キンダーガートン・冒険者?

■ショートシナリオ


担当:中舘主規

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月27日〜11月01日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

 キャメロット近くのある農村。村の大人たちは頭をくっつけて、ひそひそごそごそ話している。
「無理だって。あいつらの目を畑からそらすなんて」
「だけど、あいつらがしゃしゃり出てきたら、それこそ仕事になんねえんだぞ?」
 1人がちらりと見遣った先には、この村に住む子供たちが実に楽しそうに遊んでいる。
 子供たちは4人。大人たちを困らせるいたずら小僧ばかりだ。
 止めろと言われればやる、触るなと言えば触る。本当にあまのじゃくで、彼らが収穫仕事に首をつっこんできたら、おそらく2、3日は仕事に遅れが出るのが目に見えていた。
「でもなぁ‥‥どうにか収穫できたって、ゴブリンどもに目を付けられちまってるしなぁ」
 このつぶやきの通り、村の近くでゴブリンやコボルドが目撃されていた。村で一番外れの畑から、美味しそうに実って収穫を待つばかりの野菜が盗まれた事もある。
 いくつもの問題を抱えて、大人たちはどんよりとくらーくなっていく。
「そうだっ!」
 唐突に1人の男が声を上げる。余りにも大きい声に子供たちがこっちを見たので、男は慌てて口を押さえて首をすくめた。
「あいつらにゴブリン退治をさせようぜ」
 突拍子もない提案に、皆呆れたように男を見つめる。
「あんなガキどもにゴブリンを退治できる訳ねーだろうよ」
 別の男がそう言うと、うんうんと皆が頷く。
「もちろん、あいつらだけじゃ無理なのは分かってるさ。だから‥‥」
 男が考えを説明すると、
「「おお〜〜っ!」」
 と大人たちはどよめいた。輪の中にいた村長も大きく頷いた。
「わしらみんなで少しずつ報酬を出しあえば、それも可能だな」

 話の流れがまとまったとき、提案した男の服がくいと後ろに引っ張られた。
「ん?」
 振り向くとそこには子供たちが立っていた。
「みんなで何話してたのさ」
 服をひっぱったのは最年長のアベルだった。
「あ、ああ。最近ゴブリンたちが村の近くに出たからな、どうやって退治しようかって話してたところだ」
 男が説明すると、アベルは「ふーん」と言いながら大人たちをジィッと見つめる。
 大人たちは一様に正面からアベルを見つめ返す事ができずにいて、どうやらアベルは不信を感じてしまったらしい。
「ほ、本当だぞ。みんなで少しずつでも金を出し合って冒険者を雇おうって決めたところなんだ」
 なあ、と話を振られた村長も大きく頷いてみせる。
「そうじゃ、わしらは畑仕事で忙しいから、冒険者が村に来たら、おぬしらが相手をしてくれると助かるんじゃがのぅ」
 村長が言うと、途端にアベルの後ろにいた3人は仕事を頼まれた嬉しさから、わいわいと騒がしくなった。3人の様子をみて、アベルは承諾する。
「やってもいい」
 早速、村長の使いがキャメロットの冒険者ギルドへとむかった。

