【ドラゴン襲来】青眼

■ショートシナリオ


担当:

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2004年12月06日

●オープニング

「ああ・・・・儂の荷が・・・・商売が・・・・」
 座りこんだ商人の目の前で、荷車は無残に砕けていく。
 街に到着すれば彼の懐を潤す筈だった美しい布も、食料も、全て地面に、水中にと散らばり。
「う・・・・・ッ」
 商人の側に倒れていた男にも飛んだ箱の欠片が当たり、うめき声を上げた。
 男は商人に雇われていた護衛だ。
 勿論、護衛は彼1人ではない。
 散った荷物の中にも何名か、倒れているものがいる。
 彼らは戦い、敗れたのだ。
 まだ動ける者も残っているが・・・・減った数で敵を倒せるとは思えない。
 束ねたロープを食いちぎり、箱を壊し、散々荷を散らしたところで満足したのだろうか。
 ゆっくりとそれは、商人達に首を向けた。
 太陽の光に輝く青い鱗は海のごとく美しく。
 首から張り出した鰭持つ大きな海蛇。
 大きな目はまるで何かを探るかのように、商人達を見つめている。
 商人には長く思えたが・・・・それは僅かな時間で。
 それは橋から川へと飛び込むと、静かに水の中へと消えていった。
「助かった・・・・」
「・・・・違う・・・・あれは・・・・」
 リバードラゴン。
 その名と、何故という疑問を呟きに残して、男は意識を手放した。


「皆様、依頼のご希望ございますかしら〜」
 銀髪の少女が冒険者達の間を歩きまわる。
 彼女はここ、ドレスタットのギルドに所属する職員である。
「おう、嬢ちゃん。どんな依頼だい?」 
「ドラゴンのお相手探しですわ」
 笑顔で即答した娘の側に、何名かの冒険者が集まった。
「依頼主様は商人ギルド様でございます。
 街道の途中にある橋で、通る人々がドラゴンに襲われておりまして・・・・
 商人様達も例外ではなく、被害が大きくなってきたので依頼が出た次第でございます」
「ここでもドラゴンかよ・・・・」
 1人の冒険者が忌々しげに呟いた。
 この数日、ドレスタット近郊でドラゴンの出現が相次ぎ、各地で被害が出ているのだ。
 被害が出れば依頼も出る。
 他の街までは解らないが、ドレスタット周辺には出現数がかなり多く。
 ドレスタットの冒険者ギルドでは、ドラゴン関係の依頼がいくつも出されている。
「他の依頼は担当ではありませんので、詳しくは存じませんけれども・・・・
 こちらのドラゴンはリバードラゴンという報告がありますの。
 でもリバードラゴンは比較的大人しいドラゴンと聞いておりますのに・・・・不思議なことですわ」
 呟きから一転。
 真顔になって少女は冒険者達を見つめる。
「依頼の成功はドラゴンの襲撃を止めること。
 被害さえなくなればいいので生死は問わないそうですわ」
 ドラゴンは強敵である。
 例えそれが最下の部類であったとしても、だ。
 だから殺せとは言わない。
 そして。
「・・・・ただ、依頼を運んできた方がおっしゃいましたの。
 あのドラゴンは無闇に人を殺さない。
 襲ったときも、なんだか悲しそうな瞳で人を見ていたと」
 ドラゴンに目的があるなら、それを探り出すことができたなら。
 倒さずすませる方法もあるかもしれない。
「人語を話すドラゴンでなくとも、もしわたくしがテレパシーを使えたら、お話できますでしょうか」
 ドラゴンと話ができたら素敵、と、想像しうっとりする娘に、
「・・・・その距離まで近づけは攻撃対象になるでしょうし、すぐに話を聞くとは限りませんよ」
 小声で呟いた魔法使いの言葉は届かないのであった。

●今回の参加者

 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4439 ラフィー・ミティック(23歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8237 アンデルフリーナ・イステルニテ(25歳・♀・ファイター・パラ・イスパニア王国)
 ea8897 ヌイサニス・ムニン(43歳・♂・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8935 李 美鳳(25歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea8941 リリーベル・イワミネ(21歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ブノワ・ブーランジェ(ea6505

