【鉄の御所】風が吹くとき
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■ショートシナリオ
担当:凪
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:11 G 94 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月23日〜07月29日
リプレイ公開日:2007年08月01日
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●オープニング
●討伐の勅令
新撰組に酒呑童子討伐の勅令が下されたのは、7月下旬の事である。
「歳、討伐の勅が出るぞ」
その数日前、御所に呼び出された新撰組の近藤勇は、安祥神皇の近臣より近いうちに勅が下る事を知らされた。
「ようやくか、待ちくたびれたぜ。鉄の御所の鬼どもに、目にもの見せてやる」
土方歳三は不敵な笑みを浮かべる。鬼の襲来から約一月、激戦に参加した隊士達の傷も癒えて、戦いの準備は整っている。
去る6月末、突如として都に襲来した鬼の軍勢。
京都を守る侍と冒険者の活躍により、辛うじて撃退したものの、酒呑童子が率いる数百体の人喰い鬼に禁門まで侵入され、ジャパンの帝都はその防備の甘さを露呈した。
折しも、京都方と反目する長州藩の吉田松陰、高杉晋作らが滞在中の事件であり、少なからず交渉にも影響を与えたと言われている。
この時、守備勢の主力として奮戦し、多くの犠牲を出した新撰組は直後より酒呑童子討伐を願い出ていた。
「だが、俺達だけで戦うことになりそうだ。見廻組も今回は手勢を出すと言ってくれているが、正規の兵は動かせんそうだ」
「相変わらずだな、御所の連中は。鬼の報復も怖いし、負けた時は新撰組の責任にしようってことか。まあ、おかげで俺達が戦えるんだから皮肉だが‥‥」
比叡山の酒呑童子退治は筋目からいえば見廻組、黒虎部隊の管轄だ。或いは大大名が大軍を動かして討伐に当たるべきなのだが、そこには今の京都の複雑な政治事情が関係していた。
「悲観する事はない。あそこを本気で攻めるなら、かえって少数精鋭の方が成功率が高いと思っていた。都の警備も疎かに出来ないが、動ける組長を集めて討伐部隊を編成しよう。冒険者ギルドにも協力を要請しなければな」
そして、新撰組局長近藤勇より冒険者ギルドに酒呑童子討伐の依頼が届けられた。
●前代未聞の協力者
京都の東の外れに有る甘味茶屋。
最近ここの葛餅が美味しいと評判である。
黒蜜たっぷりの葛餅を平らげる2人の影。
一人は浪人風‥‥もう一人は若武者風。
言わずと知れた新撰組三番隊組長の斉藤一と、近江で十指に入る実力者大津町奉行神楽坂紫苑である。
どちらもお忍びでの会合‥‥いわゆる密会と言う奴である。
「比叡山への討伐の任、新撰組に下りた様じゃな?」
神楽坂紫苑がそう言ってお茶を啜る。
「あぁ、三番隊も冒険者を集い、精鋭を選んで露払いをする予定だ。‥‥1番隊が本陣を攻める為の露払いに、少しでも多くの人食い鬼どもを殲滅するのが3番隊の任務だ‥‥っと思っている」
お茶を啜りながら斉藤一がぽつりと返答を返す。
