囚われし血の少年
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月19日〜12月24日
リプレイ公開日:2004年12月28日
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●オープニング
雪もちらつくこの時期に、石の冷たい床の上で薄い毛布に包まった少年が、互いに身を寄せ暖を取っている。
部屋の高い位置にある格子の嵌った窓の外は、灰色の重い雲が音もなく白く冷たいものを降らせているばかりだ。
旅人が泊まる宿さえもないその村に数日前、目深にフードを被り口元には白いものの混じったひげを蓄えた壮年の男がやってきた。
男は村はずれにある石造りの建物の事を聞き付けて、村にやってきたようだったが、村の外で聞いた事以上の詳しい事は聞き出せずにいた。
その建物は今にも崩れそうだというのに、この辺りの領主が代替わりした頃から衛兵が立つようになった。そしてその頃から、月に一度もしくはそれより長い間隔で、馬車がやってきていた。
最初に運ばれてきたのは人。年端もいかぬ少年ばかり3人。その後は食料の入っているだろう箱が運ばれてきていた。最後に馬車がやってきたのはひと月程前だから、数日中にも馬車は来るだろうと思われた。
建物の入り口で衛兵が交代するようすを少し離れたところからじっと見つめるその旅人に、通りがかりの年老いた村人が声をかける。
「あの建物の事は忘れて下され、旅のお方。あれは領主様の持ち物。あそこにいるのは忌む者。わしらも可哀想と思いますが、助けてやろうとは思いませぬ」
それでも建物を見続ける旅人を見て、老人は深くため息をつく。
「あれに関わるのはやめなされ、災厄が降り掛かるだけですぞ」
そう忠告して立ち去ろうとした老人に冷たい北風が吹き付ける。身震いしながら風を避けようと振り向いた老人は、旅人の被っていたフードが風になびき、その横顔を晒すのを見た。
「旅のお方、もしや‥‥」
老人の言葉にも慌てずフードを被り直すと、旅人はどこかへ去って行った。
今日もキャメロットの冒険者ギルドはたくさんの冒険者で賑わっている。何人もの冒険者や依頼人を相手に、受付けにいる係員も忙しそうだ。
そこへ目深にフードを被った壮年の男がやってきた。
「依頼をしたいのだが」
低いがよく通る声で、男は係員を呼び止める。
「はいはい、どんな依頼だい?」
室内にいるのにフードを取らない男をいぶかしみながらも、係員は羊皮紙を取り出す。
「人を助けるのに、人手が欲しいのだ。依頼料は十分払えると思うが」
そう言うと、男は懐から小さな包みを取り出した。受け取った係員は中を確認して頷いた。
「詳しくお聞きしましょう‥‥」
数分後、依頼書は無事完成し、男は近くの宿屋で待つと告げてギルドを出て行った。
●リプレイ本文
依頼主と合流した一行は、寒さに耐えながら目的地の村を目指した。幸い天候が良くて、歩いていれば体が温まるので、凍える事は無い。
夕方、先頭を歩いていた依頼主が、街道から逸れて薄暗く雪深い森の中を進みだした。
「例の建物へは村の中を通らねば行けぬのだ。歩くのは大変だろうが、頑張ってくれ」
やがて視界が開けると目の前には小さな丘があり、依頼主の話によると丘の向こうに村民たちの生活圏があるらしかった。
作戦決行まで休むためにテント等を広げ焚き火で暖を取りながら、早めの夕食に取りかかる。村からは東に位置するため、焚き火で上る煙は夕闇に紛れて気付かれずに済んだ。
辺りが闇に包まれた頃、隠密行動の心得のあるシエル・ジェスハ(ea2686)と遊士燠巫(ea4816)が見張りに立っている衛兵や詰め所の場所等を調べて戻ってきた。
「入り口の衛兵は1人だけでした」
焚き火を囲んでいた中に入って、熱いスープを受け取りつつシエルが報告する。燠巫も奥さんのステラマリス・ディエクエス(ea4818)からスープを受け取って、詰め所の様子を報告した。
