【京に哭く鬼 1】

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月11日〜04月16日

リプレイ公開日:2005年04月17日

●オープニング


 東の空に朝日が昇る頃、一人の少女が京都冒険者ギルドへ足を運んでいた。
 年の頃は14〜15くらいであろうか? 身長はおよそ130程であろう‥‥かなり小さい。黒い‥‥これでもかと言うほどに艶やかな黒髪を後ろで束ね、ピンク地に鶴の模様の千早と赤く染まった長袴で着飾った巫女衣装。頭にかぶった立烏帽子、これだけならばどこかの巫女か白拍子と言ったところなのであろうが、彼女は右手に似つかわしくない大きくて長くて真っ赤な槍と、これまた年不相応な大きな胸をしていた。
 京風のおしとやかな顔立ちではなく、江戸風の活発そうな顔立ち、化粧はしていないが、決して悪くない容姿である。美しい‥‥っと言うよりは可愛いの部類にはいるが。
「ほう、お嬢ちゃんも冒険者なのかい?」
 一人の男が一升徳利片手にフラフラと少女の前に歩み寄った。
 少女はそれに全く動じる様子も無く、にっこり微笑んで答えた。
「いえ‥‥私は、冒険者さまに依頼をするために参りました。出来れば腕の立つ‥‥口の堅い方が良いのですが‥‥」
 鈴の音の様な凛とした声であった。
 男はにやりと笑って彼女の顔と胸を交互に見つめた。
「ほほぅそうかい、実はな、俺がその腕の立つ冒険者さまだよ。酔っぱらいの面倒から妖怪退治まで何でもござれさ‥‥。へへ‥‥で? どんな依頼に来たんだい?」
 男がそう言って彼女をいやらしい目で見つめる。
 少女は男の言葉ですこし表情が明るくなった。
「それはそれは‥‥。実は私、山伏のお師匠様と二人で山に籠もり武芸を極めん為に心身共に鍛えておりました所、その‥‥お恥ずかしい話なのですがその‥‥数匹の鬼達に襲われまして‥‥」
 少女はそう言って少々言葉を詰まらせた。
「まぁ立ち話もなんだ、こっちに来て座りなよ」
 そう言って長いすの半分に自分が座り、もう半分に少女を座らせると、杯に徳利の中の物を注ぎ、それを少女に手渡した。
 彼女は言われるままに杯の中の物を空ける。
「それでその‥‥お師匠様と共に懸命に戦ったのですが‥‥その‥‥お恥ずかしい話、力及ばず手傷を負って逃げるのが精一杯で‥‥」
 そう言って彼女は照れくさそうに頬を赤らめた。
「なぁに恥ずかしがる事はないやな、本職の俺達だって不意をつかれりゃ手傷の一つや二つ負うことだってあらぁな。それに数は相手の方が多かったんだろう? それなら仕方ないって‥‥な? それでその鬼達の退治を依頼に来た訳だぁ?」
 そう言って男は少女の肩を抱き寄せ、彼女の腰に手を回す。少女はそれに抵抗するそぶりすら見せない。
「はい、それで腕の立つ冒険者さまにその鬼達を退治して頂きたいと思いまして。それとその‥‥お師匠様に少々人に言えない秘密が有りまして‥‥」
 少女はそう言って少々困ったそぶりを見せた。
「あぁ、大丈夫だ、口は堅いぜ。それよりお前さん金は持ってるのかい? 冒険者ってのは金で雇われて命張って仕事するんだ。金が無くちゃ始まらないぜ? もっとも、俺はこっちでも払ってもらっても良いんだけどな?」
 そう言って男はどさくさに紛れて彼女のお尻を優しく撫でた。。
 彼女はすこし身体をこわばらせつつも、背負ってきた葛籠(つづら)を開ける。
中には山で採れた薬草がぎっしりと詰まっていた。
「あいにくと今は手元に金子がございませんが、山で採れた薬草を売って代金はお支払いする予定なのでご安心下さい。もちろんその‥‥そちらでのお支払いの方が良いと言うので有ればあればその‥‥その様に致しますが‥‥」
 そう言って彼女は頬を耳まで真っ赤にしてうつむいた。
「へっへっへっ話せるねぇ〜。それで襲ってきた鬼ってのはどんなのだい? 犬面かい?豚面かい?」
 男がそう言ってグイと彼女を抱き寄せると、あろう事か彼女の胸元へと手を差し込んだ。
 彼女は抵抗するそぶりも見せず、半ば男に強引に言い寄られながらも話を続けた。
「身の丈220程の山鬼が数匹と‥‥それを束ねている一回り大きな山鬼が一匹‥‥」
 その言葉を聞いて、男の顔がさーっと蒼く成った。胸をまさぐっていた手も止まり、全身にびっしょりと汗をかいていた。
「山鬼の‥‥一回り大きい奴‥‥だと!?」
 顔面蒼白になった彼はガタンと席を立つと、大あわてで荷物を纏めて出口の方へを歩み寄った。
「すまねぇなぁ、お嬢ちゃん。別の依頼を受けていたのを思い出したぜ。いや、ついうっかりしてた。お嬢ちゃんの依頼を受けやりたいのだが、いや残念。申し訳ないが他の冒険者を捜してくれや」
 そう言って男は一目散に冒険者ギルドを後にした。
 遠巻きに彼女と男の様子を見つめていた他の冒険者達も少女と目を合わせないようにしながらまるで蜘蛛の子を散らすかのように少女から遠ざかった。
 少女は目をぱちくりしながらそれを見つめると、胸元や着物の裾の乱れをただし、冒険者ギルドのカウンターへと向かった。