●リプレイ本文

●出発

「戻ってきたか」
 ローシュ・フラーム(ea3446)の言葉に、仲間達は街へと眼を向けた。
 近づいてくる人影は4人、先頭は青いシフールだ。
 1房だけ長い髪を風に靡かせながら、ショートカットの美少年・・・・もとい、少女ラフィー・ミティック(ea4439)は仲間の元へと飛び込んだ。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
 飛びこんできたラフィーを抱きとめたのはアンデルフリーナ・イステルニテ(ea8237)だ。
 2人共子供のようで見ていて微笑ましい。
「商人ギルドは如何でしたか?」
 横からリリーベル・イワミネ(ea8941)が笑顔を浮かべて問いかける。
「貴族さんが買ったもの教えてもらえなかったー」
「品が判明しておれば、違ったのであろう」
 言葉を引き継いで鑪純直(ea7179)が残念そうに呟いた。
 彼らは『ドラゴンは何かを探している』と考えたが、品が解らない。
 襲われた荷から種別を探ろうとしたものの、種類に関係なく襲われているようで手がかりは無し。
 ただ通常の品ではないだろうと、最近売買した魔法の品について商人ギルドを尋ねたのだ。
「それが街の存亡に関わると判明するまでできぬと言い切られておる。
 友人のブノワ殿に我輩の身元保証までしていただいたのだが、信頼関係は簡単に崩せぬようであるな」
「検問も難しいようです。できない訳ではありませんが・・・・」
 ヌイサニス・ムニン(ea8897)は頭に巻いていたターバンを整えなおし、告げた。
 ハーフエルフである彼は、無用な騒ぎを恐れ耳を隠している。
「公布は出せない、かしら?」
 周囲を見まわしエルザ・ヴァリアント(ea8189)が問う。
「それも含まれます。
 正式な検問を行いたいのなら領主に許可をとってくれと言われました」
「今から許可を願い出ても、時間がかかりそうね・・・・おかえりなさい、酒場はどう?」
「収穫なし、よ」
 今回の依頼参加者最後の1人李美鳳(ea8935)は、仲間達の輪の中へ入ると溜息混じりに答えた。
 美鳳は商人達へ情報を聞きにいったのだが、ハーフエルフの特徴である耳を隠すことなく街へ出たのが失敗だった。
 冒険者達の中では偏見は少ないが、一般には偏見は根強いものだ。
 あからさまに嫌な顔はされなかったものの、多くの者は理由をつけて彼女との会話を避けていった。
「ラフィー殿、おぬしドラゴンが探しそうな有名な剣や杖の伝承を知らぬだろうか?」
 思い出したように純直が問う。
「んん?うーんとねぇ、せぶふ・・・・あれ、なんだったかなあ」
「ラフィーちゃん、どうしたの?」
 頭を抱えて悩みはじめたラフィーを見て、アンデルフリーナが顔を覗きこむ。
「バード仲間から凄いアイテムのお話を聞いたんだけど・・・・忘れちゃった」
 明るく笑いながら言うラフィーに、純直は肩を落す。
 ラフィーがもっと吟遊詩人として修行し、沢山の話を集めればその名は再び聞けるかもしれない。
 だが今は。
「まずはドラゴンと話をしなくてはな」
 ローシュの言葉に力強く頷くのだった。
 

●橋の上にて

 作戦自体は簡単なものである。
 美鳳、アンデルフリーナ、ラフィーの3人が商人に変装して橋を渡る。
 ローシュと純直は彼らの護衛につき、他の者は少し離れて様子を見守っている。
 単純ではあるが、ドラゴンが橋の上にいない以上、誘き出すのが一番だ。
 途中の村で最後の準備を整え、彼らは目的地へと到着した。
 そして作戦を開始したのだが・・・・

「グゥッ」
 ドラゴンの攻撃をローシュは盾で受けとめた。
 攻撃を止められたドラゴンは威嚇するように口を開き咆哮をあげる。
「エルザ殿、下がれ!逃げよ!」
 同じく盾でドラゴンの攻撃を防ぐ純直が、後ろに控えるエルザに叫んだ。
 橋の上を商人姿の3人が歩き出して程無くドラゴンは姿を現した。
 しかし。動きが止まったかと思うと、何故か荷物でも3人でも、護衛の2人でもなく。
 その後ろにいたエルザを狙い動いたのである。
「ドラゴンさん落ちついて! 私達は敵ではありません!」
「こちらからは攻撃しない、逃げもしない」
「お願いドラゴンさん、ボク達はケンカしたくないよー」
 リリーベル、ヌイサニス、ラフィーがそれぞれ魔法で意思疎通を試みるが、ドラゴンは止まらない。
『敵!敵!返セ!』
 興奮したドラゴンは話を聞かず、純直とローシュが進路を塞いで時間を稼いでいるが、このままでは埒があかない。
「どうして・・・・?」
 襲われた商人にエルフもいたが、特別狙われたとは聞いていない。
(「種族以外で私と皆との違い・・・・まさか」)
 エルザは身に纏ったローブに手をかけた。
 思い浮かんだのは馬鹿らしい考え。
 しかし、今は時間が無く、少しでも可能性があるのならそれに賭けようとエルザは考えた。
 するりとローブを脱ぐ。
 下着ではないが薄着には違いなく、寒い。
「通訳して。私は敵じゃない、食べて欲しいものがあるからそれを持っていく、って」
「エルザさん!?」
 保存食を手に歩き出したエルザの前へヌイサニスが立ちふさがる。
 それをやんわりと押しのけてエルザは前へ進んだ。
 歩きながら保存食を齧っては見せ、これは食べ物だと態度で示す。
 何度も繰り返しながら、やがてローシュの側まで辿りついた。
「敵じゃないわ・・・・」
 言葉は無理でも思いは伝わったのだろうか。
 ドラゴンは動きを止め、ゆっくりとエルザへ頭を近づける。
 ローシュも純直も、何かあればすぐ庇うように構えはするが、遮りはしない。
 再び、エルザは保存食を噛み千切って残りをドラゴンへ差し出した。
 ドラゴンはそれを舌に乗せ、食べ・・・・
『変ナ味』
 ヌイサニスから訳された言葉を聞いて、エルザは笑った。


