【ドラゴン襲来】霧立ち込める

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月30日〜04月04日

リプレイ公開日:2005年04月07日

●オープニング

 冒険者ギルドの片隅でガブリエラは数人の冒険者と話をしていた。
 一番話役となっているのはどうやら初老のエルフ女性のようだ。
 時折若い女性が口を挟んで言葉を引き継ぎ、さらに補足するかのように男性も言葉を交える。
 ギルド員との会話となれば、まず依頼の話であろう。が、話を聞くガブリエラの表情は暗い。
「ありがとうございました」
 話を終えた彼らを、深深と礼をし見送ると、彼女の口からは溜息がもれた。

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 それから、5日後。
「依頼ですわ。ただ・・・・この依頼に対しての報酬は今のところありませんの」
「無料奉仕、ってぇ訳か。どんな依頼人だ」
 頬に手を添え、首を傾げる銀髪娘に近くにいた冒険者が声をかける。
 冒険者に依頼をするならば報酬を用意せよ。
 定められたものではないが、お約束の事柄である。
「依頼主は・・・・ソラチさんとおっしゃるドラゴンですわ」
「・・・・なんだって?」
「ですから、ドラゴンのソラチさんが依頼主ですの」
 話は数日前に遡る。
 漁村に現れたドラゴンを追い返すべく、冒険者が募集された。
 ところが最低限危険を回避できると予測される人数を集めることが出来ず・・・・この募集は打ちきられた。
 冒険者にとっては終わった事柄でも、漁村に生活する者達にとって放っておけるものではない。
 一人の冒険者が憂いを抱き、独断で漁村へ向かってドラゴンと会話を交わしたのである。
「結果として交渉は失敗でした」
 ソラチと名乗るドラゴンが求めていた会話。
 情報という札を、その冒険者は殆ど持っていなかったのである。
「そこでどんなやり取りがあったのか・・・・詳しくはわたくしも解りませんけれども、冒険者の力を見せるというお話になったそうですの」
 ソラチが陣取ったのはある漁村。
 そこから少し離れた洞窟に、海賊のアジトがあるとソラチは語った。
 規模はそれ程大きなものではないのか、それとも小物ばかりを狙うのか。
 今のところ人間社会では大きな噂にもならない海賊達だ。
「そこへ乗りこんで戦利品を取ってきてくださいませ」
「戦利品だあ?」
「依頼主がそうおっしゃるのですから・・・・戦利品ですわ。何をもって戦利品とするかは皆様にお任せいたします」
 持ってきた戦利品をソラチに見せ、判断を仰ぐ。
 満足させることができれば、ソラチは再び交渉に応じてくれるだろう。
「船が必要でしたら漁村で貸してくださるそうですわ。食料も用意してくださるとか」
 報酬の代りですわね、と彼女は小さく笑うのだった。

●今回の参加者

 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea8897 ヌイサニス・ムニン(43歳・♂・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1061 キシュト・カノン(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1350 サミル・ランバス(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 まだ日も昇らぬ夜の海へ、船がゆるゆると進んでいく。
 辺りは闇と痛いほどの寒さに包まれ、甲板では炎の灯りを頼りに仕事がすすめられていく。
 そんな状態であったから、船を見守る者達の視線に気付くことはない。

 船影が闇に溶けた後、彼らが動き出したことも。

■夜明け前

「お待たせして申し訳ありません」
 小さな声と共に、一人の海賊が冒険者達と合流する。
「残っているのは10人程だと思います。洞窟の前には見張りが2人」
 手にした海賊の短剣で、地面に大まかな地図を描きつつ彼は内部の説明を始めた。
 彼――といっても、本当は女性である。
 冒険者の一人、白 銀麗(ea8147)が魔法で海賊に化けているのだ。
「中まで確認できませんでしたが・・・・海賊の言った通り、宝物庫はここで間違いないと思います」
 描いた地図の一点を指して、銀麗はそう説明を締めくくり、視線を横へと動かした。
 そこには今の銀麗と同じ姿の男が下着姿で拘束されている。
 ミミクリーの魔法は身体を変化させるものであり、服や装備品はその効果を得られない。いくら見かけ上服を着ているように見せられるとしても、裸で行動するのは女性には厳しい。
 銀麗は己の服を船に残し、海賊の服や装備を身に着けて行動しているのである。
「あまり遅くなると怪しまれますから・・・・そろそろ参ります」
 気遣う仲間達の言葉を受けながら、銀麗は海賊のアジトである洞窟へと戻っていく。

 海に面した崖の下。洞窟の前には二人の男が立っていた。
 接近してくるものへの見張りだろうが、あまり危機感はない為か、欠伸を噛み殺す仕草も見える。
 しかし砂を踏む足音に、二人は即座に武器に手をかけ・・・・相手を確認すると声をかけた。
「おう、遅かったな」
「早く持ち場に戻らねぇとどやされるぜ」
「お、おう」
 二人の言葉に慌てて洞窟の中へ駆込んだ男――銀麗は、入り口が見えなくなると大きく息を吐いた。


