恥ずかしくって☆貴方と顔を合わせられない

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

 ああ‥‥いつも私は貴方を陰から見ていることしか出来ない。
 貴方がふと振り返ってくれても思わず陰に隠れてしまう。
 ああ、なんて意気地の無い私。でもいいの、貴方を見ているだけで、私幸せなんだから。
「と、いう視線を毎日感じていたんですよ」
「はぁ‥‥」
 受付嬢の前で遠い目をしながら物憂げな様子で話すのは、線の細い、整った顔立ちの青年。
 主観的な部分無しでも、美青年に分類できる。だからこそ付きまとわれているんだろうなぁ、と受付嬢は納得した。
「それにしても、随分具体的な心理描写ですね。確かにこっそり付きまとうなんていうのは、危害を加える気がないなら大抵その部類ですけど」
「ああ、だってそう口に出してるんですもん」
「そ、それは‥‥」
 随分トンじゃってる人に惚れられて。と心の内だけで受付嬢は続けた。意気地があるんだか無いんだかわからないお人である。
 しかし、この時点でいまいち腑に落ちない点が一つ。なぜわざわざ冒険者ギルドなのか。
 口に出して心の中を明かしてしまうその相手、声の出所で居場所まで分かるはず。
 そんな疑問の表情を見て取って、青年は続けた。
「まあ、相手の場所もバレバレ、僕も黙って目線で汚されているわけにもいきませんので、相手のもとに向かうわけですよ。だけどっ!」
 語気を強めた青年に、受付嬢もハッとなって態度を改めた。そう、これは冒険者ギルドに持ち込まなくてはいけなかった依頼!
 ただの痴話話ではない! 受付嬢は自分に言い聞かせ、背筋をしゃんと伸ばす。さあ、どんな事情でも来い!
「近付いた途端にですね、赤い光と『やだっ! 顔を合わせるなんて恥ずかしい!』といった声と共に急に煙が発生して完全に視界を潰されたり」
「今度こそ、と思って腕を捕まえたと途端さあっと崩れ落ちていく灰だったり」
「明らかに常人じゃないんです! その付きまとってるおっさんは!」
 ‥‥ん? 今の発言でその付きまとっている相手がギルドに処理を頼まなくてはいけない理由は納得がいったけど。
 明らかに何かもっと重大な真実を知らされた気がする。頭の中で描いているそのもじもじして、内気な、つきまとっている人物のイメージが一気に音を立ててガラガラと崩れ、別のものに上塗りされた気がする。気のせいかなぁ。そうだといいなぁ。
「というわけで、そのおっさんを何とかして欲しいんです! このままじゃ店に客が来ません!」
 ああ、そうだ、依頼人は花を扱う商店の一人息子だ。看板息子でご婦人に評判な。これを依頼書に書き忘れていた。失敗失敗。テヘッ☆
「もう、これ以上あのおっさんに悩まされる日々を送りたくありません! このごろ夢にも出てくるんです! あの目にしみる髭をそった青い跡、服からあふれ出す濃い胸毛! 早く僕を解放してください!」
 そりゃ奇遇。なんだか私も今夜から悪夢を見れそうです。しかもご一緒の内容。

 こうして、冒険者に新たな依頼が公開された。

●今回の参加者

 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5646 リョウ・アスカ(33歳・♂・エル・レオン・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7018 マクシーン・シンクレアー(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●そのとき依頼人の決断は
「皆さんが、今回依頼を引き受けてくれた方ですね」
 冒険者たちを笑顔で出迎えた依頼人だったが、一瞬表情には失望の色が過ぎった。
 それもそのはず、やってきた冒険者は依頼を受けた数より二人、少なかったのだから。
 しかし、それでも冒険者が来てくれたこと自体に安堵した依頼人は、喜んで冒険者たちを出迎えた。

