孤狼

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2004年11月29日

●オープニング

 彼は悩んでいた。
 どうやったら助けられるのか。
 どうしたら生かせるのか。
 折角得た仲間を、家族を、失いたくない。
 けれど・・・・彼にはその術が無い。
 ただ死なぬように食事を運び、傷つけられぬように敵を遠ざける。
 少しずつ弱っていく彼女に毎日話しかけて力づけ。
 それだけが彼にできる全て。
 近くくる死の別れを感じながらも、彼はそれに抗おうとしていた・・・・


「依頼の内容を説明するわね」
 冒険者ギルドの一角で、ギルドの娘が冒険者へ声をかける。
「依頼内容は狼退治。
 森の中へ採取や伐採に入った村人を襲っているわ」
「狼たぁ面倒だな。何匹でてるんだ?」
 狼は群れにより生活する。最低でも数匹、一緒に居る可能性が高い。
 だが・・・・
「今迄に確認された数は1匹だけ。
 外見の特徴から現れて襲っているのは1匹だけと断定できるのよ」
 その狼は黒毛で、右の耳が少し欠けており、尻尾の先の毛だけが白い。
 大きさは狼としては普通ぐらい。
 そして常に1匹で姿を現すのである。
「依頼人に聞いた話はこれだけだけれど・・・・
 受けるのなら、現地で話を聞いてみるのもいいんじゃないかしら」

 ギルド娘に言われたから、という訳でもないだろうが。
 狼が出没するという場所に一番近い村へと辿りついた冒険者達は、依頼人でもある村長に話を聞くことにした。
 狼が人を襲い出したのは10日程前からだ。
 それまでにも、森の中でその狼を見かけることはあった。
 しかし、人に手を出すことはなく、こちらから何もしなければ静かに通り過ぎていくだけだった。
 それが突然人を襲うようになったのだという。
「20日前には雷も鳴る強い雨が降りましたが・・・・他には特に何も」
 変貌の心当たりを問われた村長は、村人にも尋ねてくれたのだが、これといって20日前何かあったということはないようだ。
 また、狼の行動に不可解な点がある。
 森の奥へと向かった村人達は狼に襲われた。
 しかし。
 怪我人こそ出たものの、皆、命を取られるにはいたっていない。
 またその怪我も、本気で襲ったとは思えないような軽いものばかりだ。

 狼は何故急に人を襲うようになったのか。
 それも、殺さぬように。
 狩人の獲物を奪ったり、荷物の中の食料を奪っていくことから、腹が減っているとも考えられる。
 しかしそれだけならばわざわざ人を襲うだろうか?
 狼1匹、餌に困る森とも思えない。
 疑問を持った冒険者達は、最後に村の少女から一つの話を聞くことができた。
「丁度狼が襲い始めた頃のことよ。
 森の中には底無し沼って言われている沼があるんだけど。
 その側にはね、熱冷ましに良い薬草が生えるのよ。だから時々摘みに行くんだけど・・・・
 その日も同じように向かったわ。そしたら沼のほうから哀しげな犬の声がしたの。
 なんとなく気になって・・・・
 沼の周囲の木に隠れて覗いてみたら、そこに、その時はもちろん知らなかったんだけど・・・・噂の狼が居たわ。
 狼が沼へ哀しげに鳴くと、沼の方からも小さく哀しげな鳴き声が聞こえたの」
 もっと近くで様子を見ようと木陰から身を乗り出した、そこで狼に気づかれ、逃げるように帰ってきたのだという。
「あれはなんだったのかしらね?」

●今回の参加者

 ea1838 アフティ・レミエル(33歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3090 リリアーヌ・ボワモルティエ(21歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8600 カルヴァン・マーベリック(38歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 妙な臭いがする。
 それは緩やかな風に流されてきたようで、周りを見まわしても臭いの元は発見できないが・・・・
 おそらく、人がいる。
 このような変な臭いを持つものを、人以外彼は知らなかった。
 彼は人が好きではない。
 しかし、先日人が落していった食べ物は、柔らかく味も悪くはなかった。
 食べる力も失いつつある子供も、喜んで食べた。
 また手に入れることが出きれば・・・・
 そうして彼は臭いの強くなる方向へ走り出した。

