【近江の虎狩り】

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 21 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月08日〜05月16日

リプレイ公開日:2005年05月16日

●オープニング

●近江の虎狩り
 大津。京都から東に行った琵琶湖の南端にある近江で大発展を遂げた港町の一つ。
 沢山の丸子船が行き交い、沢山の交易品が行き交い、沢山の人や馬が行き交う町、大津。

 とある日の日常。何でもない筈のそんな日常。一つの事件が発生した。
「大変だ〜〜!! 虎が逃げたぁ〜〜!!」
 その日見せ物小屋から虎が逃げ出した。
 鉄格子のはまった木製のオリをぶち破って逃げ出した。
 隣に有ったオリからも逃げ出した動物がいる。
 昨日寝るときには虎もその動物も何でもなかったのに
 朝目が覚めたら2匹とも逃げ出していたのである。
「まぁ被害がその2匹だけで良かった。所でもう一匹な何だい?」
 座長の言葉に飼育係が申し訳なさそうに答える。
「へい‥‥それが‥‥蛇女郎で‥‥」
 その言葉に座長は血の気が引いた。
「何だと!? ウチで1.2を争う看板見せ物の虎と蛇女郎が逃げ出したってのか!?」
 蛇女郎の、虎の火の輪くぐりは、この見せ物小屋ナンバーワンの目玉である。
 その両方が逃げたと成ると、大変な損害である。
「急いで虎と蛇女郎を捕まえろ!! 良いか、生かして捕まえるんだぞ!! 生かしてだ!!」
 飼育係は慌てて冒険者ギルドに走っていった。
『逃げた虎と蛇女郎を生け捕りにして下さい』

●琵琶湖観光協会視察
「虎と蛇女郎が逃げ出したって? そいつはやっかいだな。大至急、人を雇って討伐することにしょう。これで観光客の足が遠のいてはいけないからな」
 琵琶湖観光協会は近江を観光地とするための集団である。
 琵琶湖周辺の治安維持やら道路整備からに尽力を尽くす集団である。
 主にゴミ拾いとかもしてくれている。
「へへ、お役人さま。その逃げ出した虎と蛇女郎。あっしらで倒しても良いですかね?」
 そう言って2人の役人に語りかけて来たのは3人の浪人風の男達であった。
 ごろつき‥‥なのか冒険者崩れなのかは分からない。
「それはかまわないが大丈夫か? もし倒すことが出来たら、一人頭5両支払うが‥‥」
 役人達はそう言って浪人達に答えた。
「へへ、お役人様のお許しが出た。早速仲間を集めて虎狩りと行こうぜ? 美味くすれば褌が沢山作れるぜ? へへ‥‥」
 そう言って下卑た笑いを浮かべながら男達はその場を後にした。

●そして‥‥虎と蛇女郎は‥‥
 夜通し琵琶湖の海岸線に沿って北へ北へと逃げる蛇女郎と虎。
「大丈夫もう少しだからね。辛抱してね?」
 テレパシーの魔法で虎と会話しながら北へ北へ
 喉の渇きに襲われながらも、蛇女郎は虎を連れて北へと進む。
 彼らにはムチで打たれた傷がある。おそらく見せ物小屋で付けた傷であろう。
 決意をして逃げ出すほどの調教を受けていたのか‥‥それは分からない。
 蛇女郎は右手に黒い鎖で出来た鞭を持っている。
 虎は黒い首輪の様な物を付けている。
 しばらく進むと立て看板が見えてくる。