「今回、攫われたということでおとりをやってほしいのでござるよ」
 そう依頼人に切り出したのは、華国から来た武道家の河童、磧箭(eb5634)。「‥‥。営業妨害する怪しい男を捕まえれば良いので御座るな」と、何か大事な部分に目を瞑って自分を誤魔化して参加した彼は、依頼人を連れ出して今回のターゲットを誘い出そうと画策していた。
「俺も‥‥それでいいと思います」
 依頼人が男だからかなのか、あまりやる気が感じられない様子ながら囮案を肯定するのはジャイアントのファイター、リョウ・アスカ(eb5646)。まあ、依頼人に好みは合ったとしてもその態度はどうだろう。美青年だからといってやる気を猛然と出すよりはまだいいかもしれないが。
「うーん、それだと私とレドゥークのあらかじめ場所を調べて縛っちゃおうっていう作戦使えませんね」
「私としては、カーシャが探ってさえくれれば大丈夫だと思いますよ」
 落ち着いて自分たちの立てた案とを較べるカーシャ・ライヴェン(eb5662)と、考え込む彼女におおらかな様子で助言するレドゥーク・ライヴェン(eb5617)。なんだか背景にいちゃいちゃとかラブラブとか書き込みたくなる空気を振りまく二人。
「えっと、まだどうするか決まっていない‥‥?」
「と、とりあえず囮をやっていただけるかどうか、という問題もあったのでまだ手段は確定してないでござるよ」 
 困惑した様子の依頼人に慌ててフォローを入れる箭。実際に時間の都合などで意思の統一はできていなかったが、それを分かっていたからこそ柔軟な態度で冒険者達はこの依頼に臨んでいた。そして囮作戦には危険に晒される可能性が高まる当の依頼人の承諾が必要なことも。
「うーん‥‥」
 冒険者を見回しながら悩む依頼人の脳裏に浮かんだのは、身を一任までするには不安が残るこれまでの様子か、誘わなくてもわざわざ声をだして自分の存在を知らしめる相手のおっさんか。数分の逡巡のあと依頼人が出した答えは
「すみません、囮はしなくても‥‥いいですか?」


●一般の活動時間帯に行為をしていることの利点
「‥‥というわけで、騒がしくなるかもしれないが、ミー達も配慮するのでどうかよろしく頼むでござる」
「お二人様、ご苦労様です。こちらは大体調べ終わりましたので手伝いましょうか?」
 箭とリョウが周辺住民に今回の依頼について説明していると、依頼人から聞いた情報から辺りを周って調べていたカーシャとレドゥークが声をかけたその手に持っているのはロープ、その他罠を設置するのに必要な道具。依頼人に付き纏っている魔術師の現われそうな場所を特定して罠を設置するつもりらしい。
「いや、これで最後なので大丈夫でござる。ただ、罠に関しては‥‥」
 二人が持つロープに目を落とした箭は、言いにくそうにその後の言葉を続けた。

「白昼堂々、というのがまさか敵の利点となるとは、やられましたね‥‥」
「ええ。何とかお願いしていきたいですが、難しいでしょうね」
 あの男には私達も非常に迷惑している。退治してくれるならありがたい。しかし、ただでさえ過密気味な街並み、そこで罠などを設置されると流石に困る。
 そんな住民の言葉を伝え聞いた二人の表情は冴えない。落ち着き払ってはいるカーシャも、気落ちしているのは明らかだった。
「まあ、何とかやり遂げるため粘り強く交渉、しましょうか‥‥。交渉は俺よりも、あなたがたのほうが向いていると思いますし」
 そう言ったリョウを見てレドゥークは、苦笑しながら頷いた。
「確かにそうですね。あなたのその格好、中々物々しいですし」
 改めて自分の着ているものに目を落としたリョウが見たのは、物々しい装飾が施された黒い法衣。
 ああっ、と声を上げたリョウにの様子に表情を緩める一同。重い雰囲気が、少し軽くなった。