●孤狼

「来たわ・・・・・・」
 フェイト・オラシオン(ea8527)は立ち止まり姿を現した狼をじっと見つめている。
 同じようにアフティ・レミエル(ea1838)、リュリス・アルフェイン(ea5640)、カルヴァン・マーベリック(ea8600)は各々戦闘に移れるよう準備を始めた。
 その後方では、紅茜(ea2848)、リリアーヌ・ボワモルティエ(ea3090)、ルーロ・ルロロ(ea7504)、音無藤丸(ea7755)の4名が静かにその場から立ち去ろうとしている。
 茜達4名の目的は奥の沼にいるであろう、狼の仲間の救出であり、この場に残る4名は救出が完了するまでの間、狼を足止めする役割を持っていた。
 狼も後方4名の移動に気がついたのか。走り出そうと身体を引いた、その直後。
 狼は素早く地面を蹴り、後ろへ飛び退いていた。
「行かせないわ」
 地を打った鞭を手に戻しながら、アフティが狼へ言葉を放つ。
 カルヴァンは詠唱を終えてアイスチャクラを作りだし、フェイトは右手にダガーを構える。
 唯一、リュリスだけが木に凭れて動く意志を見せないまま。
 駆け引きが始まる。


 アフティの鞭が空気を切り裂く。
 しかし、冒険者達の動きよりも狼の動きのほうが速い。
 狼の行動を予測し、ぎりぎりの場所を狙ったつもりでも、鞭は狼から離れた地面を空しく打つ。
「・・・・あなた、何の為に戦うの?」 
 フェイトは黒と紅、2色の瞳で狼の目を見ながら問う。
 無論、言葉の話せない狼から返事を期待している訳ではない。それでも、尋ねてみたかったのだ。
 何故食らうためでも殺すためでもなく、戦うのか。
 己の戦う意味、それを求める少女は、攻撃をせず狼の攻撃を回避しながら答えを探す。
 カルヴァンはそんな2人の娘達を援護していた。
 作り出したアイスチャクラを狼の足元を狙い放つ。
 仲間を傷つけたくない、しかし狼も傷つけたくない、その想いからだ。
 そして狼も。
 狼は突破を妨害されると妨害した冒険者へ攻撃を行う。が、その戦い方は彼らが知る狼とは大きく違い、主に武器を持つ手を狙っているように思える。
 それは敵を倒す戦い方ではない。
 しかし、それでも狼を沼へと近づける訳にはいかないのだ。
 救出班が何かを見つけだすまでは。
「・・・・オークよりも厄介だったか」
 狼との戦いを見守っていたリュリスは、酒場で相談していた時、己の発した言葉を思い出した。
 攻撃を受けた時の辛さやタフさだけ考えればオークの方が確かに上だろう。
 しかし、狼にはオークを遥かに上回る素早さがある。
 足の早さ、瞬発力はこちらの命中率を下げ、また時には連続した攻撃で冒険者を翻弄する。
 狼を殺すつもりであれば、3人でも良かったかもしれない。
 しかし、狼を傷つけない冒険者達では完全に狼の動きを止めることが出来ず、じりじりと沼の方へ近づいてしまっている。
 侮り過ぎていた、やはり、という思いもある。
 しかし・・・・それでもリュリスは狼を殺そうとは思わなかった。
 素直じゃないと笑う少女の面影が、脳裏を過る。
 依頼を成功させたいと願う、その気持ちは皆同じ。
 しかし、言葉というのは難しいもので、時には誰かを傷つけたり反発させることもある。
 依頼の成功を願い、仲間だと思うから放つ言葉も。
 それを理解できるからこそ、リュリスは依頼を放り出したりしない。
「フェイト、狼の正面を頼む。
 アフティは離れてコアギュレイトの詠唱を、カルヴァンはアイスチャクラで狼の足元を狙ってくれ。
 これ以上、進ませる訳にはいかないだろ」
 手加減を続けたまま足止めを行うのは無理。
 リュリスは鞭を握りなおすと前へと踏みこんだ。
 