『急募。村の収穫物を守るため、ゴブリン退治を望む』
 貼り出された依頼書には小さく、子供たちが手伝う事も書かれていた。

●今回の参加者

 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0601 カシス・クライド(27歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3009 トルト・メトラ(17歳・♂・レンジャー・シフール・エジプト)
 ea4881 カイル・ニート(28歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6999 アルンチムグ・トゥムルバータル(24歳・♀・ナイト・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea7757 サラ・レイモンド(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7877 朱 鈴(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●子供たちとの対面
 キャメロットを出発した一行が村の入り口に差し掛かったとき、ガサガサッと音がしたかと思うと、目の前の木から子供たちが降りて来た。
「あんたたち冒険者だろ? 村長の所まで案内しろって言われてんだ」
 一番大きな子はそう言うと、村長以下、村の働き手が揃って収穫作業を行っている畑に案内した。
 一行に気付いて作業を中断した村長がやって来た。歳若い冒険者たちに少々驚きながらも、改めて依頼内容を説明した。
「‥‥そういう訳で、みなさんのお手伝いをできるのがこの子らしかおらんのです」
 先ほど声をかけてきた一番大きな子が呼ばれて村長の隣に立つ。
「この子はアベルと言いまして、子供たちのリーダーです。村の周囲の事はわしら大人より熟知しておりますから、何なりと使ってやって下さい」
 村長が作業に戻っていくと、アベルと呼ばれた少年はじっと一行を見つめる。恐らく村長と同じように冒険者というのはもっとごつかったりオヤジ臭いと思っていたのだろう。
 人間より長生きするシフールのトルト・メトラ(ea3009)やドワーフのアルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)はともかく、最年少のユニ・マリンブルー(ea0277)は14歳だ。自分とそんなに歳の違わない冒険者もいるんだと知ってか、12歳のアベルはちょっと悔しそうな顔をしていた。
 何とも気まずい雰囲気を打破したのは、アルことアルンチムグだった。
「ウチはモンゴル出身のアルンチムグ・トゥムルバータルや。ゴブリン討伐への協力、感謝する」
 子供たちと対等に接する事を示そうと、アルはきりっとナイトらしく敬礼する。アベルの後ろに立っていた子供たちは、何だか照れくさそうにモジモジした。
「オレはアベル。後ろに立ってるのはダン、バート、ティム。オレの大事な仲間だ」
 アベルの言葉を受けて、カシス・クライド(ea0601)や朱鈴(ea7877)たちもひと通り自己紹介を済ませると、馬小屋を借りて馬を預けたりバックパックを置いたり準備をした。
 その後、カイル・ニート(ea4881)の提案もあったので、子供たちに村の周囲を案内してもらう。
 子供たちの案内で分かったのは、村の北側の森の中からゴブリンたちはやってくるらしい。森と村の間には動物やモンスターが村に入ろうとしてもすぐに分かるように草地が作られ、更に柵も立ててあるのだが、早朝や深夜を狙って襲ってくるので、どうにも防ぎきれないようだった。
 と、ノース・ウィル(ea2269)が一軒の空き家を見つけた。隣には納屋らしき小屋もある。
「あそこは使えそうだと思わないか?」
 子供たちが言うにはこの家の主は数年前に亡くなっているらしい。
「ってことは、ここに罠を仕掛けても大丈夫かなぁ」
 ユニが呟いた時には、子供たちが村長に確認を取りに走り出していた。

●罠作り&偽貯蔵庫作り
 村長の許可を貰った一行は、ゴブリン討伐の為に本格的に動き始めた。
 子供たちとユニ、トルト、サラ・レイモンド(ea7757)が納屋の片付けを兼ねつつ戦場工作のスキルを活用して罠を作る。といっても、専門的な罠を作れる程スキルが熟達していないから、子供たちが村の大人相手にいたずらする時に作るものより巧妙に、より分かりにくくするくらいしかできないが。
「この落とし穴、ゴブリンを退治したらちゃんと埋めますからね」
 サラに諭されれ子供たち、トルトまで一緒になって「えー」と不服そうな声を出す。
「トルトさんまで‥‥。村の誰かがこれにかかって、万が一でも怪我をしたらどうします? 私たちの仕事はゴブリン退治であって、村の人に怪我をさせる事じゃないんですよ」
 それが仕事を請け負った責任なんだとサラが言うと、子供たちはしぶしぶ埋める事を承諾する。
 落とし穴を掘る一方で、手の空いている者たちは収穫物を入れる木箱をせっせと運び込んでいた。中には掘った時に出る土を入れているが、箱の一番上にはもっともらしく見せる為に野菜をいくつか入れておいた。
 落とし穴の他にも、納屋の入り口の所にロープを渡して、ゴブリンたちが納屋から逃げ出そうとした時に足留めできるようにする。
「このロープを引っ張るのは、アベル君たちに頼もうか?」
 カシスが提案すると、子供たちの目が輝いた。アベルだけ乗り気ではなさそうなのが気になるところだったが。

●子供たちと交流、そして
 それはつかの間の休息だった。カシスが誕生日プレゼントとしてカイルからもらった大理石のチェスをプレイする横で、アルが子供たちにダーツの投げ方を教えている。ダーツを投げようとする子に向かって、鈴が「気合だー!」と叫んでいたりもする。もう、何度言われたかも思い出せないくらい言われてるからか、子供たちはへき易したような顔をしているが、鈴には関係ないらしい‥‥。
 少し離れたところでは、カイルがアベルにダガーを持たせて扱い方を教えていた。
「それを使って、お前があいつらを守ってやれ。もちろん俺たちもお前たちに危害が加えられないように十分気をつけるがな」
 無事にこの仕事が終わったら、そのダガーをやるとカイルはアベルに約束した。
 責任ある事を任された事によって、ようやくアベルにやる気が出たようだった。

