【黄泉人討伐】斉藤一・神楽坂紫苑・共闘

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:12人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月05日〜08月13日

リプレイ公開日:2005年08月12日

●オープニング

●【黄泉人討伐】斉藤一・神楽坂紫苑・共闘

 京都の鴨川のさらに東、近江屋と言う名の風呂屋とお食事処と旅籠が合体したお店。
 暑い夏だと言うのに、熱々のキツネソバとスキヤキが食べられるお店として有名だが、客の入りはそれほど良くない。(当たり前である)
 そんなお店でちゃっかり座ってズルズルと熱々キツネソバを啜る一人の男。ご存じ新撰組三番隊組長の斉藤一である。
 誰かと待ち合わせをしているようだ。
 あたりを警戒しつつソバを啜っている。
「すまぬ。待たせたな」
 ‥‥待ち人‥‥、年の頃は13〜14。身長の程は140cm弱。額や右腕、右目や全身にサラシを巻いている彼女は、よろよろとしながら斉藤の対面の席に着き、トロロソバを注文した。
「どうしたんだ? その傷は?」
 斉藤はその姿に目を丸く見開いた。
 相手の名は神楽坂紫苑。近江では名の知れた退魔屋であり、名家の跡取りである。剣の腕でも斉藤には及ばないまでも、なかなか出来る御仁なのだ。それを負傷させる相手と言うのが想像出来ない。
「大津に移動中に‥‥不意を突かれてな。共の者をかばったら、少々負傷したと言う訳じゃ‥‥いや、恥ずかしい限り」
 彼女はそう言って苦笑しつつ、注文したトロロソバを受けとる。
「大丈夫‥‥なのか?」
 ソバを啜りながら斉藤が傷を心配する。
「あぁ大丈夫じゃ。わらわは両手どちらでも箸が使えるゆえ」
 そう言って左手で器用に箸を使ってソバをすする紫苑。
「いや、そうじゃなくてケガの具合だ。相変わらず人前では猫を被っているな」
 斉藤の言葉に苦笑を浮かべる紫苑。
「頼みと言うのは他でもない、おぬし今度大和南部の黄泉人討伐軍に参加するじゃろう?」
 神楽坂紫苑の言葉に首を縦に振る斉藤。
「あぁ、なんでも総勢4〜500の軍勢で大和に向かうとか‥‥、新撰組にも家康様を通して参加が求められている。俺も組長補佐連れて参加予定だ。もっとも半分以上は平織様配下の追討軍で、新撰組なんて頭数増やす雑兵程度にしか数えられていないんだろうがな‥‥」
 食後のかち割り氷が入った練乳をミニオタマですくって口に運ぶ斉藤一。全然絵にならない。後ろでは薄絹超ミニの浴衣を着た娘達が接待をしている。

「わらわも100騎ほど近江武士団を引き連れ、平織様の軍勢に加わる予定なのだが‥‥この傷では前線指揮がままならぬ。おぬし、わらわの片腕に成ってくれぬか?」
 突然の事に斉藤一は言葉を失った。
「大きくまて、お前は平織さま直属の近江の武士団だろ? 俺は源徳さま配下の新撰組。派閥が全然違うだろ〜が。それに、3番隊組長ったって武士の中で見たらそれほど偉くねぇ。せいぜい筆頭同心や与力並だ。お前、町奉行以上に偉いんだろ?」
 斉藤の言葉に少し考える紫苑。
「まぁ‥‥近江の中でだけ見れば4〜5番目くらいには発言力は有る‥‥っと思う。故に有る程度の融通は利く‥‥筈じゃ。別に新撰組を辞めて近江に来いと言っておる訳ではない。黄泉人討伐の為の共闘じゃ。後方指揮は鈴鹿殿で良いとしても、最前線の指揮は腕が立つ者で戦術に長けた‥‥わらわの様な者が必要じゃ。情報収集と伝令役に甲賀忍者を数名用意したが、前線でわらわが指揮するに当たり、わらわの護衛を頼みたい。‥‥無論タダとは言わぬぞ?」
 そう言って神楽坂紫苑は斉藤一に一降りの忍者刀を投げて寄こした。

