。
「‥‥しかし、指揮と言っても一体誰を使うのですか? 兵には荷が重いでしょうし。若が動かせる騎士の数には限界が‥‥」
「配下は初めから使うつもりは無い。親父を驚かせてやるんだ、動いたのが分かるようじゃこまる。それに、俺も与えられたばかりの連中できちんとやれるという証明をしてやんないとね」
 諦めながら、一応問うメイド。だが、青年は不敵に笑って答えた。どうやら『いい考え』が浮かんでしまったらしい。
「冒険者を使おう。多彩なタイプのいる彼らを使いこなしとなればもう誰も俺の才能を認めないわけにはいかない! さあ、早くギルドに依頼を出す用意をしないと!」
 メイドは、盛大にため息をついた。
 青年は、自分の案にすっかり酔っているのか、気付きはしなかったが。


「で、敵はオーク戦士やオーガ戦士の一団と判明しました。数は少なくとも10近くはいそうです」
「それにしてはちょっと求める冒険者の質、高くないか? これならもう一段階下げても‥‥」
 首を捻る係員に、メイドは相変わらずの鉄面皮で答える。
「若のことですからね、イレギュラーの1つや2つあるでしょうし、冒険者の皆様が怪我されることもありうるので、保険ということで。若のせいで冒険者の皆様が実力発揮できるかも分からないですし。というか多分イレギュラー起きます。若が主導した偵察結果なんて、漏れが無いほうが驚きです」
 ああ、そゆこと‥‥係員は納得したような呆れたような表情。メイドは、さらに思い出したように付け加える。
「あ、あの惰弱な若は一応私が同行して側にいるので、ご心配なく。というか意地張って護衛置こうとしないでしょうし、心配したらしたで怒ってしまうので。どうせなら若の取説でも書いてくればよかったですね‥‥」
 本人聞いてたら一体どんな顔すんだろうなぁ、と漠然と思った係員であった。

●今回の参加者

 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5631 エカテリーナ・イヴァリス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

東雲 魅憑(eb2011)/ 早瀬 さより(eb5456)/ ミハイロフ・プーシキン(eb5661)/ 木下 茜(eb5817)/ 水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

「私はただのメイドですので」
 馬若飛(ec3237)の秘密裏の提案をひとしきり聞いたメイドだったが、聞いていた時と表情を変えず、ただそう返答した。さすがに若飛はむっとするようなことはなかったが、しかしなぁ、と反論しかける。それをメイドはジェスチャーで遮ると、続けた。
「‥‥皆様が敵の退治の完遂を目標に考えてくださっているのは理解しております。しかしあくまで主役は皆様と若。私はあくまで影ですので。それに‥‥」
 私がここで口を挟めば、いつもと変わらず、皆様に頼んだ意味も、無くなってしまいますから‥‥。
 そう答えたメイドの表情が、微かに寂しげだったのが、若飛の思い込みだったかだっかもしれない。しかし彼には、間違いなくそう見えた。


「――それと、得意なのは月魔法での後方からの攻撃や撹乱・補助だ。他にもセシリアの梟などと組み合わせれば偵察等できると思う。もしかしたら時間が経って状況に変化が出ているかもしれないしな。必要があれば赴くが」
 青年と合流した冒険者達は、自己紹介がてら自分の得手不得手・戦闘スタイルを話していた。サラサ・フローライト(ea3026)も皆と同様に自分の能力について話した。更に、依頼前に説明されていた不安要素である、偵察の甘さによる情報不足を解消しようと提案をさらりと持ち出す。セシリア・ティレット(eb4721)もその言葉に頷き、自らも問題ないと意思表示。ハロルド・ブックマン(ec3272)も同様にスクロールを掲げながら自らも準備があることを明かした。
「そうか、能力については了解した、善処しよう。偵察か‥‥確かに時間経過による変化はあるだろう。だが、戦闘前の確認で十分だろう。先行する必要は無い、いや、できないだろう?」
 そういって青年が指摘したのは、荷物や騎乗による行軍速度の差。そして戦力分散の危険性。その問題点の解決策を持っていなかった冒険者は青年の、「直前に軽く確認」という案を覆すことは出来なかった。
 誰しも、自ら行いに過ちや不備あったとは考えたくないし、それを他人から指摘されて認めるのは難しい。自尊心や功名心、立場など縛られていればなおさらだろう。その点では、冒険者はある程度偵察の不完全さに目を向けさせたのだから、この提案も効果は少なからずあった。
 この件で青年に過ちがあったとすれば、メイドがギルドで伝えておくべき点があったとすれば――そして、冒険者がもし気付いて主張すれば僥倖だったといえるのは――駒も、生きているということだろう。命じらえ、働き、行動する。その一言で言い終わる行動にも、本人とってはどれだけやればいいか、どれだけ動けば自分が危ないか、どこまでが限界か、など一言では終わらない背景があるのだから。


