無くした答案用紙
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月10日〜12月15日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
「あ〜、済まないんだが、いいかね?」
冒険者や生徒たちが出入りするクエストリガーにも、たまに誰も人がいなくなる瞬間がある。
その先生がやってきたのはそんな瞬間だった。
使い古されごわごわになった黒いローブを纏い、長い白髪に長い白髭を蓄えた、いかにも魔法使いと言った風情のその先生はオーガスト・バルフォア教授。マジカルシードで眠たくなるような授業をする事で有名なバルフォア教授は、受付嬢にぼそりと呟いた。
「はい?」
教授の声があんまりぼそぼそと小さいので、受付嬢は聞き取れなかったらしい。
「‥‥じゃから、探して欲しいんじゃよ」
マジカルシードで魔法の歴史に関する事を教えているバルフォア教授は、先日ペーパーテストを行ってその採点も済ませていたのだが、昨日ケンブリッジ内を移動中に答案用紙を数枚紛失してしまったらしい。
「紛失された答案用紙の生徒の名前等は分かりますか?」
受付嬢の質問に、バルフォア教授はしばし考えた後‥‥。
「思い出せんのぅ」
教授の答えに受付嬢は呆れながらも、羊皮紙に依頼内容を書き込んでいく。
幸いにも、無くしたと気付くまでの行動は覚えていたようだ。
「まず、わしの部屋から図書館へ行って採点を始めたんじゃ。それから授業のある2階の教室へ行ったわい。授業が終わった後は食堂で昼食を食べたな。その後授業のある5階の教室へ行って‥‥いや、待てよ?」
あやふやな部分を思い出そうと集中している教授の耳をかん高い声が劈いた。
「バルフォアせんせー、こんなところで何してるんですかぁ?」
見るとマジカルシードの女子生徒だ。生徒の大半が睡魔に襲われる教授の授業で、この生徒は珍しく最後まで起きているうちの1人だった。
「そういや、昨日はびっくりしましたよぉ、授業でもないのにいきなりせんせーが来るんだもん」
「おおっ、そうじゃった、そうじゃった! 昨日は5階の教室へ行くつもりで、4階の教室に行ってしまったんじゃ」
受付嬢が依頼書に書き足していると、教授はそれを覗き込んで言った。
「2階の教室と5階の教室は、昨日のうちに探したんじゃが、見つからなかったんじゃよ」
しょんぼりしつつ呟いた教授は、改めて受付嬢に依頼すると、そそくさと自分の研究室へと戻っていったのだった。
●リプレイ本文
資料と思しき本や品々が雑然と置かれたオーガスト・バルフォア教授の部屋には、ギルドで依頼を受けた7名が揃っていた。
「初めまして。フォレスト・オブ・ローズ生徒のラス・カラードと申します。答案用紙探し、ぜひ協力させてもらいます」
ラス・カラード(ea1434)をはじめに全員が挨拶を済ませると、早速アルメリア・バルディア(ea1757)が本題に入った。
「教授、調査を始める前に、何点か確認しておきたい事があるのですけど、良いですか?」
教授が頷いたのを確認すると、アルメリアは答案用紙の管理状態や当日の行動の時間の目安、それにテストを行ったクラスはどこで、手元にある答案用紙はどのクラスのものなのか知りたいのだと、説明した。
「確かに、テストを受けた生徒の名簿等があれば、手元にある答案と照らし合わせてなくなったのが誰のものかを特定できるな」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)がアルメリアに同意すると、シャルティナ・ルクスリーヴェ(ea7224)もにこにこと笑顔で頷いた。
「私も紛失したものを探す手掛かりとして答案用紙をみたいですわ」
言われた教授は腰掛けていた椅子から身を乗り出して、机の上にある書類箱の中から答案用紙の束を、何冊かの本の間から名簿を探し出した。
「これでわかるかのぅ?」
アルメリアが名簿を受け取ると、シャルティナが答案を受け取り、半分をアルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)に手渡して、一枚ずつ答案を照らし合わせ始めた。
その結果、4階のクラスのが2枚、2階のクラスのが1枚紛失しているのだと分かった。
「答案が無い3人の、今までの成績ってどうなっとるんやろ? あんまり考えたくないんやけど、万が一ってこともあるしなぁ」
アルメリアから名簿を返してもらった教授が3人の成績を調べてみると、どうやらあまり良いとは言えない成績のようだった。
「まさか拾った答案隠してるなんてことは無いだろうけど、念のために‥‥」
苦笑しながらそう言った御山映二(ea6565)が4階の教室を探すと宣言し、同じく4階を探すつもりのミラ・コーネリア(ea4860)とアルメリアの3人で教室に向かった。
同時にラスは図書館へ、アルンチムグは食堂へ向かい、残ったシャルティナ、エルンストはそのまま教授の部屋を探し始めた。
教授の部屋の至る所に雑然と置かれている資料たちだが、バルフォア教授によると置いてある場所に意味があるらしい。3人は教授の作業――と言ってもほとんど机に向かって書きものをしているだけだが――の邪魔をしないようにしながら、落ちていそうな場所を探し始めるのだった。
