【黄泉の兵】京に哭く鬼・外伝

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月27日〜06月02日

リプレイ公開日:2005年06月04日

●オープニング

街の灯火(ともしび)を守るため。
命のきらめきを守るため。
無くした物を捨てて。
愛した物を捨てて。
右手に握りしめた水晶の剣に全てをかけて。
武者鎧と武者鎧にその身を包んで。
剣林弾雨の嵐の中を、貫き(つらぬき)行きて突き進む。(弾は飛んでこないけど)
黒字に紅の段だら模様。半首と呼ばれる額宛。

一人の男と羽の生えた少女は生きる屍切り裂いて、その身を返り血で染めながら、修羅の如き歩みで突き進んでいた。

少女は胸にサラシを巻いて。
腰には六尺の褌を巻いて。
両手に握りしめる長巻き。
背中に生えた漆黒の翼。
腰まで生えた髪を後ろで束ね。
全身を返り血で真っ赤に染め上げながら空に舞う。
天に舞い、地に落ちると同時に敵をなぎ倒す。
殺戮(さつりく)の天使が舞い降りたかの様に見える。
彼女の名前は烏丸千剣。
人間との接触の日が浅い、烏天狗である。
彼女は鬼と剣を交える事を修行の一環とし、仙人(山神)への道を目指す古強者である。

紅に染まる大地、横たわる無数の死体。
大和の国を守るため、死人憑きを切り裂いて、血と肉塊に染まりながら道を作る。

魂は叫ぶ。
雄叫びを上げる。
生きる屍である死人憑きを、切り裂きなぎ倒し、道を作って前に進む。
水晶の刃が砕ける。
今日何度目であろう。
彼は印を結び新たな水晶の剣を手中に収める。
体力は尽き欠けている。
魔力も尽き欠けている。

それでも歩みを止めることは出来ない。
進むは地獄。立ち止まるも地獄。
道は剣で作らなければならない。
彼らは孤立していた。
既に仲間は無く、馬も息絶えている。
大和の国に乗り込んだ彼らは、思いもかけぬ大量の死人憑きと黄泉人に阻まれ、取り残されていた。
救援が来ることさえ諦め、逃げ帰ることさえ諦め、一匹でも多くの敵を討ち滅ぼす為に。
肉がきしみをあげるまで、骨がきしみをあげるまで、タダひたすらに敵を斬っていた。
そして‥‥

●酒場にて
「連絡が途絶えてから既に3日が経つ‥‥もはや生きているとは思わないが、もし生きているとしたら、彼らを無事に連れ帰って欲しい‥‥もし、死んでいたのなら‥‥」
 一人の男がそう言って深々と頭を下げながら冒険者ギルドに依頼していた。
 見たところお武家様の様であるが身元は不明。素性も不明である。
 そして彼は一つ鞄を取り出して、冒険者ギルドに預けた。
「この中には回復薬が入っている。これを彼らに届けて欲しい」
 男はそう言って冒険者ギルドを後にした。

「死人憑きがうじゃうじゃ居る街で、遭難者を捜して助けてきて欲しいだなんて、困ったね。こんな死亡率の高い依頼誰が受けるんだろ‥‥」
 冒険者ギルドで一人ぼやく男に対して一人の男は静かに声をかけた。
「不肖ながら、ウチの組長補佐を参加させて貰えるかな? 新撰組6番隊も出動すると聞く。ウチの隊から大人数をさく訳にはいかないが‥‥組長補佐1人くらいなら何とかなるだろう。あいにくと俺は人外に剣を振るう気はないので‥‥彼女を使って欲しい」
 浅黄色の段だら模様の羽織を着た一人の男‥‥っとそれに付き従う一人の娘‥‥。
 彼女の方がこの依頼に参加するらしい。
「あぁ‥‥はい。あの‥‥、お名前は?」
 冒険者ギルドの男が名を訪ねた。
「新撰組3番隊組長補佐、小春」
 彼女はそう言ってにっこり微笑んだ後に、依頼書に一文を付け加えるように頼んだ。

