都市の状況と猫の行動に関する考察の結果

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月07日〜10月12日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

 にゃー。にゃー。
 普段は耳にしても愛らしいとさえ思う鳴き声。しかし、それが夜間、しかも普段より甲高いと事情は変わる。更に外から、大きな鳴き声が返ってきた時には。

「そんなわけで、ウチの猫さんたち、家族を増やしたい時期が来てしまって」
 困ったのよねぇ、といった感じに頬に手を当て眉をひそめるのはそこそこ裕福そうな中年のご婦人。
「家はまあ、比較的大きいほうなんですけどそれでも周りの家に迷惑がかからないとも言い切れないし、実際、他所の猫さんが寄ってきて鳴いてますのでそのままにしておくわけにはいきません」
 ああ、と受付嬢は納得する。人口流入が続いた結果、キエフは人口過密状態。ということは住宅の具合もさもありなん。近所への気遣いも必須というわけだ。
「それで、引き取り手を捜してみたんですが、上手いところ知り合いが欲しがっていまして。何でもネズミによる被害を防ぎたいとか」
 おや、と内心で少し驚く受付嬢。何しろ対処法まで見つけたのならもうほとんど終わったようなのもではないか。そんな受付嬢の心中を知ってか知らずか、婦人はところが、と続けた。
「その引き取り先は、キエフから二日程行かないといけない開拓村なのが一つ目の厄介なところで。そこまでの道が、特に危険だという噂は聞かないんですが念のため備えておきたいというのがこちらに伺った一つ目の理由」
 無言で頷く受付嬢。猫を運ぶのにそれほど気をつけなければいけないのかとも少し引っかかったが、ありえない考えではない。
「もうひとつは、その・・・・ちょっと猫さんの数が多めでして」
 恥じ入るように顔を逸らす婦人。
「はあ。それで、何匹ほどなんでしょうか?」
「今回引き取ってもらうのは、15匹ほど・・・・」
 消え入りそうな声で、婦人は言った。
 さて、大変な引越しになりそうだ。 

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5610 揚 白燕(30歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

●急展開、かもしれない
 急を告げたのは、蝶のような緑の羽根を持った妖精。冒険者最後の一人を待つ一行の前に現われたそのエレメンタルフェアリーが再び向かうにを追いながら、以心伝助(ea4744)は傍らの、気心の知れた人物に話しかけた。
「まさか、ってやつっすねえ」
「ええ。本人がこれない重大な何かが起こったんでしょうか。もしかしたらこの依頼、裏が‥‥」
 同じく妖精の後を追って走るフィニィ・フォルテン(ea9114)が伝助の言葉に頷く。二人は既に冒険者街に入っていた。
 導き手は角を曲がったところで急に止まる。心を騒がせる二人もその足を止め、――そして、現われなかった最後の一人、揚白燕(eb5610)の姿を見つけた。
「「ああっ、こ、これは!?」」

「いや〜、虹羽ちゃんがしっかり動いてくれて助かりましたよ〜」
 ニコニコとした表情で、頭を掻きながら話す白燕。
「つまり、荷物が重いせいで飛べないという想定外の事態が起こって、あのコを使って人手を呼んだ、と」
 同じくニコニコ、オリガ・アルトゥール(eb5706)が伝助、フィニィに連れられ現われた白燕の説明を要約して確かめた。
「ええ〜、本当に申し訳ありません〜」
「そうですね、込み入ったキエフでシフールが飛ばないで動くのは大変ですから仕方ないですね」
 せん〜、と白燕の隣で虹羽が繰り返す。なんだか微妙な緊張感が無いでも無い気がするが相変わらず二人は笑みを崩さない。
「まったく、人手が一人減ったかと思ってがっかりして損しました」
 と、顔を膨らませるセフィナ・プランティエ(ea8539)。童顔なのでむしろ可愛らしくも見えるが。
「あれ、セフィナさん相当心配してたような・・・・」
「な、何言ってますの!」
 そんなセフィナに、同じく待機していたシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)がその態度の変わりように思わず聞いてしまうと慌てるセフィナ。ああ、強がりだがらとは彼女をよく知る冒険者の弁。
「さあ、随分待たせてしまったわけですし行きやしょうか」 
 収拾がつかなくなる前に、と伝助が促す。ちなみにその手にはお人好しのの性か、白燕の荷物が。

