よわきし

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月13日〜10月19日

リプレイ公開日:2006年10月22日

●オープニング

 重厚感のある鎧を纏った騎士が突き出した長槍。お世辞にも鋭いといえないその攻撃に晒された軽装の女は軽く身体をずらして交わすと、手のレイピアを勢いよく突き出す。騎士は泡を食ってその手にもつ決して小さくはない盾を掲げて受け止める。そのまま一方的に突かれ続け、ただ攻撃を受け止め続けるだけ騎士。兜が覆っていないまだ若いその顔の部分から見えるのは、明らかな恐れ。
「えぇいっ!」
 先程から攻撃を全て止められ続けていた女が、痺れを切らしたのか地を蹴り間合いを取る。そして直後、先程までの攻撃が児戯とも思える鋭い一撃を騎士に向かって放った。
「うわぁ!」
 男の悲鳴が上がり金属音が響く。
 それでも、女の放ったレイピアは騎士の盾でしっかりと止められていた。
「どうして守るばかりで攻めない‥‥」
 ゆっくりと剣を戻す女は、静かにゆっくりと、しかし低い声で騎士に問う。
「だ、だって‥‥」
 盾を下ろした騎士は目を潤ませ、弱々しい声で答えた。
「攻撃して隙が出来たら、攻撃受け切れないかもしれないじゃないですか! 危ないですよ! もし怪我したら・・・・!」
 泣き叫ぶようにだされた返答に、女は、ふふ、と呟く。目が赤くギラリと光った、少なくとも騎士にはそう思えた。
「何のためにキミはそんな重いものを身に着けているんだーっ!」
 女の怒声が、キエフの空に響いた。

「うーん・・・・」
 広げた袋から出てきた中身に、受付嬢は唸っていた。少ないのは覚悟していたが、流石に足りないというレベルまでいくとどうしたものか。
「これが今の我々にできる精一杯なんです、どうかお引き受け願えないでしょうか」
 悩む受付嬢の前で何度も頭を下げている初老の憔悴した風の男が今回の依頼主。
「ああ、そんな止めてください!」
 受付嬢は慌てて依頼主を制止する。
 持ち込まれた依頼は、頭を下げる初老の依頼主の男が村長を務めるその村に現われたアンデッド退治。どうと言ったことのない依頼だが、受付嬢が簡単に首を縦に振ることが出来ない理由。それは依頼の難易度に対して十分な報酬が確保できていないことだった。単なるアンデッド退治ではあるのだが、確認されているのがズゥンビ6体にスカルウォーリアーが2〜3体、さらにどこから現われたのかアンデッド化したグランドスパイダが4体ほどもいるらしい。目撃証言に不確かなところや、日に日に増えたという話までもあり、そう気軽に受け付けるわけにも行かなかった。
「どうかお願いします、犠牲者が出ていないうちに何とか!」
 勿論犠牲者を出したくないのも、早く脅威から解放させたやりたいのは受付嬢も同じだった。この条件で出してしまおうか、いやしかし・・・・受付嬢が進退窮まっている時、その二人連れは現われた。軽装ながらもしっかりと装備を整えた20台前後の女と、ガチガチに身を固めた女よりも若い、まだあどけなさの抜け切らない顔立ちの青年騎士が。
「その依頼、一枚噛ませてもらえないか?」

 仕えている貴族と、自らをミレーナと名乗った女が話す。
「私の連れである隣にいるこの鎧とその中身、ヤーンと言うんだが」
 鎧とその中身って何ですか、と彼女の隣で抗議の声。それを無視してミレーナは続けた。
「何の因果か、私が訓練をしてやらなくてはいけないことになったんだが、見ての通り気が小さくて中々訓練が進まない」
 み、見ただけで分かるんですかっ!? という狼狽の声。目で問われた受付嬢は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。重装備だから気が弱いとは決してなりはしないが、なんと言うかヤーンの場合雰囲気が鎧をまとう理由をそれと分からせてしまう。
「で、訓練は進まないが私もいつも付き合うわけにいかなくてな、また森の調査を命じられてしばらく離れなくてはいけないのでこれを機と思い、こちらにきた。冒険者に対処を任せてみようと思って」
 そこまで言った後、ミレーナは依頼主の村長に向きなおった。
「そうしてこちらに立ち寄ったところ、失礼ながら貴方の話を一部始終聞かせていただきました、村長。非礼をお詫びすると共に、一つ、提案があります」
 目を白黒させていた村長は、ミレーナの話を聞いた途端表情を一変、嬉々としてその申し出を承諾。同時にヤーンは悲鳴を上げた。

 ギルドからの去り際、ミレーナはうろたえるヤーンを尻目に言った。
「まあ、こう見えて筋は悪くない。いや、むしろ良いほうだ。よろしく頼む」
 
 こうしてまた依頼が一つ冒険者ギルドで公開された。
『キエフから二日程の村でアンデッド退治。弱気な騎士の矯正付き』

●今回の参加者

 eb5627 クンネエムシ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb6674 ユーリィ・ラージン(25歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb7154 鴻 蓬麟(22歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