●恋は盲目とは言うけれど
「ああ、愛しい貴方。今日も店先に立つその姿に、売り物の花も霞んでしまう‥‥」
 突如聞こえてきたには、台詞に似合わない低く濁った声。花屋、そして付近にいた冒険者がはっとして声のほうを向くと同時に、依頼人はガタガタ震えだす。
「間違いない、この声がその魔術師です!」
 依頼人の様子に確信するカーシャ。即座にデティクトアンデットの詠唱を始める。彼女の身体が白い光に包まれた。
「あちらは‥‥罠は仕掛けられてませんね」
 あの後、再びカーシャとレドゥークが周辺住民に頼み込んだ結果、レドゥークのおおらかな態度やその話術よって期間内だけということもあり二ヶ所は何とか設置を許されていた。が、男の声の方は設置が出来ていないところだった。
「反応ありません、本物です!」
「分かったでござる!」
 カーシャの声に飛び出していく箭。声のしたほうに素早く向かう。建物の陰から顔を出している男が見えた。目にしみるような剃り跡が見える青いアゴ。依頼人に聞いていた特徴どおりである。
「いやーちょっと何なのよー、意味わかんない! アタシと彼の仲を邪魔しようって言うの!」
 箭に気付いたのか、すぐさま顔を引っ込める男。
「分身でないのなら、早速いかせてもらうでござるよ!」
 角を曲がりすぐさま視界に入った男に、軌道を変化させながら鞭を振るう箭。しかし彼の鞭が触れた途端、突如男の影は崩れただの灰と化す。
「分身でござったか!?」
「そんな、まだ魔法は続いて反応はないのに‥‥距離だってまだ‥‥もしかして?」
 予想外のことだったが慌てず考えるカーシャの脳裏によぎったのは、デティクトアンデットという神聖魔法の本質。負の生命力を持つ対象を探る、という。
「あっ、向こうで角を曲がったのは!」
 箭に追いついたリョウが見たのは、少し先で逃げ走っている男。
「私達も別のほうから向かいましょう!」
 レドゥークの声に、カーシャは頷き、調べていた周辺の情報から男が向かいそうな方向へ走り出した。

「逃がさないでござるよっ!」
 追う箭のダーツが、逃げる男の背に刺さる。
「いやっ、アタシの柔肌に何するのよー! あの人に嫌われたらどうするのっ! さっきだっていきなり鞭だし、この変態!」
 相変わらず一人妄想畑を突っ走っているのが垣間見えることを叫んだ男は、その身体が赤く包まれた直後、煙で一帯が包まれる。
「くっ、しまったでござる!」
 対策を考えていた箭だが、場所や人員の都合で実行できていなかった。
 追えなくなった事、そして明らかな変態に変態呼ばわりされたことなどに強い悔しさを感じながら、箭は煙の中に立ち尽くすしかなかった。

「いやっ、その縄でどうする気!?」
 上手く男のところに回り込んだレドゥークは、あらかじめ作っておいた投げ縄でを構えていたところにやってきた男は、心底おびえた表情になる。
「捕まえるだけですよっ!」
 あらぬ誤解を受けたレドゥークが叫ぶが、男のオンリーワールドトークは変わらない。
「くっ‥‥貴方、あの人と私の仲に嫉妬して、二人を引き裂くことが目的なのねっ!? 残念、貴方も随分美しいのに。私の二番目にならしてあげたかも」
「ソレは私のものです!」
 男が妄言を終えないうちに笑顔のままこめかみに青筋を浮かべ、弓に矢を番えるカーシャ。その瞳は血のごとき赤に染まり、束ねられた彼女の髪も、逆立っていく。ハーフエルフの特徴、狂化。ソレ呼ばわりされたレドゥークは、彼女のその様子にハッとなる。
 普段は落ち着いているカーシャだが、レドゥークが誘惑されたときには特に感情の動きを特に気にしない、『狂化しても構わない』と彼女自身が許していた。
「れっどくん、私以外を見ちゃダメだよっ!」
 街中で矢を射ようとする彼女の制止を優先せざるを得なくなるレドゥーク。その隙に男は狭い路地へと入っていく。
 慌てて後を追おうとするレドゥーク達はその路地に続くが、ただでさえ過密なキエフ。慣れない場所で追走できるほど、町並みも、そして付き纏い行為をする男の周辺地理への理解度も甘くなかった。
 やっと見つけたと思った男の影も掴んで灰に。
 冒険者達が男を見つけ、捕まえることはついぞ出来なかった。


●刻まれた恐怖
 それ以降、花屋の周りで男が彼のことを見つめているのを見たり、その声を聞いたりといったことはなくなった。
 依頼人も店先に立て、彼目当てのご婦人方も戻ってきた。これからはしばらく彼の顔にご無沙汰だった彼女達の相手で、ある意味大変かもしれない。
 しかし、結局男は逃げおおせた。依頼人は冒険者達に改めて礼を述べたが、今でも時折、といっても以前に比べれば随分少なくはなったが、男の悪夢に悩まされ、その端整な顔を歪ませる夜もあるという。