『親愛なる冒険者様へ、山にやってきた山鬼とそのボスを倒してお師匠様の仇を取ってください。及ばずながら私も槍を振るって戦い思います』

●今回の参加者

 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1257 神有鳥 春歌(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●【京に哭く鬼 1】
 京都左京を出て東へ(左京は地図上は京都の右半分を指す)
 左京の外は藁葺きの家、板葺きの家などが立ち並び、塀の外だと言うのに小さな村や町がくっついた集合体に成ってにぎわっている。
 取りあえず道成りに東へ東へと進んで行く。

「で、千剣お嬢ちゃんに言っておきたい事がある‥‥『今後、人の弱みに付け込んで身体を触ってくる助平野郎は、問答無用で股間を蹴り上げてやれ!』わかったな?」
 そう言って烏丸千剣の頭をがしがしを撫でる山崎剱紅狼(ea0585)
「まぁまぁそういわないで、はい、烏丸ちゃん握手握手」
 肩を抱き寄せ握手する加藤武政(ea0914)。左手は槍を持っているため、右手を引っ張って手を繋ぐような形になっている。
 彼女の手のタコを確認する予定だったが、槍タコなど全くなく、白くて小さく手をしている。
 お昼には大津に到着する。大津の茶店でお茶と麦飯を頼み一服する。
 わたわたとにぎりめしを食べる千剣に三月天音(ea2144)が語りかける。
「貴方のお師匠様ってどんな人なの?」
 三月天音の質問に、お茶を一服してから答える千剣。
「えーと、狼の様な鋭い眼光、狼の様な俊敏な身のこなし、狼の様に野性的で、狼の様なおひげの人です」
 人はそれを狼と言う。
 それ以前に人間なのだろうかと言う素朴な疑問がよぎってくる。
「何故、人喰鬼に襲われたのか、心当たりはない?」
 氷雨鳳(ea1057)が千剣に質問する。すこし考えてから彼女は答えた。
「普段から山鬼とか良く出没するんです。っで、修行って事で倒していたんですが‥‥人喰鬼は今回が初めてで‥‥」
 そう言って千剣は自分のふがいなさに辱めの感じていた。
「周囲の地形を聞きたい。山鬼を誘い込む茂みなんかは有るのか?」
 バーク・ダンロック(ea7871)が千剣に質問すると、千剣は大きく首を縦に振った。
「茂みって言うか、おうちの周りと畑を除けば、後は山林竹林ばっかりだよ」
 麦飯片手にうなずくバーク・ダンロック。タクアンぽりぽりかじりながら、敵を誘い込んでのトラップを模索している。
「俺は今回罠を複数しかける。いいか? 目印で示したルートから外れるなよ。お前が罠にかかったんじゃ目もあてられん」
 千剣の後ろにすっと立ち、お茶を片手にウィルマ・ハートマン(ea8545)がぽつりとつぶやく。彼女はトラップと弓の名手なのである。戦場での手の打ち方には熟知している。
 闘いとは剣を抜き1対1で戦うのが常道では有るが、そればかりが闘いではないことを。
「大丈夫ですよ。罠が有ったら飛び越えますから」
 千剣はさらっとそう言うとにっこり微笑んだ。