 ドラゴンの言葉をヌイサニスが訳し、仲間の問いかけをリリーベルとラフィーで伝えると決めて、ドラゴンとの会話が始まった。
「エルザさん風邪を引きますよ」
 ヌイサニスがエルザに拾ったローブを渡す。
 その様子をドラゴンはじっと見ていた。
『オマエ敵違ッタ。デモ今。オレ聞イタ。敵。姿。ドッチダ?』
 首を捻って問いかける。
 エルザの纏うのは紫のローブ。
 認識しているのは色か、それとも形か。それとも両方か・・・・?
「敵と言うのはなんだ?」
 ローシュが問う。
『敵。盗ンダ』
「ドラゴンちゃんは何を盗まれたの?」
『宝』
「大切な我が仔を攫われたか?」
『仔。違ウ。宝』
「それは魔法の品であるか?どのような物品なのだ」
『ドラゴンノ宝』
 形を説明させようとするものの、うまく通じない。
 いや、もしかしたら形を知らないのかもしれないと、冒険者達は思う。
『人盗ッタ。宝。返セ』
「返せって言われてもねぇ・・・・林檎食べる? 魚もあるわよ」
 美鳳が用意していた林檎をドラゴンの目の前に差し出す。
「ボクも買ってきたよ! 竜田ちゃんに預けてあるからとってくるー」
「ラフィー殿はここで通訳をなされよ。我輩が参ろう」
 飛ぼうとしたラフィーを抑え、純直は愛馬、竜田の側へと戻る。
 通常馬は怯えてしまう為、橋から離れた場所で待機しているのだ。
「あなたが探してるもの、ここには無いわよね?」
 美鳳から貰った林檎を齧りドラゴンが頷く。
『無イ』
「でもどうやって探しているの?見ればわかるのかしら」
『宝。側。アル。ソシタラ。オレワカル』
 自慢げに胸をはっているのだろうか。
 ピン、と首を伸ばして言うドラゴンの声は何処か誇らしそうだ。


「ところでドラゴンさんのお名前は?」
『名前?』
「もしお名前が無いのでしたらソラチと呼ばせて貰って良いでしょうか?」
 リリーベルが楽しそうにそう提案すると、少し考えた後、ドラゴンは頷いた。
「ソラチ、宜しくお願いします。私はリリーベルです」
 これをきっかけに各自の自己紹介が始まった。
 一回りしたところで、再び質問へと話は戻る。
「貴殿、自分の意志で人を襲っているのですか?」
『ソウダ。オレ。命令サレナイ』
 答える声は何処か悲しげだ。
「他のドラゴン達が人や街を襲っているのはどうして?」 
『強イヤツ。言ッタ。ドラゴン。宝。探ス。約束』
 それはとても大切なようで。
 告げるソラチの声は、神聖な儀式のような響きを持っていた。
「ね、ね、どんな約束したの?誰と?」
『ドラゴンノ約束』
 他に説明できないらしく、鰭がしょんぼりと下がる。
 何度か聞き方を変えてみたが、これ以上詳しくは聞き出せなかった。
「予定通り、検問もやってみましょうか。
 あくまでも任意で見せていただくというものになりますが・・・・」
 今出来ることがあるのなら、やるべきだろうと意見が一致する。
「わしらが荷物を持った者を呼んで、おぬしに見せる。
 だから人を襲うのはやめるのじゃぞ」
 ローシュの言葉に、ソラチは頷くのだった。


●5日目の朝

 依頼を受けた冒険者には戻って報告する義務がある。
 彼らは荷物を纏め、最後の挨拶を交わしていた。
 その間、許可を得て通行人の荷をソラチに調べさせたが、ついに発見することはできず。
「必ず、探し出します」
 リリーベルは慣れないオーラに何度も失敗しながらも、毎日気を練った。
 最後の会話は別れの言葉だ。
「もう暴れたりしたら駄目よ」
 美鳳はソラチを優しく撫でる。
 竜鱗の感触は独特で気持が良い。
 無理に剥がすと痛そうで、鱗を持ちかえるのは諦めた。
「また遊ぼうね」
 アンデルフリーナがソラチの首へ抱きつく。
「任せておけ。わしらは冒険者、探索も仕事だわい」
 ローシュの力強い言葉に、少女を抱きつかせたままソラチが顔を向けた。
 そして別れ。
 出発が遅くなれば、夜までに戻れなくなる。
 保存食も余裕がなく途中の村で無理を言って高値で準備してもらった者すらいる状況だ。
 これ以上の延期はできない。
 時折振りかえりながら冒険者達は帰路につく。


『待ツ。待ツ。人。信ジル・・・・血。嫌イ』
 1人残ったドラゴンは静かに水の中へと消えた。