お酒は好きですか?
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■ショートシナリオ
担当:渚
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月02日〜02月07日
リプレイ公開日:2005年02月12日
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●オープニング
冬の寒い日。
彼女の朝食はいつもお湯で割ったミルクである。
懐具合にあわせ蜂蜜をいれたり、菓子を足したりする。だが、殆どの場合はこのミルクに固いパンを浸して食べるだけだ。
安いわりにお腹は温まるし膨れる。
「少しぐらい飲んでったらどうだね。奢るよ」
「わたくし、お酒は苦手でございまして」
申し訳なさそうに酒場の親父の勧めを断ると、再びミルクに口をつける。
「冒険者の皆様でしたら、喜ばれたかもしれませんわ」
職場に現れる人々を思い出して、彼女はそう呟いた。
「冒険者ってのは酒が好きなのかい?」
問う親父に頷くと、知る限り冒険者達がいかに酒好きかを彼女は説明する。
興味深げに聞いていた親父は、ふと思い出したかのように、彼女に話をもちかけた。
酒好きが多いのならば、と。
「それでお手伝いが必要でございますの。受けていただけますかしら?」
「・・・・何がそれでなのか」
ここは冒険者ギルドの一角。
仕事を、情報を求め集まってきた冒険者達の前で、銀髪の少女は大きく目を開いて冒険者達を見た。
「何がって・・・・酒場で開かれる酒飲み大会でですわ」
そんな話ははじめて聞いたとばかりに彼女を見る冒険者達の視線を受け、少女はにこりと微笑みを返す。
一部顔を引きつらせた冒険者に構わず、始まった説明によると、彼女の行き付けの酒場で大酒飲みを決める大会が開かれるのだという。
飲む酒の量、飲む早さを競うその祭りは、酒場の親父と親しいある好事家の発案によるものだという。
必要な酒代は好事家が出すため参加は無料、ただし肴を頼むのなら自己負担。
優勝と準優勝には賞金が出るが、参加賞はない。
飲む酒は決まっており、最初は古ワインから始まって、次第に良い強い酒になっていくのだという。
「単なる興味本位の参加を早めに減らして、競争を盛り上げるためだそうですわ」
後に勝負の様子と結果を好事家へと報告しなくてはならないのだそうだ。
ずるずると面白くない勝負をしていては、好事家の不興をかう危険性もある。
「募集は2つ。参加してくださる酒好きな方と、給仕の手伝いをしてくださる方」
指を二本立てて冒険者達の方へと向け、
「優勝すれば賞金は1Gだそうですわ。給仕は準備から全日勤めて40cというところでございましょうか」
お暇ならばいかがでしょうかと、彼女はにこりと微笑んだ。
●リプレイ本文
開店にはまだ早い店内。
しかし、店内は既に戦場だった。
「後・・・・もう少し・・・・」
大会を少しでも盛り上げようとしてか、酒場の中は普段より明るく華やかにと飾り付けられていく。
鷹瀬亘理(eb0924)もまた手伝いとして壁飾りの花を取りつけようとしているのだが・・・・後少しというところで手が届かない。
「もう少し・・・・」
眉間に皺を寄せつつ手を届かせようと伸ばすのだが、やはり届かない。
ふと、背後に人の気配がしたと思うと、
「ここでいいかしら?」
声と共に亘理の手から花が奪われ、届かなかったその場所に飾り付けられる。
花に添えられた手を視線で辿り、振り向けば、同じく給仕に参加のシャルティナ・ルクスリーヴェ(ea7224)がにこりと微笑んでいた。
二人の身長は殆ど変わらない。差をつけたのはヒールの高さだ。
「ありがとうございます」
亘理は小さく頭を下げると、次の飾りを手に取る。今度は先程より低い場所だ。困ることもない。
シャルティナもまた、飾り付けを進めるべく、リボンを手に持っている。
「飾りつけももうすぐ終わり、頑張りましょう」
「はい」
綺麗に飾り付けされた店内は、少し早い春の雰囲気を持って人を楽しませる場所となっていた。
●大会開始は賑やかに
「チーズですね。勝負頑張ってください」
給仕の娘が柔らかく微笑む。彼女は酒場で会った冒険者の一人だ。
ラヴィエール・クロース(ea1577)とは違い、大会参加ではなく給仕手伝いでの参加だったが、同じ冒険者に励まされるのは嬉しい。
自己紹介で亘理と名乗っていたのを思いだしながら、立ち去る亘理の背中にありがとうと答える。
(「空腹だとお酒の酔いが回るのが早くなるのよね」)
お財布の中身を思いだし、問題はないと頷いてラヴィエールは心の中で呟いた。
