『ふんどし職人とハニーカステラ』

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2004年11月01日

●オープニング

 江戸から北へ2日ほど行った所に小さな村が有りまして、そこには黒兵衛(くろべぇ)と言う菓子商人が居りました。
 黒兵衛さんは勉強熱心で和菓子のみ成らず、洋菓子の技法や作り方も勉強している勤勉家。先日も長崎渡りの『かすていら』とか言う異国のお菓子を熱心に勉強しておりました。
 勉強熱心な黒兵衛さん。毎日毎日いつも竈の近くでふんどし姿で全身汗びっしょにになって焼き菓子を作っている事から、村の人達からは『ふんどしの黒兵衛』『ふんどし菓子職人』とまで呼ばれるように成っていました。

 そんな黒兵衛さんの弱点は恋愛。
 ほれっぽいのに奥手でいつも失敗ばかりしています。

 そんな黒兵衛さんが今年に入って7度目の初恋(一目惚れ)をしたのが村娘のお絹(きぬ)ちゃん。黒兵衛さんは心の底からお絹ちゃんの事が好きなのに上手く言葉にすることが出来ません。
 しかも彼は文字が書けないので恋文などと言う物も書くことが出来ません。
 でも、思いの内を伝えたい。でも使える事が出来ない。そんなやきもきしながら彼女の事を思う日々が数日続いたそんなある日。彼は一つの事を思いつきました。
「そうだ、最高に美味しいお菓子を作って彼女にプレゼントしよう」
 そう思いついた彼は早速彼女の為に『かすていら』を作ってあげることにしました。
所がどうしたことでしょう。甘味を作るのに必要な砂糖が底を付いてしまって居たのです。これでは『かすていら』を作ることも、お饅頭を焼いてあげることも出来ません。

「そうだ、村はずれにあるミツバチ牧場でハチミツを取っているハチミツ職人が居た彼の所に行ってハチミツを分けてもらって、砂糖の代わりにハチミツを使って『かすていら』を焼いてみてはどうだろう?」
 思い立ったが吉日、早速黒兵衛さんは早速村はずれのハチミツ職人の所へ出向きました。
「良く来てくれた黒兵衛どん。せっかく来てくれたのに申し訳ないんじゃが、今ハチミツは無いんじゃよ」
 そう言ってハチミツ職人は困った顔で黒兵衛さんにハチミツが無い訳を話しました。
「実はつい先日、首から上が猪で首から下が熊の‥‥熊鬼って魔物がやってきてな。そんでハチミツのツボを一つ残らず全部山に持って行ってしまったのさ」
 その言葉を聞いて黒兵衛さんは愕然としました、っがすぐに気持ちを切り替えた黒兵衛さん。早速へそくりをはたくと、冒険者を雇って討伐に行ってもらうことにしました。

『熊鬼を倒して、ハチミツを取り返してきてください。』っと

●今回の参加者

 ea0109 湯田 鎖雷(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0868 劉 迦(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1959 朋月 雪兎(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4005 フリーズ・イムヌ(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea6749 天津 蒼穹(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●佇むときの中で
 静まりかえる夜。抱きしめたくなるほどのいとおしさ。そして儚い人の夢。
 貴重な矮鶏の卵も手に入れ、後はハチミツの到着を待つのみ、静かに佇みながらフンドシ職人の(別にフンドシを作っているわけではないが)黒兵衛はコツコツと『かすていら』を焼く下準備をしていた。後はハチミツだけである。ハチミツさえ有ればハニーカステラの完成が見えてくるのだ。冒険者に期待する彼の心、届け愛の架け橋。

 一方そのころ冒険者達はと言うと‥‥、ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)が天気を晴に変え、月明かりが指す夜空で、バグベアを追って森を捜索していた。朋月雪兎(ea1959)もそれに続く。深い森の中でバグベアを捜索するのは至難‥‥。今回の任務は失敗か‥‥そう思われた矢先に、ケヴァリム・ゼエヴの鼻に香しい甘い香りが漂ってきた。
パーセプション(直感力)が叫ぶ、甘い香りのする方向を。
「仕事したくないクマー(バグベア訛りのオーガ語)」
 どこからともなく熊熊した熊鬼の言葉が聞こえてくる。ゆっくりとそれに、甘い香りがする方向へ近づくと、大八車に積まれた沢山の瓶、そのウチの一つを抱きかかえるようにして抱え中のハチミツをぱくぱく口に運ぶバグベアの姿が見て取れた。
 バグベアどうやら一匹だけらしい。仲間も見えないし今がチャンスである。
「よし、仲間に報告だ、罠に誘い込もう」
 ケヴァリム・ゼエヴの言葉に朋月雪兎が静かに首を縦に振った。