「遅いですね」
 洞窟の様子を伺いながらヌイサニス・ムニン(ea8897)がそう呟いた。
 銀麗が洞窟へと戻ってから暫らくたつ。
 予め打ち合せた作戦では、そろそろ洞窟内で騒動が起こっていてもおかしくはない筈だ。
 しかし、相変わらず見張りの二人はのんびりと海を見ているし、煙が流れて来る様子もない。
「もしや・・・・」
 不安げに表情を曇らせるヌイサニス。それがきっかけのようにサミル・ランバス(eb1350)はロングソードを抜き、歩き始めた。
 偵察は既に終わっている。火をつける場所も準備も終えた状況で、これだけ時間がかかるのはおかしい。
「宝を持ち出している途中で煙がきたって、混乱させる役には立つ」
 海賊達の船が何時戻ってくるかも解らない。
 行動は早いほうがいい。遅くなれば遅くなる程、危険度は増えるのだ。
「宝は手分けして持つとしても・・・・一番力があるのはキシュトさんですから、キシュトさんは多く持ち、先に脱出していてください」
 見張りのうち一人から武器を取り上げて拘束し、レオパルド・ブリツィ(ea7890)はそうキシュト・カノン(eb1061)に頼む。
「うむ」
 短く返答してキシュトは海賊の死体から武器を取り上げた。
 非殺を心がけようと、危機には変えられない。ここで中の仲間へ異変を伝えられては問題だ。
 口を塞ぐには攻撃するのが一番早く――背後からのキシュトの一撃は、海賊を死へと導くに十分だった。
「まずは宝だ」
 ヴァイキングヘルムの紐を締めなおし、キシュトは洞窟内へと踏み込んだ。

「これで保てれば良いのですが」
 石油の性能に思いを馳せ、銀麗は溜息を吐いた。
 錬金術で石油を作ることは出来る。とはいえ、まったくの無から作り出せる訳ではない。
 その材料が必要となるのだが、銀麗は材料を採取するのに必要な知識を持ち合わせていなかった。
街で買うにもそう出まわる品ではないし、運良く発見しても高価なそれを必要分手に入れることは彼女の手持ちでは困難で・・・・
 仕方なく村で用意してもらった灯り用の油と、発火用に油を染み込ませた木屑を分けてもらってきていた。
「思ったより時間がかかりました・・・・早くみなさんと合流しませんと」
 銀麗が火をつける場所として選んだのは食料庫だ。
 人気がなく、木箱や布など燃やすものも沢山あった。
 それらに油を撒き、木屑を使って火をつける。最初小さかった炎も次第に大きなものへと変わっていった。
 部屋の中をゆるゆると流れる煙に巻かれぬよう、銀麗は食料庫を出て・・・・
「何をしてたんだ」
 不意にかけられた若い男の声に、銀麗は己の危機を悟った。

 残った海賊の数は少ない。
 そして残っていることは自由であることとは違う。
 海賊達はそれぞれに役割を持ち、船が戻るまでの間、その役割を務める。
 ふらふらと歩き回る銀麗の行動は、姿の為即座に切りつけられることはなくとも、目をつけられて当然のものであった。
 食料庫から流れ出した煙を見て、何人かの海賊達は消火の為この場を離れた。
 しかし。
「てめぇ・・・・裏切ったのか」
 切りつけられた腕から血が流れる。
 銀麗よりも、この姿の持ち主は力もあり身軽であったようだ。しかし、戦闘に関して殆ど知識のない銀麗には、それを活かすことが出来ない。
 腕に、顔に、足に。
 次第に増えていく傷が、更に銀麗の動きを封じる。
「裏切り者には死を。それが掟だ」
 動けない傷ではない。
 だが目前に迫る死の匂いに、銀麗は動くことが出来ず――迫る剣をただ見ているしかなかった銀麗の視界で、鮮やかな赤が全てを隠し・・・・
 柔らかく包まれる暖かさを感じて、銀麗は瞳を開いた。
「白さん、大丈夫ですか」
「レオパルドさん・・・・?」
 視界に広がったのは剣でも、死でもなく、心配そうに覗きこむ幼い顔であった。
 銀麗の返答にレオパルドは微笑を浮かべて彼女を抱え起こす。
「サミルさん、白さんは無事です」
 剣戟に無理矢理顔を向けて、銀麗は先程の赤の正体を知った。
 海賊と戦うサミルの姿がそこにはあったのだから。

「レオパルド、銀麗を頼む」
「何処を見ている」
 言葉と共に迫る剣をサミルは短刀で受け流す。
 サミルが対峙しているのは留守を守る海賊達の中で、最も位の高い者のようだ。
 海賊という小さな社会は実力主義を取ることが多い。
 任される事実。それを実力と信頼との証と考えれば、そう簡単に倒せる相手でないのも頷けた。
「どうした、ハーフエルフ。魔物の力もその程度かよ」
 嘲りと共にかけられる言葉。
 戦闘という緊迫した状態に、煽る言葉にサミルの瞳が赤みを帯び、髪がうねりと共に浮かび上がる。
「化け物めッ」
 嘲笑と共に浴びせられる剣の雨。
 感情が高まりつつあるサミルの防御は、先程までと違って余裕なく無駄が多い。
 互角に見えた二人の戦いは、徐々に海賊側が有利にと変わりつつある。
「サミルさん!」
 レオパルドの声とほぼ同時。
 海賊の剣に切られた黒髪が空を舞って落ちる。
 そしてサミルの動きがまた変化した。
「!?」
 短刀は海賊の剣を押さえて戻さず。
 長剣は弧を描き海賊を切り裂くのを、サミルは黒い瞳で見ていた。