(「古ワインで終わりになっちゃったら、がっかりだもん」)
今日の大会では用意された酒を用意された順番に飲み干していくよう言われている。
一番最初の酒は古ワインだ。
古ワインも不味くはない。しかし、飲み慣れた酒よりは折角の機会。普段飲めないような酒を飲んでみたいと思うのは当然であろう。
「沢山飲みたいな♪」
恐らくは優勝候補であろう操群雷(ea7553)の姿を確認して、彼女は酒が届くのを待った。
「親父さん、ミルクを一杯!」
開始の音頭が取られた直後にあがったエルナン・フィエード(eb0452)の注文に、ある者は呆れ、ある者は首を傾げ、そしてある者は・・・・
「お客さん酒飲み大会ですよ」
爽やかに後ろからチョップをいれる。
そんな彼女の名前は大曽根萌葱(ea5077)といい、給仕に参加している冒険者の一人である。
しかし注文は注文であり、確かに運ばれてきたミルクを受けとってエルナンは更にパンを追加注文した。
(「これで他の人達のペースは崩れた筈です。作戦成功」)
心中でガッツポーズを決めると、エルナンはまずミルクに口をつける。
酒は楽しむものであり、競うものではない。
だが程度を弁えた競い合いは酒の肴となりうるのかもと少し考えもする。そんな今日の大会。
量を飲もうと思うためか、無茶な飲み方をする者はなく、己のペースでゆったりと飲む。
酔い過ぎを防ぐためもあり、各々適すると思う肴を食べて飲み続ける。
会話に没頭することこそないが、参加者同士の適度な会話もあったりする。
見知らぬ者同士が、同じ空間を楽しむ場所。
「私はそろそろリタイアしておきますねー」
横で飲んでいたブノワの言葉に、群雷は思考から己を戻して頷きを返す。
「ブノワさんとはまた別の機会にゆっくり酒談義したいアルね」
是非に、と答え、救護班として手伝う為に席を離れるブノワを見送り、群雷は次のカップを給仕へ請求する。
やってきたのは発泡酒だ。
今飲んだ酒も発泡酒であったのだが、先程のものとは香料が違うようだ。
醸造家を目指す群雷。配分が気になるところであるが、それらは知識の結晶であり門外不出であることが多い。
(「舌で覚えるね。この味もいつか探してみせるアル」)
心の中で誓いつつ、料理との相性もみるべくスープを口に含んだ。
「ベルモットもいろいろあるのですか」
他参加者の会話から、そんな話を耳にしてシャリエール・ライト(eb0794)は杯を見る。
ベルモットはワインに多数の薬草をいれた酒であるが、その作り方、薬草の配合は作り手によって違う。
薬草を使っているため胃に優しいとも言われ、薬のように飲む者もいるようだ。
中盤にこの酒をもってくるのは、優しさなのかもしれない。
小さく鼻歌を唄いながら酒を飲んではいくものの、そろそろシャリエールは限界が近い。
酔いが廻っているのもあるが、量がそろそろ辛いのだ。
「チャームをかけ・・・・るには、人数が多いですわ」
いざとなれば魔法で勝ちを譲ってもらおうと考えていたシャリエールだったが、現在残っている参加者は10名。
中には冒険者達も残っており、知られず魔法をかけることは出来ないだろう。
「酒場に華を添えると致しましょう」
ふらつく身体を支えながら立ちあがると、シャリエールはリタイアの意思を告げた。
●裏方事情もそれぞれに
酒ばかりではつまらない。
美味しい肴があってこそ、酒も更に美味く感じるというもの。
流石に大会参加者からの注文は少なかったが、大会見学者からの注文は普段に比べて多かった。
煮こみにスープ、焼いた魚や肉。
乾燥させた果物などもあり、多種多様な香りと味が店内を賑わせていく。
広くはない店内で、人を、机を避けて、くるくると動き回り働く給仕達はまるで子栗鼠のようだ。
そんな子栗鼠の一人が店内で立ち止まる。
彼女、マクファーソン・パトリシア(ea2832)の視線の先にあるのはあるテーブル。
正確にはそのテーブルの上にある、皿の中身だ。
「レシピ、後で教えてもらおう」
こうして見知らぬ料理をいくつか発見し、料理を趣味とするマクファーソンは大会後の楽しみを着実に増やしていくのだった。
「チェリーちゃん、皮むき終わった?」
厨房のすみを覗きこむと、呼ばれたチェリーは剥き終った野菜を萌葱に見せる。
「そしたら、ちょっと表も手伝ってね」
「いいのです?」
「マスターの許可は貰ったから大丈夫よ。カウンターの中だけだけど・・・・店内見られるわよ」
心配そうだったチェリーの顔が、嬉しそうな笑顔に変わる。
チェリーはハーフエルフ。その特徴的な耳は帽子で隠しているが、人のごった返す店内で、ずっと帽子を被ったまま給仕をするのは変だと言われ主に奥の仕事をしていた。