「あたしは百目鬼 女華姫(ドメキ メガヒメ)って言うの。よろしくね〜」
 食事が終わって大津を北へと進む中。改めて烏丸千剣に挨拶をしたのは百目鬼女華姫(ea8616)
 身長差が60cm以上もあるが、取りあえず彼女を抱きしめて抱擁する。
 その拍子にゴツリともの凄い鈍い音がして千剣の持っていた槍が地面に倒れる。
「ずいぶん思いやりを使ってるのねぇ」
 片手では到底持ち上がらぬ槍を見て女華姫は千剣をジッと見つめる。
 彼女が片手で持てない槍を、千剣は軽々と片手で持っているのである。

「そーいや、ずっと山奥で修行をしてたって?そんなに強くなりたいのか?」
 山林の獣道を抜けながら、山崎剱紅狼が烏丸千剣に質問する。
「喧嘩がって言う意味じゃないですよ? 心身共に鍛えて‥‥、仙人とか山神様に成りたいんです」
 そう言って千剣は真顔で答えた。
 山伏の考え方なのだろうかいまいち納得がいかなかった。

「あっもうすぐです。この竹藪を抜けたらおうちです」
 日も既に落ちかけた頃、竹林の中の獣道を進んでいくと不意に開けた場所へと到着した。
 一軒のみすぼらしいわらぶき屋根の古びた民家。
 近くには大根やニンジンであろうか、畑があり、鶏が庭を走っている。
 っと4体の山鬼の死体が外れの方に山と積まれている。
 血の臭いがと鼻を刺激する。
「コレは‥‥おたくがやったのかい?」
 加藤武政が烏丸千剣に質問する。
 刀傷と槍での鋭い攻撃に寄って、殆どの山鬼は絶命している。これを彼女がやったので有れば相当な使い手と言うことになる。
「実戦でお嬢ちゃんがどれくらい使えるか分からない。チョットお手合わせ願えるかな? 山伏の武術ってのも知りたいしな」
 そう言って加藤が腰の刀に手をかける。
「えーと本気で‥‥ですか? この槍‥‥当たると痛いですよ?」
 彼女が持ってるのは朱槍である。
 斬馬刀に匹敵する切れ味の槍である。確かに当たれば無事ではすまされない。
「それじゃ山鬼退治が終わった後で‥‥な?」

 そう言って一行は古びた農家の扉を開け、中に入っていった。
「‥‥犬ぢゃ‥‥」
 三月天音が絶句する。
 部屋に上がると囲炉裏に鍋がかかっており、味噌と野菜の煮える良いにおいがしている。
 その向こう側に見えるのは、山伏の格好をした老犬であった。
 白銀色の毛並みのそれは山伏の服装をし、腰に刀を差している。
 左肩と右足に包帯を巻いているが、どうやら犬鬼では無いようである。
「これはこれは冒険者の方々、こんな山奥までご足労願って申し訳ない。いま里芋汁が出来ますのでどうぞどうぞ、上がって腰掛けて下さい」
 しゃべった‥‥。
 普通鬼一族は殆ど人語を話さない。
 流ちょうに話を出来る物などきわめて少ない。
 こんな犬を人間にしたような輩がいきなり話しかけてくるなど聞いたこともないのである。
「お師匠様。冒険者の方々をお連れしました」
 そう言って烏丸千剣が師匠の元へと歩み寄る。
「千剣ちゃんのお師匠って何者なの?」
 氷雨鳳がそう言ってずいっと犬顔のお師匠様に詰め寄る。
「コレは申し遅れました。それがしの名は剣崎狼牙(けんざき ろうが)聞き慣れぬかも知れませんが、白狼天狗(はくろうてんぐ)と言う物でございます」
 そう言って彼は静かに頭を下げた。

