盗難注意
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月05日
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●オープニング
青年、ユージーン・ブルワーは途方に暮れていた。
西の大きな町で暮らしているユージーンがキャメロットにやって来たのは、ここで古物商を営んでいた祖父が亡くなったと言う知らせが届いたからだった。知らせと共に届けられた遺言書にはキャメロットにある自宅及び店の整理と処分の依頼と、形見の品を引き取るようにとあった。
西の町で武具屋を営んでいる両親は仕事で忙しく、店に保管されていた骨とう品は同業者に依託して処分した。そして、祖父の家の片づけがユージーンに託されたのである。
祖父の家は1階は台所、居間、寝室(兼書斎)といった生活スペースがあり、2階は保管庫のみと至って簡素な作りだった。2階の保管庫には仕事兼趣味で集められた品々が、壁全面に取り付けられた棚や床にまで積んである。それらを整理し、且つ遺言書の最後に記されていた形見の品を探すのがユージーンの仕事だった。
どうにか整理が終わり、目的の品も発見する事ができた。そんな矢先、1通の手紙(もしくは予告状?)が届いたのである。
『近々子猫ちゃんをいただきに参ります。私が行くまで粗末に扱わないでね、坊や ミリューイ・S』
封を開ける前からほのかに漂っている甘い香りと文面に、ユージーンはなぜだか身震いする。
「どうしたら良いと思う? ミスト」
ユージーンは足元にすりよってきた黒い子猫を抱き寄せ、喉元を撫でてやりながら独り呟く。
「多分、じいさんの遺言にある子猫の絵の事だと思うんだけど‥‥」
傷が付いたりしないように丁寧に何重にも包装されたその絵を確認のために少ししか見なかったユージーンだが、今膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている子猫、ミストをモデルにとても愛らしく描かれているとわかった。そして作者は、ユージーンでも分かるほど有名な画家であるらしい。
自分たち肉親に譲ると遺言されている以上、この手紙の送り主であるミリューイ・Sとかいう人物に渡す理由はない。それにユージーンは西の町へ戻らなければならなかったのである。
思案した結果、ユージーンは冒険者ギルドにこの絵を守る依頼を出す事にしたのであった。
ユージーンが冒険者ギルドにて依頼を出している頃、通りの反対側にギルドの方を見つめるエルフの女性が立っていた。
柔らかくウェーブのかかった金髪に赤い瞳、赤い紅をひいた口元と艶めいた雰囲気のその女性に、何人かの男性が視線を奪われるが、鋭く睨み付けられてすごすごと退散していく。
「ふぅーん。子猫ちゃんを素直に渡してくれる気はないのぉ。坊やがそのつもりなら、私も応えてあげなくちゃねぇ」
不敵な笑みを浮かべて女性は呟き、その場を去っていった。
●リプレイ本文
依頼人ユージーン・ブルワーの元にやって来た冒険者は5人。直接戦闘できるのがシフールの劉蒼龍(ea6647)だけなのが心許ないが、それはそれで相手が油断してくれれば、儲けものだ。ユージーン自身も多少の心得はあるが、実際に戦うのはこれが初らしいから頼りにはならないだろう。
さて、ユージーンと挨拶を交わしてすぐ、ヴィルジニー・ウェント(ea4109)は予告状を借りて匂いを嗅ぐ。
「あたしね、香水作製が趣味なの。この残り香を覚えておけば、その匂いを身に纏ってる人が来たらすぐにわかるでしょ?」
続けてジーニーは文面を読み上げる。
「この文だけじゃ子猫ちゃんっていうのが絵の事なのか本物の子猫のことなのか曖昧すぎてわかりませんわねぇ」
「犯人の狙いって実は絵じゃなくてミストちゃんなんじゃって思いました」
ジーニーの言葉を受けて、カノ・ジヨ(ea6914)がいうとティール・ウッド(ea7415)、リリアクー・フルーネル(ea7597)も同意する。
「それボクも思った〜 可愛いもんね〜」
ユージーンに抱かれている子猫ミストを熱い視線で見つめる4人。その視線に気付いたのか、ミストはふいっとユージーンの腕から床に降り、行ってしまった。
「あ、もしかしたら‥‥」
ジーニーが呟くと、名残り惜しそうにミストの行った方を見ていたカノとリリアが顔だけジーニーの方を向いた。
「子猫ちゃんはユージーンさんのことかもしれませんよ?」
甘い香りを漂わせたお姉様がユージーンを誘惑してめくるめく官能の世界へ‥‥なんていうのを想像したジーニー、カノ、リリアの3人はキャーキャーと騒ぎ出す。
置いていかれたユージーン本人とティールがやれやれと視線だけで会話していたのを知ったら、それはそれで彼女らは盛り上がったかもしれない‥‥。
女性陣が盛り上がっているとき、隣の部屋で蒼龍はミストの周りを飛び回っていた。
初めてシフールを間近で見た子猫は興味津々に蒼龍を見つめ‥‥飛びかかった!