 教えられた通りに森を進むと、水辺に辿りついた。端のほうは水がある浅い池のような場所だが、1歩でも奥へ踏みこみ過ぎれば突然底無しの泥沼と変わるという。
 沼では大きな木が一本沈みかかっていた。
 娘に教わった境の目印である草を探し出し、安全を確認しながら木の側へと進む。
 中に空洞が出来た古木は、強い嵐に耐えきれず折れてしまったのだろうか。
 そして・・・・古木の先、広がった枝の一つにルーロは小さな呼吸を捕らえていた。
「数は一つじゃの。狼にしては小さい気がするが・・・・」
 他に、沼で呼吸を感じない以上、正解であることを祈るしかない。
「後はリリアーヌさんの到着待ちですね」
「拙者は罠を設置しておきます。念の為、というやつですよ」
 希望により単身沼へ向かっている筈のリリアーヌを待ちながら、3人は準備を進めることにした。
 藤丸は万一狼が追いついた際に捕らえる為の仕掛けを準備。
 茜はルーロと共に、救出の際ロープを張るのに適した木を探す。
 森に慣れているとはいえ、初めての土地で、教えられた道以外の場所を進むのである。
 リリアーヌの到着には茜達の倍近くの時間がかかり、その為彼女が到着する頃にはガイドロープの設置も完了していた。
 だが、ガイドロープはあまり必要なかったかもしれない。
 澄んだ水面、浅い水底を持つように見える沼は、1歩境を越えると泥が強く深く引きずり込もうとする。
 体力のないリリアーヌが進むのは不可能だ。
 かといって、茜でもルーロでも同じこと。
 唯一、進める可能性があるのは藤丸だが、彼は水走りの術を使うことが出来たのでガイドロープはあまり必要ない。
 そうして枝へと近づいた藤丸が見つけたものは・・・・枝に前足をひっかけた状態でぐったりした犬の姿であった。
 痩せ、汚れ、濡れているとはいえ、恐らくは人に飼われ躾られたモノ。
 救出の為に更に近づいた藤丸は、犬が沼に沈まずにいた、しかし抜け出せなかった理由も知った。
 枝に引っかかっていたのではなく、細い枝が犬の身体に突き刺さっていたのである。
 どのようにして、こうなったのかは解らない。
 しかし、突き刺さった枝が犬の行動を妨げていたことは確かだ。
 それは今も同じこと、下手に犬の身体を動かせば傷口を広げることになる。
「待っていろ、拙者はお主を必ず仲間に地上で会わせてみせる」
 1度戻ってリリアーヌにダガーを借り、押さえた枝をダガーで折ることで犬の身体を解放する。
 完全解放の前にロープを結びつけていた為、今以上に犬の身体が沈むことはない。
 しかし、水走りの術を使用したまま犬を泥から引きぬくことは危険が伴う為、藤丸も陸へ戻り、4人でロープを引くことになった。
 引き寄せた犬の毛から泥を水で多少なりと洗い流し、ロープを解くと、リリアーヌは毛布で包んで抱きかかえる。
 冷え切った身体は力なく、今にも消えてしまいそうな命を思い起こさせる。
 ルーロが焚き火を作り火で温まることを提案したが、これはリリアーヌが反対し、茜もリリアーヌに任せると告げた為実行されていない。
「そうだ、あの、これあげてみましょう」
「これも使ってはどうかのう」
 茜とルーロがほぼ同時に品を差し出したので、リリアーヌは少し怯えたように身体を振るわせた。
 しかし、差し出されたのが聖なる干し肉とヒーリングポーションと解ると、礼を言うように小さく頭を下げる。
 ヒーリングポーションを飲ませると、少しではあるが体温が戻ったように感じられた。
 枝によってついた傷も、綺麗に消えている。
 その次は少し悩んだものの、リリアーヌは村で分けてもらった生肉を犬へ与えてみることにした。
 しかし・・・・犬は鼻を近づけただけで食べようとはしない。
 続いて聖なる干し肉も差し出してみたが、こちらも少し噛んだだけで食べるには至らなかった。
「もしかしたら・・・・食べられないのかも」
「まだ身体は弱っておるからのう。食べる力もないのじゃろうか」
 小さくちぎって与えてみても、口から落してしまう。
「柔らかいものであれば食べるかもしれませんが・・・・」
 今、全員が持っている食料の中で一番柔らかいのは恐らく生肉だ。
 それ以上柔らかいものは・・・・
「紅様?」
 茜は聖なる干し肉に齧りついた。口の中で丁寧に咀嚼する。
 そうして、柔らかくなったそれを犬の口へと運んだ。
「固くなったパンはそのままじゃ食べにくいけど、スープに入れると柔らかくなって食べられるんだよね」
 突然の話題に、リリアーヌは首を傾げる。
「でも、ここでスープ作るのは無理だから」
 あまり美味しくはないね、と言いながら、数回に分けて茜は犬へ干し肉を与えつづけた。