「ただの保存食じゃ味気ないしね。軽く手ぇ加えてみたんやけど、どうかな?」
「ありがたい、不足があるわけではないが、味気なかったからな」
 宿では、クレー・ブラト(ea6282)が加工した食事を一向は取る。美味しいものでもとれば余裕が出るのでは、という目論見。表情を見る限り、効果は覿面、とはいかないかがいくらかの効果があったのは間違い無いようだ。
 そして夜。イリーナ・リピンスキー(ea9740)は青年を部屋へ誘い、机の上にチェスを広げる。適性をはかってみようという試みだ。
(ふむ‥‥頭が回らないわけでも学んでもいないわけでもない、か‥‥)
 ランプの灯りに照らされる盤上は、イリーナの負けを示していた。青年の表情は、してやったり、と言わんばかり。この勝負の前に一度指しているが、そのときはイリーナの勝ちで、相当悔しがっていたのもあるのだろう。
(ま、私もあくまでそれなりの腕だから才能があるともないとも言えないだろうが‥‥)
 青年の能力について頭をめぐらせながら駒を戻す二人。イリーナ自身は頭の回転はそこそこ、チェス自体にはそれなりに覚えがあるので彼女は評価はまあ、間違ってはいないだろう。
 それから更に何局か、結果はほぼ互角。だが、イリーナは青年のある傾向に気付いた。



 そして、様々な冒険者による工夫があった道中はあっという間に過ぎ、オーク戦士・オーガ戦士が出るといわれる場所はすぐそばに。
「では、よろしく頼みますよ、オプトニール」
 セシリアがそう言って優れた梟を空に放ち、同時にサラサがテレパシーの発動のため詠唱を始める。ハロルドもテレスコープのスクロールを取り出し、念じる。この後すぐに戦闘が始まることもあり、必要最低限のことだけを確認。
「いるな‥‥少し多いか‥‥オーク種やオーガ種で間違いは無いな」
 ハロルドの短い言葉に、サラサも頷く。
「そうみたいだな。最も私も『強ヨソウナノガイッパイイル』ぐらいしか伝えてもらえなかったが」
 いかなテレパシーと言えど、効果は会話。梟の認識の限界が、そのまま情報の限界となる。
「なるほど、少々多めか。了解した。事前に確認した甲斐はあったか、ありがとう」
 二人が伝えた結果を聞いた青年は満足げな表情を受かべるとともに、礼を述べる。
(‥‥やはり貴族の家という環境によって育ったせいか、意識せずともその振る舞いの態度は大きい。さて、その出来はどうだ? 人の上に立つ以上、その能力が背負う責任は重いのだから‥‥)
 そんな青年を見ながら、ハロルドはそのような思いを浮かべた。

