迫り来る重大な危機?
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■ショートシナリオ
担当:長谷 宴
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月20日〜09月27日
リプレイ公開日:2006年09月28日
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●オープニング
その依頼の要請は、キエフの冒険者ギルドに激震を走らせた。
「馬鹿な、そのような恐ろしい敵が現われたというのか!?」
「なっ、一体どんな敵が現われたというのだ!?」
打ち震えるギルド員のただならぬ様子に、冒険者の一人は思わず声をかけた。ゆっくりとギルド員は振り向き、口を開く。
「‥‥キエフから二日ほど行ったところにあるそこそこの規模の町、そこに、とんでもない男が現われた」
そこまで言ったきり、押し黙るギルド員。その青ざめた顔に映るは、恐怖。
「ど、どんなやつなんだよ?」
ギルド員の様子に怖気づきながら、その冒険者はなおも尋ねる。首を突っ込んでしまったことに後悔を感じながら。
「どうしても、知りたいというのか‥‥」
遠くをしばらく見た後、ギルド員は遂にその重い口を開いた。
「その男の本当の名は誰も分からない。通称『ホルノスキー』。全身が筋肉に覆われ、強靭さを誇る一方、それでいて俊敏」
語るギルド員の手は震える。手に持っていた羊皮紙が落ちた。
「そしてホルノスキーは、夜になると牙を剥く。闇に潜み、ひたすら獲物がかかるのを待つ」
「一体、その男が何をするて言うんだ!」
恐ろしさだけが伝わり、肝心の中身が伝わってこない。恐怖の焦らされている冒険者は、聞きたくないと思いつつも先を促してしまう。
「獲物は、夜、一人、または少数で出歩いている、出来るだけ線の細い、それでいて体つきがしっかりしている若い男。ホルノスキーは、素早く獲物の背後に近付くと、その強靭な肉体で抱きしめ、いや締め付け、その衣服を引きちぎる。そして、その肢体を舐めますわすように観て、散々辱めた後、最後に自らも一糸纏わぬ姿になり、『もきゅもきゅ』してしまうのだ!」
言い終えたギルド員は、がっくりと崩れ落ち膝をつく。息が荒くなり、乱れる。
「なぜ無駄に勿体をつける。ただの変態じゃないか」
素の表情で冒険者は突っ込んだ。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
気まずい沈黙の空間。交錯する視線。自分から目を逸らすギルド員。「ちっ」と舌打ちするギルド員。
そんな間が数秒流れた直後、ギルド員は力強く立ち上がり声高に主張をはじめた。
「何を言う、これはその町にとって重大な危機だ! いや、ひいてはキエフの存亡がかかるかもしれない危機だ!」
そう、危機である。
途轍もない危機である。
考えても見るがいい、その男に襲われた男性の末路を。
汚された肉体、そしてその感覚は忘れることなく付きまとう。精神は病む。
当然日常生活にも支障をきたす。仕事も手が付かないだろう。産業は停滞してしまう。
この対象が冒険者であった場合、さらに深刻だ。生業、そして冒険に手が付かなくっては、二重の打撃。
もしそのような時にキエフが未曾有の危機に襲われた場合、肝心の冒険者が心神喪失状態にあっては、乗り切れるものも乗り切れなくなってしまう!
「そんなわけで、冒険者諸君、今こそ立ち上がるべきだ!」
こうして、ギルドに変態退治依頼が貼り出された。
「‥‥何か、あのギルド員、自分を無理矢理納得させてないか?」
ある冒険者は、そう呟いたという。
一方、その件の町。
夜、月明かりを浴びながらその男は屋根の上で遠くキエフの方角を見つめていた。
「来る‥‥新たなる風が。‥‥期待しているぞ、小手先の技術や小技に頼らず、熱いハートでぶつかって来い!」
雲一つない満天の星空に吼えるその男の下半身には、布一つしかなかった。
●リプレイ本文
「おお、冒険者様だ!」
「冒険者様がお越しになられたぞ!」
「それにしても、凄い歓迎でしたね」