『悪鬼羅刹が攻めてこようと、永久(とわ)に変わらぬ不変の法則!! 悪・即・斬と言う、おのが正義を貫く為に!! 現在大和に切り込む冒険者募集中!!』
 依頼書の最後にその一文が付け加えられた。

●今回の参加者

 ea0076 殊未那 乖杜(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8626 風月 蘭稜(39歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea9359 ニヴァーリス・ヴェルサージュ(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1624 朱鳳 陽平(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2127 字 冬狐(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●大和潜入
 彼ら一行は馬などを京都で預け、一頭の馬を連れて大和へ潜入していた。
 字冬狐(eb2127)の戦闘馬一頭に荷物を纏めて括り付けて。
「私の荷物もヨロシクね」
 小春からバックパックを一つ預かる冬狐。
 小春は今回は通常服ではなく何時でも戦える戦闘服である。
 胸を黒いサラシで包み、下は黒い股引を穿いている。
 その上から羽織っている新撰組の羽織が無ければ、お祭り風の服装。
 現代風に観るなら、黒いチューブブラとスパッツと言った感じの服装である。
 おかっぱ頭の小春隊員は他に武器も防具も持ち合わせていなかった。
 後は食べ物や飲み物、雑貨類を入れたバックパックを冬狐の馬に預けているだけだ。
「悪・即・斬、か。その正義が善とは限らんが…ああ、己が悪とならぬ為の戒め、かね」
 そんな小春を観て殊未那乖杜(ea0076)がぽつりとつぶやいた。
 肩に鷹を乗せ、腰に刀を差し、移動力重視の装備である。
「うん。はじめさんは『正義の為なら悪に成ることも厭わない狂気な信念の現れ』っていっていたけど、私は難しい事は分からないのよね。それに斉藤さん『俺は悪党だから、嘘も殺しも平気で出来るんだ』ってもいってるし」
 論理的に間違ってないが、理解できる物は少ないだろう。
「まぁでもはじめさんは新撰組の中では1.2を争う剣豪だし、その強さに惹かれて3番隊に席を置いている人は多いよ。裏表の有る人だから誤解されやすいけどね」
 にぱっと笑って小春が乖杜の質問に答える。

「そーいえば、飯、美味かったかな? 小春殿。それとその格好で戦うのか? 武器も無しに」
 氷雨鳳(ea1057)が小春に質問する。彼女は小春に飯を作ったことがある。経歴を持つ。
「うん。特に海老と鯛が美味かったよ。っと、服装の話だね? 私は新撰組三番隊の中では組長補佐をしてるんだけど、剣の腕はそれほどすごくはないんだ。んで、装備を軽量化して手数を増やして、集団のムードメーカみたいなポジションで仕事することが多いから、この服装なんだよ」
 そう言って握り拳を作ってみせる小春。
「私の武術は元々剣術と白打(素手格闘)を融合させた物だから大丈夫だよ。鳳ちゃんは日本刀?」
 小春は刀を差していない。殴って戦うのだろうか‥‥。
「うむ。小春、飛び込む前に魔法が行くからな。先行せぬように」
 鳳に言われて、了解っと笑みを浮かべる小春。元気120%である。

「斉藤は自分とこの隊士にも手を出すのだろうか出さないのだろうか。気になるが口に出してはいわないぞ」
 ぽつりぽつりと独り言を発する雪守明(ea8428)遠巻きに小春に質問しているようだ。
「手を出すってのは‥‥、やっぱりお布団の中に引きずりこんで、朝まで逃がさないってこと?」
 顔を赤らめごにょごにょと雪守明に質問する小春。
「いや、ほら、胸とかお尻とか触るだろう?」
 雪守明に言われて、あぁっと手を叩く小春。
「まぁ斉藤さんのアレは一つの愛情表現ですから、私は結構ガキっぽいんであんまり触れられたことはないけどね」
 彼女は言う程幼児体型と言うわけではない。身長も雪守明とさほど変わらないし、胸もお尻も十分大きい。
 ガキっぽいのは性格のせいだろう。ボーイッシュな感は否めない。
「所であれって何?」
 村の入り口に見える人影、ウスぼんやりとしているが人間の気配ではない。
 死人憑きであろう。だがその数がすさまじい。
 10〜20体は居るだろうか‥‥