「無名だがなかなかの銘刀じゃ。成功の暁にはもう一降り用意させよう。おぬしが使っても良いし、功績を立てたおぬしの部下が使っても良い。冒険者を雇うなら、金子も用意しよう」
 そう言って紫苑は今度は小判の詰まった小袋をテーブルの上に投げて寄こした。
「おいおい、タダでさえ11番隊が発足するとかしないとかで、新撰組は近藤派と芹沢派で色々と派閥論争があるってのに、志士の‥‥平織様の下で働くのか‥‥、まぁ俺は出世は望んでいる訳じゃないし、悪を討つ力となるならば是非も無いが‥‥」
 そう言って鞘から忍者刀と取り出し中を改めた、確かに良く切れそうである。

「まぁ義勇軍に参加するように言われてるんだ、ダレの下で働こうと、土方の旦那は何も言わないだろうが、井上さんや平山さんはなんて言うかな‥‥」
 そう言って斉藤一は日本刀と小判を片手に冒険者ギルドへ訪れるのだった。

『黄泉人討伐の為に大軍を率いて大和に向かいます。前線指揮官の神楽坂紫苑を警備するための腕利きを募集。斉藤一と共にお仕事してみませんか?』

 政治が絡んだ少々複雑な依頼では有るが、そんな依頼が冒険者ギルドに舞い込んだ。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb0160 黒畑 丈治(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0221 紅 千喜(34歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

草薙 闇慈(ea3349)/ 真神 陽健(eb1787)/ 字 冬狐(eb2127)/ 十文字 優夜(eb2602)/ パレット・テラ・ハーネット(eb2941

●リプレイ本文

●【黄泉人討伐】斉藤一・神楽坂紫苑・共闘
 華の都京都を後にして、一行は大和南の黄泉人狩りへと進んでいた。
 平織配下の武将が300、それに新撰組や冒険者、諸藩の兵が200総勢500の義勇軍は大和南部へと進んでいた。
 そのうち神楽坂紫苑が指揮するのは100騎の近江武士団である。
 弓と鎧で身を包み、馬に乗って大和南へと向かっていた。
「これ、斉藤、斉藤!!」
 神楽坂紫苑に呼び止められて振り向く斉藤一。
 神楽坂紫苑は馬に乗って進んでいるが、斉藤は徒歩で進んでいる。相変わらずに、浅黄色の段だら模様の誠一文字の羽織を着てである。
「斉藤、おぬしまさか徒歩で行く気ではあるまいな? こちらで馬を用意してある。これに乗って行くが良い」
 そう言って神楽坂紫苑は漆黒の毛の戦闘馬を一頭用意させた。
「俺は馬は苦手なんだがなぁ」
 斉藤がそう言って渋々と馬にまたがる。
「それはお互い様じゃ。わらわも馬は苦手である。だが、進軍速度にも影響する故、好き嫌いも言ってはおられぬじゃろう」
 そう言って微笑を浮かべる神楽坂紫苑。傷は既に魔法に寄って回復している。後は体力の問題だが、顔色はそれほど悪くはない。多少の貧血は有るのだろうが。

「余り無理はするなよ? 前線の大将がやられたら指揮に関わる」
 斉藤はそう言って憎まれ口を叩くと馬に乗った。小春がその後ろに相乗りする。
 冒険者一行も3名を除いては馬を持参していた為、事なきを得て出立した。