手元の羽ペンを動かしながら、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)はそう話を切り出した。
「ええ、そうですね。町の皆さん、絶望の淵から救われた、という表情でした」
アリア・シンクレア(ea8872)が頷く。彼女たちが話しているのは町に着いてまず、依頼を出した代表である町長の家へ赴いたときのこと。そこで、冒険者達は集まっていた町民に熱烈な歓迎を受けた。特に、若い男性から。
「ええ、でもあれは私たちを歓迎していたというより‥‥」
笑みを崩さないオリガ・アルトゥール(eb5706)が視線を向けた先には、「何で俺はこの依頼を受けているんだろう」と遠い目をしてブツブツと呟くアッシュ・ロシュタイン(eb5690)。背負った空気が一人だけ重苦しい。
「アッシュお兄さん、大人気だったよね〜☆」
そんな彼に、天使の笑顔で話しかけているのは少年神聖騎士、カルル・ゲラー(eb3530)。彼の言う通り、最ももてなされていたのはアッシュだった。
「ええ、涙を流して感激する若い男の人ばかり侍らせてご接待受けるなんて罪作りです」
「俺には彼らの流す涙が人事には思えなかったんだが。大体囮役なんて、めっっちゃ! 危険な役じゃねぇかっっっ!!」
オリガのからかいにアッシュは涙を流し吼える。囮は一応アッシュの立候補ではあるがやはり辛いらしい。
「平和のために尊い犠牲になるあなたのことは忘れませんよ」
勇気付けるアリアだが、感情が篭ってなく棒読み。囮役への最低限の敬意というやつだ。
そうか、やっぱり犠牲確定かよとますますアッシュの背負う空気は湿っぽく重たく息苦しく。
「ところで、シシルフィアリスお姉さん、さっきから何描いてるの?」
忙しく筆を動かすシシルフィアリスは、カルルの問いにふふっ、と笑い
「ああ、犠牲になった人たちから聞いたホルノスキーの想像図を」
「へえ?」
今からでも耐性をつけようとしたのか、不意にアッシュがひょいっと彼女の手元で描かれているものを見ようと首を動かす。
「あ、まだ途中!」
「ってなんだそりゃあああ!」
シシルフィアリスは慌てて隠そうとしたが、間に合わない。その絵を見たアッシュの絶叫が響いた。
そこには、アッシュが仮定ホルノスキーに、想像される『もきゅもきゅ』を受ける図が彼女の高い技量で表されていた。
なお、その詳細はとても報告書に載せられたもんじゃない、と記しておく。
「あー、ペットとの散歩は楽しいなー」
依頼遂行日。夕方頃からアッシュは一般人の振りをして町をぶらつく。ただ、時々口から出てくる台詞は棒読み。目の焦点は合ってない。すれ違う若い男性は畏敬のまなざし。
「皆ちゃんと助けてくれるんだろうな?」
がっくりと肩を落としながら、アッシュは呟く。
日が落ち、人気が完全に途絶えた通り。ランタンを手にしたアッシュは一人、俯きながらゆっくりと進む。
月明かりが射し、夜もまだ始まったばかりのその時間に完全に人通りが消えるのは、この町がホルノスキーの恐怖に支配されている確かな証。
(‥‥来たっ!?)
遠くで聞こえた音を、耳に拾ったのは尋常でない聴覚の鋭さを誇るアリア。仲間にそのことを伝えようとするその前に、野太い声が夜の町に響いた。
「貴君に問う! なぜにそのようなものを纏っているのか!」
平屋の屋根の上で、月明かりを背負いその男は堂々と立っていた。マントを羽織った上半身に、腰布のみの下半身。申し訳程度に衣服に包まれたその体は、筋肉で覆われていた。
「ホルノスキーかっ、出たな変態め!? そうやすやすとこの俺にもきゅもきゅ出来ると思うなよ」
アッシュが俯いたまま声を返す。丁度、背後にホルノスキーが立つ形となる。
「左様、我はホルノスキーと呼ばれる者。もう一度貴君に問う! 何故そのようなものでその身体を隠すような真似をする!」
「いや、当たり前だろ!?」
その答えに、ホルノスキーはクックッと笑う。
「愚かな! 些細な常識に囚われ人生の中でもっとも美しいボディを持つ時期に身体を覆ってしまうとは! この老いぼれでさえボディを公開しているというのに!」
言うや否や、ホルノスキーはマントと腰布を脱ぎ去り、全てを曝け出した!
‥・・いや、そんな事態は記録係的に不味い! きっと彼は記録係には見えない腰布を身につけているのだ! そうに違いない!