「ふむ‥‥実は色々と政治的な駆け引きが有ってじゃな‥‥その‥‥おぬしの少数精鋭部隊の中に‥‥わらわと数人の兵を混ぜて欲しいのじゃが‥‥出来るじゃろうか? 無論無理なようならこちらで兵を集めて参戦しても構わぬのじゃが‥‥」
珍しく仕立てに出てくる神楽坂紫苑。
「一つ貸しだ‥‥おまえさんが頭を下げてまで入れなきゃならねぇ政治絡みの相手ってのはどこの侍だ? 薩摩か?」
その言葉に神楽坂紫苑は首を横に振った。
「まぁ身内の不祥事と言うかじゃな‥‥豚鬼を3匹程と通訳の山姥を‥‥どうしても酒呑童子討伐に加わりたい‥‥っと豚鬼にせがまれての‥‥公式には浪人者として扱ってもらってかまわぬ‥‥4匹とわらわを入れて5名、頭数に入れて貰えるか?」
珍しく頭の低い神楽坂紫苑。斉藤一も今回ばかりは胸を張って‥‥っと言う訳にはいかない。
「では、近江からの援軍を5名‥‥仮隊士として雇い入れよう。今回限りの傭兵って奴だ。‥‥新撰組の羽織を羽織って仕事をして貰うことに成るが‥‥それは構わないな?」
斉藤一の言葉に胸をなで下ろす神楽坂紫苑。
「うむ。一つ借りじゃな‥‥」
そう言って小さく笑みを浮かべる神楽坂紫苑。
「あぁ、大きな貸しが一つ作れて腕っ節の良いのが借りられるんだ、こちらに損は無い」
そんな訳で神楽坂紫苑と斉藤一の裏工作が相成った。
っと言う事で、斉藤一、小春+三番隊の精鋭4名。に豚鬼3匹+山姥1匹+神楽坂紫苑の合計10名の討伐隊が結成された。
比叡山の北側から攻め込み、出来る限り敵を引きつけ撃破し、他の隊の為の露払いが大まかな任務である。
彼ら10名と合流し、鬼退治をしてくれる腕に自信の有る冒険者募集。
臆さぬならば、是非その腕を貸して頂きたい。
●リプレイ本文
●【鉄の御所】風が吹くとき
比叡山。京都と近江の境界線に位置し、長年に渡って人間の手の届かぬ世界。
ウワサによれば酒呑童子を筆頭に数々の鬼達が暮らしているとか。
京都も近江も手が出せなかった暗黙の世界である。
「あ〜、今回は新撰組三番隊の討伐部隊にご参加頂き、冒険者‥‥それに近江衆には非常に感謝している。相手はあの酒呑童子の配下とされる鬼だ。人喰鬼の1匹や2匹なら三番隊だけで十分に倒せる相手だが、それが束になって襲ってくるとなれば話は別だ。敵の数はこちらの数倍いるんだ。十分注意して欲しい。ゆっくりで良いんだ。ゆっくり進んで少しづつ削って行けば良いんだ。死人だけは出さないように注意しよう」
本人やる気満々だが、今回は斉藤一は部隊の指揮に専念。
冒険者からの発案により、今回は3部隊つくり、連携チームとして進むらしい。
小春が皆に新撰組のハッピを貸し出す。
冒険者も豚鬼もコレを着て新撰組三番隊として、今回は人喰鬼の討伐に参加するのである。
「今回は俺より強そうな奴がゴロゴロ参加してくれて、非常に助かっている。今回俺は陣頭指揮に専念するので、切り込みの方はヨロシク頼む」
斉藤一がそう言ってぺこりと頭を下げた。
偵察班に配属されたライル・フォレスト(ea9027)とリアナ・レジーネス(eb1421)は豚鬼王3匹と山姥、神楽坂紫苑を相手にコミュニケーションを取るのに四苦八苦していた。
一匹は戦斧を持った、黒い大鎧の豚鬼。
一匹は赤い鎖を持った、赤い大鎧の豚鬼。
一匹は鉄弓を持った、青い大鎧の豚鬼である。
身長2m、肥満体型の彼らは遠くからでもよく目立つ。
「オグ! オグオグ!」
時折仲間同士で会話をしているが、何を言っているのかは分からない。
