盗まれたモノを取り戻せ!
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月04日〜07月11日
リプレイ公開日:2004年07月12日
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●オープニング
「なんだとーーー!?」
店の奥で怒声が飛ぶ。店に来ていた客も応対していた店員もびっくりして奥を覗き込む程だ。
奥では、頭頂部にだけ髪を残したアブラぎったオヤジが顔を真っ赤にして、拳をぶるぶる震わせている。
オヤジの前には、ふて腐れた様子でそっぽを向いている青年と、何度も頭を下げている神経質そうな中年がいた。
「あれは次の取り引きで無くてはならないモノなんだぞ!! 次の取り引きまで1週間っ、それまでにどんな手段を使っても構わんから取り戻せ!!」
ちょっとだけ時を遡って、昨晩の事。
青年は店主から預かった取り引きに使う割り符と、貰ったばかりの今月の給金を持って酒場に飲みに来ていた。
先に来て盛り上がっている仲間と一緒にエールをたらふく飲んでわいわいと騒いだ帰り道、青年の前に立ちふさがったのは、すらりと細い人影だった。
「ねえ、ちょっとお願いがあるのだけど」
酔っぱらって視線の定まらない青年は、近付いてきた人影に目を細め、月明かりを返す胸元の白い肌とその声で、人影が女性であると気付いた。
更に近付いてきたその女性は、指先で青年の胸に『の』の字を作りながらしなだれかかってきた。押し付けられるたわわな胸と甘い匂いと先ほどまでの酒の酔いが青年の理性を狂わせる。
「なんだよ、ねーちゃん。俺にできる事なんて少ないぜ〜」
にやけた顔で青年が答えると、女性はすっと青年の胸から顔を離して、妖艶に微笑んだ。
「欲しいものがあるのよ。あなたの持っているモノにね」
青年が覚えているのはここまでだった。次に気付いたときは朝で、二日酔いか殴られたのか頭は痛いわ、固い道で寝ていたせいで身体は痛いわ、部屋に戻って着替えてみたら店主から預かったはずの割り符は無いわで散々だったのだ。
ばっくれてしまおうかとも思ったが、今の店以上の給金を貰える仕事口なんて早々見つからないことはわかりきった事だったので、渋々ながらも上役に相談した結果、店主に怒鳴られる事になってしまったのだった。
怒号を浴びて青年と中年が出て行った後、オヤジ=店主は椅子に座り込んでしまった。
「わしが持っていたら危ないと思ってあいつに預けた事が、アダになってしまうとはな‥‥」
取り引き先に割り符を渡された時、最近取り引き相手を騙って荷物を奪う不届きな輩がいるから気をつけるようにと言われていたのだった。しかも、向こうは去り際に、
「もしもこの割り符を持ってこなかった場合、あなたとの取り引きは今後一切行わない」
と言っていたのである。
「キ、キミの責任なんだから、キミが何とかしたまえ!」
中年男は青年にそう言い放つと、青年を店からおいやってしまった。
青年は店を出た足で冒険者ギルドにやってきていた。
「オレだけじゃ、ぜってー無理っつーの」
そうして、出された依頼書は以下の通りである。
「賊に奪われたモノを取り返して欲しい」
この依頼書を見てやってきた冒険者達に、青年は賊の人相風体、奪われたモノの詳細な特徴を説明した。
「オレ、マジであの店止めたくないんで、宜しくっす」
●リプレイ本文
●情報収集
青年は言葉遣いや態度こそ成ってないが、冒険者達に実に協力的だった。
「オレ、ハリーっていうっす。オ、オレも情報収集手伝うっす!」
胸が大きい女性というだけで賊に翻弄された青年に女性陣は呆れ気味だが、却って積極的に依頼をこなそうとしているようなのは、ライバル心というか複雑な女心というか‥‥。
如何せん賊に関する情報が少ないため、まずは情報収集しようという事になった。
「賊のアジトがわかったとしても、踏み込んで捕獲するより取り引きが早まった〜とか何とか噂を流して、偽取り引き現場にやってきたところを捕まえるってのはどうだ?」
賊の懐に飛び込むよりは、自分たちで周囲を把握している場所におびき出した方が有利になるだろうから、とウォル・レヴィン(ea3827)が説明する。
「確かに地の利があった方がいいですね」