『ここより先、豚鬼多発地域、注意!!』

「人間の文字なんて読めません」
 キッパリとそう言う蛇女郎に虎が首を縦に振る。
 二人はドンドンと琵琶湖沿いに北へ北へと突き進んでいく。
 そして昼にさしかかる所でようやく息をついて休みを取った。
「あぁでもここまで着たら大丈夫かしら? 安心したら喉がからからよ。人間の血を腹一杯飲みたいわねぇ‥‥」
 そう言って琵琶湖の湖畔で一休みする2匹。
 空腹と喉の渇きに耐える2匹にどこからともなく良いにおいが漂ってくる。
 血、人間の血の臭いである。
 小高い丘の向こうでは、一匹の豚鬼が3人の人間の死体を真ん中でどかりと座っているのが見える。
 チャンスである。
 並の豚鬼なら2匹でかかればどうって事はない。だが、今は2匹とも力が落ちている。出来れば戦いは避けたい。
 そこで、テレパシーの魔法で会話を試み脅かして奪い取る事を考えた。
「そこの豚鬼!! 死にたくなければその人間を置いて行け!!」
 そう言ってテレパシーで話しかける蛇女郎。
 しかし、振り向いた豚鬼から発せられる威圧感は並大抵の物ではなかった。
 獣は瞬時に敵の強さを悟ると言うが、2匹はこの豚鬼の強さを瞬時に悟った。
「あっ、いや、えーと、冗談です‥‥はい」
 こそこそと逃げだそうとする2匹に、豚鬼は人間の死体を一つほおって投げた。
 食えと言っているのだろう。
2匹は喜んで人間の血を吸い、生肉をガツガツと食べた。
 行く当ての無い2匹はそのまま豚鬼に拾われる形となる。
 捕虜なのか何なのかは分からないが、人間に虐められるよりは良いだろうと2匹は考えたのだ。そして‥‥

『虎と蛇女郎を捕まえてきて欲しい。出来れば生きたまま捕まえてきて欲しいが、豚鬼が出る山に向かったというので、もし死んでいたら諦めることにする』

依頼の無いようなこのような物であった。

●今回の参加者

 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea6524 秋雨 皐月(51歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea9164 フィン・リル(15歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb0807 月下 樹(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●近江の虎狩り
 琵琶湖の西岸豚鬼天国。
 蓬莱山を拠点に、北の阿弥陀山に広がる豚鬼王国。
 王国なのか帝国なのか、人間の言葉で説明するのは難しいが。
 とにかく豚鬼が一杯居て、人間の街や村なんかも占領して楽しく平和(?)に暮らしていたりする。
 その規模ザッと一万人。千匹にも及ぶ豚鬼の軍がそれを統括している。
 この時代(?)で言うならば、大都市一個丸ごとくらいの人口である。
(農村や漁村で1万人と言う数字がどれほど大きいかは、よ〜く考えよう)
 広さだけなら京都よりも広い。(山と田んぼと畑しかないけど)

 そんな山林へ逃げ込んだ虎と蛇女郎を捜すべく。
 ベェリー・ルルー(ea3610)とフィン・リル(ea9164)のシフールコンビはオークが徘徊する山の中をうろうろしていた。
 そして見事にオーク達に捕まっていた。

