お芝居はお好き?
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■ショートシナリオ
担当:渚
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月10日〜11月15日
リプレイ公開日:2004年11月18日
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●オープニング
「あ・・・・?依頼、依頼ね・・・・」
ギルドのカウンターに突っ伏していた娘が、のそのそと顔をあげる。
疲れているようだが、仕事は仕事。
ギルド登録の確認を済ますとまっすぐ冒険者達に向き直った。
「いくつか来てるみたいだけど、希望はあるかしら?」
まだ日が浅いのか。
困ったように人助けできるなら、と答えた冒険者にギルドの娘は小さく首を傾げた。
「人助けねぇ。ならこんなのがあるわよ」
あんまりお金にはならないけれど、と付け加える。
「報酬は出れば嬉しいですが・・・・」
「ああ、無償じゃないから。
ただ多くないっていうだけ。まあその分依頼の内容も簡単だと思う・・・・んだけど」
依頼の内容が難しいかどうか、それは人によるだろう。
何せ、希望は演劇なのだから。
「依頼人はシスターさん。
依頼の内容は、館にすむ子供達に冒険の演劇を見せて欲しい、ということね。
シスターさんは戦災孤児を引き取って育てている女性なの。
館にすむ子供達っていうのは、この孤児の子達でしょうね」
シスターさん、執事のお爺さん、そして子供達が15人程で住んでいるのだという。
生活は自給自足に近く、庭に畑を作ったり働ける子供は働きに出たりと、全員で支えあいながら生活しているようだ。
「劇についてだけど・・・・
希望は勧善懲悪。悪いヤツを冒険者が倒すパターンね。
配役や演出は自由に考えて頂戴。ただ、お金があまり出せないのは忘れずに。
あまりお金がかかるようだと報酬から引かれていくから、注意してね」
子供達は見物の為、準備に参加はしない。
しかしシスターさんと執事は準備や裏方の手伝いならするという。
「それから。魔法なんかが全部ダメとは言わないけど、被害が出るようなことはしないように。
下手したら冒険者全体の評判が落ちるかもしれないんだから」
最後に忠告をつけた上で、娘は参加の意思を問うた。
●リプレイ本文
「私が劇に、ですか?」
困惑気味に問うシスターに、冒険者達は頷く。
ここは依頼人であるシスターの館である。
依頼を受けた冒険者達は、劇の打ち合わせと準備をするべく館へと集まっていた。
「神の偉大さ、愛の素晴らしさを子供達へ伝える為に参加してくれないか?」
神聖騎士であるゲイル・バンガード(ea2954)はそうシスターを説得する。
ゲイルは劇中で主役の冒険者をやる予定だ。
「皆を楽しませる為にも、神様に希望を見てもらう為にも、出演してくださいませんか」
白い歯を光らせ、爽やかに音無 藤丸(ea7755)も説得に加わった。
ドワーフのゲイルはシスターと身長があまり変わらぬ160cm台。
しかしジャイアントの藤丸は230cm。その差50cm以上、完全に見上げる状態だ。
「拙者達も準備を手伝わせていただきます。大道具の作成や力仕事は任せてください」
辛そうだと思ったのか、屈みこみ差を少しにしてシスターと話す。
藤丸は悪役である盗賊団のボスを演じる予定である。
悪役の名前は藤丸の名字である音無からサイレンスとすることになっていた。
「もしミスがあってもあたしがフォローするから、気楽にしていいわよ」
イザベラ・ストラーダ(ea7273)がシスターの後ろから声をかけた。
悪の幹部と進行役を勤めるイザベラは、劇に向けて衣裳あわせの最中。
その衣裳を用意し整えているのは紅 茜(ea2848)。
途中、イザベラの早着替えがある為に、着替えのリハーサルが必要なのである。
「後でいいから藤丸さんもマントあわせてみてね。それから・・・・」
シスターに近づいた茜は、手に持っていた衣裳をシスターに押し付けるようにしてあわせる。
「持ってた衣裳から作ってみたんだよ。後で着てみてね」
「・・・・はい、頑張ります」
衣裳を手に取り、決意を面に浮かべてシスターは頷いた。
●開幕
館の一室に集められた子供達は、これから始まる劇に期待を高めていた。
物語で聞く冒険者のお話。それが今から本物の冒険者達の手で語られるのだ。