 ニヴァーリス・ヴェルサージュ(ea9359)が前にでる。距離を測りつつ詠唱準備。
 山本佳澄(eb1528)が前にでる。距離を取りつつ詠唱準備。
 先に術を唱えたのは山本佳澄。100m先の標的にライトニングサンダーボルトを発射する。
 詠唱と続け、2発3発と発射を続ける山本佳澄。
 小春も相手との距離を測って、なにやら術を唱え始めた。
「急々如律令奉導誓願可不成就也!!」
 彼女の右手の中に雷収束して刃が作られる。さらに詠唱を続ける。
 山本佳澄の唱える雷撃は、敵を貫いて数匹にダメージをもたらしめた。
 徐々に敵が近づき、肉弾戦担当の者達も武器を抜き始める。
 小春は右手に雷の剣を、全身に雷撃と突風を纏っている。
「うし、準備完了」
「いきまーす」
 ニヴァーリス・ヴェルサージュがアイスブリザードを発動させると同時に、肉弾戦担当の者達が一気に飛び出した。
 まずは、風月蘭稜(ea8626)がニヴァーリス・ヴェルサージュのカバーに入る。
 魔法使いを守る壁に成るためである。
 朱鳳陽平(eb1624)が正面にでて死人憑きを相手にする。だが、無理な切り込みはしない。敵と自分の力量を心得ているからだ。
 冬狐がブレスセンサーのスクロールを読む。今の所、仲間以外の反応は無い。
「取りあえず数を減らさないと、話にならないな」
 殊未那乖杜が日本刀で死人憑きを切り裂く。
 オーラを纏い、スマッシュされたその一刀は、死人憑きに大きなダメージを与える。
 氷雨鳳がブラインドアタックを用いて死人憑きを切り裂く。
 黄昏人はまだ見つからない。
 雪守明がオーラパワーを施した刀を使って一つ二つと切り落として行く。
 相手は殆ど防御といった行動を取らないが、逆に攻撃の手をゆるめないのが難点だ。
 一人に対して2〜3匹の死人憑きが襲ってくる。これを全て剣で受けたら、AP使い切っておつりがくるだろう。
 かといって、格闘術は取ってるけど、回避取ってネーよ観たいな感じの前衛集団であるから、避けていては確実に攻撃がヒットしてダメージが累積していくのが目に見えている。

 そんな中敵のど真ん中で10匹くらいに囲まれて踊っているバカが居る。小春である。
 専門のストリュームフィールをを身に纏い、相手に行動制限を与えつつ、敵の間をすり抜ける様にして攻撃を避けている。っが、手に持った雷撃の剣を使わずに、何故かキックで蹴飛ばして回っているのがよくわからない。