「さて、これで準備は完了かな?」
「ん、レミエラか?」
 オーガ達が出現する場所の手前で、祈りを捧げているクレーを見止めた青年が尋ねる。クレーに、レミエラが発動した際の光が出ていたので気付いたのだろう。
「ああ、これ使えば周りのオーガは動きが鈍るゆうからね」
 クレーの答えに「ん、そうか」と喜びと不満の区別のつかない、複雑な表情を青年は一瞬浮かべた。有利な条件が増えたことと、情報を伝えなかったことの指摘、どちらを優先すべきか一瞬迷ったのだろう。だが、すぐに
「なら有利に運ぶな、よろしく頼む」
 と不敵な表情に切り替わる。
(指揮官向きで無いのか、経験が足りんだけなのか、見させてもらおうかな。どちらにせよ自分の仕事をするだけやけどね)


 そうして、いよいよオーク戦士達の退治が始まる。青年の声を合図にして。
「遠距離攻撃が出来るものはまずはそれを浴びせろ! その後、前衛が押し止めている間に一気に削る!」
 動き出す冒険者、だが、1人馬の近くにいるままの男がいた。若飛だ。
「ちっ、今から武器を取り出すだと!?」
 戦闘馬から弓と矢を引っ張り出している若飛を見た青年。だが、次に出すべき指示を出そうとして中々出てこない。
(さて、出ましたね、悪い癖。立てた計画自体は悪くないんですがそれに変更を余りしたくない、という‥‥この辺を変えていただければ万々歳なのですが‥‥)
 青年の側に立ち、周辺の警戒をするメイドは、言葉につまった彼を見ながらそう内心でひとりごつ。まあ、この場合、指示聞く聞かない以前の問題だったので、動揺するのが仕方ないとはいえ、この欠点はやはり痛い。
「やはりそうか‥‥」
 青年を一瞥したイリーナもそうこぼす。夜のチェスのことが脳裏に蘇っていた。自らのパターンに嵌れば強いが、一度想定外の事態に直面すると脆く、あっさり崩れて行き、挽回することが出来ない傾向。

「挨拶代わりだよっ、そらっ!」
 そのような逡巡の間にも、事態は待ってはくれない。敵の進行をみたシュテルケ・フェストゥング(eb4341)の振り下ろした斬撃。それは空気を切り裂く真空刃となり離れたオーク戦士たちに襲い掛かる。慌てて武器を構えて受けようとするが、その刃は手前で拡散――そして攻撃が炸裂。受けることのできないその攻撃は、オーク達の緩慢な動きでは避けきれず魔物たちは浅くない傷を刻まれる。
「‥‥っ、そうだな! そのまま続けろ! 後ろに通さないことを重視だ!」

「さて、これだけ固まっていればよい的ですね」
 近付くオーク戦士・オーガ戦士を見て剣を構えるエカテリーナ・イヴァリス(eb5631)。そこに、届く青年の声。
「まだだ! もう少し待て、そのタイミングはわかるはずだ!」
 何を悠長な、と思いながらエカテリーナは剣を止め、盾を前に出しつつ距離を取る。そして、青年の指示に背後の仲間の存在を思い出す。
(さすがにこの数相手では単独の攻撃では後が不安ということ? それならば次に来るのは‥‥)
 オーガ戦士が武器を振り下ろそうとした瞬間、はじけるその影。サラサのシャドゥボムによる援護。
「なるほど、ここですね。はぁっ、吹き飛びなさい!」
 思い切り力を込めてビギナーズソードを振り下ろしたエカテリーナ。衝撃波となり扇状となった攻撃が近くのオーク戦士をまとめて撃つ。
(やはり動きは鈍重。軽い武器とはいえ効果は大きい。データが役に立ったな。感謝しなくては‥‥)
『オオオォォ!』
 指示に従って攻撃したエカテリーナ自身が、その手ごたえに一番驚いているよう。傷を負いながら振り下ろしてきた武器を盾で受けながら評価を改める。青年も心の中でひそかに、イリーナ経由でもたらされたミハイロフ・プーシキンによる情報に感謝を捧げていた。伝聞であるので確度やその情報密度は本人が居た時の比ではないが、おおまかな特徴を掴むには十分。
 更に準備を終えた若飛の、強弓「十人張」から放たれる神木矢「榊」が次々とオーク戦士、オーガ戦士を地面に倒れ伏させてゆく。