 見張りと思われる豚鬼に捕まり、村落らしい場所に連れて来られた二人。
 そこには20軒ばかりの合掌作りの大きな家のある。山間の村であった。
 豪雪にも耐えられるように作られた、合掌造りの合掌家屋だ。
 一軒一軒の家がもの凄くばかでかいので、身体の大きな豚鬼でも住みやすい。
「おぐおぐ‥‥おぐおぐ」
 豚鬼に連れられ、大きな囲炉裏の有る部屋に連れてこられる。
 待つこと一時間ほど。
 一人の老婆がやってくると、お茶と団子が出された。
「きしゃしゃしゃしゃしゃ。毒など入っておらぬ。ささ、召し上がれ」
 老婆はそう言って二人のシフールに、やたらでかいダンゴとお茶を勧めた。
「おばぁさんが作ったの?」
 フィン・リルが老婆に質問する。老婆はきしゃしゃと笑ってそれに答える。
「いやいや、人間に作らせたのだよ」
 老婆はそう言ってきしゃきしゃ笑う。
「おばぁさんは人間じゃないの?」
 ベェリー・ルルーが老婆に質問すると老婆はさらに高笑いを浮かべた。
「わたしゃ人間じゃない。山姥だよ。山に住む鬼の一族さ。豚鬼達は人間と言葉が通じないからね。私が間に入って人間達に命令するのさ」
 そう言って老婆はまたキシャキシャと笑った。
「私たちの事食べるの?」
 ベェリー・ルルーが質問すると老婆はまた目をぱちくりさせて笑った。
「おまえたちが犬くらい大きかったら、食べたかもしれんが、その成りでは食べても腹の足しにもならんだろうしなぁ。まぁこんな山奥にわざわざ来たんだ。食べる前に話し位は聞いて上げるよ」
 そう言って老婆はまたキシャキシャと高笑いする。
「オグ!! オグオグ!!」
 しばらくすると漆黒の大鎧に身を包み、右手に巨大な棘槌を、そしてその柄から伸びた鎖を左手で器用に振り回す。威厳のある豚鬼がやってきた。
「これが‥‥噂に聞く‥‥鐵(くろがね)様‥‥」
 ベェリー・ルルーとフィン・リルがその豚鬼の威厳と風格に圧倒される。っが老婆は静かにそれを否定した。
「残念ながら、鐵様は現在ご不在じゃ。このお方は鐵様の影武者で玉鋼(たまはがね)様。六人の破壊四天王のお一人じゃ‥‥っと言うかおまえたち良く鐵様をしっておるのう?」
 不思議な日本語である。
 四天王なのに六人いる。
 基本的に彼らが使う言葉は人間のコピーである。
 文化も戦闘以外は猿まねである。
 人間の使っていた言葉の中から良さそうな物を適当に繋いだのだろう。
 彼らの使う人間の言葉はそんな物が良く存在する。
「オグ。オグオグ?」
 玉鋼と紹介された豚鬼王がベェリー・ルルーに話しかける。
 いや、イギリス生まれの彼女には、オークロードと言った方が分かり易いだろうか。
「こんな場所に、一体どんな用事があって来たのだと、聞いておられる」
 山姥の通訳に寄って玉鋼の言葉が伝えられる。
「えと、逃げた虎と蛇女郎さんを探しているの。もう追っ手が来ないようにするために、二人には死んだことにして欲しいの。だからそのために、何かほしいの‥‥」
 なんだかよくわからないが、二人が虎と蛇女郎を捜していることは伝わった。
「その二人なら、我々が保護している。今連れてこさせよう‥‥っだそうな」
 老婆がまた豚鬼王の言葉を訳する。
 どうやらこの老婆は豚鬼王の口取りの様だ。

 ズルズルと言う音がする。
 巨大な何かが近づいてくる。
「こんばんわ〜初めまして?」
 上半身が人間、下半身が蛇、身体の長さは10mは有ろうかと言う巨大な蛇人間がやってきた。
 っと一緒に入ってきたのは、比較対象が大きすぎて小さくさえ感じる虎。
「コンバンワ蛇のおねぇさん。実は‥‥」
 二人は蛇女郎に話しかけた。依頼を受けてやってきたこと。死んだことにして追っ手を逃れる術を。そしてそのために身につけている物が欲しいことを。
「それなら、私と虎ちゃんの首輪を持って行きますか?」
 蛇女郎は自らの首に付いている首輪と虎の首に付いている首輪を指さした。
「そう言えば傷はもう良いんですか?」
 フィン・リルが蛇女郎のベェリー・ルルーが虎の傷を見る。
 虎の傷は殆ど治りかかっている。
 蛇女郎に至っては‥‥傷すらない。いや、傷痕すら無いのである。
「いや、ほら、調教師の鞭って、痛いような気がするだけで本当は痛くないから」
 蛇女郎に通常の武器は利かない。
 効果があるのは魔法か魔法の武器。銀の武器等である。
 この蛇女郎もテレパスの魔法を使えるようだが、それほど頭は良くないかも知れない。

●一方そのころ。
 秋雨皐月(ea6524)が依頼主の見せ物小屋へと足を運んでいた。
「事情があると思う、手前らの意見を押し付けず、相手の主張を汲むようにな」
 彼女の言葉に鞭持った調教師は首をかしげる。
「訳の分からない事を言う。私たちは逃げた動物と捕まえてきて欲しいと言う依頼で金を払っている。誰の主張を組めと言うのかね?」
 そう言って調教師は鞭を振った。
「全く100両もの大金で買ったというのに。大赤字だわ」
 彼はギリギリと歯ぎしりさえしている。
 どうやら二人の会話は平行線に終わりそうだ。