「えと、私たちが天狗だって事は一応内緒って事で‥‥そのためになるべく口の堅い人達を雇ったの‥‥。コレが私たちの秘密‥‥」
 日がとっぷりとくれ、大根、ニンジン、里芋、ゴボウ、アサリの入った里芋汁を啜りながら、冒険者一行は彼らの話に耳を傾けた。
 彼らは本物の天狗になるために、この霊力の山に籠もって、日々修行をしているのだとか。
「最近は天狗になるのはチョットムリかナーとは思えてきたんですけどね。ほら、私全然顔が赤くならないし、鼻も伸びないでしょう?」
 突っ込んで良いのかどうか分からずに、真顔で引きつった笑いで対処する一同。
 文字通りのんびり羽を伸ばしてゴロゴロしている烏丸千剣。
 巫女衣装は外出様なのか、家の中では虎皮の褌と虎皮の胸巻きを装備してる。
「そー言えばウィルマさんは?」
 見かけの彼女をきょろきょろと探すと、家の外から泥だらけに成って帰ってくる彼女の姿が有った。
「トラップ配置完了。落とし穴を掘るのに少々時間がかかった」
 食後のくつろぎの合間を縫ってトラップを仕掛けているとは古強者である。
 あいにくと風呂が無いため、土間で湯にひたしたタオルで身体を拭い、一同は布団の中で休息を取る。

 ‥‥夜が静まった頃。どこからから大きな気配を感じる‥‥。

 言葉もなく一同は飛び起きて外に出る。数にして14程の山鬼達が、こちらに歩み寄ってくる‥‥のである。
「まずはコイツらを蹴散らさないと、人喰鬼にはたどり着けないって事か‥‥」
 斬馬刀を抜き、飛び出していく山崎剱紅狼。山鬼の攻撃を剣で受け止め、一気に間合いを詰めれ一刀のもとに切り裂いた行く。

「僕はオーグラが出るまでは体力温存させてもらうよ」
 加藤武政が茂みを迂回して、後方の敵へと警戒する。
 おそらくこの山鬼達の向こうに居るであろう人喰鬼を警戒して。

 氷雨鳳が刀を抜いて前にでる。
 すり抜けるように‥‥すり抜ける様にして刀を捌く。
 あいにくとその懐に棍棒が当たり、肉の軋む音がするが気にもとめず
 カウンター越しに相打ち覚悟で放った刃は山鬼の胴を薙いだ。
 返り血が彼女の頬を濡らす。

 やや離れて、バーク・ダンロックが3匹の山鬼を相手に拳を振るう。
 オーラの力で防御力を高め、オーラの力に寄って敵をはじき飛ばす。
 その傷ついた山鬼に対し、速射で矢を放つのはウィルマ・ハートマン。
 構える動作を短縮し、次々と速射で矢を放って行く。
 オーラアルファーで傷ついた山鬼達に追い打ちをかけるように

 実際オーラアルファーのダメージは少ない。
 命中判定がいらず、刀で斬るのと同様のダメージを広範囲に出しているが、それでも体力の修正が入らない分や抵抗判定有る分を差し引くと少々目おとりする。
 だが、オーラボディと鎧のコンボはかなりの効果を上げていた。
 刀と同様のダメージを与える山鬼の攻撃を殆どかすり傷でとどめ、さらに他の物の攻撃のサポートにも成る。一石二鳥である。
 3発目が打ち終わったのを見計らって、百目鬼女華姫が山鬼を後ろから斬る。
 後方からの攻撃は熟練者でも回避することが難しい。
 前後で挟まれれば、どちらに向いても背中をさらけ出してしまう。
「えーと、ここで必殺技名とか名乗った方が良いのでしょうか?」
 烏丸千剣が朱槍を両手に持ち、力強い一撃を山鬼に放つ。
 特に技を合成してる訳じゃないが、とても痛い一撃である。