無双 空(ea4968

●リプレイ本文

「よ、よろしくお願いします!」
 緊張のためか、おどおどと冒険者に挨拶する弱気な騎士、通称『よわきし』ヤーン。
「シャキッとしなさい!」
 そんな彼の背を叩くのはアクエリア・ルティス(eb7789)。イギリスから修行のためキエフに来ている新米の彼女にとって、今回の話は他人事ではない。しかし、育ちのよさそうな顔立ちでそういった言葉を言う修行中の彼女は、それでも堂に入っていて何だか権威を感じさせる。彼女は特に意図してはいないのだが。
「そんな難しい顔しないで、ポジティブにいこ、ポジティブに!」
 鴻蓬麟(eb7154)はそう言って、彼女お薦めのプラス思考を勧め、緊張をほぐそうとする。あわせて笑顔をするヤーンの顔は引きつっているようにも見えたが。

 村へ向かう前に、ユーリィ・ラージン(eb6674)はヤーンとともに鎧工房に行くつもりだった。しかし、肝心のヤーンが依頼の時間を危惧したのか難色を示し、実際依頼に差しさわりがない時間で終わる保障も無かったため諦め、ヤーンの鎧を指して言うことで代用することとした。
「我々が怪我を恐れて剣が振るえないと護るべき民が泣くことになる。だから、職人は少しでも良い鎧に勇気を込めて作り上げるのです。村人を救う為に頑張りましょう」
 騎士としての使命。それをユーリィは伝えたかった。

「盾は護るばかりではなく、攻撃の補助の為にも使える。攻撃を受け止めて接近したら、盾ごと相手を体当たりして間合いを広げ、貴殿が得意な突きをだす。やってみよう」
 村へ向かう道中、休憩している合間にユーリィはヤーンと訓練しアドバイスを送る。基本的なスタイルは変えずに実戦向けを目指すようだ。
「ま、戦士が十人いれば、十の戦い方があって俺は構わんと思うよ」
 そう日焼けした顔を微笑ませて賛同した、クンネエムシ(eb5627)もその意見に賛同のようで、訓練を見守る。
 見ると、確かに腕は悪く無さそうだ。いや本当はユーリィより上かも知れない。しかし、攻撃をするときに、明らかに力が入っていない。一歩を踏み出すのを恐れている印象をクンネエムシは受けた。

「うわー、ヤーン君つよーい、さすが騎士だね! いざって時は守ってもらえると思うと安心だね!」
 力比べをして負けた蓬麟が、嬌声を上げながら彼を褒めちぎる。守る対象として見てもらうため、未熟を装っていた。自信を持たせてしっかりさせる意図もあるらしい。しかし演技というより猫かぶりのような。

「テントは・・・・俺のだけか?」
 クンネエムシがおいおい、といった感じで声をあげる。野営を張るときになって気付いた事実。冒険者達の宿泊用具、テントは彼の二人用のものだけだった。
「あ、僕持ってきてます!」
 ヤーンがつれて来た馬から大きいテントを下ろす。冒険者達は胸をなでおろした。いかな冒険者といえど、体調を崩せば実力は発揮できない。

 
 村に着いた明くる日、空の太陽の下、件の墓地で動く人影があった。
「こんな昼間から出歩いていると、寝不足になるよ!」
 昼からうろついているズゥンビに、蓬麟は言い放つ。アンデッドを恐れた村人が近付かないため、昼に墓地周りで出歩いていたとしても誰も知らない。この時間帯に来ておこうという彼女の考えは見事にはまった。日の光を受け続けた所為か随分と肉が削げほぼ骸骨と化したそいつらの数は二体。声のしたほうへゆっくりと振り向こうとする、が、完全に身体を向ける前に蓬麟の蹴りがその顔を吹き飛ばす。
「数は減らしておくに、越したことは無いってね」
 本来の実力を躊躇せずにだせる昼の戦場に、彼女は踊る。
「いやはや凄いな・・・・」
 そう感心したように言うクンネエムシの足元には、一体のグランドスパイダのズゥンビ。彼は地形や状況の調査、そして罠がしかけられないかと来ていたのだが、結果的に手伝うこととなっていた。装備が軽く手数を多く取れる彼にとって、愚鈍なアンデッド一体は然程苦労を要する相手ではなかったようだが。
  

 日が沈み、夕暮れの色が濃紺へと変わっていく頃、いよいよ冒険者達は動き始めた。
「こ、これから退治するわけですね・・・・」
 緊張した面持ちでヤーンが呟く。いつかのようにアクエリアと蓬麟が彼を挟んで緊張をほぐしてシャキッとさせようと試みる。
 そんなかれに、クンネエムシは一言だけ声をかける
「攻撃を受ける時に、同時に利き足を一歩だけ前に踏み出してみな」

 置かれたランタンと、照らす月だけが明かり。その中夜の墓地では死者が蠢く。
「さて、自分は戦士としての戦いを見せるだけ、だな」
 呟いたクンネエムシが小太刀を手にスカルウォーリアーの前に立つ。二体の骸の気が彼に向く。
 その隙に、と蓬麟は死した土蜘蛛、ユーリィとヤーンはズゥンビへと向かう。