「おあー、やめろって。俺はただ、お前の首輪とかになんかあるかなーと思っただけ‥‥」
そんな蒼龍の言葉も空しく、子猫は前足で蒼龍を抑えて臭いを嗅いでみたり、やりたい放題だ。体重や腕力等諸々は蒼龍の方が上だから、退けようとすればできるのだが、その場合穏便にはすまなさそうなので、実行できずにいた。(ミストと戯れるのが本当は楽しいってのもあるのかも)
「「あ〜!! 蒼龍さんだけずるいですよ〜!!」」
蒼龍の叫びに気付いたカノとリリアがハモるように言う。さっきのテンションをまだ引きずっているからか、蒼龍の必死な顔を見て2人は笑い出した。
「笑ってないでどうにかしてくれ〜」
まだ笑ってる2人の後ろからティールが来て、ひょいっとミストを抱き上げ蒼龍を助けた。
「さんきゅ。悪いな」
体中毛だらけになった蒼龍が、毛を払い落としながらティールに礼を言う。
遅れてやって来たユージーンとジーニーは、予告状の差し出し人に関する話をしていた。
「じいさんの遺した手紙とかも色々読んだんだけど、この絵のことを知ってるのは、じいさんと作者、それに作者に近しい人物だけみたいだ」
作者に直接話を聞こうとも思ったようだが、なんせ時間がなかったので、問い合わせの手紙を出すに留まったらしい。その手紙の返事はこれから向かう西の町に送るように書いておいたので、今は情報らしい情報は匂いしかないのだった。
結局、ミリューイ・Sとやらの狙いが絵なのかミストなのか見極める事ができなかったため、カノ、リリア、ティールの3人はミストの護衛も兼ねる事にした。とは言え、子猫には外の世界の刺激が強すぎたのか、怯えてユージーンの懐に潜り込んだ後、そこから首だけ出している状態だったので、普通に人間の方を護衛する形になったのだが。
絵はティールの連れた馬の背に他の荷物と共に括り付けてある。
キャメロットの町中を過ぎ、郊外へ出たところで、ミストはやっと落ち着いたらしく、ユージーンの懐で暴れ始めた。しかたないので首輪に紐を括り付け、道端で少し遊ばせることにした。
目についた小さな虫や草に反応するミストの仕種に、猫好きが数人、一喜一憂していた。
初日は何事もなく過ぎたが、子猫がぐずる度に休憩したせいか、予定より若干遅れていた。
2日目の宵闇迫る頃、野営するために準備を始めた一行の中で、最初にそれに気付いたのはジーニーだった。
「この匂い‥‥」
大気の中を漂うわずかな匂いを感じ取り、ジーニーはくんくんと辺りの匂いを嗅いで確認する。ジーニーの様子に気付いた皆は、作業を中断してジーニーに注目する。
相変わらず気ままに遊んでいたミストも同じように匂いを感じとったらしく、ふと頭を上げた。
「猫たんも気付いたみたいだね‥‥」
ティールが呟きながら、さりげなくショートボウと矢を手に取る。
「隠れてるつもりらしいけど、もうバレてんだぜ。出てこいよっ」
辺りに目を凝らしながらナックル装備の拳を構えた蒼龍が叫ぶと、街道前方の木陰から宵闇でも色が分かる位はっきりした金髪の女性ーーミリューイが剣を構えた男と、クレリックっぽい男と共に現れた。
途端に、あの予告状に残っていたのと同じ、甘い匂いが強くなる。
ユージーンもノーマルソードを構えるが、どうにも様になっていない。
「いやぁねぇ。子猫ちゃんを渡してくれれば戦うつもりなんて、全然ないのにぃ」
