【五条の乱】紫陽花でお花見♪

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 1 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月27日〜06月02日

リプレイ公開日:2006年06月05日

●オープニング

●五条の乱

 新しい京都守護職の働きは宮中でも評判だった。
 京都の人々の目にも、彗星の如く現れた神皇家の若き皇子が幼い神皇を助けて京都を守ろうとする姿は希望と映っていた。事実、悪化の一途を辿っていた京都の治安に回復の兆しがあった。
 五月も半ばを過ぎたある日、事態は急変する。
「五条の宮様が謀叛を!? まさか‥‥嘘であろう?」
 新守護職に触発されて職務に励んでいた検非違使庁が、五条の名で書かれた現政権打倒の檄文を発見したのだった。下役人では判断が付かず、判官の所に持っていき天下の大事と知れた。
「よもやと思うが、事情をお聞きせねばなるまい」
 半信半疑の大貴族達は神皇には伏せたままで五条邸に使者を送ったが、事態を察した五条の宮は一足違いで逃走していた。屋敷に残っていた書物から反乱の企てが露見する。
 押収した書物には、五条が守護職の権限を利用して手勢を宮中に引き入れ、御所を無血占領する事で安祥神皇に退位を迫る計画が記されていた。他にも源徳や一部の武家に壟断された政治を糾し、五条が神皇家による中央集権国家を考えていた様子が窺えた。
「京都を護る守護職が反乱を起すとは‥‥正気とは思えませぬ」
「そうだ、御所を占領したとしても大名諸侯が従う筈があるまい」
「現実を知らぬ若輩者の戯言だ」
 騒然とする宮中に、都の外へ逃れた五条の宮と供の一行を追いかけた検非違使の武士達が舞い戻ってきた。
「申し上げます!」
「どうしたのだ!?」
「都の北方から突如軍勢が現れ、我ら追いかけましたが妨害に遭い、五条の宮様達はその軍勢と合流した由にござります!!」
 ここに至り、半信半疑だった貴族達も五条の反乱が本気と悟った。五条と合流した彼の反乱軍は都に奇襲が適わないと知って京都の北方に陣を敷いた模様だ。
「寄りによってこのような時に源徳殿も藤豊殿も不在とは‥‥急ぎ、諸侯に救援を要請せよ!」
 家康は上州征伐の為に遠く江戸に在り、秀吉も長崎に発ったばかりだ。敵の規模は不明ながら、京都を守る兵多くは無い。
「冒険者ギルドにも知らせるのだ! 諸侯の兵が整うまで、時間を稼がねばならん」
 昨年の黄泉人の乱でも都が戦火に曝される事は無かった。
 まさかこのような形で京都が戦場になるとは‥‥。

●紫陽花でお花見♪

 近江の春は短い。
 3月4月に雪が解け、梅や桜を愛でることが出来たと思ったら、今度は梅雨も間近に迫っている。
 紫陽花の花が色づき始め、6月には見頃となるだろう。

 そんな近江の安土城にて、その日は近江のお偉い様ががん首揃えて協議を行っていた。
 現在近江の最高責任者である家老の浅井長政(あさい・ながまさ)様。
 安土城の管理兼城下町町奉行を任されている次席家老の春夏秋冬東西南北(ひととせ・よみひろ)様。
 大津町奉行兼鋼鉄山猫隊隊長の神楽坂紫苑(かぐらざか・しおん)様。

 ご意見役として近江で名家と呼ばれている近衛家、神楽坂家、京極家、そのほか総勢15名に及ぶ近江の権力者達ががん首揃えて難問に立ち向かっている。

 議題は一つ。近江の今後の身の振り方に着いてである。
 のらりくらりどっち着かずで今日まで生き延び出来たが、近江は平織虎長様の直轄地である。
 平織虎長様亡き後、近江の最高責任者が不在のままで現在に至る。
 現在その実権を握るのは浅井長政様。

 そして、家臣達の意見も、諸侯の意見も利権もまちまちで難儀している。

 近江は京都に近く、また天下の米所であり、米の備蓄もかなりの物である。
 また、先の大戦でのそれも有るとおり、多大なる兵力を持つ軍事的な面も持つ。
 さらに交通の要所として、京都の東側の街道の大半を占めているという通り道でもある。

 天下の関ヶ原もこの近江にあるのだ。
 東国の武力派の面々も近江が有るためにうかつに京に上ることは出来ないのである。

 さて、現在近江でもめている議題は
 『このまま平織家家臣として尾張の傘下に入るか』
 『独立の道を模索して、平織家の派閥から抜け出すか』
 『別の勢力(藤豊家・源徳家)に加勢するか』
の3つに別れている。