ハーフエルフに対する偏見は根深い。店主はそれ程気にするタイプではなかったものの、客に不快感を持たれては、客商売は御終いだ。
「萌葱さん、お客さんお願いよッ」
店内から届くシャルティナの声に、萌葱は元気良く返事を返す。
「また酔っ払いかな。僕は行ってくるから、チェリーはマスターのとこにね」
頷くチェリーを残して、萌葱は店内へと急ぐ。
萌葱が酔っ払い客2名を勘定をきっちり取り立てた上で、店外へと連れ出したのはそれから少し後のことだった。
「美味しいな、これ」
残ったワインをこっそりと一口飲んでマクファーソンは思わず呟く。
渋みはあるが酸味は少なく、甘味が強い。
「こっちはどんな味だろう」
好奇心は残った他の酒にも向き、一口一口と味見をしていく。
口にあうものあわないもの、様々あったものの、
「次は飲む側に挑戦してみてもいいかな・・・・」
「マクファーソンさん、お水はどこに・・・・どうしました?」
突然声をかけられ慌ててマクファーソンは首を横に振る。
「なんでもないわよ。水は何に使うのかしら」
「酔っ払った皆さんに飲ませようかと思ったのですが」
お運びの仕事が落ちついた頃には、亘理はすっかり酔い潰れた者達の介護係りとなっていた。
動けなくなった者達を酔っ払い専用の部屋へ運んで休ませているのだ。
「汲み置きの水なら、厨房の奥にあるわ」
案内しようと立ちあがったところで、眩暈ににた症状がマクファーソンを襲う。
心配そうに見る亘理に水瓶のある場所を指し示し、亘理の姿が消えたところで、
「ちょっと廻ってきた・・・・かな」
後少し、気を抜かないようにと自分に声援を送り、マクファーソンはゆっくり店内へ足を運ぶ。
●幸せに酔いましょう
残り人数が7人まで減ったところで、参加者は席を移動した。
亘理の発案により、決勝戦はステージで、となったのだ。
今日は大会自体が娯楽。ステージで踊る踊り子も、英雄憚を語る吟遊詩人も必要ない。
最後の酒は誰も見たことがないものだった。
なんでも、主催の好事家が旅の商人より買い取った遠い異国の酒だという。
非常に強い香りがあり、酒に弱い者なら香りだけで酔っ払ってしまうだろう。そんな酒だった。
「喉に悪そッ、でも美味しい」
声で稼ぐ吟遊詩人にとって喉にしびれるような熱を与える酒は、避けたほうが良さそうな気もする。
しかし、これは見知らぬ酒。酒場の店主すら名前を忘れたというぐらい、珍しいものなのだ。
「珍しいものに挑戦しなければ、吟遊詩人の名が廃る」
それに味は美味しいし。
残ったチーズを小さく齧りながら、ラヴィエールは杯の中身を飲み干していく。
(「ええい、あいつらは化け物かッ!!」)
心中で叫びながら、エルナンは表情を変えず酒を飲みつづける。
ステージ上まで残ってはいるものの、エルナンは他の参加者に比べ飲んでいる量が少ない。
ペースをあげてはいるものの・・・・その差はなかなかと縮まるものではないようだ。
「おや、大丈夫ですか」
隣に座っていた参加者の身体がぐらりと揺れて、机に突っ伏す。
本人はまだ飲む気のようだが、まぶたは閉じかけており、そろそろ夢の中に突入というところだろうか。
「そのまま酔いつぶれていてくださいね・・・・」
起こさないように小声で呟くと、残った参加者に追いつくべく、エルナンは次の杯を要求した。
そして。
「うー、負けたッ」
机に突っ伏すようにしてラヴィエールは空になったカップを眺めた。
周りにも目をやれば、同じように机に突っ伏したり、床に寝転がったりしている。床に寝ている者は亘理によって、別室へと運ばれていく。
同じ冒険者ギルドから参加したエルナンは、頭を押さえつつも飲み干そうと必死だ。
優勝は決まり勝負はついた。が、飲み残すのは嫌なのだろうか。
それをぼんやりと視界にいれつつ、ラヴィエールはふわりと幸せそうに笑みを浮かべた。
「でも美味しいかった・・・・」
美味しいお酒を沢山飲み、美味しい肴も食べて程好く酔いがまわっている状態は幸せだ。
この後、宿まで帰るのは大変かもしれないが、いざとなったら他の冒険者に手伝ってもらえばよい。
今は幸せに酔っていよう。
優勝者となった群雷も、生きた酒樽の異名のごとく、お腹はすっかり酒膨れだ。
沢山の様々な酒を飲むと故郷の酒が恋しくなる。が、流石にこのノルマンの地では無理であろう。
「優勝おめでとうございます」
マクファーソンの祝福の声と共に、シャルティナから手製リボンレイが群雷の首にかけられる。
赤いリボンは華やかに咲き誇り、勝者を祝福しているように見えた。
酒は飲んでも飲みすぎず。
ほろ酔いの楽しい酒はいつまでも、人を幸せを惹きつけるものとなりましょう。
全ての酒好きと、醸造元、そして美味しいお酒に乾杯♪