匂いと同じように甘ったるい喋り方に戦意は感じられない。ミリューイの姿を見た途端、戦意喪失気味の蒼龍をみて、戦況は不利と判断したジーニーはミリューイに問いかける。
「あなたの欲しい子猫って、ミストの事? それとも絵? ‥‥それともユージーンさん?」
リリアに抱きかかえられたミストとジーニーとユージーンを交互に見つめて、それからミリューイはくすっと笑った。
「本物の子猫ちゃんも可愛いし、こっちの坊やも可愛いけど、私が欲しいのは絵なのよねぇ」
ミリューイの答えにカノとリリアがちょっぴり残念そうな顔をしたのはこの際置いといて、ユージーンはミリューイに質問する。
「あの絵はじいさん、クレイグ・ブルワーが個人的に依頼して描いてもらったものだ。あんたとどういう関係が‥‥」
「私はあんたのじいさんなんて知らないわ。でも、描いた人には絵をもらうって約束してたのよね」
アトリエでもらう絵を選んだとき、一番気にいったのが子猫の描かれていた絵で。作者もそれを譲る事を快諾したらしい。にもかかわらず、その絵は別の人物の元へ行ってしまった。だから取り返しに来たのだとミリューイは告げた。
「だめだっていうなら、力づくでいただくしかないわよねぇ?」
言いながらミリューイ本人もダガーを構え、戦闘が始まった。
「あんたみたいな美人とは戦いたくないんだけどな」
そう呟きつつ、ミリューイに応戦する蒼龍は本気で戦っているものの技能的には五分、剣を構えた男と対決したユージーンは圧倒的な技量の差で即ダウン。
カノが男目掛けてホーリーを撃ち、ティールが矢を射るものの、男は負傷しつつもまっすぐティールのところへ来たかと思うと、鳩尾を殴って動けなくした。カノも詠唱中に捕まり、猿ぐつわを噛まされ後ろ手に縛られて動けなくなった。
ジーニーとリリアも敵のクレリックがコアギュレイトを使ってきて、動けなくなったのをロープで縛られて何もできなくなった。
「どうするの、シフールの坊や、お仲間はみんな動けなくなっちゃったわよ?」
ミリューイの言葉を聞いてカノたちに気を取られた隙に‥‥蒼龍も痛恨の一撃を喰らい、戦闘は終了した。
馬の背から布に包まれた絵を見つけたミリューイは、早速絵を見ようと麻紐を解いて布を開いて‥‥
驚いた声を出した。
「どういうことよ?!」
倒れていたユージーンを揺さぶり起こし、絵を突き付けてミリューイは問い質す。
「あんたのじいさんの所に、子猫の絵はこれだけなの?」
ユージーンが頷くと、ミリューイはヒステリックに叫ぶ。
「じゃあ、あの絵はどこに行っちゃったのよ!!」
「あーなっちゃ、美人もカタなしだぜ‥‥」
蒼龍が呟いたのを耳にしたミリューイはキッとにらみ付ける。カノもジーニーもリリアも蒼龍の言葉に大きく頷いていた。
そこへ仲間のクレリックがミリューイにおずおずと話し掛けた。
「俺たちが出発するちょっと前に、姐さん宛にその絵と同じ位の大きさの荷物が届いてましたぜ」
それは本当かと詰め寄られ、クレリックはたじたじとなるが、確かに届いていたと答えた。
「帰るわよっ」
無造作に絵を投げて、ミリューイたちは去っていった。
こうして、戦闘ではぼろ負けした一行だったが、絵もミストも無事西の町へ送り届ける事ができ、依頼は成功と相成ったのでした。