「はい、みんな。こんにちわ〜」
突然現れたイザベラに、何人かの子供達は対応できず、不思議そうに彼女を見詰める。
進行役の姿をしたイザベラは、優しく子供達へ微笑むと大きな振りをつけながら、
「あれ〜? 元気がないぞ。もう一回、こんにちわ〜!!」
子供達へ挨拶を飛ばす。
10歳以上からなる年長組は照れもあってかぼそぼそと、他の子供達は大きな声で返事を返してくれた。
「うわぁ、おっきい声にお姉さんびっくりしちゃったぁ」
満足そうに笑顔を浮かべ、くるりと子供達を見まわすイザベラ。
開幕の合図をするべく、子供達へ向けていた手をゆるりと舞台へ向けて伸ばす。
「これより語られるのは冒険者ゲイルの物語・・・・」
俺は旅をしていた。
当てはない旅だ。まあ職のない冒険者などこんなものだろう。
新しい街、新しい人、そして依頼。
それらを探して旅を続ける・・・・それが俺の姿だ。
今日も旅の途中立ち寄った村に宿を取り、朝になればまた旅にでる。
その筈だったのだが・・・・
村は妙に活気がなかった。
何かに怯えているといってもいい。
気になった俺は村長の元へ話を聞きに出向いた。
話によると最近、この辺りの村に盗賊達が現れては、食料などを奪い去っていくという。
対抗する術のない村では、自分達の村が襲われないようにと祈り怯えて暮らすだけ。
「なあ、村長。俺を雇ってみないか?」
聞いたからには放っておけない。
俺1人で何処までできるかは解らないが、かといって何もせず立ち去れもしない。
村長も俺に賭けてみる気になってくれたようだ。
依頼は成立し、俺は村の入り口へと向かった。
村の入り口で俺は、愛用の斧を支えにし、じっと待つ。
盗賊の襲撃はいつも日が落ちる頃だと村長は言っていた。
今日襲撃があるかはわからない。
もし今日現れなければ明日は森を捜索してみよう。
探索は得意じゃないが・・・・請け負った依頼は責任もって果たすものだ。
だが、心配は必要なかった。
太陽が赤く村を染める頃、やつらが現れた。
子供達はその様子をじっと見守っていた。
彼らは安全な場所から、ただそれを見ているだけだ。
それでも・・・・その情景に引きずり込まれる。
「最近大人しいと思っていたら・・・・こんな奴を呼んでいたとはね」
斧を構えた戦士ゲイル、その視線の先。
木の影から少女が姿を現した。
黒革製の露出の高い衣装を着用し、手には鞭を持っていた。
「残念だけどこの村は我々ワルワル団が頂く」
年齢の問題から色気十分とは言いがたいが、幹部としての貫禄は十分。
手に持った鞭をぴしりと鳴らせば、身体を振るわせ大きな子供の影に隠れる子供もいるほど。
「我が名は黒の薔薇。ワルワル団幹部の1人。逆らう者は許さないよ」
彼女の手が緩やかに上げられ・・・・勢い良く振るわれた鞭が地を打つ。
空気を切り裂き、威圧する音。
思わず目を閉じた子供達が、恐る恐る目を開けた時には既に、イザベラの姿はそこにはなく。
「いつも通り奪い尽くしてやるぜ」
「ボロイぜ、悪党3日やったら止められねぇな」
「この世に正義がある限り、悪は許さん」
ゲイルは新たに姿を現した女性――ワルワル団戦闘員茜の前へ立ちふさがる。
「面白い」
立ち止まった茜の後ろからゆっくりと姿を現したのは・・・・
緩やかなローブのような衣装を身に纏い、部分的に鎧を身に着けたジャイアントの大男。
地に届く程長い漆黒のマントを揺らめかせながらゲイルの近くへと歩み寄る。
「だが、俺達ワルワル団にかなう奴などいない。・・・・我が薔薇よ」
不敵な笑みを浮かべ、男が軽く手をあげた。
「やっておしまいッ!」
「つい〜!」
イザベラの声が響き、命じられるままに茜は攻撃を開始する。
複数いるワルワル団戦闘員との共同攻撃。しかし、茜の攻撃は全てゲイルに防がれ、傷をつけることができない。
逆にゲイルの斧にやられてしまう始末。
「やっぱり無理ですよぉぉぉ」
斧に弾き飛ばされるように、茜はふらふらと影へ消えていく。
ゲイルは斧を構えなおすと大男へと向き直った。
「手下は全部倒した、次はお前の番だ」
「・・・・今迄の奴等よりは多少できるようだな」
パサリと纏った黒マントを脱ぎ捨て、大男は手にしたロングソードを構える。
「だが、俺には及ばぬ。このワルワル団首領、サイレントには」
台詞と同時に周囲に煙が巻き起こった。
煙で見失った直後、先程よりも横にずれた位置から飛び出してくる。
ゲイルは慌てて斧を振るものの・・・・