 だが、彼女が敵を引きつけている間に、少しずつ数を減らし、状況を有利な方に展開させていけているのは事実だ。
 ‥‥彼女が体力切れで動けなく成らないことを祈るが。
「なんか変なの居るよ? あそこ」
 小春が何かを指さしてるつーか、死人憑きに囲まれてるわ突風に包まれてるわで見えないつーか、声すら聞き取りにくい。
「どれ? っと言うか、どこ?」
 雪守明がその指さす先を見つける。
 優良視力がこうをそうして黄昏人を発見することが出来た‥‥っが、行くまでにかなりの量の死人憑きが居る。つーかチャージングしようにも地面が死体だらけで走り抜けられない。
「今道あけるから」
 言うが早いか、小春から扇形に突風が吹き荒れる。ストームの魔法である。
 小春の左半面に居た死人憑き達が次々に吹き飛ばされ地面に転がる。
 起きあがって再度小春に対して突き進むが、成るほど確かに道は出来た。
「チェストー!!」
 示現流のかけ声と共に雪守明が黄昏人めがけて突貫する。
 続いて殊未那乖杜も同じく突入する。
「黄昏人は奴らに任せて、我々は雑魚の数を減らそうかの」
 氷雨鳳がそう言って吹き飛ばされた死人憑きを一つ、また一つとつぶしていった。
 群がる敵を引き離しながら、雪守明が黄昏人に刀を振り下ろす。
 一人では辛かろうと殊未那乖杜も同時に剣を振る。
 オーラパワーのかかった2人の攻撃に黄昏人も傷を負う。だが、反撃にて2人に爪痕を残す。
 死人憑きはいまだにその数に物言わせて小春と氷雨を襲っている。
 そんな彼女たちを含むのだが、やむなくそのど真ん中にファイヤーボムを撃ち込む冬狐。
ひからびた死体が燃えたり萌えなかったり、風で炎が舞い上がったり、舞い上がらなかったり。激しい戦いになってきている。
「これだけ数が多いと、削るだけでも一苦労だよぉ」
 小春も流石に肩で息している。
 彼女の横をソニックブームが飛んで行く。
 朱鳳陽平が放っているのだが、彼はまだまだ元気なようだ。
 山本佳澄の雷撃もまだ続いている。
 全身に汗をびっしょりかいてはいるが。
「もう一回ストームで弾くから、ブリザードでよろしく」
 小春がまたしても簡易印で術を飛ばす。
 今度ははじき飛んだ死人憑きにファイヤーボムとブリザードが襲いかかる。

 長い長い戦いの末にようやく全ての死人憑きが動かなくなる。
「魔力‥‥温存する予定が‥‥全部使っちゃった‥‥」
 小春が全身汗だくで地面に大の字に成って倒れる。
 十数体の死人憑きの死体の中で血と汗にまみれ動かない。
「これは‥‥帰ったら‥‥刀研ぎに出さないと‥‥だめ‥‥かな」
 血と油で刃こぼれをしている刀を観て氷雨鳳が大きくため息をつく。霧刀もよく頑張った。
 冬狐が水を作り出して、小春に差し出す。
 それで顔を洗い喉を潤す小春。よく見ると黄昏人の方はまだ戦っている様だ。

 敵の攻撃をその身に浴びつつも全力で敵を倒す事に集中する2人。
敵は意志の力で傷を再生することが出来る。
 その再生速度を上回る速度で攻撃を与え続ける。
 2人は全力を持ってこれに当たり、何とか勝利を手に入れた。
 だが、2人の体力も限界に近かった。
「敵のど真ん中で申し訳ないが、ここで休憩といきましょ〜う」
 街にある空き屋っぽい家の一軒に流れ込むと、殆どの物は泥の様な眠りについた。
 風月蘭稜が残党に襲われぬように見張りにつく。
 冬狐は夜の空に光る何かを発見した。
「アレ人だ」
 最初の一言はそれであった。
 長巻きを持って背中に羽の生えた虎縞ビキニの女の子が(注:この時代にビキニは無いけどね)空から振ってきたのである。鎧武者抱きかかえて。
「私たちは貴方達を助けるように以来されてきたものです。どうか警戒を解いて下さいな」
 冬狐の一言に鎧武者も安堵の息をつく。
「それはそれは、私たちはもうダメかと思っていました」
 既に食料が付き剣が折れていた彼らに、頼まれていた食料と回復薬を渡す。
 彼らは数日ぶりの人間らしい食事(っといっても団子と干物だが)に喉を鳴らした。

翌日。
 掃討戦にて彼らはいかんともしがたくその能力を発揮してくれた。
 地術で強化された大鎧に武者兜の黒虎隊員が壁になり、死人憑きを引きつけるだけ引きつけた上でそれを切り捨て各個撃破する戦法はかなり有効であった。
 さらに彼を標的にしてライトニングサンダーボルトやアイスブリザードなど巻き添え覚悟の範囲系魔法も有効な打撃となり、削ると言う作業に有効であった。

 かくして村に居た死人憑きの集団と黄昏人を掃討し、彼らは意気揚々と帰ることが出来た。
 まだまだ大和の国がすくわれるにはほど遠いかも知れないが、それでも大きな貢献には違いないのである。