 そして、丸一日の強行軍が終わりその日の夜の事である。

「お昼食べてないんですけど、夜に成っちゃいましたね」
 月詠葵(ea0020)が大きなお鍋を借りてきて、たき火を焚いて鍋を火にかける。
 ニンジン、大根、里芋、ゴボウ、こんにゃく。
 味噌で味付けしてグツグツ煮込んでいる。コレが今日の夕食に成りそうだ。
「う〜す。にぎりめし貰ってきたぞぉ」
 斉藤一と小春、それに山崎剱紅狼(ea0585)が14人分のにぎりめしを貰ってくる。結構な量のご飯が用意される。
「流石にこの人数だと運ぶのが大変だな」
 山崎剱紅狼がそう言ってにぎりめしの一つを口に運ぶ。
「ところでどうなんだ? 斉藤殿? このメンツの中から3番隊に欲しい奴ってのは居るのか?」
 色々有って三番隊も補充要員を募集している。山崎や月詠等がその候補である。
「おまえたち2人の他には? 一応めぼしい娘が一人居たが‥‥」
 斉藤はそう言って隣に座っていたちっちゃな娘を抱きかかえた。
 食べかけのおにぎりを落としそうになり、わたわたと慌てる水葉さくら(ea5480)。
「ん? 斉藤殿は童女趣味なのか?」
 小振りな水葉さくらを抱きかかえ、膝の上に座らせる斉藤を見て山崎がつぶやく。
「いや、そんなことは無い。やぱり胸やお尻は大きいに限る。‥‥でかすぎない程度にな。だが彼女にも将来性はある。2年後には色っぽい娘に化けているかも知れないぞ」
 そう言って斉藤は水葉さくら抱きしめ、頭を優しく撫でてる。
「はうっ えっ? えぇ!? 私がですか?」
 水葉さくらが頬を赤らめて視線を落とす。
「ここにいる全員の腕前を見た訳じゃないが、彼女と葵くんは将来性があると思うよ」
 そう言って斉藤がさくらを抱きかかえたまま、みそ汁を口に運ぶ。
「俺はどうなんだ?」
 山崎剱紅狼が斉藤に質問する。
「おまえさんは既にほぼ完成してるだろう。将来性以前に」
 そう言って斉藤が苦笑する。
「そう言えば葵は木刀なんだな?」
 山崎剱紅狼が月詠葵の木刀に目をとめる。
「そうなのです。今回はこれが主力武器なのです。これでカウンター+ブラインド+ポイントアタックを仕掛けるのです」
 そう言ってニパっと笑みをこぼす葵。
「いやまて、木刀じゃポイントアタックは出来ないのじゃかなろうか?」
 三月天音(ea2144)にツッコミを入れられる月詠葵。
 言われてはっと気が付く月詠葵。確かに木刀ではポイントアタックは打てない。
 普段は小太刀を使っている彼に取ってコレは盲点であった。
「技の習得が俺と似ているな。小太刀で納めているのか‥‥。シュライクは憶えたか?」
 斉藤が月詠葵に質問する。
「えと‥‥憶えてないです」
 月詠葵の言葉に斉藤が言葉を続ける。
「シュライクをカウンターで撃つことで、一気に相手に大きなダメージを与える必殺技に化ける。シュライクを憶えたのなら‥‥試してみると良い。俺は先の先の一撃と後の先の一撃の必殺技を持っているが、後の先の必殺技がそれだよ。他の奴には内緒だぞ?」
 そう言って斉藤が苦笑する。人切りで有る彼が手の内を晒すのは非常に希なケースである。
 なぜならそれが、自分の生死を分けることにもつながるからだ。
「あの‥‥斉藤様? 私も戦闘考察を‥‥」
 膝の上でご飯を食べている水葉さくらが斉藤におねだりする。
「さくらは確か‥‥既にスマッシュを習得していたな? それで十分な力を発揮できるはずだ。さくらは一人で戦うより、誰かとコンビを組んだ方が良い。スマッシュの一撃と魔法での狙撃が有れば十分に役立つ存在だ。実戦では1対1なんて事は滅多にない。多対多がメインだ。後は命中率と魔法の成功率が安定すれば一人前だぜ?」
 そう言って膝の上のさくらの身体を優しく撫でる斉藤。
 胸や太ももを撫でられて、じたばた逃げようとする。それをみんなで小気味よく笑っていた。

「相変わらず斉藤の手癖の悪さは変わらぬか‥‥」
 距離を置いた陣屋から、神楽坂紫苑がそっと賑やかな斉藤の回りを見つめた。
 自らも側近達に守られ、甘酒を片手に息をついている。
「紫苑様。お加減はもう宜しいのでござるか?」
 結城友矩(ea2046)が彼女を警護するような形で脇を固めて守っている。
「うむ。傷は癒えて折るが、病み上がり故体力がな。だからこそお主達に警護を頼んだのじゃが‥‥」
 彼女の目線の先には小春が大の字に成って眠っている。
 警護が大将より先に寝ちゃうのは不味かろうと思う結城友矩。
「お身体の方はもう良いんですか?」
 ショウゴ・クレナイ(ea8247)が紫苑の傷を気遣って声をかける。
 神楽坂紫苑は少しだけ笑みを浮かべてそれに応える。
「100%の力を出せるか‥‥と聞かれると少々困るが、傷は癒えて折るよ。ただ、血を多く流しすぎた為か、この暑さのせいか、体力が落ちて折る。判断力は落ちてないと思う故、安心致せ。それともおぬしが、わらわに変わって采配を握ってみるかの?」
 そう言って紫苑が軍配を渡そうとする。無論、ショウゴ・クレナイはそれを丁重に断った。
「見まわり組み、第一班集合よ。山崎君は斉藤さんと行動を共にするみたい」
 南雲紫(eb2483)が参列に加わる。3人が当番のしての最初の護衛と成るわけだ。
 彼らの護衛は月が真上に昇るまでそれまでが護衛の時間である。