「すまぬの、戦力になると思って連れてきたのじゃが、偵察任務とは」
そう言って神楽坂紫苑がペコリで頭を下げた。
リアナ・レジーネスが昼間のウチにリトルフライで調べた範囲に移動をする。
正面に見張り台、敵の人喰鬼は6匹‥‥である。
リアナ・レジーネスはロック鳥に乗り、空からの攻撃。
ライル・フォレストが偵察隊の指揮を取っている。
後方に少し離れて戦闘隊が2つ。
敵の4匹の人喰鬼がこちらを確認し、巨大な棍棒を持ってこちらに襲いかかってくる。
「ぐおー! ぐおぐお!」
流石は人喰鬼、雄叫び一つ取っても、他の並大抵の鬼とは風格が違う。
おそらく並の冒険者パーティならば、1匹だけでも全滅するだろう。
それだけの恐怖と破壊力を秘めた敵である。
戦闘班1が右へ、戦闘班2が左へ展開する。
誤算があった。
先ほどの雄叫びを受けて、遠くからも雄叫びが聞こえる。
敵が集まりつつあるのだ。
迂闊に時間をかけていると、全滅と言うことも有りうる。
オフシフトを使って正面の人喰鬼の一撃を避けるライル・フォレスト。
ねらい澄ましたようにポイントアタックとシュライクを付けて彼が人喰鬼を攻撃する。
だが、その一撃を敵の人喰鬼はかろうじて避けた。
鉄弓を持った豚鬼の一撃が正面の一匹に矢を放つ。
敵の胸に深々と矢が突き刺さる。
それに対して戦斧を持った豚鬼と、鎖を持った豚鬼が襲いかかる。
「必殺! 神風ボンバー!」
神楽坂紫苑がライル・フォレストが苦戦する相手にオーラソードのソードボンバーを放つ。
殆どダメージを与えられずに敵の肌をひっかいた程度のダメージを与える。
「ライトニングサンダーボルト!」
リアナ・レジーネスのライトニングサンダーボルトが上空からその一匹に雷撃を浴びせる。
達人レベルで放たれたそれは、敵の身体を射抜き、大ダメージを与えている。
そこにライル・フォレストがもう一度剣を振るった。
人喰鬼の左腕が一本切り落とされる。
さて、正面右の攻撃に参加したのは斉藤一と三番隊の精鋭2名。それに井伊貴政(ea8384)と長寿院文淳(eb0711)の2人である。
敵は人喰鬼2匹。棍棒を構え動きは機敏。身長は2.5m程だ。
長寿院 文淳が一匹目の人喰鬼の棍棒の一撃を大錫杖で受ける。
敵の攻撃が余りにも鋭く、避けきれない為である。
二発目の準備に敵が入る。
攻撃の手数が豚鬼と違って多いのだ。
だが、重量装備の長寿院文淳では、二発目の攻撃を受けることは出来ない。
井伊貴政が割って入ってその攻撃を太刀で受け流す。
一つ間をおき、井伊貴政の自称超重い一撃が人喰鬼にクリーンヒットする。
っと同時にもう一匹の人喰鬼が斉藤一に対して棍棒を振り下ろす。
斉藤は右手の十手でその一撃を受け流し、左手の刀でカウンターの一撃を胴薙ぎに放っていた。‥‥っが敵のタフさ加減は尋常ではなく、致命傷には遠く至らなかった。
続けての2発目の攻撃を身体で受け止め、片膝を着いている。
そこへ新撰組の精鋭2人が槍を持って人喰鬼を突き刺しに飛び出した。
一方そのころ左翼はと言うと
ミラ・ダイモス(eb2064)、狭霧氷冥(eb1647)、天城月夜(ea0321)、それに神楽聖歌(ea5062)と山本佳澄(eb1528)が配置に付いていた。
敵の人喰鬼に3対1、2対1で戦うつもりだ。
さっそくミラ・ダイモスのスマッシュEXが炸裂する!
皆朱の槍+1が人喰鬼の土手っ腹を撃ち抜く!