 アフティの身体が白く淡い光に包まれた。
 敵を呪縛するコアギュレイトの魔法。が、狼に変化はない。
「効かない・・・・!?」
「効かないのではなく、抵抗されただけです。さあ、もう一度」
 動揺を見せたアフティだが、カルヴァンの言葉に再び詠唱を開始する。
 魔法の詠唱には時間がかかる。
 詠唱中は攻撃は勿論、防御もできない。無防備な状態だ。 
 そして魔法は詠唱を終えても、必ず発動する保証もない。
 焦りのせいだろうか。
 2度目のコアギュレイトは不発に終わり、再度の詠唱が開始される。
「まだか・・・・」
 リュリスは狼に巻きつかせた鞭を引きながら、横目でアフティを見る。
 少しでも引く力を弱めれば、狼は束縛から抜け出し駆けていくだろう。
(「神様、お願い。私達は狼を傷つけたくないのよ」)
 詠唱は祈り。
 祈りに願いを込め、十字架を握り締める手にも力が篭る。
 再びアフティの身体が白い光に包まれる。
 そして。
 リュリスは力の拮抗が崩れたことを感じた。
「やったわ・・・・」
「お疲れ様です」
 労うように背を叩くガルヴァンに、アフティは笑顔を見せた。
 リュリスはロープを使って、狼の足、口を縛り無力化していた。
 動けなくとも意識はある。
「意思は立派だよ、お前」
 告げるリュリスの瞳を、狼も強い意思を瞳に湛え見返し。
 フェイトは静かにその様子を眺めていた。
 


 足止めを行っていた者達が狼を沼へと運び、彼らは合流を果たす。
 狼の処遇については相談した結果、森へ放すことと決定した。
 既にコアギュレイトの効果は消えているのだが、仲間の無事な姿を見たからだろうか。
 拘束用のロープをフェイトが切っていく間も、大人しく待っているように思える。
「・・・・これで終わりよ」
 解き放たれた後も、狼は人に構うことなくゆっくり犬へ近づいた。
 小さな声で鳴く犬に、狼は顔を摺り寄せ傷を舐める。
 それから冒険者達を見まわすと、森の中へと姿を消した。
「この子・・・・どう・・・・したら・・・・」
 腕の中、犬を抱えたままリリアーヌは呟く。
 犬は狼を追いかけていきたいようにも見える。
 しかし、弱った体と残った傷を考えると、森の中で生きていくのは辛かろう。
「村へ連れていき、世話をさせれば」
 カルヴァンがそう提案する。
 村で犬を世話してもらい、狼は時折村の側で会えば良い。
 村にとっても狼という番犬を手に入れることが出来るかもしれない。
「本来はまずあり得ない『一匹狼』。こういう身の処し方があってもいいと思うが・・・・どうだろうかな?」
 狼を番犬にという考えには反対意見があがったが、犬を村へ連れていくことに反対はなく。
 その後、どうするかは村人と犬、そして狼に任せることにして彼らは村へと向かったのだった。

●終章

 冒険者達の話を聞いた村人達は、犬の世話を受け入れた。
 しばらく養生すれば、元気に走り回ることが出来るようになるだろう。
 狼も自然の状態であれば、無闇に村人を襲うこともあるまい。
 血を流すことなく、命を救った冒険者達に村人達は感謝し、皆で見送ってくれた。
 そしてパリへと戻る、その途中。
 冒険者達の前に、再び黒狼が現れた。
 彼は静かに近づくと、茜の前で立ち止まり顔を押し付ける。
 不思議に思った茜が撫でようと手を出すと、何かを押しつけてきた。
 受け取ってみればどうやら木の実のよう。
「何か、見た覚えがあるのう」
 横から覗きこんだルーロが茜へ一言、告げる。
「礼のつもりじゃろうか」
「くれる・・・・の?」
 言葉を理解した訳ではないだろうが、意思は通じたのか。
 その通りだとでも言うように茜の手を舐め、そして身を翻す。
「あ・・・・ありがとう!」
 森の影に紛れて見えなくなる狼に、大きな声で礼を告げると茜は鼻歌を歌いながら歩き始めた。
 冒険者達もそれぞれに穏やかな顔で後に続く。
 最後に、その場に残ったのはフェイトだった。
「いつか私も・・・・・・」
 戦う意味を見つけ出せるだろうか。
 森に消えた狼を思い浮かべながら、フェイトは仲間達の後を追い、歩き始めた。