図書館へ向かったラスは膨大な本に圧倒されながらも、司書のいるカウンターへ近付いていった。
「すみません、この辺りで羊皮紙の落とし物はありませんでしたか?」
落とし物はなかったが、当日に教授のいた位置、事前に教授に聞いておいた本を見せてもらうようお願いする。
それら本の間には、生徒には貸し出しはおろか閲覧も許可されていないものがあったが、そういう本の場合は司書に中を確認してもらった。
「無くすとしたらここだと思ったんですが、これはちょっと時間かかりそうですねぇ‥‥」
机の上にうずたかく積まれた本にため息をつきながら、ラスは1冊ずつ本を確かめていくのだった。
食堂に到着したアルンチムグは、食事時じゃない食堂のあまりにも閑散とした雰囲気に苦笑していた。でも、そのお陰で厨房にいるおばちゃんに当日の教授について話を聞く事ができた。
「バルフォア教授は人込みが嫌いで、混む時間の前に昼食を済ませるんだけど、あの日は落とし物したような感じはなかったよ」
混んでいないとはいえ、おばちゃんは教授の様子を全て見ていた訳では無い。アルンチムグはおばちゃんに教えてもらった教授の定位置の辺りを椅子を上げたりしてよく探してみた。
壁際の席だったのだが、壁と椅子の隙間に少し薄汚れた羊皮紙を一枚発見する事ができた。広げてみると確かに答案用紙である。
「いやぁ、ラッキーやわ。でも後2枚はどこやろなぁ」
再びおばちゃんに声を掛けて焼却炉の位置を尋ねたアルンチムグは、食堂を後にした。
4階の教室へ移動しながらミラは、生徒が隠し持ってたり盗んだりという可能性に否定的なアルンチムグや映二とは逆に、誰かが盗んだかもしれないと考えていた。
教室へ到着してみると、今日の授業は既に終わっていて、大半が寮に帰ったりしてすでにいない。そんな中、こちらに近付いてくる女子生徒がいる。
「もしかして、バルフォア先生の依頼を受けた人たち?」
「そうなんだ。教授の探し物を代わりに探しにきたんだよ」
映二が頷いて答えると、その女子生徒は急に声をひそめた。
「私、先生が依頼を出したときに偶然ギルドにいたんだけど、もし良かったらお手伝いしましょうか?」
自分の名前はアマンダだと名乗った女子生徒は、元いた場所でこっちを見ていた友だちに何かを話して戻ってきた。
「彼女たちはいいの?」
アルメリアが尋ねると、アマンダは頷く。
「大丈夫よ。さあ、どこからはじめましょうか」
4人は教室の前後から二手に分かれて、2人分がくっついた少し横長の机の中や下、椅子の下などを丹念に探し始めた。
ミラは探しながらテレパシーを詠唱して、アマンダに話し掛けてみた。
『先生が間違って教室に入ってきたとき、何か落としませんでしたか?』
びっくりして手を止めたアマンダがミラの方を見、事情を察したらしく、探しつつミラに近付いてきて、小声で質問に答えてきた。
「あの時は既に授業が始まっていて、教壇に別の先生が立っているのを見て、バルフォア先生すぐに出て行ったのよね‥‥クラスのみんなは爆笑してて、私も少し笑っちゃったんだけど‥‥」
探すのを止めずに、しばらく無言だったアマンダが再び口を開く。
「あのとき、先生が何か落としたようには見えなかったなぁ」
「そう。ありがとう」
ミラとアマンダはそのまま捜索を続けた。
「うーん、この教室じゃないのかなぁ」
すれ違って端まで行っても何も見つからないので、2階の教室にも行ってみる事にした。
その頃、教授の部屋では積まれた資料が雪崩を起こしていた。
「いたーい‥‥」
崩れた資料の下敷きになって痛がったが、怒っている様子じゃ無いのはシャルティナの性格の成せる技なのだろう。しかしエルンストは呆れてため息をついている。
「おお、そういえば、図書館に行く前にわしも同じように資料の下敷きになってしもうてのぅ」
シャルティナを見て思い出した教授の言葉に、エルンストはピンときたらしい。
「その崩した資料はどの辺りだ?」
エルンストに問われて教授が指差したところを、シャルティナとエルンストは徹底的に探して‥‥。
「「あった!!」」
2人は別々に1枚ずつ答案を見つけだし、教授に手渡した。
2人と教授が崩れた資料を片付けていると、みんなが次々と戻ってきた。
ラスもミラもミラについてきたアマンダもアルメリアも映二も肩を落として戻ってきたが、教授の部屋で2枚見つかったと聞くと、喜んだ。
最後にアルンチムグが戻ってくると、期待の視線が集中する。
「な、なんや、そないな目で見るなんて。みんなみつけられなかったんかいな」
それに対してエルンストが首を横に振って事情を説明した。
「2枚は見つかったんだ。ここでな」
「なるほどなぁ。そしたら他の場所捜したみんなは空振りやったんやね」
納得した様子のアルンチムグは、余裕の笑みを浮かべて懐から羊皮紙を取り出した。
「良かったわぁ。これで全部揃ったんやろ?」
3枚の答案の名前や設問などを確認すると、確かに無くしたもので間違いなかった。
良かった良かったとみなが和気あいあいと談笑を始めると、エルンストが戸口に向かって歩き出す。
「みんなお疲れさま。俺は自分の研究があるんでこれで失礼する」
エルンストが出ていった後も談笑は続き‥‥教授は採点と研究の邪魔をされたとかされないとか。