クラリッサ・シュフィール(ea1180)を皮切りに、皆がウォルの意見に賛同し、情報収集の際にさり気なく偽取り引きの噂を流そうという事になった。
「店主の協力があれば、偽取り引きも信憑性が増すでしょうから、私が店主に話してみましょう」
依頼人から賊の特徴を聞きつつ似顔絵描きに挑戦していたノア・カールライト(ea0422)が、四苦八苦しながら描き上げた似顔絵をハリーに見せつつ提案したところで、各自情報収集へと向かった。
ハリーの案内で店主に会いに来たノアは、人払いしてもらえないかと店主に頼んだ。
「割り符の事でお話ししたいんです」
ノアとハリー、そしてハリーにべったりくっついているセクスアリス・ブレアー(ea1281)の3人を交互に見つめ、店主は頷いた。
「おい、客人の言葉を聞いていただろう、出ていろ」
店主の横で青ざめた顔をして話を聞いていたハリーの上司らしき中年が、何か言おうと口を開きかけたが、店主の強い視線に負けてしぶしぶといった感じで出て行った。
「ありがとうございます。セクスアリスさん、扉の外で見張りをお願いしてもよろしいですか?」
ノアに頼まれ、セクスアリスはハリーと離れる事を惜しみつつ扉の外へ出た。
十数分後、ノアとハリーは店主との話を終えて部屋から出てきた。ハリーとセクスアリスは情報収集へ向かい、ノアはそのまま似顔絵を持って店員達に聞き込みをした。
結果、内通者無しという手応えだったが、ただ一人、店主の部屋にいた中年男の姿が見当たらない。
「もしかして‥‥」
同じ頃、テムズ川にかかる橋の上で賊の目撃証言があった事から、ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)とクラリッサ、ウォルと曹天天(ea1024)の2組は橋や川向こうで賊の情報を集めつつ偽取り引きの噂を流していたのだが、偽取り引きの噂に興味を示す者はなかなか現れなかった。
●情報交換
夕刻。それぞれ情報収集に歩き回った皆は、情報交換をするべく依頼人が襲われる前に飲んでいたという酒場に集まってきた。
最初にやって来たのはクウェル・グッドウェザー(ea0447)と李明華(ea4329)の二人だった。
依頼人の襲われた現場からこの酒場にかけての地域を聞き込みしていた二人は、入り口で他のメンバーが来ていない事を確認すると、カウンターに座ってここのマスターにも聞き込みを始めた。
「数日前、この近くで窃盗があったそうですね」
エールを注文した後、さりげなくこう切り出したのは明華だ。
「ああ、らしいなぁ。被害にあったってのが常連だったんで、客もみんな警戒しちまって‥‥」
お陰で客足も引き気味さ、とため息をつきながらマスターは答えた。
「私たちも今度ある貿易商を護衛する仕事を請け負いましたものですから、窃盗などの情報を集めているんです。些細な妨害も未然に防ぎたいですから」
明華の言葉に主は頷き、協力する事を約束してくれた。
「金髪、赤い目のエルフのねーちゃんか‥‥」
心当たりを探っていたマスターがはたと何かを思い出したようだった。
「あの日は客がいつもより多くててんてこ舞だったんでわからないが、何日か前になら来てた気がするな」
冴えない神経質そうな中年と一緒に来たので、覚えていたらしい。
「どんな話をしていたか覚えていますか?」
クウェルの質問にマスターは首を振った。その二人はぼそぼそと話していたので、聞かれたくないのだろうと判断して聞かないようにしたのだという。
「そうですか。でも、助かりました。何かあったらまたよろしくお願いします」
クウェル達がエールを飲んでいると、テムズ川周辺を聞き込んでいた者やノアが到着し、最後にハリーとセクスアリスがなんだかやけに親密な感じで店に入ってきて、情報交換が始まった。
「1日歩いただけで賊が噂に喰い付いてきたら、そりゃ幸運すぎるネ」
天天の言葉に皆苦笑しつつ1日目は過ぎたのだった。
3日目、店の仕事をしてから酒場にやってきたハリーが集まってきた皆に報告した。
「みなさんが流した噂を聞いたって、別の店員が‥‥」
その店員が店主に確認して、店主も取り引きが1日早まったと言ったところ、それから上司が全く姿を見せなくなったという。
「それは私が店にお邪魔した日に店主さんの部屋にいた人ですか?」