「中から聞こえる声の感じでは数人いるようだった。扉は1か所。窓はあるが小さいし無視して問題ないだろう」
「でも、気付かれて出てこられたらやっかいじゃねー?」
帽子を直しながらライル・フォレスト(ea9027)が呟くと、エルマ・リジア(ea9311)が提案した。
「私がアイスコフィンで詰め所の扉を凍らせて足留めすれば、気付かれても出てこられないかと思います」
「せやったら、うちがエルマはんのフォローするわ。その後2人で建物の方に行けばええやろ」
アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)が盾役を買って出て話が進む。
それまで黙って聞いていたコロス・ロフキシモ(ea9515)がスープを飲み干して立ち上がった。2メートルを越すコロスの巨躯は黙っていても十分存在感があって、みなが一斉にそちらをむいた。
「俺は入り口の衛兵を排除する。その間におぬしらが子供たちを助ければ良い。時間まで休む」
言いたい事だけ言うなり依頼主から借りた毛布に包まって、目を瞑ったコロスに誰も反応できずにいた時、村に情報収集に行っていた周防凰牙(ea9435)が戻ってきた。それを機に打ち合わせは再開され、作戦の詳細が決定した。
空全体が濃紺の闇の中、東の地平線付近だけわずかに白み始めた頃、静かに速やかに作戦は開始された。
入り口に立つ衛兵は交代したばかりだが、時間が時間だけにあくびしている。そんな衛兵を対象に、チハル・オーゾネ(ea9037)がスリープを詠唱する。抵抗されるかと思いきや、衛兵はあっという間に眠ってしまった。
そしてほぼ同じ頃、詰め所でもエルマが呪文を詠唱し、詰め所の入り口にアイスコフィンを発動させた。
「な、なんだ!?」
中にいた衛兵たちはいきなり凍り始めた木の扉を見て慌てて剣で氷を叩いたり、扉を蹴破ろうとするが、魔法の武器で無ければ壊れないアイスコフィンの氷が砕けるはずも無く。
暖炉で暖まった室内の空気に当たって内側の氷は少し溶け出していたが、夜明け前の一番寒い時間の外気に触れている限り、完全に溶ける事は無さそうだ。アルンチムグとエルマは急いで皆の元へ向かった。
無事にスリープが発動してほっとしているチハルの横をライルがロープを手に通り過ぎ、衛兵を縛り上げて体を探って鍵を見つけると入り口を開け、燠巫を先頭にコロス、ステラマリスが中に入った。
セレスティ・ネーベルレーテ(ea8880)が縛り上げた衛兵を移動させようと苦戦していたのを、依頼主が手伝って人目の付かない所へ軽々と運ぶ。
手伝ってもらったお礼にセレスティがお辞儀をした拍子にローブのフードがふわりと浮き、耳もとが露になる。慌てて被り直したセレスティを何事も無かったように促して、依頼主とセレスティも中に入った。
入り口を入ってすぐの部屋は箱が積まれたりしていて、正面に扉が1つ。そこには鍵がかかっていて入る事はできないらしい。
扉まで進み、建物の入り口の方を向いて右に、地下へと続く階段が見えた。セレスティたちが入ったときには、すでにコロスたちは地下に降りたようで、激しい剣戟の音と気合いの入った声が聞こえる。
「ムウン!!」
地下に降りてみると廊下の先に扉があり、その前で衛兵が1人倒れていた。ステラマリスが衛兵の具合を確認したが、気絶しているだけのようだった。
衛兵の傍に落ちていた鍵を拾って燠巫が扉を開けると、部屋の中にはまだ幼さの残る少年が3人、隅に固まって震えながらこちらを見ていた。
「さあ、もう大丈夫よ。あなたたちを助けに来たの」
燠巫の後ろから顔を覗かせたステラマリスが母性に溢れた笑みをたたえて言うと、少年たちは互いに顔を見合わせ、すぐに立ち上がってやってきた。
包まっていた毛布の下は破れたりほつれたりした薄い服一枚の少年たちに、依頼主が用意した防寒着が渡される。
廊下に出て来た少年たちを見ていたコロスが嫌悪もあらわに呟いた。
「ム‥‥おぬしらも混血種だとはな」