「すり抜けるだとッ!」
斧は確かに大男の身体に当たった、筈だった。
しかし手応えはなく、そのまますり抜けてしまう。
何度も何度も攻撃を試みるが、全て同じ。
「ゲイル頑張れ!」
疲れの見え始めたゲイルに、1人の子供から声援が届いた。
それを見て、進行役であるイザベラも頑張れと声を張り上げた。
「ほら、みんなも。このままじゃゲイルが負けちゃうよ」
「ゲイルがんばれー!!」
イザベラに言われ1人2人と増えていく子供達の声援が、ゲイルを動かす。
そして、もう一つ。
「神の、ご加護を」
涼やかな声がその場に響いた。
光に照らされながら、ゲイルの後ろに現れたのは、黒い衣装を身に纏った娘であった。
胸にかけた銀の十字架を握り締め、祈るように瞳を閉じている。
その光にかき消されるように、サイレントが姿を消した。
「おのれ・・・・」
憎々しげな声と共に影からサイレントが再び姿を現す。
光の中で剣と斧が鬩ぎ合う。
今度は、すり抜けない。
「何故盗賊など続けるッ」
「何故かだと、ぬくぬく生きたお前達にはわかるまい」
「わからないな、悲しい子供を増やすお前等のやることはッ」
ゲイルの台詞に、サイレントの動きが鈍る。
「ワルワル団の盗賊達は、皆、家族をなくして1人になった子供達だったんだよ・・・・」
茜の声が子供達の元へと届き、彼等は動きが急に鈍くなった理由を知る。
自分達と同じ境遇のワルワル団をただ憎むこともできず、子供達は固唾を飲んで二人の戦いを見守った。
しかし鍔迫り合いもやがて決着する。
膝をついたのはサイレントのほうであった。
剣を落したサイレントの首元に、ゲイルの斧が迫る・・・・
「あ、あ、あの。やめてください」
顔を赤くしながらシスターがゲイルの前に立つ。
「もう戦う気力もないようです。
悪い人をただ倒すよりも、罪を悔い改めて人の為に働ける方になっていただいたほうが・・・・神もお喜びになられます」
声が震えているのは気のせいではなく、良く見れば体もがくがくと振るえている。
恐らくは緊張からだろう。
ゲイルは斧を静かに降ろすと、シスターの肩に手を乗せて退かせる。
「見守ってる子供達やお前の部下のためにも、命を無駄にするな」
「・・・・すまない」
ゲイルの差し出した手をサイレントが握りしめ、立ち上がった。
「こうして戦いは終わりました。
サイレントは名前を音無と改め、ワルワル団の団員達と共に、村を護る護衛隊として村での生活を始めました。
最初は戸惑いもあったようですがシスターの説得もあり、村人達と仲良く幸せに暮らしたそうです。
また冒険者のゲイルは・・・・」
進行役のイザベラは、1人灯りを持って立ち、子供達を見まわす。
「今も、何処かの空の下で。
旅を続けていることでしょう。
冒険者は冒険者であることを止めない限り、何処までも旅を続けていくのです」
●終幕
「サイレンス遊んで〜♪」
「拙者はサイレンスではなく、音無藤ま・・」
「そうだよ、サイレンスは良い奴になって音無になったんだから。音無遊ぼう〜」
劇が終わり。
片付けの間、藤丸は子供達の面倒をみていた。
劇の印象が強いのか、何度名乗ってもサイレンスと呼ばれてしまう藤丸は、少し悲しいところでもあったが・・・・
簡単な手品など演じて見せると、素直に驚き、賞賛する子供達との時間は楽しいものであった。
また、その裏ではイザベラがシスターへ依頼報酬の返金を提案していたが、これは断られている。
お心はありがたいが、それならば未来の大スターへの先行投資をさせてもらう、というのがシスターの返答であった。
片付けもほぼ終わりを迎えた頃。
扉が開き、茜と執事がそれぞれ荷を押しながら部屋へと入ってきた。
「みんな、美味しいパンの差入れだよ♪」
香ばしいパンの香りが室内に広がっていく。
茜は、籠の中にいれたパンを一つづつ子供達へと配っていった。
それは茜が子供達に食べてもらおうと、せっせと焼いたパン。
沢山焼くのは大変だったけれど・・・・
「おいしぃ〜」
「茜おねーちゃんありがとう」
子供達の笑顔を見られれば、そんな苦労も吹き飛ぶようだった。
「まだまだ沢山あるから、お腹いっぱい食べていいよ〜♪」
「シチューも出来あがりました。
紅様から沢山のパンをいただきましたし、冒険者の皆様もどうぞご一緒に」
茜のパンと、執事さんから振舞われる暖かいシチュー、そしてシスターと子供達の笑顔でお腹一杯にして。
冒険者達は家路についたのだった。