恋人達の丘

■ショートシナリオ&プロモート


担当:

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月12日

リプレイ公開日:2004年12月16日

●オープニング

「寒く厳しい冬を超えて喜びの春を迎える恋人達・・・・浪漫ですわ」
 うっとりと両手を組み、虚空を見上げて銀髪の娘は語る。
 ここは冒険者ギルドの中。
 普通であればそのような話など無縁とも言える場所だ。
 特に、慌しいこの時期は。
「あら、依頼のお話でございますわ。
 わたくしがいくらのんびりしているとはいえ、仕事中に無駄話ばかりはしておりません」
 本当だろうか、という言葉が冒険者達の脳裏に浮かぶが、あえてそれを口に出すものはいない。
「警備依頼になりますわね。
 それでは詳細をお話しいたします・・・・」

 昔、海沿いにある丘の上で、ある男女が愛を誓い合ったそうですわ。
 けれども冬の訪れと共に、2人は1度別れなければならなくなりましたの。
 本当は離れたくない。
 でも離れなければいけない。
 2人は再び丘の上で、再会の約束をしましたわ。
 そして、丘にある大きな木に、それぞれの袖を切り取ったリボンを結び付けましたの。

 もしも、そのリボンが春までそのまま残っていたら。
 きっと2人は無事再会できる。
 そう信じて。

 春になったある日、男性がその木を訪れたのですわ。
 自分達の約束のリボンを探し、発見したリボンに手を伸ばしたその時。
 女性もまた同じように丘の上へと現れて、2人は無事に再会できましたの。

「・・・・その後、2人は結婚し、幸せな家庭を築いたそうですわ。
 素敵ですわよね」
「で、その話と警備とどうつながるんだ?」
「そのお話を聞いた恋人達が、毎年この時期になると丘を訪れますの。
 2人で結んだリボンが春まで残っていたら幸せになれる、というおまじないをするのですわ。
 あまり有名なお話ではありませんけれども、こういった話の好きな女性には根強い人気がありますの」
 ところが。
 最近、何者かがその木を切り倒そうとしているようなのだ。
「心無い、何方の仕業かわかりませんけれども・・・・
 切り倒されなくても、木が死んでしまうかもしれませんわ。
 ぜひ犯人を捕まえて木をお守りくださいませ」

●今回の参加者

 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea8572 クリステ・デラ・クルス(39歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8991 レミィ・エル(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 海から風が流れてくる。
 微かな潮風は冷たすぎず、寂し過ぎず。
 柔らかく包み込むような風にさえ思える。
 そんな風を受けながら様々な色の花咲かせる大樹が一本、そこにはあった。
 近づけばそれが花ではなく、しっかりと結びつけられたリボンであることが解る。

 その樹はまるで守護者のように街を見下ろしていた。

「恋人達が願いを込めた木を傷つけようとは…悲しい話じゃ」
 哀しげな顔でヴェガ・キュアノス(ea7463)は呟く。
「傷は・・・・大丈夫です。
 手当てもしてあるようですね」
 アディアール・アド(ea8737)は安堵の溜息を吐いた。
 薬草師を生業とするアディアールは、植物に対しての興味や愛情が深い。
 今回の依頼を受けたのも、長く生きた木を傷つけられたことに対する憤りが理由だ。
「受付娘が言っていた樵が手当てをしてくれたのじゃろうか」
「手馴れているようですから、そうかもしれませんね」
 覗き込むヴェガに返答してアディアールは呪文の詠唱を開始した。
 グリーンワードの魔法を使い、樹から話を聞こうと考えていたのだ。
 やがてアディアールの身体が柔らかな光に包まれた。

 白衣に赤い袴という装束はジャパンならば兎も角、ノルマンでは目立つ。
 上に外套を羽織っているとはいえ、着物用の外套ではやはり珍しいのだろう。
 興味深げな視線を受けながら、神木秋緒(ea9150)は仲間達と合流すべく足早に街を歩いていた。
 樵に話を聞きにいった結果は無駄足に近い。
 樵は直接犯人を見た訳ではない為、受付娘から聞けた内容以上のものは聞くことが出来なかったのである。
「力の弱い人・・・・」
 増えた情報といえば。
 切り倒す為に斧をというよりは、ただ斧の重さに任せて切りつけたという感じだということぐらいだった。