 しかし、冒険者達有利に進んでいた戦況を揺さぶる咆哮。オーガたちが潜んでいたところに更に3体のオーク種が現われる。
『ブオオオオオォォォ!!』
「新手?!」
「‥‥あれはオーク戦士にしては装備が――オークロードですか!?」
 そういって構えたセシリアの氷晶の小盾を、力任せに振るわれた槌を受ける。技量で上のセシリアが受け損なうことはなかったが、その威力に受けた腕に衝撃が走る。
「くっ、上位種だと! 偵察では詳細まで確認できなかったと‥‥」
 狼狽する青年。再び露呈する悪い癖。
 気付くべきだったのは、そして確認すべきだったのは偵察を行った者の適性。ただの兵では、オーク戦士やオーガ戦士の集団に近付くこと、は適わない。そのための技能もないし、なにより弱い存在なのだから。
「ちっ、止まってる暇はねーぜ!」
 若飛はそう言って前線に向かいオークロードに向かって縄ひょうを放ち、牽制。しかし、注意こそひいたもの、その分厚い皮膚と武装に傷をあたえるには威力が足りないようだ。
「ちっ、斬ってくしかねーか」
 そういって彼は、日本刀「法城寺正弘」を構える。切れ味鋭いその刃と彼の腕力ならば、たしかに多少ともダメージは通りそうだ。
「あの様子じゃあ、この後は何を聞いても「聞き間違い」で済ませるしかないかな?」
 ゴートソードを構えるシュテルケも、そう呟いた。

「状況は変わったが、盤面の趨勢は我ら、そうだろう!」
 だがそんな状況も変わる。イリーナの言葉にはっとした青年から、再び飛ぶ指示。
「そ、そうだな。技量では上回っていない。サラサは撹乱に切り替われ、威力は大きいから防御を優先しながら削るんだ!」

「これならいくら着込んでようと関係あらへんしね」
 レイピア「ホーリークロス」によるクレーのポイントアタックが確実にオークロードを穿つ。反撃に出ようとしたものの出鼻に向けられるのは、ハロルドのウォーターボム。さすがにクイックトラストはその射程の短さによる危険で止められたが、彼の魔法は確実に敵の気勢を削いでいる。サラサのイリュージョンも成功率はせいぜい半々、抵抗されることもあり効果を発揮するのはそう多くなかったが、決めればたちどころに冒険者に攻勢の機会を作る。、
「聞き間違いはしなくてすみそうだね!」
 シュテルケのソードボンバーが、まとめて敵を撃った。
「結構、私たちの特性も知ってもらえてたみたですしね、やぁっ!」
 セシリアも青年に感心しながら、足の止まった相手へ全力でホーリーメイスを叩き込んだ。戦いの行方が冒険者達の勝利へ行き着くのは、誰の目にも明らかだった。


「この結果なら、周りの評価も期待できそうですね」
「ふん、当然だ。この俺の指示の元で、優れた冒険者が戦ったのだから」
 動く魔物が居なくなった戦場でそう声をかけたエカテリーナに、青年はうそぶく。「優れた」といったのはきっと彼にとっては最大限の賛辞なのだろう。そう、受け取り、冒険者は密かに苦笑。
「ありがとうござます、信頼していてくれていたのですね、私たちを」
 そういってセシリアも微笑む。願わくば、それを今後も周りへと対象を変え続けてほしいと。
「ふん、初対面だがギルドの紹介や名声のあるものだし信用はしていたさ。次からは信頼、かもしれないがな。‥‥まあ、学ぶことはできたさ、実戦を。そしてそこで重要なのは人だということも」
 最後のほうは声が小さくもなっていったが、この件が青年にプラスに作用するのは間違いないだろう。鉄面皮のメイドも、微かに微笑んでるように見える。

 これからつく帰途。不安が取り払われたそれは、行きのそれに比べて、足取りが軽くなるのは間違いないだろう。