「敵襲だ〜」
 声が上がる。3人は武器を片手に一目散に声のする方向に向かった。
 警護の兵と戦って居るのは死人憑きが5匹ほどである。
 詳しい数は分からないが、かがり火に照らされ、見ることが出来たのはそれだけである。
 結城友矩が武器にオーラを込める。
 戦闘馬に乗って、ショウゴ・クレナイが突進を仕掛ける。
 南雲紫が短刀を抜いて斬りかかる。
 ショウゴ・クレナイのチャージングの一撃がクリーンヒットするが。馬は急に止まれない。
 そのまま彼を乗せ、茂みの向こうに走って行く。
「相手が、コイツらなら、遠慮はいらんな」
 身体半分吹き飛んだ死人憑きを短刀で滅多切りにしていく南雲紫。肉がそげ落ち、死人憑きの身体が切り裂かれていく。
 そこにオーラパワーの乗った、結城友矩の日本刀の一撃が炸裂する。
 粉々に吹き飛ぶ死人憑き。
 2人は優勢に攻撃を繰り出して行く。
 2体目の死人憑きを倒した時に、ショウゴ・クレナイが戻ってくる。
 戻りの一撃のチャージングで3体目の死人憑きに重い一撃を与えるが、そのまままた走りすぎて行く。
「忙しい奴だな」
 南雲紫が視線を流し、ショウゴ・クレナイの動きを目で追ったが、直ぐに次の死人憑きに飛びかかった。

 オーラパワーの乗った武器はアンデットに大ダメージを与える。それは死人憑きや黄泉人も例外ではない。その日本刀の一撃の破壊力に酔いしれる結城友矩。5分とかからずに5体の死人憑きを葬る事に成功する。
「もう二度と迷わないように、ね‥‥」
 南雲紫がそう言って動かなくなった死体に、ぽつりとつぶやく。

 夜の闇にまた静けさが戻った。
 3人は交代して眠りにつくことにする。神楽坂紫苑もまた眠りについた。
 だがしかし、その眠りは浅くして目覚めることとなる。
 日が昇るか昇らないかの明け方の一番暗い時に、また死人憑きが襲ってきたのである。

 夜番をしていたのは第3班。先に飛び出したのは伊東登志樹(ea4301)。右手に桃の木刀を、左手に短刀を持って、死人憑きの中へ飛び込んで行く。
 専門職さながら回避能力と、達人の領域の剣技を用いて死人憑きを叩きのめし、切り裂く。
 やや遅れて戦列に加わったのは阿阪慎之介(ea3318)。刀をオーラパワーで強化し、オーラシールドを構えて颯爽と死人憑きの中に乗り込んで行く。
 その攻撃を盾で受け、カウンターの一撃で敵を粉砕していく。おそれを知らぬ死人憑きを物ともしない破壊力である。
「私は、悪を滅ぼす鬼となる!!」
 黒畑丈治(eb0160)が木刀を構え武者鎧で完全武装している。その防御力は近江武者達もかくやと言うレベルである。どんな攻撃も耐えきる覚悟で敵に臨むのだが‥‥。
 ‥‥敵の攻撃が当たったり当たらなかったりする。
 彼の回避力は決して高い方ではない。
 それでもひとえに攻撃が当たらないのは、相手の動きが殆どシロウト同然だからである。
 威力は少ないが、木刀を使って敵にダメージを与え続け、敵の戦力を削り続ける。
 黒畑丈治は勢いに乗って、そして日頃の鬱憤を晴らすようにして、ガツガツと木刀で殴りつける。
「おじちゃん元気だね?」
 小春が眠気眼で黒畑丈治にくっついてくる。素手に、上半身裸で胸に黒いサラシを巻いている。下半身は黒いステテコに足にも黒いサラシを巻いて居る。夢うつつな感じで回し蹴りを炸裂させ、死人憑きに有効打を与えている。
「小春さんも白打が得意なのですねぇ?」
 紅千喜(eb0221)が敵の攻撃を交わしつつ、左腕と右足で器用に同時攻撃を繰り出している。
「ん? あぁ、我流だけど、打撃と剣術と魔術を合成した格闘術なのだわさ」
 眠い目を擦りながら千喜の質問に答える小春。
 殆ど全裸に近い彼女は行動ポイントがマックスである。
 紅千喜もそれに及ばないまでも行動ポイントは高い。
 では、魔法武器しか利かない敵にどうやって有効打を与えるのか‥‥それは魔法である。
 小春は身体にライトニングアーマーを付与し、敵を殴ることで雷撃のダメージを与えているのである。
 程なくして、あたりが白み始めた頃に、敵は殲滅される。今回現れた死人憑きは6体。黄泉人の姿は無い。