流石の人喰鬼もコレは利いた様子。血を吐き、苦しそうにもがいている。
「血を好む鬼達よ、ならば我等は、貴様らを拒み戦う、我等が命、貴様らに止められるか、掛かって来い!」
ミラ・ダイモスが決めぜりふを一つ放つ。
そこへ狭霧氷冥のデスサイズ+1が炸裂する。
腹を槍で貫かれ、側面から大鎌の一撃が放たれる。
だが、硬い。人喰鬼の身体は想像を絶するほど硬くて丈夫だ。
デスサイズの攻撃は殆ど利いていないかの様だ。
天城月夜が間髪入れずに鉄扇で攻撃するが‥‥それも殆ど利いてない様子だ。
一方もう一匹の人喰鬼を任されている神楽聖歌と山本佳澄は、苦戦しながらも何とか小春との連携プレイで敵を翻弄していた。
だが、小春の技は身体に雷撃を纏ってパンチやキックを放つ事である。
人喰鬼の強靱な肉体には殆どダメージを与えることが出来て居ない様子だ。
山本佳澄の日本刀での攻撃も余り有効的なダメージを出すことは出来ず。
神楽聖歌のオーラパラーを纏った野太刀だけが、有効的なダメージを蓄積させてゆく。
一撃必殺の華は無いが、ジリジリと敵を削っていく。
「後方に敵影発見! 数は4!」
リアナ・レジーネスが上空から偵察を行っている。
ヴェントリラキュイを使って斉藤一の声の伝達が行われる。
それは各隊に知らせる斉藤。
早く目の前の6匹を殲滅しなければ、あと4匹と合計して10匹に成ってしまう。
それだけは避けなければ成らない。
彼らの鬼神とも思える戦いは深夜にまで及ぶことと成った。
●一日目深夜。
「今日は何匹敵を切った?」
月明かりだけが照らし出す深夜、大量の肉塊と返り血を浴びた皆は交代で休息を取っていた。皆新撰組の段だら模様の羽織を真っ赤に染め、武器の手入れをしながら休息である。
「30までは憶えてますが、それ以上は‥‥」
リアナ・レジーネスがそう言って斉藤一に応える。
唯一空からの攻撃で返り血を浴びてないのは彼女だけである。
「なかなか頑張った方だと思うぞ。人間で一度にこれだけの人喰鬼を倒した奴はそうはいないんじゃないかな?」
井伊貴政がそう言って笑みを浮かべる。
ダレもが疲れ切っていた。体力のあらん限り戦い、限界まで消耗していた。
だが、それでも何故か笑いがこみ上げてくる。
ランナーズハイと言ったところであろうか。
「長寿院文淳さんとミラ・ダイモスさんの入隊式は派手に行いマース。今度温泉に酒宴に行くのでその時に来てくだされば入隊の正式な手続きをしますので、来てくださいね?」
小春がそう言って2人に笑みを送っていた。
「生きて帰れたらな」
斉藤一がそう言って微笑を浮かべる。
人喰鬼の血で出来た水たまりに身体を沈めるような形で皆休息を取っている。
「はぁ今日は真面目で忙しい時間が続いた。せっかくべっぴんさんがこれだけ居るのに、尻を触る暇もない」
そう言って斉藤一が愛刀の鬼神丸を眺める。
大分刃こぼれをした様子だ。
結局彼らは山の5合目まで登り、鉄の御所より押し寄せた40数匹の人喰鬼を血祭りに上げたが、体力も武器も限界に来ていると感じて、山を下りることにした。
四番隊の活躍や九番隊の陽動が功を奏し、一番隊は何とか御所の中へ侵入を果たしたようだ。満身創痍で合流はとても無理だが、これだけの人喰鬼を相手したのだから役目は十二分に果たした。
山を下りる途中でも、敵の待ち伏せや追撃におびえつつ、大津の城へと帰る。
どろどろになった彼らを迎えたのは、大津自慢の琵琶湖のナマズ料理と温泉であった。
温泉好きの神楽坂紫苑は、大津の城の中に、自分専用の大きな露天風呂を持っている。
冒険者達は身体を癒すため、血を洗い流すため、男女問わず温泉へと入る事に成った。
「それでは我々は蓬莱山へ帰る。色々世話になったな」
豚鬼王鐵、赤銅、青銅、それに通訳の山姥達は蓬莱山へと帰る。
昔年の怨みを持っている彼らが人間と手を結んでの戦いなど、これから先には考えられないだろう。それだけ酒呑童子に対する対抗意識が強かったのかも知れない。
戦いを無事に終えて温泉に浸かる一行。
誰からともなく、温泉の中で皆寝息を立てていた。
まるであの戦いが夢であったかのように、安心の中で眠りについていた。
他の新撰組の隊はまだ戦いの中に有るかも知れないが、それはまた別のお話。
一番隊の成功を祈りつつ、彼らはその日、大津の城で床についた。
どっとはらい