 始まりは早朝。最初に異変に気付いたのはトルトだった。
「みんな起きてっ」
 それぞれに武器を携えて、泊まっていた空家からそっと出てみると、確かに納屋で叫び声と音がする。どうやらこちらの思惑通り、落とし穴にハマったらしい。
 皆が事前に打ち合せた通り、納屋の入り口を囲むように構えた。納屋の両脇では子供たちとトルト、サラがロープの端を持って待ち構えている。
「ゴブッ、ゴブゴブッ!!」
 意味は分からないが、怒ったような口調で叫びながらゴブリンたちが飛び出して来て‥‥足元のロープに気付かず将棋倒しに倒れ込む。
「貴殿たちは包囲されている。おとなしく投降せよ!!」
「気合があれば何でも出来る! チビッ子ども! あたしの生き様、その目に焼き付けとけ―――!!」 
 ノースの警告の倍以上大きな声で、鈴が叫んでナックルを装備した両手を構える。ゴブリンたちも怒りのためか逃げようとはしないで、鈴やノースに向かって来た。
 ダーツを投げ付けて牽制したカシスがゴブリンに殴り掛かり、ノーマルソードとパリーイングダガーの2本を構えたアルはコボルトに向かって行く。ユニは別のコボルトの動きを封じるために足を狙って矢を放ち、そのコボルトに向かってカイルが斬り掛かった。
 あぶれたゴブリンの1匹が小屋の脇で戦況を見守っていた子供たちに気付いたのはその時だった。
「ぐぁぁ!」
 自分よりも非力と見抜いたゴブリンは威丈高に子供たちに向かって行く。
「うわぁー」
 まっ先に気付いたカイルが目の前のコボルトに構わず、子供たちとゴブリンの間に立ちふさがった。
 小屋の反対側にいたアベルはいても立ってもいられなくなって、ダガーを構えて走り出した。
「待って下さい! アベル君!」
 サラが追い掛ける。
「危険です! 戻って下さい!!」
「イヤだっ。カイルさんにあいつらを任されたんだ!」
 自分を対当に扱って、武器の扱い方まで教えてくれた彼らを少しでも助けたい。子供は子供なりに懸命に考えているのだ。
「あなたに怪我をさせてしまっては、本末転倒なんです。その気持ち、カイルさんたちにちゃんと伝わってますから!」
 サラの忠告も空しく、ダンたちの盾になって2匹を相手にしているカイルの元へ走りよると、アベルはゴブリンの斧を持っている腕にダガーを突き立てた。
 突然の攻撃にゴブリンは怯むが、すぐに振払われてしまう。ゴブリンはアベルに更に攻撃しようとしたが、最初の1匹を倒したノースがアベルを助けた。
 駆け寄って来たサラに助け起こされたアベルの周りに、ゴブリンを倒した鈴、カシス、ユニと次々に集まって来て、カイルが相手をしていたコボルトも倒された。アルが相手をした最後の1匹も倒して、無事依頼は終了となった。

●別れ
 早朝であったにも関わらず、騒ぎを聞き付けた村人たちは、一部始終もらさず見ていた。
 戦闘不能になっているゴブリンたちの処分を村の男たちが引き受けてくれたので、一行は村長とゆっくり話をする。
「彼らがいてくれたおかげで無事仕事をこなせました。彼らに出来そうな事は彼らに任せてはいかがですか?」
 サラが言うと、村長も頷いた。
「これからはもっとこの子らに働いてもらう事にしましょう」
 そうすれば、いたずらも減るでしょうからな、と村長が続けて言うと、皆がどっと笑った。

 後片付けを済ませて、帰り支度をしていると、アベルがやってきてカイルにダガーを返そうとして来た。
「そいつはもう、お前のものだぜ」
 アベルの頭を軽く撫でたカインは、にっと笑ってみせた。アベルは本当に嬉しそうに大きく頷く。
 物陰からこっそりとこちらをみていたダン、バート、ティムもカシスが手招きするとこちらにやってきた。
「楽しい時を過ごせたぞ。後は、君たちが村を守ってくれ」
 最後にきりりとした表情でノースが言うと、子供たちは「うんっ」と力強く頷いた。
 馬の支度もできたので、名残惜しいが子供たちに別れを告げて出発する一行の背中に向かって、子供たちはいつまでも手を振り続けるのだった。