【黄泉の兵】恋する乙女はアンデッド
|
■ショートシナリオ
担当:凪
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月11日〜04月18日
リプレイ公開日:2005年04月18日
|
●オープニング
●共通された情報
陰陽寮にある、書庫の一室。高価な灯火のか細い明かりの元、陰陽寮の長官、陰陽頭・安倍晴明は、山のような竹簡の中から一つを手に取り、視線を走らせて小さくつぶやいた。
「ふむ、陰陽村、か‥‥」
「一体、どのような村で?」
「過去、我々の先達が作った村だと記されているな」
目を細めて竹簡に書かれた文字をたどりながら、晴明は部下の問いに答える。
「面白きことにその村は、飛鳥の宮の在りし、南に作られたとされている‥‥何か、におわぬか?」
「‥‥此度の亡者どもに、何か関係あるとでも?」
その問いかけに薄く笑みを浮かべて応えると、晴明と供の者は廊下に足音を響かせた。
京の都の南より現れる亡者たち。それはただその数に任せて押してくるだけのものもいれば、強力な力を誇り、ただ一体で村を滅ぼしたものもあった。
冒険者ギルドを通じて市井の冒険者の力を借り、いくつかの亡者たちには対処を始めてはいるものの、なぜ亡者が迷い出たのかの理由は、いまだ分かってはいない。
なんにせよ、南よりの災禍はまだ尽きる様子はなく、被害も、それを抑えるための依頼も数多くある。
そんな中、陰陽寮からの新たな依頼があげられた。
その内容は南に向かい、奈良にある陰陽村を探ること‥‥。
●内密な依頼。
「実は内密に仕事を依頼したいのだ」
黒い着物を着た若者はそう言って静かに語り始めた。
「内密な仕事の為私の名前は素性は伏せさせてもらおう。その代わり報酬は弾む」
彼はそう言って淡々と語り始めた。
「私は元々は3人一組で悪鬼羅刹を退治する仕事を生業としている‥‥。そして、先に死人憑きや怪骨がこの京都南部を襲ってきたとき私たちは率先してその討伐に足を心血を注いだ」
そう言って茶をグッと飲む。
「いい話ですね? 武勇伝の自慢話ですか?」
一人の冒険者がそれをちゃかしたが、彼はそれに反応しなかった。
「その中に、骸骨の群れを引き連れた一人の少女が居た。それは一目見るなら美女、絶世の美女、この世の物とは思えないほどの美女だった。そう一瞬で一目惚れしそうな程のな」
そう言って彼は淡々と話を続ける。
「無論、骸骨の群れを指揮する娘、絶世の美女とは言っても何か裏があるとは思ったさ所が‥‥だ、有ろう事か我々仲間の一人がそいつにまるで恋する様にフラフラ〜っと吸い寄せられて行ったんだ。信じられるか? 骸骨の群れに囲まれているのに、無防備にフラフラ〜っとそのど真ん中を進んでいったんだ」
ここまで言ってやっと話の確信へと到達する。
「闘いのさなか、私は彼を追いかけた‥‥が、捕まえることは出来なかった。おそらく彼はその娘の妖術にでもかかったのだろう。闘いが終わった後に周辺一帯を捜索したが、彼の死体はおろか衣類すら発見出来なかった」
そこまで言って一息つく。そして。
「妖怪に取り込まれたと有っては武門の恥、武家の恥、頼む彼を見つけ出して殺してくれ。そしてその死体をもやし、その痕跡を根絶して欲しいのだ。もし彼が生きているのであれば、それは彼の一族‥‥そして、ひいては京都守護平尾さまの恥と成ってしまう‥‥。本来なら私が直接行きたいのだが、私は京都を離れる訳にはいかないのだ‥‥そこで君たち冒険者に‥‥そのお願いしたい‥‥」
そう言って彼はテーブルにおでこをすりつけるようにして冒険者ギルドに依頼を出した。
彼の話を纏めるとこうである。
1.連れて行かれたと思われる彼を連れ戻すか、殺してきて欲しい。
2.殺した場合、身分が分からないようにその死体を燃やして灰にして欲しい。
3.彼がどんな格好でどんな人物で有ったかは他言無用にお願いしたい。
●リプレイ本文
●【黄泉の兵】恋する乙女はアンデッド
ガラスの様に繊細でそれでいて美しいと思う。
瀬戸物の様に脆く砕け散る。
怪骨の剣をその身に受け止め、皮を切らせて骨を断つ。
キルスティン・グランフォード(ea6114)が本日何体目に成るであろうかという怪骨を倒して一つ息を吐いた。
京都から陰陽村に近づくに連れてその数は増える一方である。