そうして全裸もとい見えない腰布一丁になったホルノスキーは、アッシュ目掛けて飛び掛る! その速さ、とてもそのがっちりした体躯からは想像できない! すぐさま距離が詰まる。
しかし、アッシュは俯いたまま動かない。
「ダメッ、無理やり襲うのもいいけど、やっぱり一番は同意の上がいいんです! ‥‥アッシュさん!? 何故動かないんですか!」
今回の面子では割と早目に決着をつけようと思っていたオリガは、自分で灯りを持っていないためアッシュのランタンの光の範囲にホルノスキーが入ってからさらりと問題発言をしつつ詠唱を始めたが、静止したままのアッシュに大声を出す。
「彼はもしかして、動かないのじゃなく動けないのかもしれません。‥‥私と同じく。月の光を見てはいけないために」
近くで潜むアリアの声。ふと目をやると、彼女も物陰に潜んだまま。
「まさか‥‥狂化!?」
そう、アッシュもアリアも月の光を直接見ることでも狂化を起こすハーフエルフ。二人は下手に動けない。
その隙に、素早く近付いたホルノスキーは、俊敏な動きでアッシュにがっちりと全身で包み込むように抱きついた。そのまま、彼はアッシュの筋肉を堪能するかのように頬を擦り付ける。
アイスコフィンで動きを封じようと詠唱を続けるオリガだったが、それを静止する声。
「ダメです! あのポーズのところにアイスコフィンを放てば氷像の腕の中にいるアッシュさんが身動きを取れなくなってしまいます!」
同じウィザード、同じ魔法を使えるシシルフィアリスの言に、ハッとなったオリガは詠唱を止めざるを得ない。そのままでは氷像に触れ続けるアッシュは凍傷の危険がある上、氷が覆うとは言え全裸、でなくて不可視の腰布一丁の男に包まれるという大変見苦しい事態になってしまう!
「私たちは‥‥見守ることしかできなんですっ!」
口惜しそうな台詞だが、シシルフィアリスはウフフッ、と目の前の光景に見入っていた。
「やめろホルノスキーっ! ぶっ飛ばすぞっっっ!!」
何も出来ない冒険者を尻目に、ホルノスキーはアッシュの衣服を少しずつずらしていく。徐々にアッシュの肌が露になっていく!
嗚呼、冒険者達はこの残酷な運命に屈するしかないのか!
「えいやっ☆ そんなことをしちゃメッ、だよ!」
しかしその絶望を切り裂く声。ホルノスキーがアッシュとの濃密なスキンシップをする隙に背後から忍び寄ったカルルだ!
ちなみに使用予定の網は、アッシュも巻き込んでしまうため諦めた。そのことを後に仲間に話した際、シシルフィアリスは「ちっ」と舌打ちしたとか。
「ホルノスキーさんはもきゅもきゅするて気持ちいいのかもしれないけど、でもでも、迷惑かけてるから木剣でおしおき☆」
そう言って剣を振るうカルル。木剣といいつつ、彼の手にはクルスソード+1。明らかに切れる武器である。
「ぐううぅぅ、このちびっ子が! お前みたいなまだ発達してない者に興味は‥・・」
そこまで言ってカルルの身体をじっと舐め回すように見るホルノスキー。
「いや‥‥成長しきってはいなくともすっきりとした美しいライン。これなら公開する価値が」
何やら不穏なことを口走るホルノスキー。アッシュを手放しカルルにじりじりと近寄る。
危機である。
もし彼の言ったことが実現するような事態になれば、この報告書が公開できるかいよいよ危なくなる!
「見てくださいっ、月が雲に!」
その時、事態は動いた。雲が月を覆ったのだ。
「よっしゃあああ、きゃすと・おふ!」
そう叫ぶとアッシュは、自ら衣服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿、いや見えない腰布のみを身につけた姿になった!
「自分で脱げば、お前の攻撃は怖くない!」
「信念、理想、単なる欲望。貴方の動機は不明ですが‥・・いえ、間違いなく3番目の理由のような気がしますが、貴方の行いは止めなくてはいけません!」
月光が遮られ動けるようになったアリアが、アッシュ脱衣の衝撃に立ち尽くすホルノスキーをシャドウバインディングで捉えた。
「今ならっ!」
動きを止めたホルノスキーに、オリガが今度こそアイスコフィンを放つ。ホルノスキーの足元が氷に覆われ始めた。
「あぁ、もきゅもきゅを最後まで見たかったのに!」
至極残念そうに、シシルフィアリスが叫んだ。
「まあ、貴重な体験だと思って♪」
「さあ、ヤなことは忘れて飲みましょう」
氷漬けになったホルノスキーを、氷が解けた後しっかり捉え、引き渡した冒険者達はとりあえずアッシュのアフターケアに努めていた。
と言っても、オリガのフォローはあんまりフォローになっていなかったし、アリアの勧めもあまり効果は無かった。酒やご馳走は歓喜に打ち震える住民たちが用意してはくれたが。
なお、「期待外れー」とぼやいたシシルフィアリスは再び羽ペンを動かしている。物足りない分は自分で補完らしい。
「それにしても」
ふと外に出たアリアは、風になびく髪を押さえ遠くを見ながら呟く。風の吹いてくる方を。
「第2、第3のホルノスキーが現れそうな気がするのは、私の気のせいでしょうか‥‥?」
『今回の依頼はとっても面白い人たちがいました。
まず、とっても素敵な絵を描くシシルフィアリスお姉さん。
そして、ホルノスキーさん、アッシュお兄さんの二人は何故か堂々と全裸になっていました、すごいなあ☆』
〜「かるるくんのにっき」より〜
だから、見えない腰布一丁だってば。