言われてはっとした少年たちは、さらに傷付き悲しんで涙を流した。コロスの反応が一般的なハーフエルフへの反応であるとはいえ、面と向かって言われると腹立たしさを感じたのか、セレスティの顔が険しくなる。
「おぬしの個人的感情は、この際脇に置いておいてもらおう」
それまで決してフードを取らなかった依頼主がするりとフードを外す。そこには確かに少年たちと同じ位の長さの、エルフに比べると短めの耳がある。居合わせた皆が驚いたが、その表情に嫌悪の色は無い。
依頼主までがハーフエルフであると知ったコロスは苦虫を噛み潰したような顔のまま、ふんと鼻を鳴らしてさっさと階段を上っていった。その後ろに、少年たちとステラマリスや依頼主も続く。
建物から出てみると、外は半分程薄闇のままで、馬車もまだ来る様子は無い。
アルンチムグと凰牙が自分たちとセレスティ、依頼主の4人の馬を連れて待機していた。シエル、ライル、チハル、エルマの4人は既に村の入り口目指しているとの事だった。
フードを取っていた依頼主に驚きつつも手綱を渡した凰牙は、少年の1人を乗せた後自らも馬に跨がった。残る2人の子供もセレスティや依頼主の馬に乗せられている。
「徒歩のみんなはなるべく目立たないように、急いでや」
凰牙は荷物を担いだ燠巫たちに告げて、先に出発する。
さすがに日の差さない森の中を抜けるのは危険だからと、燠巫たち3人は村を横切って入り口まで出る事にした。
村の入り口で燠巫が振り返ってみると、村の家々の煙突から煙が上がり、村人たちの日常は何事もなく始まったていた。
合流した徒歩組は事前に受け取っていた帰路の分の保存食を食べつつ、キャメロットへの道を急いだ。
2時間程歩いてあるT字路に差し掛かった時、徒歩組はキャメロットとは反対方向からやって来た一台の馬車とすれ違った。
「もしかして、今の馬車があの建物へ荷物を運ぶ馬車でしょうか?」
「まさか‥‥」
シエルのつぶやきに、皆が笑顔で応じるが、油断は禁物だからと合流地点と約束した場所へ急いだ。
馬で一足先にキャメロットへ向かっていた依頼主たちは合流地点である街道沿いの宿屋でぬくまりながら徒歩組を待っていた。街道沿いという場所柄、ハーフエルフへのあからさまな差別は見せなかったものの、宿屋の主は困ったような顔をしている。
少年たちを部屋で休ませ、4人で食事をしているところに徒歩組がやって来た。
「お疲れさまです。何かお食べになりますか?」
セレスティの労いの言葉に頷きつつ、ライルが依頼主に馬車を見かけた事を報告した。
「ふむ‥‥」
しばらく考えていた依頼主は立ち上がるや防寒着を着始めた。
「もう一度あの村へ行って様子を見てこよう。わし抜きでキャメロットまで戻ってくれ。ギルドに行けば、わしの連れが待っているはずだから」
宿屋の主に金を払って馬小屋から自分の馬を引き出すと、さっと跨がった。
「あのっ! どうやってあなたの関係者だと見分ければ‥‥」
行ってしまおうとする依頼主に向かってセレスティが叫ぶと、依頼主は振り向いてフードを脱いで見せた。
「大丈夫だ。君たちなら分かるはずだ」
そう言いおいて、依頼主は村に向かってしまった。
しばし休憩した一行は言われるままに少年たちを連れてキャメロットへ向かう。まだ体力の戻っていない少年たちを馬に乗せて、進んだ一行がキャメロットに到着したのは翌日の朝。
ギルドに着いてみると、依頼主と同じようにフードを被った1人の青年が待ち受けていた。
「この子たちは私が命にかえても安住の地へ連れて行きましょう」
青年はにっこり微笑んでフードを脱いだ。そこには、少年たちと同じエルフよりは短い尖った耳があった。合点のいった一行は青年へ少年たちを渡した。
「これから行く場所には君たちのような子たちばかりいるんだ。きっと仲良くできると思うよ」
そう言いながら青年は、用意していた荷馬車に少年たちを乗せると、深々とお辞儀をして去って行った。
後日、迫害に苦しむハーフエルフの孤児たちを世話する冒険者がいるらしいとの噂が囁かれた。
噂の出所は不明だが、きっと真実に違いないと少年たちを救った彼らは思うのだった。