ノアが訪ねると、ハリーは頷いた。
「じゃあ、内通者はそいつだな」
片言のイギリス語でツウィクセルが言い、ノアも頷いた。
「そうすると、噂は賊の耳にも入ったという事だな」
この3日間の動きが徒労に終わらずに済んだと皆喜び、偽取り引きの際の位置決定や偽の取引先を誰がするかなどを話し合った。
●偽取り引き決行。
期日の前日、テムズ川沿いのある倉庫前の事。取引先に扮したクラリッサと護衛のクウェル、明華が待っているところに、店主とハリーがやってきた。
クラリッサ達の後ろにはいかにも商品が入っているような大きめの木箱が、いくつか積まれている。
「お待たせして申し訳ない」
店主がおもむろにクラリッサに近付いてきて、握手を交わす。
「いいえ。それより割り符は持ってきまして?」
クラリッサに言われて店主が懐から割り符(偽)を取り出したときだった。
「その取り引き、無効よっ」
いつの間にか桟橋に横付けした一艘の船で、1人の女性が立ち上がった。女の顔を見てハリーがハッとする。この女こそ、この6日間探し続けたあの賊だったのである。船から桟橋に渡って来る女の後ろには3人の屈強な男達がおり、その後ろにはここ2、3日行方がわからなくなっていたハリーの上司も紛れていた。
「無効な理由はこれ。私の持っている物こそ、本物の割り符なんだもの」
胸を強調するように揺らしながらクラリッサの元へ歩いてきた女は、胸の谷間からすっと割り符を取り出してクラリッサに差し出した。
「そ、それは!!」
店主の叫びに、賊共がニヤッとしたときだった。
叫びを合図に、物陰に隠れていたツウィクセル達4人も飛び出して、賊を挟み込む形になった。
「さあ、大事な割り符だ。返してもらうぜ!」
店主の後ろにいたハリーが叫ぶ。と同時にクラリッサが賊の差し出していた割り符を奪い取ろうとした。しかし、すんでの所で賊は手を引っ込めた。
「だましたのね! 絶対に渡すものですかっ」
女の合図で男達が武器を手に一斉に切り掛かってきた。店主とハリーをかばいつつ、ツウィクセル、天天、セクスアリス、それにクラリッサの後ろから飛び出したクウェルが応戦する中、ウォルは敵の動きを見ながら桟橋へ走って行って船に乗り込むと、舵を捨て流れの中に押しやって退路を断った。
男達は魔法を使ってくる事は無かったが、なかなかに手強い。だがオーラエリベイションが効いている天天の爆虎掌を鳩尾に喰らった男1が倒れ、隣にいた男2はセクスアリスとの戦いの中でツウィクセルの投げたダガーが偶然利き腕に命中し、ショートソードを落としてしまい降参。
女の側にいた男2はクウェルの初手を避けたところを狙っての明華のトリッピングがヒットして横転、喉元にクウェルがクルスソードを押し当ててリタイヤとなった。
ダガーを構えた女賊の前では、クラリッサが柔らかな物腰でロングソードを構えている。間合いではクラリッサが優位だったが格闘の腕は賊の方が上らしく、徐々にクラリッサの方が押されてきた。
「どうしたのさ、そんなんじゃあたしは捕まえられないよ?」
余裕の笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてくる賊に、クラリッサはとうとう木箱まで追い詰められてしまった。
「お遊びは終わりだ!」
賊がダガーを振り上げた瞬間、木箱の後ろで何かが淡く白い光を放ったかと思うと、賊はダガーを振り上げたままの姿勢で動けなくなってしまった。
「くっ、何なんだよ、これは!」
「良かった、間にあって」
木箱の後ろから出てきたのはノアだった。偽取り引きが始まってからずっとここで待機しつつ、コアギュレイトで賊の身動きを封じようとしていたのだが、距離が離れ過ぎてて賊を狙えなかったり、詠唱を始めれば戦えなくなるので出るに出られずにいたのだった。
既に降参している中年男は店主の怒声を浴びて小さくなっている。この怒声が原因でストレスが溜まっていたところに、賊が誘惑してきたので情報を流していたのだと、泣きながら逆ギレしていたらしいとハリーが教えてくれた。
男達も女も縄で拘束し、割り符も無事に取り返す事ができた。女賊は天天にくすぐり地獄をされているので、苦しそうだ。
「ありがとうっす、これでオレ、首にならなくて済むっす」
嬉しそうなハリーの笑顔で、この依頼、一件落着となったのだった。