「あの〜斉藤様?」
 本陣からやや離れた場所で、毛布にくるまりながら、水葉さくらが質問する。
 斉藤は彼女の抱き心地が気に入ったのか。彼女のおなかに左手を、彼女の胸に右手をぐるりと回して後ろから抱きかかえるようにして眠っている。
「私たちは‥‥加勢しなくても良かったんですか?」
 水葉さくらの質問に斉藤一が静かに応える。
「良いんだ。戦争とは虚虚実実。騙してる様で騙されて、騙されている様で騙して居るんだそうだ。だから、俺は‥‥いや、俺達は、夜襲には反応せず、昼間の切り込みに専念してて良いと紫苑の奴が言ってたんだ。だから俺達は眠って体力を回復するのが仕事なんだ」
 斉藤が分かったようで分からないことを口走る。
「あーえーと、どうゆうことなんじゃろうか?」
 三月天音が2人の元にそっと近づいて質問する。
 足音一つ立てない彼女の動きはすばらしい物が感じられる。
「それは私がお答えしよう」
 同じく全く足音を立てずに近づく影、甲賀の里の頭目にして、闇の忍者軍団2000の軍団長。近江にこの人有りといわれる特上忍(自称)ジライヤである。
 全身黒ずくめの忍び装束で目以外露出してないので、性別すら分からないが。
「ほう、貴方がジライヤ殿ですか‥‥」
 そう言って、神山明人(ea5209)がジライヤを見つめる。同じ忍者仲間。通じる物が有るのだろう。
「神楽坂紫苑殿の言葉をそのまま伝えると、『敵が夜襲をかけてくるのは予想範囲内。彼らは我々を攻撃し続けることで、疲弊させ、戦力を殺ぐことを目的としている。ならばこちらはその策に乗ったように見せかけ、主力は体力を温存し、切り込みに力を入れよ』っだそうだ」
 ジライヤがそう言ってまた闇に消える。
「えーと、三月天音は神山明人と共にタッグで行動して黄泉人を探してくれ。死人憑きを操ってる黄泉人‥‥もしくは黄泉将軍がどっかに居るはずだ。見つけたら呼子笛を鳴らすんだ。俺と剱紅狼、月詠と水葉で敵のど真ん中に切り込む。呼子笛が鳴ったら出来るだけそっちに向かうように努力するが、やばそうならトラップ張って逃げてくれ」
 そう言って斉藤は微笑を浮かべる
「難しい任務ですが、それは私を信頼してくださっていると考えて、良いのかな?」
 神山明人が斉藤に質問する。斉藤は黙ってそれにうなずいた。