 一部の諸侯からは『虎長様の敵討ち、京都から源徳勢力を排除すべし、直ちに京に攻め上がるべき』などのとんでも無い意見も上がっている。

 実際に尾張では『平織様の仇を討ち、源徳家康を倒した者が次期当主に成れる』っともっぱら噂である。

 近江は生き残るために、分岐点に立たされていると言っても過言ではない。

「殿! 大変です! 三河勢が‥‥三河勢が尾張に攻め込みました!!」

 突然の言葉に困惑を見せる浅井長政。
 尾張から近江に対しての援軍要請である。どうやら誤報では無いようだ。

ここが決断の時である。

「近江は平織家にお味方する。だが、尾張の直轄地には成らぬ、動乱中の尾張の指示を仰いでいては行動が2手も3手も遅れてしまう。我々は‥‥近江は独自の路線で領地の管理を執り行うものとする!」

 浅井長政そう言ってパンっと扇子を叩く。配下達もそれに応じるように首を2度縦に振る。

「春夏秋冬東西南北‥‥かねてより徴兵してあった民兵5000を持って尾張の援軍に迎え。うかつに触らず、付かず離れず、三河勢をけん制するのだ。出来るな?」
 浅井長政に命じられ、春夏秋冬東西南北が御意と首を縦に振る。

「神楽坂紫苑。近江精鋭武士団1500を持って大津の警備に当たれ。今日は攻めやすく守るには困難な地形。大津からにらみを利かせるのだ」
 神楽坂紫苑が御意と首を縦に振る。

「さて、では、我々は独立を祝って茶会でも催そうでは無いか‥‥野点が良いな‥‥誰か‥‥」
 その言葉に京極弓近が名乗り出る。

「では、京極殿、近日中に野点の用意を、楽しみにしておるぞ」
 浅井長政に言われ、京極弓近は深々と頭を下げた。

●冒険者達へ。
 冒険者ギルドへと密やかな依頼が入った。
 浅井長政から直接の依頼である。

 依頼の内容は『お茶会(野点)を開くため、芸が出来る者、身辺警護が出来る者を募集する』っと言う事である。

 野点では無防備に領主である浅井長政様が姿をさらすため、この戦乱の中では暗殺の危険性が高いというのである。

 実はソレは表向きで、野点を催すことで、近江国内の反対勢力‥‥いわゆる内部の敵をいぶり出そうというのが本当の目的らしい。

 そんなわけで、コッソリと浅井長政様の身辺警護が出来る人募集と言う訳である。

●今回の参加者

 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0160 黒畑 丈治(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407

●リプレイ本文

●【五条の乱】紫陽花でお花見♪
 月に叢雲、花に風。
 一同は野点の行われる場所へしずしずと東へ東へ。
 野点とは野外でお茶を点ててそれを飲み、季節を愛でる物である。
 この季節だと紫陽花や菖蒲などが良いだろう。

 安土の城を見ながらさらに東へ東へ。
 野点の目的地である関ヶ原に到着していた。

 平野の真ん中に咲く紫陽花の花。
 そんな中に引かれた畳が50畳。
 屏風や茶釜など、一通りの用意が執り行われている。

 警備主任は京極弓近。控えめだが近江では神楽坂家、近衛家などの並んで名家と呼ばれている家柄である。

 薙刀を持った警備の物が20名ほど。
 それとは別に黒い着物の侍が1名席に着いている。
 家門から察するに浅井長政の物であると判別出来るが、本人が到着するのはあと1刻ほどあとである。どうやら影武者の様である。

 顔立ちはそこそこにていると言う程度である。
 背格好が一緒で服そうが一緒になら問題無いのであろうか。

「回りは全て平野に成っております。空気も良く見晴らしも良い。どこかに兵が潜んでいれば直ぐに分かると思います。警備主任は京極家にお任せしてあるが、側近として近衛家の若武者と影武者を一人用意させました」

 全身忍び装束のいかにも妖しいと言った御仁が音もなく現れ、島津影虎(ea3210)に耳打ちする。

「これは情報痛み入ります。所であなたは何というお名前ですか?」
 島津影虎が忍び装束の御仁に質問する。

「はい、甲賀忍軍の頭目で名をジライヤと申します」
 彼は静かにそう答えた。
 甲賀忍者なら誰もが知っていて、そして誰も素顔を知らない人物であろう。
 現在もその素顔はマスクで覆われている。

「聞いても良いか? もし疑わしい者が居たとするだが手を出さないものも居るだろう、今回行動(暗殺)な者だけを捕えるのか、泳がして更に見つけるのか?」
 我羅斑鮫(ea4266)がそう言ってジライヤに質問する。