奴らはアンデッドだから疲れを知らぬだろうか、こちらは生身である。
特に精霊魔法などは魔力が尽きたらそれまで、死活問題である。
7人は昼と無く夜となくわき出る怪骨を相手にしながらも、やっとの事でそれらしい村にたどり着いた。
そしてどことなく薫る甘い香りに誘われて、無人の村を探索していると、赤い少々こじゃれた橋のたもとに座る、一人の艶やかで美しい着物を着た娘と侍の二人を見つけた。
艶やかな着物の娘は銀色のキセルでタバコを吹かし、やっと訪れた珍客に静かに笑みを浮かべた。
「遠路はるばるようこそおこしやす。雑魚どもがおじゃまをして大変だったでしょうに」
そう言って笑みを浮かべる彼女からは、深く静かな波動を感じる。
「侍の方はまだ生きているが、娘の方はアンデッドだな」
小坂部太吾(ea6354)がインフラビジョンを使って目視で確認する。距離にして15m飛び込むには少々間合いが遠いが、これ以上の接近は手の内が見えない状況では少々やばい。
「ひーふーみーよー。志士さんが4人にその他の人が3人ですか‥‥思ったよりは少ないみたいやねぇ‥‥どうですか? せっかくやし同門どうし、志士さんは志士さんで戦ってもらって、他のお相手は私がすると言うのは?」
そう言ってにっこりと笑う娘だが、夜の闇に紛れて一人近づいて居ることに気がついていなかった。
灰原鬼流(ea6945)が娘と志士の間に割って入り、間髪入れずに短刀「月露」+1で柄打(スタンアタック)を仕掛けた。首のもろにそれが振り下ろされる。
「なかなかの隠密行動‥‥流石です。でも残念でした」
彼女がそう言ってにっこり微笑む。
スタンアタックを喰らった志士は倒れる所か元気に立ち上がって反撃を姿勢を見せていた。
一気に距離を取ってその場から離れる灰原鬼流。
暗がりで確認出来なかったが、よく見れば彼は大鎧に武者兜、鉢金まで装備している。そして、その上から言われた通りの黒い羽織を羽織っている。
凪風風小生(ea6358)がブレスセンサーで当たりを窺う。他に隠れて居るであろう生き物の存在はどうやら無いようである。
月下樹(eb0807)が大ガマの術でガマを召還する。
相手の注意を惹くのが半分。攻撃の手段にするのが半分である。
「ほな、行ってらっしゃい恋しい人。私たちの中を引き裂く、野暮な連中を倒してきて下さいな♪」
そう言って鎧を着た志士を送り出す娘。娘はにっこりとして他の三人‥‥いや、4人を見つめた。
海上飛沫(ea6356)と郷地馬子(ea6357)それに凪風風小生が鎧志士と身構える。
鎧志士は印を切ると、その身体の表面が岩のような硬質なる物に寄って包まれた。
ストーンアーマーである。
そしてさらにもう一つ印を結び、今度は大地より一降りの剣を召還する。
クリスタルソードである。
ジリジリと3人に囲まれる鎧志士。おそらく妖怪退治のエキスパートなのであろう。うかつに手を出すのは危険である。
海上飛沫が印を結ぶ。飛来するのは水の塊である。それ自体にはさほどの威力は無いが、後に続く落雷に効果が期待される。
凪風風小生が印を結ぶ。飛来するのは一閃の雷。水に濡れた敵に対して効果的な方法‥‥の様だったがストーンアーマーは落雷のダメージをことごとく吸収した。
郷地馬子が前に出る。同様にストーンアーマーをかけたボディ。そしてその右腕から繰り出される重力砲が鎧志士へと撃ち込まれる。
「向こうはだいぶ苦戦してるようだけど、良いの?」
彼女はそう言いながら一つ二つと印を結ぶ、なにやら術を唱えているようであるが。
「わしにはフレイムエリベイションがある。おぬしの魅了の術を無効にする術がな、わしはおぬしを倒す切り札だ。無効に回るわけにはいくまい」
そう言って彼の身体は炎に包まれる。
火の鳥と成った彼の4回に渡る攻撃が娘の身体を襲う。
「あたっ‥‥あたたたたたたっ痛い痛い」
それほど痛そうには見えないが一応に痛がってみせる娘。
「行くぞ精吸い!!」
灰原鬼流が娘の側面(橋の袂に居るので後ろには回れない)から短刀で攻撃を仕掛ける。
っと同時に巨大ガマの攻撃は炸裂する。
短刀の攻撃をさけ、大ガマの攻撃さえも避ける娘。
「いや、私精吸いじゃないんだけどな‥‥血も吸わないし‥‥」
青白く光右手で小坂部太吾を平手打ち、さらに返す手でキルスティン・グランフォードを平手打ちする。
ぺちっ!! ぺちっ!!