●それは今までで最も恐ろしい敵、かもしれない
 にゃー。にゃー。
「ね、猫さん・・・・」
 誰ともなしに呟かれた声。
 冒険者一行の中には随分と激しい戦いを潜り抜けて来た者もいるが、しかし今回の敵はまさに格が違うといってよかった。
 見つめるそのつぶらな瞳だけで冒険者達がその軍門に下ってしまうほどに。
「それでは、よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げた依頼人の声で、ようやくハッとなって現実に引き戻され、慌てて猫を馬車に乗せる作業の手伝いに向かう者がいても咎められようか、いや出来るわけが無い!
 こうして準備を終えた一行は、依頼人に見送られながら新たな猫の居住地へ向かった。

「ああ、動いちゃダメよっ!」
「はぅぁ‥‥毛糸球とか食べ物とかで釣ってみましょーか‥‥」
 それぞれのコを識別できるように、とリボンをつけようとして猫とじゃれあ・・・・格闘しているセフィナに、その状況で猫に見惚れ・・・・いや見守っているシシルフィアリスが引き寄せられるように近寄る。
「合計15匹っすか。もし全員が一度に乗っかってきたら潰れそうっすねぇ」
 自分の飼い猫、茶虎に念のためとエチゴヤマフラーを巻きながらそう危惧するような発言をする伝助だったが、顔は緩みっぱなし。むしろ期待しているのかもしれない。
「まあ、環境が変わって戸惑っているでしょうから、ゆっくりのんびり付き合っていきましょう♪」
 気が立っていると思われる猫相手に、引っ掻かれるのを厭わず宥めるオリガ。
「そうですね、しっかりと伝えるのは難しいですけど、私も繰り返し説明してみます」
 フィニィは始めにテレパシーで猫達に話しかけたが、意思疎通が出来るといっても猫の知性では彼女の言葉を理解できず、伝わってきたのは猫達の不安や怯えの声、そして伝えられたことはフィニィ達が危害を加える相手でないということぐらいだった。
「テレパシーもいいですけど、やっぱり触れ合うことも大事ですわよ」
 セフィナが、徐々に猫に埋もれていきながらそうアドヴァイス。猫を愛する者と呼ばれ、今回の依頼にもプリュイとレーヌという二匹を連れてきた彼女は、「うふふふふ♪」「ねこさん♪ ねーこーさん♪」と非常にご満悦。
「ペス、だいじょうぶでしょーか」
 シシルフィアリスもペット同伴だが、ペスという愛称の彼女のペスカローロは子狐。確かに幼くともフォックスは肉食獣。それに身体も猫達よりは大きかったが、心配するほどシシルフィアリスの言うことを聞かないわけではなかった。
 じつのところ猫達とじゃれあってくれればそれは彼女の言うところの「もぉ萌え萌え」ということで密かに期待してもいたのだがお互い警戒心が強いこともあって、残念ながらその光景は難しそう。
 そういった気持ちを内に秘めつつ、猫達を眺めるシシルフィアリスは羊皮紙に向かって羽ペンを走らせ始めた。


●仲良くなれたらとっても楽しい、かもしれない
 出発の遅れや休憩がじっくりだったこともあり、一日目の宿には少し遅くなりそうと操車が伝える。ならば、と宿に着く前に食事と休憩をということで馬車は止められた。
 想定外に舞い込んだ食事のように、白燕の腕が鳴る。
「あり合わせの物でも上手く調理すれば美味しくなるってね〜」
 用意を白燕に任せた他の冒険者達、突然増えた猫とのふれあいチャンスに各々楽しそう。
「小さいコはこっちに‥‥毛布です」
 まだ日は落ちていないがすっかり冷え込んできたので、心配したシシルフィアリスは毛布を提供。
「確かに、寒いっすねぇ」
 その言葉に振り返った馬車掃除をする伝助は、エチゴヤコートにエチゴヤマフラー。見かけより随分と性能がいいとか。
 ちなみに彼は、今後の参考にするため掃除を済ませると白燕の元に。普段、猫の食事を腕がないためあまり満足に作れない自分に不満を感じたのか、参考にして勉強するらしい。

 日が落ち明かりが月に代わるころには、もう食事(調理した者の腕もあって場所と材料の割りに質はばっちり)は済んでいた。が、すぐに出発とはいかない。
「あぁ、猫さん、逃げてはダメですわ」
 気ままに動き回る猫。セフィナが手を焼いていた。
「不安なんでしょうか‥‥それなら」
 暗さが苦手でライトをしようしたエレメンタルフェアリーのリュミィを侍らせたフィニィは、竪琴をとりだす。そして竪琴の音に乗せて歌い始めた。
 月を背に竪琴を奏で、そのトップレベルの歌声を響かせるフィニィは、まさに月光の歌い手だった。不安を除こうという気持ちをこめられたメロディー、動物を惹くワイナモイネンの竪琴に猫達が落ち着いて聴き入るには止まらず、付近の小動物も聴衆に加わる。張られた結界を囲むようにして動物達が聴き入るその光景は、幻想的でさえあった。