 まもなくして『幸せの赤い褌』が用意された。湯田鎖雷(ea0109)が用意した物である。トラップの目印だ。ここに的を誘い込めば敵は足を引っかける寸法。
 無論仲間も引っかかるんだけど‥‥。
 劉紅鳳(ea2266)が静かに熊鬼の巣に近づき様子を窺う。熊鬼はハチミツツボ一つを抱き抱えたままでぐっすり眠っている。彼を巣から離し、その間にハチミツを強奪していく2分戦力での2方向攻略が今回の目的であるが‥‥
「せっかくぐっすり寝てるのに起こしたらかわいそうだよね」
 急遽作戦は変更され、彼を起こさないようにしてハチミツを持ち出すことを優先することにした。フリーズ・イムヌ(ea4005)が熊鬼にアイスコフィンの魔術をかける。
 熊鬼は抱きかかえたハチミツと一緒にカチンコチンの氷の中に封印されてしまった。
「ちょっとまて、結構説得とか楽しみにしてきたんだけど、これでいいの?」
 天津蒼穹(ea6749)の言葉に深く静かな答えが返ってくる。
「鬼と人間は基本的にオーラテレパスとか使わないと会話出来ません。希にオーガ知識が達人の人は身振り手振りで会話が可能とは聞いてますけども‥‥ね」
 湯田鎖雷の言葉に一同唖然とする。彼だって出かけに黒兵衛から聞いたことの受け売りで、黒兵衛も通りすがりの冒険者に聞いた知識の受け売りだという。
 まぁ何にせよ氷付けの熊鬼(バグベア)と8割方手つかずのハチミツを何とか確保することが出来た。ちなみにハチミツも砂糖とまでは行かないが高級品である。っと言うよりもジャパンで甘いお菓子、甘い物は皆高級品なのである。まぁそんなことは最初から分かってるんだよと言う顔つき(よだれ付き)でハチミツを大八車に乗せると、それを『めひひひひん』に引っ張ってもらう形で山を下りることにした。
 そして、かわいそうだが、悪さをした熊鬼ちゃんは谷底に捨てていくことになった。
ころでゴロゴロと氷付けの熊鬼を谷に運んでポイと捨てる。少々かわいそうな気もするが、またいつ町に降りてきてハチミツ牧場を襲ったり村を破壊するか分からない。冒険者達は涙を飲んでそれを谷に捨てると、気持ち手を合わせて拝むことにした。
 ケヴァリムやフリーズには手を合わせることの意味は分からなかったが取りあえず真似をして祈りを捧げることにした。

●ハニーカステラ
 黒兵衛さんのお菓子工房。パテシエを目指す和菓子職人の彼の工房。焼き菓子を作る竈からふんわり仄かに甘いにおいが香しく漂ってくる。一同はお茶を啜りながらその西洋焼き菓子の出来上がるのは今か今かと待ち望んでいた。
「出来ましたよ。お客さん黒兵衛特性のハニーカステラのご登場です」
 そう言って焼き上がったパンの様なお菓子を包丁で切り分けると、一人一人の目の前のお皿にそれを乗せ、チョット渋めのお茶を入れ直して各員に配った。

「うお、甘い香りが鼻を擽りやがるぜ‥‥」
 湯田鎖雷が喉をごくりと鳴らす。普段禁欲的な生活をしている彼だが、大好物の『かすていら』を目の前にして喉も心も心臓もドキドキと興奮を忘れない。
「激ウマウマ〜で、あまあま〜なカステラちゃん。ぜひぜひ1切れ味見したいな〜って思ってたんだ。こんなに大盛りで食べられるなんて感動だよぉぉぉ」
 ケヴァリム・ゼエヴが喉を鳴らす。それもその筈、普通なら一切れと言うと薄く切った物を出すのだが、黒兵衛は正方形に切った状態で出している。通常の4切れの塊だ。
 朋月雪兎がフォークを刺す。ふんわりとした弾力とそれを受け止める心地よい堅さ。それがこのハニーカステラには有った。
 劉紅鳳がおそるおそる口に運ぶ。ふわっとした食感と何とも言えないハチミツの甘さが口の中に広がっていく。言葉にならない至福の味である。
「実は私、激甘党なので、ハニーカステラは大好物です。あぁふるさとを思い出します」
 フリーズ・イムヌがハニーカステラで望郷のイスパニアを思います。紅茶は無いが渋いお茶がまたハニーカステラの味を引き立ててくれている。
「カステラの色は黄金の色、カステラ一本の値段は相場で一両するそうだ。そしてそれだけのお金を持って長崎へ行っても、なかなか手に入れることは出来ないだろう。こうして江戸に近いこの村で、こうしてその絶品の菓子を口に出来るのは申し分ない。後は彼の恋愛が樹立してくれるのを待つばかりさ‥‥」
 天津蒼穹がにっこり笑って微笑む。


 黒兵衛は次の日改めて『かすていら』を焼いた。
 太陽の様に温かく、ハチミツの様に甘く、春の風の様にふんわりとした味のお菓子だ。
 お絹ちゃんはそれを喜んで受け取ってくれた。黒兵衛の頬に優しく接吻させしてくれた。
 二人は仲むつまじい仲になった。
 夫婦にまで成ることは無かったが、黒兵衛はそれで幸せだった。
 黒兵衛の今年に入って7回目の初恋は見事に成立した。

 それは冒険者への感謝の念で焼かれたお菓子に味が上乗せされたような形だった。

 冒険者達はハニーカステラを道々食べながら、江戸への家路へ付くのであった。

Fin