お婆ちゃんを連れて
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月19日
リプレイ公開日:2004年06月22日
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●オープニング
「君、この依頼なんてどうかな?」
ギルドの掲示板の前で依頼書を一つ一つ見ていたら、ギルドのお姉さんが新しい依頼書を見せてくれた。
「護衛と案内をお願いします」
掲示板の前にいる数人で依頼書を覗き込んだら、これしか書いてない。
「それの依頼人はあそこにいるお婆さん。ちょっと報酬は安くなるかもだけど、よろしくね」
お姉さんが指差す方向には、疲れた様子で少し曲がってきている腰を擦っている、白髪のお婆さんが座っていた。お姉さんはにっこり笑って、行ってしまった。
「あらあら、こんなにたくさんの冒険者さんが、私みたいなお婆さんの依頼を受けて下さるなんて、神様に感謝しなくてはなりませんねぇ」
神に感謝の祈りを捧げたお婆さんは、努めて明るく説明し始めた。
「やっと最近になって余裕ができたから、一緒に暮らそうって息子に言われましてねぇ。今まで住んでいた家は、このキャメロットから半日も歩けば着くようなところだったんですけれども、息子たちの家はここからかなりありましてねぇ。街道を2日も歩かなくちゃならないなんて、不便になってしまうわねぇ」
ちょっと困ったような顔をしてみせるが、息子や孫と一緒に暮らせる事が嬉しいらしく、お婆さんは笑顔になった。
「本当は息子が迎えに来てくれるはずだったんですけどね、忙しくなったから来られないって便りがきたんですよ」
旅慣れていない年寄りが一人で旅をするのは危険だから、キャメロットの冒険者ギルドで護衛を頼めと息子に言われたと、お婆さんは少しふてたような顔をした。
「ギルドに来る前に、孫へのお土産を買おうと思ったんですけれど、迷ってしまいましてねぇ」
足や腰を擦りながら、お婆さんは話し続ける。
「みなさんには、孫のお土産を買うためのキャメロットの案内と、息子の家までの護衛をお願いしたいんですよ」
お婆さんは立ち上がると、深々とおじぎをした。
「どうか、よろしくお願いしますね」
●リプレイ本文
お婆さんの依頼を受ける事にした冒険者は総勢8人。
「俺はサクラ・クランシィ。お婆さん、お買い物のお手伝いしましょう」
口火を切ったサクラ・クランシィ(ea0728)を始め皆が次々と名乗り、お婆さんは一人一人の顔を見回して最後に名乗った。
「まあまあ、本当にありがとうございます。私の事はジェーンと読んで下さいね」
早速依頼を成すための話し合いが始まった。
「私は馬を持っていますから、ジェーンさんに騎乗していただこうかと思うのですが」
ノア・カールライト(ea0422)が提案すると、お婆さんは申し訳無さそうに、
「あらあら、私は馬には乗れないんですよ」
と言う。
「それなら荷車はどうかしら?」
「いいね。僕が借りてくるよ」
シエラ・クライン(ea0071)の言葉にアルノー・アップルガース(ea0033)が答え、早速テムズ川周辺に荷車を借りに出て行った。
「では私も馬の調整をしてきますね」
ノアもギルドを出て行き、残った6人とお婆さんでお土産を物色する事となった。いろいろと話して、やはりお土産はお菓子に決まった。
「お菓子良いよねっ♪ 僕、美味しいお菓子の売ってる店知ってるよ〜」
ユーリユーラス・リグリット(ea3071)の案内で皆はギルドを後にした。
お菓子の売っている店への途中、フーリ・クインテット(ea2681)がお勧めの土産があるからと皆を路地裏に連れ込んだ。着いたところは怪し気な物ばかり売っている道具屋だった。
「ここの‥‥これなんてどうだ? ‥‥願い事を3つ叶えてくれるが、それは常に不幸と恐怖を呼び寄せ‥‥」