「・・・・綺麗・・・・ですね」
 陽光に煌く海を見て、エヴァリィ・スゥ(ea8851)は微笑みを浮かべた。
 そんなエヴァリィを見て、瀬方三四郎(ea6586)も笑みを浮かべ頷きで返す。
 丘の側、浜辺に近い場所に簡易テントを設置し、彼らは情報収集へ出向いた仲間を待っていた。
「みなさん遅いですね」
 壬鞳維(ea9098)は街の方角へ視線を向ける。
 もう1人、レミィ・エル(ea8991)は設置されたテントの中で睡眠をとっている筈だ。
 三四郎を除く3人はハーフエルフである。
 3人共普段から諍いを避ける為、その特徴を隠し過ごしてきた。
 しかしながら、情報収集となればまっすぐ見られることもあり・・・・
 街の住人との接触を避けて木の護衛を頼みたいという、三四郎の要請も受けて、3人はここに留まっている。
 勿論、ただ留まっているだけではない。
 この場所からは問題の樹を見ることができ、また周りにある低木の為にこちらは簡単に発見されない。
 見張りに適した場所を、と探した結果、彼らはここへテントを設置することに決めたのだった。
「良き知らせがあると信じよう。
 暇なら共に修行でもするかな?」
 爽やかに問いかける三四郎に鞳維は首を横に振る。
「自分はここから木を見ていることにします。三四郎殿はどうぞお休みになってください」
 鞳維は昼の見張り、三四郎は夜の見張りを行うことになっていた。
 とはいえ、どちらもすぐに動けるように常に準備は怠らないのであるが。
「それなら軽く走ってくるとしよう。
 軽く身体を動かした後のほうが調子が良いからな」
「いってらっしゃい・・・・」
 小さく手を振って見送るエヴァリィの頭を撫でてから、三四郎は浜辺へと向かった。

●四日後

 アディアールが樹から得た情報から考えると、7日程経過したことになる。
 クリステ・デラ・クルス(ea8572)はアディアール、ヴェガの2人と共に、街の酒場へ情報を探しにきていた。
 なにせ今回は犯人に繋がる情報が少ないのだ。
 噂話の集まる酒場は、重要な情報源である。

「これといった哀しき話はないようじゃの」
 ヴェガは小さく溜息をつく。
 この数日、酒場や食堂を回っているのだが犯人に繋がるような話はまったく聞くことが出来ない。
「しかし・・・・効果はあったようぞ」
 カップを持ったクリステの視線は、じっと一つのテーブルに固定されている。
 そこでは男性が3人、声をひそめて会話しているようであった。
「あの者達が・・・・?」
「あまり見るな。
 貴殿らが木の話集めておると知るや、こちらを気にしておる」
 気付かれぬよう気をつけてテーブルを確認するヴェガとアディアール。
 2人の目から見ても、ちらりちらりと盗み見るようなその行動は、何か後ろ暗いものがありそうに見えた。
「そういえば・・・・あの中の一人、昨日見かけましたよ」
「複数ではあるのう。
 わしはてっきり娘達じゃと思っておったが・・・・」
「この手の卑屈な行動に出るは大抵男だろう」
 冷めた口調で告げるクリステに、この場唯一の男性であるアディアールが苦笑を浮かべる。
「・・・・確かにこちらの会話を気にしているようですね。
 動きを見るためにも、少し煽ってみますか」
 アディアールは立ちあがると、女性2人の疑問を背に男達のテーブルへと歩きだす。
 別段、話しかけるでもなく、テーブルの横を通り過ぎ・・・・ふと足を止め。
「あの木はかなり弱っていますね。
 この数日にもう一撃加えられたら枯れてしまうでしょう。残念なことです」
 告げて歩き出したアディアールの背を凝視し。
 やがてこそこそと話を始めた男達を見て、残された二人も席を立った。