 夜明けと共に彼ら6人は別行動を取る。無論神楽坂紫苑の承諾は得ている。
 彼らの後方には30の騎馬弓兵が動いている。

 黄泉人が何処にいるかなんて分からない。だから手当たり次第に村々を回る。つぶされた村‥‥つぶされていない村‥‥一つ一つ確認していく。黄泉人の足取りを追う為である。
 そして、遂に死人憑きがあふれる村を発見することが出来た。
「助けてください。お願い助けて〜!!」
 絹を裂くような女性の悲鳴。
 村娘であろうか、年頃の娘が死人憑きに襲われている。
 走ってくる村娘を抱き寄せる斉藤。
「俺達が来たからにはもう大丈夫だ」
 そう言ってクールな笑顔を見せる斉藤。その横を駆け抜けていく山崎。
 右手に木刀を、左手に日本刀を持って、一気に死人憑きの中に突進していく。
「テメぇ等っ、もっぺん死んでこいやァ!」
 月詠葵と水葉さくらがそのサポートに入る。
 本当なら神楽坂紫苑を護衛したかった2人だが、無理矢理斉藤に連れてこられている。
 水葉さくらが力強くスマッシュの一撃を死人憑きに与える。
 鬼霧雨の壮絶な重量でのスマッシュは驚異である。
 そして、手数の多い月詠葵が木刀で三段突きを放つ。
 2人が山崎剱紅狼の左右に展開することによって、山崎が敵に囲まれるのを防いでいる。
 敵の総勢は20〜30は居るだろう。忍びが放たれ本体に繋ぎが走る。程なくすれば、後方の30騎の武士達が来てくれるだろう。村の中では騎馬弓兵がどれほどの威力を発揮するか分からないが。
「ありがとうございます。斉藤さま。手癖が悪く女が弱点というのは本当だったのですね?」
 村娘の顔がニタリと微笑むと、村娘の右手が斉藤の首を絞める。
 その姿だまるでミイラのように変貌していく‥‥黄泉人だ。
「あぁ‥‥こう来るのを待っていた‥‥俺が普段女癖が悪いのを装っているのは‥‥それを弱点と思いこんで襲ってくる‥‥刺客を誘発するためさ」
 一瞬何かがはじける様に動く。
 水葉さくらはそれを運良く瞳にとらえた。
 斉藤一は左手で左腰の日本刀を高速の抜刀術で抜くと、黄泉人の腕を切り落としたのである。
 腕を切り落とされて、悲鳴を上げる黄泉人。そして開いている左手で斉藤を襲う。
 斉藤はその攻撃をその身体で喰らいながら、カウンターの一撃を黄泉人の胴体に切りつける。
 助太刀に来ていた月詠葵の木刀の攻撃を浴びて、黄泉人はあえなく崩れ落ちた。
「普通の黄泉人なのか、上位種の黄泉将軍なのか分からなかったな」
 首に填っていた黄泉人の右手を外して投げ捨てる。

 神山明人が家の影から手招きを4人はそれに釣られるようにして移動する。死人憑きを誘い込むと、突然に炎を上げて死人憑きが燃え上がる。
 三月天音がファイヤートラップを仕掛けておいたのである。
 水葉さくらが炎を喰らった死人憑きを、月詠葵と共に倒していく。
 山崎は既に敵に囲まれているが、まるでそれを楽しむかのように、斬って斬って斬りまくっている。

 近江武士団の活躍により、死人憑きの集団は鎮圧された。
 既に村には生き残りはなく、黄泉人の為に全滅したのか、既に逃げ出した後なのかは分からない。

 無人の村の空き家を借りて、今夜は暖かい布団で眠ることにした。

「酒を呑むと人が斬りたくなる‥‥人を斬ると女が抱きたくなるんだ‥‥」
 斉藤一は小さな農家の一室に布団3つ引いて寝ることになる。一つは月詠葵が、一つは山崎剱紅狼が、最後の一つは斉藤と水葉さくらが眠る事になる。
「あの‥‥斉藤さん。‥‥Hなのはダメですよ? ダメですからね?」
 念を押して警戒する水葉さくら。斉藤はそんな彼女をにやにやしながら見つめている。

 小さな村と言っても庄屋の家は思ったより大きく、珍しく風呂を完備していた。
 神楽坂紫苑は風呂を浴び、長旅の汗を流すことにする。
「失礼致します。お背中流しに来ました」
 神楽坂紫苑入浴中に、浴室に入る紅千喜。身長140cm、14才に見える童顔な神楽坂紫苑であるが、脱いでみると案外素敵な身体をしている。
「ふむ、頼むとしよう」
 そう言って紫苑が背中を向ける。傷一つ無い綺麗な肌である。
「あの‥‥大けがした後はどうなさったんですか?」
 背中を流しながら紫苑に質問する紅千喜。
「クローニングをかけさせた故、傷痕は消して折る。まだ嫁入り前故な。身体中傷だらけでは困ろう?」
 神楽坂紫苑がそう言って微笑する。
「おぬしも良い身体をしておるのぅ。男共が放っておかぬであろう?」
 そう言って神楽坂紫苑が紅千喜肌に触れる。
「あの‥‥紫苑様‥‥失礼が無ければ‥‥胸‥‥触っても宜しいでしょうか?」
 乳を愛撫することを良しとする彼女は、胸を高鳴らせて神楽坂紫苑の胸に手を伸ばした。
熟れた果実の様なその胸に触るという行為に、彼女の鼓動は小動物のように高鳴っていた。
「なんだか‥‥目の色が違うのぅ‥‥」
 そう言って微笑を浮かべる紫苑。