 こういったこともあり、一行が宿に着くのは随分と遅れてしまった。
 日中、歴戦の冒険者すら手を煩わせた猫たちだったが、その反動か随分とおとなしく。
 そして世話に体力を消費した冒険者達も、休みに入っていった。
 

 一日世話をされ警戒心も薄れたのか、あくる日の猫達は冒険者達に対して積極的だった。そしてその猫の変わりよう以上に態度を変化させた者、それは伝助。
「うわー、痛いっすよー♪」
 表情が緩むのを隠さず元気の有り余る猫と思いっきりじゃれ合う伝助。初日、猫達が警戒してるのではという配慮とそれぞれの個性を観察、という理由の元、断腸の思いで猫を撫で繰り回したいという気持ちを抑えつけ諦めていたが、警戒が解かれたのでもう思いっきりいってしまおうと決断していた。やんちゃな猫に引っ掻き傷をあちこちつけられているが、それすら嬉しそう。彼の飼い猫茶虎も一緒にその輪に加わっていた。
「ふふ、あれでは折角見つけた植物も必要ありませんでしたね」
 とそんな伝助を見ながらゆっくり寝転がる猫の背を撫でるオリガが口元を綻ばせる。それぞれの猫の性格を観察して、おとなしい子はそのままに、元気なコは何か道具でも使って遊ぼうと考えてた彼女だが、あれだけ伝助が引き寄せてしまっては残るのはおとなしいコ、といった具合である。
「プリュイ、喧嘩はだめよ〜」
 膝の上に乗せた猫の毛並みの手入れをしながら、セフィナは視線の先で一番小さい猫と遊ぶで自分の子猫に呼びかける。膝の上の猫が彼女の手際に気持ちよくなったのか「にゃあ」と眠たそうに鳴き、つけられた白いリボンが揺れた。
「今日は何食べさせてあげようかな〜」
 その隣でも猫と遊ぶ白燕の姿。傍らで飛ぶ虹羽が「かな〜」と言葉尻を繰り返した。
「うーん、みんなステキです」
 そんな様子を、猫好きの心をくすぐる構図ということに気を使いながら描くシシルフィアリス。手の動きはすこぶる快調。


●その別れは非情につらい、かもしれない
 休憩を終えて進み始めた一行。日が暮れる前に引っ越し先の開拓村に到着した。
 時間も遅いということで、引渡しは翌日、猫達と過ごす最後の夜。
「短い間でしたが、とても可愛かったですね‥‥。性格にあった飼い方、お願いしないと」
 特に仲良くなった猫の毛を撫でながら、オリガがポツリ。
「そうですね、新しい住処でも幸せに暮らして欲しいですから」
 から〜と言葉を真似ながら魔法の明かりをつける妖精を傍らに置くフィニィも頷く。
「そのための観察、大丈夫ですよ」
 毛布をかけるセフィナが猫ごとにつけられたリボンを見ながら言う。
「ふにゃ〜」
 シシルフィアリスは一番の仲良しとなった猫と共に、就寝。一人と一匹、気持ちよさそうな寝顔。
 
 誰しも、新たなる地での猫の幸せを願っていた。

 明くる日、猫の引渡しとなった。
 セフィナが餌や日常の世話についての説明を申し出ると、「餌? そんなことしたらネズミをとらないんじゃないか?」と不思議がられたりもしたが、世話についてはおおむね好評だった。彼女の卓越した知識のためだろう。
 リボンは「性格が分かるなら有難い」との引き取り主からの好評を得たたため、フィニィがテレパシーで苦しくないことを確認した後、着け続けられることになった。
 そして全ての仕事を終わらせた冒険者達は、後ろ髪を引かれる思いながら、二日間共にすごした猫達に別れを告げていった。

 キエフに戻った後、シシルフィアリスは彼女が道中描いた絵を依頼人に渡した。時間がないため簡単に描かれたものだったが、、依頼人は顔を綻ばせ、大変喜んだようだった。

 また会いたい。そんな思いを胸に秘めつつ、各々の日常へと冒険者達は戻っていった。