近所の子供の頭でも叩くようなダメージである。
あまりの事に拍子抜けする太吾。
その気の抜けた平手打ちに合わせるようにして、キルスティン・グランフォードの巨大な金棒の一撃が炸裂する。
デッドorライブ+カウンターアタック+スマッシュEXのもの凄いダメージが娘の腹部へと炸裂した。
「惜しいね。その一撃が有効打なら、私は死んでいたかも知れないよ」
ぐらりと視界が揺らいだのはキルスティンの方であった。
何かの魔法が彼女を浸食しているようだ。
「魅了か!?」
小坂部太吾が娘を見つめる。娘は首を横に振って否定した。
「デビルハンドです。しばらくの間は正常な判断が出来なくなる魔法です」
そう言って笑みを浮かべる娘。当人のキルスティンは急激にアルコールが回ったかの様にまったくまともな思考が出来ない状況である。
「それでは彼女は頂いて参ります。ここから先は‥‥野暮と言うことで‥‥」
そう言って頬を赤らめながら彼女の手を引き、娘は橋を渡ろうとする。
「んで、えーと私は彼女の相手をしてるからあなた達のお相手は‥‥じゃじゃーん何と特別ゲストをお呼びしております!! 先生出番です!!」
橋の向こうから番傘指して登場するのは『黄泉人』
冒険者達の目にはそれはひからびたミイラの様なアンデットが番傘さして歩いてくるだけなのだが。
いつの間にか鼓を打って『黄泉人』の登場を盛り上げている。
まぁブッチャケ『黄泉人』は、娘とは縁もゆかりも無くてつきあわされてるだけなのだが
娘がキルスティンの手を引いて橋の向こう側へと消えて行く。
入れ替わる様に現れたのはミイラの様なアンデットである。
先ほどの娘ほどではないが、まがまがしい妖気を感じる。
小坂部太吾が炎の鳥に成って黄泉人に襲いかかる。
巨大なガマと灰原鬼流も追い打ちをかける。
燃える燃える勢いよく燃える。先生と呼ばれて出てきたそれは炎の鳥に寄って大火災状態である。しかも追い打ちの短刀や蛙の舌まで直撃してるからかわいそうに成ってくる。
相性の問題なのか何なのかその辺の事情はよく分からないが、あっと言う間に黄泉人は燃え尽きた。なんともかわいそうである。
「あれ? 私はどうなって?」
キルスティン・グランフォードは気がつくといつの間にやら着ていたレザーアーマーを脱がされ、全裸の状態で川縁に座り込み、目の前にはあの娘がこちらを覗き込んでいた。
「堪能させて頂きました‥‥おねぇさん見所有るね? 胸も度胸もたっぱも大きいし‥‥」
そう言って全裸の彼女の上に娘は覆い被さる様にして身を寄せてくる‥‥。
もっとも身長240の彼女と150の娘では大人と子供の差もあるのだが。
「あの‥‥私子供が居るんだけど?」
キルスティンの言葉に笑みを浮かべながら唇を重ねる娘。
「素晴らしい才能の持ち主や、容姿端麗なものなら大歓迎よ。文字通り天国に送ってあ・げ・る♪」
甘える様に覆い被さる彼女の肌は冷たい。無論アンデットなのだから当たり前なのだが。
その場に居る誰もが喚起を憶えるほどの冷たくどす黒い雄叫びを耳にする。
咆吼を放っている物は、橋のたもとに現れた。
どす黒い、すさまじい邪気を放つけたたましい存在である。
見るだけで背筋が凍り、魂が抜かれる様な思いである。
キルスティン・グランフォードは全身に汗をびっしょりかきながら、その場を逃げ出したい衝動にかられている。いや、彼女以外の面々も、鎧を着た志士でさ、一目散に村の出口の方へとかけだしている。それほどまでにとてつもなくとんでも無い物が出てきたのである。
「あらら、黄泉大神様のご登場。お遊びはここまでね〜。私も荷物を纏めないと、なんかのついでに倒されたらたまった物じゃないわ」
おいおい、お前ら味方じゃないのかよと思いきり突っ込みたくなる言動。
「取りあえず荷物を持って船に乗って頂戴。着替えは船の中でね」
そう言って橋の下に隠していた船を引っ張りだすと、町の出口の方へと船を進めて行く。
キルスティンが慌てて船に飛び乗る。
それを見ていた一同が一斉に船に乗り込む。
5m程の手こぎ船に9人が所狭しと乗り込んでいる。しかも馬5頭、驢馬1頭乗ってそれもう大騒ぎさ。
「このまま鴨川経由で京都戻って良いんだよねぇ?」
その言葉に相づちを打つ一同だが‥‥
「取りあえず彼は帰してもらっていいんだっけ?」
依頼を忘れない灰原鬼流。
「うん。もったいないけどまぁ今回は返すよ。黄泉大神様もご健在だし、火事場ドロボーみたいにまた適当に才能有る若者をゲットする予定だからさ。私を倒せってのは依頼に含まれてないんでしょう?」
そう言われて顔を見合わせる一同+馬。言われてみればもっともである。
「それから私は精吸いじゃないくて愛し姫だから、憶えておいてね」
そんなこんなでよく分からないまま京都へと帰る一同。
後日彼が腹を切るのか切らないのかはまた別の話である。