「恋人…恋する事、世に尽きぬ恋の歌。記念に…一曲、いかがですか…」
 竪琴の音が風に揺れた。
 粗末ななりをし、フードを目深に被ったエヴァリィは丘の上でゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
 流れる唄は切なく甘い、恋の歌。
 歌は風に乗り、冒険者達の簡易テントまで美しく包みこんでいく。
「全く、何が好きで他人の恋路を邪魔するんだか・・・・」
 恋の歌は美しい。
 それだけに、余計に恋路を邪魔する行為が馬鹿らしく思えてくる。
 呆れたような顔で溜息を吐き、ふと顔をあげると近づいてくる仲間が見える。
「・・・・何か情報が入ればいいが」
 静かに仲間を迎え入れたレミィが聞いたのは、酒場での一件であった。 


●夜

「何故、木を傷つける」
 闇の中、レミィに声をかけられた3人は勢いよく立ちあがった。
 そして一目散に街の方角へと走り始める。
 だが。
「待ちなさい」
 抜き身の日本刀が月光に煌く。
 月明かりに照らされながら立ちふさがる秋緒を見て、男達はそれぞればらばらに向きを変え逃げ出した。
 と、小さな悲鳴が上がる。
 声の主はエヴァリスだ。
 男の1人がとった逃走経路はエヴァリスの側を通りぬけるものであった。
 勿論、男はただ逃げるだけのつもりだったが、どちらかといえば人が苦手なエヴァリスにとって、見知らぬ男が必死の形相で近づくのは恐怖以外のなにものでもない。
 ザンッ。
 目を閉じたエヴァリスに草を滑る音、重い音が届く。
 おそるおそる目をあけると、三四郎の広い背中と地に伏した男の姿があった。
「待ってくださ・・・・いッ」
 別の一人に駆け寄った鞳維は、そのままの勢いで飛びついた。
 体格の良い鞳維の体重を勢いごと支えるだけの体力は男にはなく。
 2人もつれるようにして地面に倒れこむ。
 残りの1人はヴェガのコアギュレイトによって拘束され、見事3人を怪我なく捕らえることができた。
「何故このような愚かな真似をしたのじゃ。
 懺悔するならわしが聞いてやる・・・・話してみよ」
 美しい女性ににこにこと罪のない笑顔を向けられて、抵抗できる男はそうそういないものである。
 ぽつりぽつりと男達は1週間前の行動を話し始めた。

「くだらない・・・・」
「そんな心根だからこそ、相手が出来ないのよ」
 レミィと秋緒が呆れたように見下ろすと、男達は身体を小さくして俯く。
 木にリボンを結んだものの、リボンが解けてしまい彼女に縁がなかったと逃げられた男。
 木の伝説を信じる信じないで喧嘩して、そのままふられてしまった男。
 未だ恋人という存在に縁のない男。
 3人が偶然酒場でテーブルを共にし、飲み、愚痴を吐き、意気投合した。
 店を出た後、近くの家で放置されていた手斧を見たのが引金となり。
 酔いの勢いに任せて木へと赴くと、それぞれに手斧を持ち切りつけたのである。
「酔っ払っていれば、力なんか入りようもないですね」
 一撃ずついれてすっきりした3人は、そのまま上機嫌で家路につき。
 朝、目が醒めたときに床に転がった手斧を見て、昨夜自分が何をしたのかを思い出したのである。
「まあ、それで後悔しただけまだ救い甲斐があるといえるか・・・・」
「しかし恋愛なんて結局本人達次第ではありませんか。
 何の責任もない木を切る前にすることが有ると思いますが?」
「でもその時は酔っ払っていたし、この木がなければふられることもなかったと思うと・・・・」
 1人の男がそう言い訳する。
 と、残り2人も賛同するように首を縦に振った。
「今思えば悪かったなと思うけれど、その時は何せ酔っ払っていたから」
「単純に悪いのは何かって考えたら木だろうってことで・・・・
 ああ、でも今はちゃんと反省してる。ごめんなさいッ」
 目に冷たい光を湛えたアディアールに、慌てて3人は頭を下げるものの。
「少しばかり・・・・木の気持ちを味わって頂くのもいいかもしれません」
 いつの間に用意したのか。
 手斧を持ちぼそりと零された言葉に、男達は引きつった悲鳴を上げた。