「やるな。お嬢ちゃん」
 一人で5匹ほど倒してけろっとしてる山崎剱紅狼が、ビキニ姿でパタパタ飛び回ってるよく分からない状況のお嬢ちゃんをそのままよく分からない状況で受け流した。
「それ、よく見ると虎縞ビキニ(ビキニなんて物はこの世界には有りませんが、まぁその様な感じのニュアンスで解釈してください)じゃなくて鬼の褌を胸と腰に巻いてるだけ何じゃないのか?」
 山鬼を全て倒しきったあとで加藤武政がすばらしいツッコミを入れる。
「あの、これ、この間拾ったんです。湖に水浴びに行ったら偶然木に引っかけてあったので‥‥」
 『天女の羽衣』ならぬ『人喰鬼の褌』である。それなら人喰鬼が取り返すために襲ってくるのも合点がいく‥‥。
「原因判明!!」
 一斉にツッコミを入れている中に一際大きな気配を感じる。
 人喰鬼である。
「ボスは最後に登場って奴ですか?」
 人喰鬼の棍棒の一撃を剣で受け止め汗を流す山崎。
 受け止められたのはギリギリの運が混じっていた。次に受け止められるか分からない。
 双方達人の領域での剣術の凌ぎあいなのである。
「いきまーす」
 山崎の背中を踏み台にして烏丸千剣が人喰鬼の頭上まで飛び上がる。
 左右に大きく開いた黒い翼。
 その合間を縫って加藤武政と氷雨鳳が人喰鬼の左右の足を切り裂く。
 咆吼。その顔めがけて三月天音のファイヤーボムが炸裂する。
「槍は突くだけじゃ無いんですよぉ」
 空中で一回転しながら人喰鬼の頭に槍を振り下ろす千剣。
 流石の人喰鬼も数人の攻撃を一度に浴びて、力を出し切れぬままに命を失った。

●そして‥‥
「それじゃすこしだけ相手をしてもらおうかな」
 木刀と竹の竿に武器を持ち替えて、加藤武政と烏丸千剣の簡単な立ち合いが行われた。
 まずはオーラで自らを高める千剣。
 加藤がそんな彼女に木刀を振り下ろす。
 ひらりとそれを交わし、竹竿の一撃を放つ千剣。
 加藤はそれを木刀で受け流した。
 互角‥‥だろうか、殆どその武に大差は無い。
「ほう、こうしてみると嬢ちゃんもなかなかやるもんだな」
 褒められて照れ笑いをしている直後に頭に木刀が良い感じに入る。

「しかし回復薬まで頂いてしまって何から何までご面倒おかけしました」
 犬ズラのおにぃさん剣崎狼牙がそう言って深々と頭を下げた。
 頂いた回復薬のおかげで傷もだいぶ良くなったようである。
「それでこれから久しぶりに風呂にでも入ろうと思うのですが、皆さんもご一緒にどうですか?」
 剣崎狼牙はそう言って皆を風呂に誘った。傷の療養が1つの目的ではあるが、もう一つの目的は‥‥血を洗い流す事であった。
「その前にこれ埋めないとな‥‥ここにあってもじゃまじゃん?」
 ウィルマ・ハートマンがそう言って目の前に転がる大量の死体を指さした。
「その意見には賛成だが‥‥流石にこの量は‥‥」
 山崎剱紅狼が自分たちの倒した後を見て汗を拭う。
 その数ざっと15体。埋める前に穴掘るだけでくたびれそうだ。
 結局7人+2匹(?)は明け方近くに成るまで穴を掘り穴を掘り山林の外れの方に一生懸命埋めるのであった。しかし、埋め終わったら本当に朝日が昇っていたりする。
「取りあえず汗もかいたしくたくただ。風呂に入れるなら入りたい‥‥」
 加藤武政(ea0914)がそう言って額の汗を拭う。
「えぇ、ここを真っ直ぐ30分も歩くと温泉が湧いておりまして、獣しか入らないような人知れぬ秘湯ですが、まぁ汗を流し、血を洗い流すには良いかと思います」
 そう言って剣崎狼牙が竹藪を指さした。
 朝靄の立ちこめる中、彼はテクテクと空中を歩いて行く。
 それに続いて烏丸千剣もパタパタと後に付いていく。
「まて、まてまてまて、崖だ崖。がーけー」
 羽も無いのに空中を『歩いて』移動する彼にもはやどのようなツッコミを入れようか迷う一同。
「それでは、千剣、男性陣はお前さんが抱えて飛びなさい。女性の方々は私が背負って歩くことにしよう」
「はーい」
 そう言って剣崎狼牙はマズ百目鬼女華姫を背中に背負うとウィルマ・ハートマンを抱きかかえて、テクテクと歩き始めた。
 ちなみに白狼天狗の身長は2m老いたりとは言え、傷ついたりとはいえ、人2人抱えて空をかけるくらいの事は出来るようである。
「いやはや、お嬢さん方の様な美人を乗せられるとは、天狗冥利につきますなぁ」
 そう言って肩に乗っている二人に笑みを浮かべる剣剣狼牙。
「まぁお口がうまいこと」
 女華姫が狼牙の頭に景気よく平手を一発入れる。
 頬を赤らめて照れる狼牙。