■朝霧

 船にて合流を果たした冒険者達は、怪我を負った銀麗の手当てをするため急いで漁村へ戻った。
 まだ早い時間であったが、村長は彼らを迎え入れ、休む場所も食事も用意してくれた。

 そうして。
 一息ついた冒険者達は最後の課題、ソラチとの交渉に挑んだのである。

『オレ感ジナイ』
 ドラゴンの宝があればソラチが感じるのではないか。そう考えたレオパルドは、襲撃の前に宝はあるかと問いかけていた。
 その返答がこれである。
 それでは何故宝を欲するかというと。
『ヒト。ドンナ宝探シテル。ソラチ知ル』
「宝の認識の違いがないかを確かめたい・・・・そんなところでしょうか」
 ヌイサニスがそうフォローをいれると、ギルドから派遣された通訳専用冒険者も頷いた。
 人語を解しない相手との会話には、テレパシーが必要なのである。
『奪ッタノ。ヒト。冒険者。ヒト。ヒト同士。デモ。約束。守ラレルカ』
 ヌイサニスから貰った保存食を食べソラチはそのように呟いたという。

 冒険者達が洞窟から持ちかえった戦利品が、ソラチの前に並べられる。
 彼らが特に気にしたのは、角で作った杯、いくつかの剣、そして角飾りのついた兜である。
 ヌイサニスは食料を持ち出したかったのだが、食料庫は火付けの舞台であり、持ち出すような暇がなかった為ここには並んでいない。
「どうですか」
「問題ないと言っています。ドラゴンの宝はやはり含まれていないようですが」
「依頼達成だな。なら今はここを去って欲しいって言ってくれ」
 人間に害を及ぼすものでなくとも、その存在だけで不安感を与えたりもする。ハーフエルフであれば、1度や2度、そのような扱いをされたこともあるだろう。
 傷つけあわない為に、離れることも必要なときがある。
 サミルの言葉を伝えるとソラチは頷く仕草を見せた。
 傷つける必要がないのなら、傷つけあうことは避けたい。そう願う気持はヒトもドラゴンも同じだ。

「あ、待って下さい」
 海へ帰りかけたソラチを、レオパルドが引きとめた。そうして彼は己が調べ、そして託された情報をソラチへ告げる。
 壁画、契約の書かれた書物、銀麗から聞いた剣や槍の話。
 そして紫色のローブを纏った人物を探していること。 
「知人から聞いた話です。詳しくは解りませんが・・・・」
「傷は負わせたそうなのですね」
 紫ローブと聞いて、不快そうに身体を動かしたソラチを、ヌイサニスは鼻先を撫でて宥める。
「領主がドラゴンに宝を確認させようともしてたらしいな。あんたに頼めないか」
 それはサミルが人から聞いた情報だ。
 そのような依頼があった、と。しかし叶わなかったようだとも。
『カクニン。ソラチ。行ク。イイカ?』
「今すぐじゃない」
「出来れば上位の竜とも会話の機会が欲しいですね」
『ジョーイ?』
「ええ、上位の・・・・・・貴方より強いドラゴンのことです」
 自分より強い者を希望されて、少し不機嫌そうに目が細まる。
『強イヤツ。伝エル。デモ。約束デキナイ』
 長い沈黙の後、ソラチはそのように答え、目を開いた。
『冒険者。約束守ル。ソラチ。手伝ウ。約束守ル』 
 宝は好きに処分しろと告げて、ソラチはその身をゆっくりと海の中へ沈めていく。
『マタ来ル』
「また会いましょう」
 白い闇と赤い陽から青を取り戻しつつある空の下。
 再会の約束が交され、小さな漁村には再び静けさが戻った。


■水の揺り篭

 冒険者達が手に入れた海賊の宝は、冒険者ギルドを通して商人に買い取られた。
「それと、漁村から僅かですけどお礼金が出てますわ」
 後日、最終報告にきた冒険者達へガブリエラはそう告げてお金を渡した。
「レオパルドさん、先にお聞きしたご要望ですけれども・・・・」
 ギルドにも様々な条件があり、簡単に叶えられるものではないが努力はしてみる。
 現状ではそれしか告げられないというのが彼女の返答であった。
「しかし、これでドラゴンとの接点は残りましたし・・・・探索にも進展があると宜しゅうございますわね」


 月光に照らされた水面に、濡れた鱗が青い光を返す。
 光はやがて港から遠く離れ、海の彼方へと消えていった。