 木を少し傷つけた。
 それだけでは罪にはならない。
 反省も後悔もしているようであったので、冒険者達は彼らを解放することにした。
 勿論、再度同じことを繰り返した場合の脅しはつけて、である。
「今度同じことがあったら貴方達の名を言いふらすわよ。2度と彼女なんかできなくなるから」
「が、頑張ってくださいッ。し、失敗しても次がありますよ!」
 握りこぶしで主張する鞳維であったが、直後、自分は毎回失敗してますけど、と小声で付け加えて表情を曇らせる。
 そんな鞳維の肩を叩いて応援し、3人は2度とやらないこと、酒を飲みすぎないこと、頑張って彼女を探すことを誓って街へと戻っていった。

●翌朝

 今日も恋人達が仲良くリボンを結んでは街へと戻っていく。
 その中にふと、見慣れた後ろ姿を見つけて神緒は駆け出す。
 が、数歩進んだところで足を止め、頭を振った。
 その相手は、ここにいる筈がないのだから。
 立ち止まった神緒の横を、恋人達が通り過ぎる。
 振り返り、楽しそうに会話する恋人達を目で追えば、彼らは木へと近づいていくところだった。
 幸せを願う木。共に過ごすことを約束する木。
 けれど。
「もう私には‥‥」
 哀しげに目を伏せ、溜息を一つ吐いて神緒は足早にその場を立ち去った。

「恋するのはいいのだが、それにより、不幸になる子がいなくなるようにしてもらいたいものだ」
 恋人達を見ながらレミィは呟いた。
 人間は人間、エルフはエルフ。
 周囲の恋人達は皆、同じ種族同士だ。
 異種族恋愛は受け入れられない。
 異種族間の友情は善き話となっても、恋愛となれば別。
 それは許されない想い。
 禁忌の子は姿を隠さねば、普通に生活することも難しい。
 レミィには迎えてくれる家族がいる。
 だから大丈夫。
 だが・・・・そうでない者もいる。

「公主様、今頃どうしてるのかなあ・・・・」
 鞳維は外套をぎゅっと掴み空を見上げる。
 共にいた主人とはぐれ、今、彼の人は何処にいるのかもわからない。
 再会できるのがいつかもわからない。
 頼る者のない寂しさ、心細さに、つい涙が零れそうになる。
「捨てられちゃった・・・・ううん、公主様がそんなことなさる筈がないです」
 首を横に振ると赤い髪が揺れる。
 嫌いな赤い髪。
 黒く染めようとして失敗して、中途半端な赤と黒。
 何処にいけばいいのかわからない自分のように、どちらとも染まりきれない髪。
「公主様・・・・」
 それでも、この空だけは繋がっている筈だから。
 鞳維はじっと空を見上げた。


「夜に・・・・来ていた人達は・・・・」
 エヴァリィは哀しそうに目を伏せる。
 彼らが樹を見張っているこの数日。
 人気のなくなった夜に現れた恋人達も数少ないながら居た。
 それらが全てそうだ、とは思えない。
 しかし、その中には昼間訪れることは許されない、異種族での恋人達もいたかもしれない。
「悪しき慣習・・・・嘆かわしい」
 三四郎が嘆くように、それは悪しきものかもしれない。
 しかし。
 隣人がいきなり暴れ出すかもしれない。
 自分を傷つけるかもしれない。
 事実、そのような事件が過去にあるとも言う。
 そのような状況で、信じろというのは容易いが、信じてもらうのは難しいことだ。
 そこにあるのは悪意ではなく、恐怖や不安なのだから。
「エヴァリィ、キミの歌を聞かせてもらえるか?」
「はい・・・・」
 世の美しさを謳うエヴァリィの声を聞きながら、三四郎は空を見上げるのだった。