「しっかり捕まって下さいねぇ〜」
 山崎剱紅狼を胸に抱きかかえ、加藤武政を背中に乗せてわたわたともたつきながら空をとぶ烏丸千剣。こっちはよろよろとあぶなっかしい。
 しかも普通なら背中を抱えるのを、抱きしめてもらうために前向きに抱きかかえている物だから、小さい娘が男性二人に上下から抱きしめられている状態になっている。
 巨乳少女好きが見ればよだれが出そうな光景なのだが‥‥
「到着です〜。後一人迎えに行ってきますぅ〜」
 そう言って二人を卸したのは、断崖にある温泉であった。
 半分崖に面したそれは、見晴らしは良いがどうやって徒歩でここに回るのか非常に気になる場所に存在する。
 山猿だってもうちょっと場所を選ぶぞと言うような場所である。
「お待たせ〜。今度は一人だから楽だったよ〜」
 バーク・ダンロックを胸に抱えて何とか到着する烏丸千剣。
 その間にお師匠様は三月天音と氷雨鳳を連れてくる。
 けだかい崖の中腹で皆服を脱ぎ湯へと浸かる。
 東の空から朝日がまぶしい。
 男湯女湯と言う物は残念ながら無い。
 それどころは深さもまちまちで石もゴロゴロしてる。
 それでも温めの透明色のお湯は身体にじんわりと染み渡る良いお湯であった。
「人間の皆さんは酒が好きと言う事らしいので、ひとっ走り麓の村まで行って買ってきましたぞ。1斗有れば足りますかな?」
 2升徳利を5つほど、どぽどぽと温泉の中に投げ込む剣崎狼牙。そして山伏の服を脱ぎそそくさと温泉の中へ入る。
 烏丸千剣も虎縞ビキニ(ビキニじゃないけど)を脱ぎ捨て羽をひろげてわさわさと温泉に浸かる。
「烏の行水と言うが、彼女もその口かね?」
 山崎剱紅狼がお湯の中を泳いでいる千剣を指さす。
 おとなしく浸かってる事が出来ず、泳いでは上がって休み、泳いでは上がって休みをくりかえしているようだ。
「女の子はもう少し恥じらいを持った方が良いわよ?」
 湯の中に有る岩の上に寝そべりゴロゴロしている烏丸千剣を百目鬼女華姫が注意する。
 注意されながら岩の上であぐらをかいている彼女に他意は無いのだろうが、男性陣が目のやり場にほとほと困っている。
「わたしこんなに沢山の人とおしゃべりしたのもご飯食べたのも一緒にお風呂に入ったのも初めてだから嬉しくて〜」
 子供のようにはしゃぐ彼女。そんな彼女を女華姫は頭をぐりぐりなで回しながら注意する。
「アナタ、自分が可愛いって気が付いてる?そんなのじゃ無用心よ? 先ずは自分のカラダのことをもっと知らなきゃダメよ? あたしが教えてア・ゲ・ル」
 女華姫の言葉に自分と女華姫を見比べながら何処が違うのか悩む千剣。
 そのまま温泉の中を移動して加藤武政の元へ近づく千剣。自分の身体と彼の身体を見比べる。
「胸と羽?」
 何処が違うのかと言えばやっぱり胸が有無と羽の有無だろうが、羽は余り人前では見せてはいけないとお師匠様から常々言われていることである。
「おまえさん風呂に入ると普通の犬と見分けが付かないな?」
 酒を傾けながら山崎剱紅狼が剣崎狼牙に語りかける。
 上半身を半分うつぶせの状態で出して温泉を堪能しながら彼は語る。
「私にはあいにくと人に化ける術がありませんでな。それで里に下りるときは千剣の変身能力を借りて、羽を隠して降りてもらって居るのですよ。野良犬が直立歩行で酒を買いに来たら店の人が驚きますからなぁ」
 半分ろれつが回ってない感じで酒を口にする狼牙。彼は余り酒には強くないらしい。
「さぁウィルマ殿も飲むのだな」
 氷雨鳳がすっかり目が座った調子で酒を勧める。
 進めながらに彼女はかなり酔っている様である。
「男の人は、女の子の胸とかお尻が好きなの?」