「そんなもの、お土産になる訳がないだろうがっ」
フーリの言葉が終わらないうちにサクラのメイスがパコーンとフーリの頭に命中。音から察するに、かなり痛いはずだが、フーリは何ごともなかったかのように無表情だ。
「‥‥ジェーンさん、フーリの事は放っておいて、さっさと行きましょう」
フーリの説明で恐怖に顔が引きつったお婆さんだが、今はフーリの事を心配しているようだった。
その頃、アルノーはどうにか荷車を手に入れ、厩まで運んだところだった。
「やっと着いた〜」
厩の外で馬にブラシを掛けていたノア
「ここで〜す♪」
ユーリが立ち止まって指差した店には、パンやジャムがメインに置いてある中で、何種類かのお菓子が隅に置いてある。砂糖が高いため、お菓子もお子さまのお小遣い程度じゃ買えない値段だから、隅に追いやられているのだろう。
「いらっしゃい」
鼻の下に髭を蓄え、ふくよかな身体にエプロンを付けた『いかにも』な店主が奥から現れた。
そして舌戦が始まる‥‥。
「それではまだ高いです。先ほども話しましたように、このお婆さんはやっと一緒に暮らせるお孫さんのために‥‥」
リース・マナトゥース(ea1390)とユーリの頑張りで、なんとか表示価格の8割までは値引きする事はできたが、それ以上は店主が頑として譲らない。
「こっちだって商売なんだよ、お嬢さん方。悪いなー」
まだ値切ろうとリースが口を開いたとき、お婆さんがリースの腕を引いた。
「もうよろしいですよ。ありがとうございます」
お婆さんが良いと言うのだから仕方ない。リース達は引き下がる事にした。
包んでもらったお菓子等のお婆さんの荷物は、最後尾を歩く神薙理雄(ea0263)が持っている。わいわいと楽しそうに話す皆の会話を懸命に興味深く聞いているのは、やはり遠くジャパンから来たためにイギリス語を話せはしても、まだまだ不慣れだからであろう。
お土産も買ったし、簡易馬車も用意して、一行は最終目的地『お婆さんの息子の住む村』へ出発した。
馬や簡易馬車などと徒歩の者が一緒になって街道を移動する様は、ちょっと目立っているかもしれない。けれど、金持ちの成り金趣味な雰囲気が全くないからか、野盗のような良からぬやからの興味を引かなかったらしい。
日も暮れてきたので野営する事にして、テントを設置したり焚火を起こしたりし始めた。
馬の背から4人用の簡易テントを下ろした理雄をアルノーが手伝う。シエラも自分で持ってきたテントを張った。
簡単に夕食を済ませ、楽しく話をしている中でも、皆警戒を怠らずにいる。
お婆さんがそろそろ休むと言うので、ユーリは月が出ているのを確かめて、テントを中心にムーンフィールドを掛け、見張り以外の者は皆休む事にした。
そうして。何ごとも起きる事なく一夜目は明けて。
二日目もサクラとフーリのブラックな掛け合いに苦笑したり、荷車の上で演奏するユーリの竪琴の音色に耳を済ませたりして時は過ぎ。
夕闇が押し迫る頃、街道脇に目的の村まで後少しという案内の立て看板を、アルノーが馬上から見つけて指差してみせた。看板を見つけたときのお婆さんの嬉しそうな顔を皆はしばらく忘れられなかった。
時間にして30分も経った頃だろうか。村の入り口と思しきところで10歳くらいの女の子が遊んでいる。
ふと顔を上げてこちらを見たと思ったら、駆けてきた。簡易馬車を見上げ、お婆さんを見つけるや、
「お婆ちゃん!!」
と笑顔で叫んだ。
おばあちゃんの孫娘の案内で、一行は息子一家の家の前に到着した。
「最終目標達成はならなかったが、大満足だな」
村の宿屋で夕飯を食べながら、フーリが呟くと相も変わらずサクラがツッコミを入れる。
「似たようなもんだろう、この食事代、息子さんが払ってくれてるんだから」
そうして、ささやかながらも依頼の成功を祝して皆で杯を交わすのだった。