●近江観光協会。
 月下樹(eb0807)は近江観光協会を訪ねていた。
 虎と蛇の討伐隊を止めて欲しいと掛け合うためである。
 近江観光協会観光奉行次席と言う方がお会いに成ってくれることになった。
「言い分はごもっとも、我々もへたに人死を出したいとは思いません。っと言うか、アレがそう簡単に片づくとは思っていませんし、片づくなら1000両出しても良いと思うんですけどね」
 近江の豚鬼は山一つ占領するすばらしき敵である。
 観光協会も頭を抱える相手なのである。
「まぁ近江でも腕っこきの若手が入ったみたいだから何とかなるでしょう。たぶん」
 次席奉行はそう言って大きくため息をついた。
「入ったとは?」
 月下樹の質問に彼はにこやかに答える。
「対豚鬼撃退組織『鋼鉄山猫隊(仮名)』がこの度編成されることに成りましてね。そこに近江でも1.2を争う若手さんが配属に成ったという聞いていますんで、まぁ少しは状況も改善されるんじゃないかと期待しているわけです」
 そう言って次席代官はにっこり微笑んだ。

●そして。
「見せ物小屋に居るときは、人間の血が吸えないんです。いえ別に人間と限定する訳じゃないんですが、私は血を吸って生きてるんで、生のお魚とかもらっても困るんです。虎ちゃんもずっと檻の中で窮屈だったし。でも、ここなら、3日一度は人間の血が吸えるし、ご飯も血が滴る生肉がもらえるし。言葉の壁は有るけど、結構良いところなんですよ?」
 すっかり豚鬼達に懐柔されてしまっている。
「助ける代わりに僕達の仲間に成って、一緒に豚鬼を排除してほしかったんだけど」
 その言葉を聞いて首をかしげる蛇女郎。
「でも、豚鬼いっぱいだよ? 一緒にって言うけど、豚鬼さんとっても強いよ?」
 そう言われてベェリー・ルルーが悩んでみる。
 鐵‥‥っと言うか、さっきの影武者でも十分強そうだった。
 強そうっていうか、体格が全然違うからそう感じたのかも知れないが。

 身長2m、脂肪の塊のその身体を覆うような武者鎧。そして巨大な棘槌。
 肉厚の有る分厚い装甲と、巨体から繰り出されるパワー。
 鬼にも色々と種類がある。犬鬼、豚鬼、山鬼、小鬼、茶鬼。
 個性溢れる鬼達の中で、とりわけ豚鬼の特徴はその打たれ強さである。
 そんな豚鬼の中でも打たれ強さチャンピオンが豚鬼王何じゃないかと推測される。
 ベェリー・ルルーやフィン・リルが殴っても全然大丈夫そうだ。
「オグ!! オグオグ!!」
 鐵影武者の豚鬼王玉鋼が何かを言うと、山姥が口を取り、蛇女郎に伝える。
「うん。そう言う訳だから、私はここに残るわ。色々とありがとう。小さなお友達」
 そう言って、蛇女郎はベェリー・ルルーとフィン・リルに優しく口づけをした。
「取りあえず首輪はもらっていきますね」
 もらっていきますのは良いのだが無事に帰してもらえるんだろうか。
「じゃ途中まで送るね? ここは秘密の村だから、みんなに話したらダメよ?」
 蛇女郎がそう言って二人を琵琶湖まで案内する。無論彼女も道なんか憶えてないので、豚鬼に道案内してもらいながらなのだが‥‥。

 そして‥‥蛇女郎と虎は豚鬼に食べられた‥‥っと言うことになった。
 4人は報酬をもらうと、また京都へと帰るのであった。
 そして、更なる豚鬼に対抗するべく、琵琶湖では新たな部隊の編成がされつつあった。
 鋼鉄山猫隊(仮名)である。