「そうですね。今回の動きで疑わしき物は全て抹殺。生きて捕らえる必要は有りませんね。‥‥第一優先は殿の安全、次は疑わしき者の処罰です。何も起こらないと言う結末も想定出来ますが、それはそれでよい事だと思います」
 彼はそう言って静かにまた頭を下げた。

「鳴子を仕込む事は出来ないのだろうか?」
 神山明人(ea5209)がジライヤに質問する。
「残念ながらその案はお断りさせて頂きます。馬が暴れても困ります故、鳴り物は少々控える方向にして頂けるとありがたいかと」
 ジライヤはそう言って深々と頭を下げた。

 刻が過ぎ、近従を引き連れた浅井長政様到着。
 近江38万石、兵力1万を動かす大名である。
「冒険者に話がある。他の者は控える様に」

 畳の縁に座る浅井長政、遠巻きに配置された兵士達。
 浅井長政の回りには冒険者と影武者とジライヤだけとなる。

「この度は冒険者の皆方々にご迷惑をおかけする。近江は平織家の中でも美濃や尾張に並ぶことが出来る国としたい。これはその第一歩なのだ。おそらくそれを良しとしない者達から襲撃を受けよう。身内の中からも呼応する者も出てくると思う。それらを全てあぶり出すための、いわば一世一代の策略である。‥‥神楽坂紫苑には内々に三河国境を視察させ、京都に向かわせた。彼女が近くに居ないのは心細い。警備は近従が5名。弓近の兵が20。それにそなた達だ。十分注意して策を進めて欲しい」
 そう言って彼は下民である冒険者に深々と頭を下げた。
 下げた頭にベェリー・ルルー(ea3610)の三月がぽふりと手を乗せたりしてるから始末が悪い。皆、笑いを堪えるのに必死だ。

 さらに半時ほどの時を置き、野点が始まる。
 暖かい抹茶と練り菓子が冒険者達にも振る舞われた。
 半数ほどは警備の為に席を外し身を潜めているが。

「お毒味させて頂きましょう」
 尾花満(ea5322)がそう言ってお茶に口を付ける。渋いがそれで居て品のあるうまさである」

 しばらくしてお茶を楽しんだ一行は芸を楽しみ出す。
「本日、芸を披露させて頂きます‥‥金色の実りの妖精ベェリー・ルルーと申しますですぅ」
 愛犬の上に乗り、竪琴を奏でる彼女に対して、皆耳を傾ける。
 そんな中に一人の若武者が急ぎ足で近づいてくる。
「殿一大事でございます」
 近付く男に見覚えはない。
 フレイア・ヴォルフ(ea6557)が真っ先に飛び出す。
 っと同時にその男は腰の刀を抜こうとした。
 それに対して今まで座っていた座布団を投げつけるフレイア・ヴォルフ。
 敵が怯んだ所へ黒畑丈治(eb0160)のコアギュレイトの一撃が放たれる。
 術に寄って束縛される賊。

「浅井長政殿、今までの恩義あれど、故有って刃向けさせて頂きまする!」
 先ほどまで茶を点てていた京極弓近が懐から軍配を抜く。
 それと同時に警備の薙刀兵20名が敵へと変貌した。

 ベアータ・レジーネス(eb1422)がブレスセンサーで敵の位置を特定する。
 20の兵以外にも伏兵が居るかも知れないと判断したからだ。


「雑兵が数居ても戦況は動かないよ!」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)が太刀「来派国行」+2を持って雑兵の一人を切り裂く。
 浅井長政さまは影武者様と並び敵の目を攪乱する。
 冒険者各員が混線状態に成るなかで、フレイア・ヴォルフがダーツを投げてけん制を行う。

 20人から成る賊達を冒険者が一人また一人と倒していく。
 京極弓近が薙刀を拾って一気に浅井長政に斬りかかるが‥‥っが、身をていして守ってくれたのは他でもない三月であった。

「良くやった。褒美として武者兜を授けよう」
 三月の頭に雅やかな武者兜が被される。

 戦いは終わった。
 しかし、それは政治的な始まりの一歩である。
 京極家当主とその側近の部下達の裏切り、そしてそれに呼応するように安土城でも内乱の動きがあった。

 っが、京極弓近が討ち取られ、首が晒されることに寄って、内部的な動きは未然に防ぐことが出来た。
 もしこの作戦が失敗していれば、北近江と南近江は内部分裂して、内戦が勃発していただろう。

「諸君らのおかげで事は成し遂げられた。これで心おきなく兵を動かすことが出来る。先の戦‥‥そして此度の五条の乱‥‥京都は酷く狙われやすい。京都に兵を置く事も検討せねば成るまい。そのためにはまだまだやらねば成らぬ事がある‥‥。冒険者の手もまだまだ借りることに成るだろう。今後ともヨロシク頼む」

 浅井長政はそう言って静かに頭を下げた。