 南雲紫は、そんな庄屋の家の風呂場の外で見張りをしていた。
 いついかなる時でも見張りを付けねばならないが、入浴中の女性に男の見張りを付けるわけにはいかない。故に彼女が見張りに立っているのである。
 そして、そんな研ぎ澄まされた彼女に近づく一人の男‥‥斉藤一である。
 不意に現れた彼を短刀で斬りつける彼女。斉藤はそれを避けようともしない。
 斉藤の額に刃がつきたち、多少血がにじんでいる。
「紫苑殿に呼ばれて来たんだが‥‥」
 斬りつけられたことなど何処吹く風に、南雲紫に語りかける斉藤。
「神楽坂隊長は現在ゆあみの最中です。また後でお越し下さい」
 強気な発言で斉藤に吠えかかる南雲紫。
「斉藤か?」
 風呂場から声がする。
「話があるから一緒に入らぬか?」
 神楽坂紫苑が風呂に斉藤を誘う。
「そう言う冗談は回りが本気にするからやめて置いた方がいいぜ? 紫苑殿」
 斉藤が紫苑の言葉に返答する。
「別に冗談では無いよ。風呂にでも入って腹を割って話そうと思ってのう。おぬしと冒険者のおかげで此度の戦いは大勝である。何か礼をせねばと思ってのぅ」
 紫苑がそう言って斉藤に応える。
「ならば冒険者に小判のひねりでも包んでやってくれ。風呂なら京都に戻ってからつきあってやるからな」
 そう言って斉藤はその場所を後にした。

 眠る水葉さくらの布団の中に斉藤一が潜り込む。憧れの新撰組の羽織が彼女の枕元に脱ぎ捨てられて。
 彼女のお尻に何か固い物が押しつけられる。
「あの‥‥斉藤さま‥‥何か‥‥固い物が‥‥」
 振り向く彼女の前で、斉藤は忍者刀を握って布団に入っていた。
「寂しいことに、ダレももらい手が無かったんだが‥‥。もっとこう、欲しい欲しいと雅な娘達が俺の処に言い寄ってくるのを想像していたんだが‥‥」
 なんだか少々落胆しているような斉藤一。
「あの‥‥では‥‥私が貰っても‥‥良いですか?」
 水葉さくらが忍者刀に目を移す‥‥。
「やっても良いが‥‥売ったり交換したりしちゃダメだぞ? 御拝領の品なんだからな」
 斉藤はそう言って水葉さくらに忍者刀を渡す。
 彼女は斉藤から受け取った忍者刀にレインボーリボンを結ぶと、大事そうに抱えて眠った。

「そーいえば、今回は私の出番が偉い少ない気がするんだけど‥‥」
 にぎりめし片手に小春がブツブツと文句を言う。
 場所は庄屋の家。神楽坂紫苑の寝所の警護である。
「まぁ人が多いですからのぅ。拙者も鞭の出番が無かったのじゃ」
 三月天音が相づちを打つ。それでも男性陣よりは出番は有る方だ。
「ボクが男じゃなかったら、寝所の中の警護をするんですけどね。残念です」
 ショウゴ・クレナイが小春と向かい合うようにしてにぎりめしを頬張っている。
「私は男女の垣根無いけど、お偉いサンはそう言うわけにはいかないもんね〜」
 小春がショウゴの愚痴につきあっている。
「その前に馬と一心同体を売りにしてるんで、馬が入れないところはちょっと‥‥」
 そう言ってショウゴ・クレナイは微笑する。

 かくして彼らの大規模な遠征は幕を閉じる。残念ながら黄泉将軍らしき者を倒すことは出来なかったが、何人かの黄泉人と100に近い死人憑きを排し、こちらの被害は皆無で有ったことは、賞賛に値する功績であろう。
 彼らは黄金色のおひねりを貰い、再び京都への家路につくのであった。

どっとはらい。