 百目鬼女華姫に教育を受けながら、女の子の基礎知識を教わる烏丸千剣。元々頭は余りよろしい方では無いので学習は大変である。
「そうよ。男性は可愛い女性の胸とかお尻を見たいと思うし触りたいと思う物なのよ。こんな風にね?」
 どさくさに紛れて百目鬼女華姫が烏丸千剣のお尻に触る。
 身長130cmと小柄な割りには、わりとふくよかで触り心地の良いお尻をしている。
 身長が無く、ウエストが無く、胸とお尻が有るためにより際だって見えるのかも知れない。
「胸触りたい? 触りたい?」
 すすっと山崎剱紅狼に近寄ってくる烏丸千剣。そのまま彼の目の前まで胸を持ってくる。
返答に困るのは山崎剱紅狼である。ここで触りたいと言えばロリコンだスケベだと言われかねないが、逆に触りたくないといえば、彼女に魅力がないという事で傷つけてしまうことにある。
 数秒の葛藤の末に出た言葉は
「まぁ触りたくないと言えば嘘になるなぁ‥‥」
 であった。
 その反応を見て首をかしげる烏丸千剣。大人の言い回しなど分からないのだろう。
「はい」
 そう言って彼の手を取って自分の胸へと持って行く。ふくよかな胸が彼の手のひらの中に収まる。鍛えているだけ有って弾力の有る良い胸をしている。
「‥‥」
 さらにどのように反応すればいいのか困る彼を尻目に、彼女はまた両手両足と羽をばたつかせながら温泉の中を泳いでいく。
「いや、そうじゃなくて、もっと恥じらいを持って‥‥その前に貴方お酒どれくらい呑んだの?」
 百目鬼女華姫が泳ぐ千剣を追いかける。
「めがひめさんは千剣がギューッてしたら嬉しい?」
 そう言ってめがひめをギュッと抱きしめる千剣。
 百目鬼女華姫は逆に千剣を抱きしめる。朝日をバックによく分からない状況。
「ぐかーくー」
 氷雨鳳がすっかり酔いつぶれて高いびきをかいている。
 剣崎狼牙はそんな彼女をお湯から出して上げると、自分の膝枕で休まれて上げることにした。
「千剣ちゃん。僕には?」
 加藤武政の言葉にパタパタと羽を羽ばたかせながら近寄ってくる千剣。
「ぎゅ〜」
 口で言いながら加藤武政をギュッと抱きしめる。
 胸の感触が心地よい。
「天音さんもぎゅ〜」
 パタパタと温泉の中を移動すると今度は三月天音を抱きしめる。
「お嬢ちゃん。俺はぎゅ〜はいらんから、お酌をしてくれないか?」
 バーク・ダンロックがそう言って杯を差しだす。
 千剣は徳利を持ってそそとお酌をする。
 それはまるで芸者がお酌をするようにしなやかな物であった。
「一応武芸全般と礼儀作法は色々教え込んでは居るのだが、人間の一般常識と言う物が私には余り無くてな、私もそいつも田舎者でしかも頭が悪いですから」
 そう言って謝るのは剣崎狼牙。まだ膝枕の途中である。
「飯もたらふく喰った。酒もたらふく呑んだ。敵も沢山たたっきった。そろそろお開きにしてもいいんじゃねーか?」
 ウィルマ・ハートマンがすっかりのぼせ上がって当たりを見回す。
「その前にコイツの酔いが冷めるまでまってわくれぬか?」

 呑んだら乗るな、呑んだら飛ぶな。飲酒飛行はとても危険なのである。

 温泉場からフラフラに成りながら大津の町はずれまであんなにされる面々。剣崎狼牙と
烏丸千剣。

「それじゃ我々はこの辺で。温泉とお酒ありがとうでした」
 口止め料をもらって京都へと帰る面々。
 そんな面々を寂しそうに見送る烏丸千剣。
「また遊びに来てくれる?」
 彼女の言葉に一同は微笑みを浮かべ、そして大きく手を振って彼らとの別れを名残惜し無のでありました。

‥‥しかし、彼らは京都に着くまで気がつかなかった。千剣が装備していた鬼の褌は‥‥2枚なのだと言うことを‥‥