「中々・・・・終わらないね」
 振るわれる肢をオーラシールドで防ぐ蓬麟。防御を重視しているため、特に別の方へ漏らしてしまうということは無かったが、反撃が散発的にしか出来ないために一向に戦況が変わらない。
「はぁぁ!」
 十二形意拳、鳥爪撃。その目にも留まらない素早い蹴りが一体に突き刺さり、ようやく崩れ落ちた。
 汚れた足を振りまとわりついた肉片を払い、可能な限り嫌悪を抱く感触を薄め、残りに向き直る蓬麟。先はまだ長い。しかし展望は見え始めていた。

「っ・・・・!」
 また一つ、ユーリィに傷が増える。ヤーンのため敵をズゥンビをひきつけようとする彼だったが、複数を相手にするとむしろ彼のほうが不利といえた。
 敵を留めるには不利な受けに使い難いメイス、あくまで『比較的』丈夫である鎧、そして多数相手には必須ともいえる回避技量の不足。完全に戦局を見誤っていた。
「だ、大丈夫ですか・・・・?」
 心配そうな声をかけるヤーンだったが、彼もズゥンビと対峙しているのは変わらない。彼の場合、一対一という状況で有利に戦ってはいたが、遠すぎる位置からというのは変わらない。
 彼とて頭では訓練で言われたことは分かっていたが、実戦で行うことが出来ない。元々今までもミレーナとの訓練で散々教わってきてはいるので、問題は技術や戦術的な話ではないのだ。
 好転しない状況。死者が蔓延る墓地に皮肉にも似つかわしい鬱屈とした空気が冒険者達を圧迫する。

 突然、その空気が切り裂かれた。アクエリアがスカルウォーリアーへ向かい突っ込んでいったことで。

 本気の思いは伝わる。たとえそれが、言葉の通じない相手とでも。
「やぁぁああ!」
 そんなわけで、アクエリアの覚悟を決めたような本気の突撃は、いまだにちまちまとズゥンビを突っついているヤーンの目を覚ますと同時に、アンデッド達をも本気にさせた。いや、死者となった彼らに思考回路が働いている訳ではないが、それでも自分達をぶち倒してやろうという彼女のハートは伝わった。
「っやあ!?」
 危険を感じたスカルウォーリアーの振るう剣がアクエリアの肌を裂き、血が飛び散る。彼女の装備では攻めと守りを同時にこなすことは難しかった。

「助けてあげてヤーン君!」
 本来、その台詞は自分を援護対象として指定するはずだった。しかし、アクエリアの窮状を見て取った蓬麟はとっさにそう叫んでいた。
「え・・・・?」
 驚いた彼が声を出した蓬麟、そしてアクエリアのほうを見る。しかし動かない。いや、その表情に浮かぶ葛藤の色を見れば、動けないといったほうが正しいのかもしれない。
「あんたは、何の為に戦うんだ?」
 鋭く小太刀を振りぬきスカルウォーリアーを後退させたクンネエムシが、ヤーンの目を見つめて静かに、重く問う。
 何の、ために?
 そうヤーンの口が動いたように冒険者達は見えた。

 目の前のズゥンビを思いっきり突き刺し、よろめくそれを無視してそのままアクエリアの元へ。重装備で挙動はゆっくりとなったが、気を引かれたスカルウォーリアーはその矛先をアクエリアから彼に変えたため、アクエリアは助かった。振るわれた刃は彼が盾で易々と受け止める。
「どう、男の見せ所をいただいた気分は?」
 赤く染まる腕を押さえ額に汗を浮かべながら、アクエリアは悪戯気味にそう微笑んだ。

 窮地のユーリィもグランドスパイダを抑えた蓬麟が加勢し、そしてスカルウォーリアーの片割れを沈黙させたクンネエムシがその機動力を生かしてフォローに入ることで、何とか苦境を超えることが出来た。
 単体での実力では上を行く冒険者達は態勢を整えれば、数の減ったアンデッド達の戦いは有利に運ぶことが出来るようになっていった。一体、また一体と二度目の死を死者たちは迎えていく。

 何とかアンデッドたちを退治した冒険者達は傷を負っていたが、ヤーン持参のポーションを使用して傷を癒した。報酬の援助をしてもらったことを含め村に平穏をもたらしてくれたことに甚く感動した村長は、これでもかというほど頭を下げて止めるのに大変だったとか。受付でもそうだったがそういう癖があるのかもしれない。

「今回は、本当にありがとうございました。随分迷惑をかけちゃって」
 別れ際、ヤーンは申し訳なさそうに冒険者達に言う。
「ううん、ヤーン君のおかげで私達も随分助けられたよ! もう立派なつよきしだね」
 蓬麟がそんな彼に感謝を伝える。意識したわけではないだろうが、こういう実績に対する言葉は自信と結びつきやすい。つよきしになれるかはともかく、よわきし脱却はそう遠い日のことではないだろう。