しばしも休まず 槌うつ響き

■ショートシナリオ


担当:中舘主規

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2004年07月13日

●オープニング

 キャメロットの北、とある鉱山での事。
「あいたたた‥‥」
 ランタンの揺れる灯りの下で、顔中が髭かと思う位髭を蓄えた一人のドワーフがつるはしを振り上げた途端、腰を押さえて唸りながらしゃがみ込んでしまった。
「お、親方! 大丈夫ですかっ?」
 肩に担いでいた天秤棒を放り出して駆け寄ってきたのは、これまた髭もじゃなドワーフの(多分)若者だった。
「ふむぅ、また腰を傷めてしまったようじゃ」
「だから掘るのは僕に任せて下さいって言ったじゃないですか」
 多くの職人が自分の仕事にこだわりを持っているように、このドワーフの鍛冶職人は自分で掘り出した鉱石を使って武器や防具を造り出す事にこだわりをもっているらしかった。だが、歳も歳、50歳(暦年齢で言うと150歳)を越えた辺りから、徐々にあちこちにガタがきているようだった。
 親方を心配して若者が親方の腰を擦っていると、親方は何かに気付いて若者を振り向いた。
「わしの事なんかより、外に置いてきた鉱石はどうしたんじゃ?」
 親方の問いかけに若者は「あっ」という顔をした。
「ぶぁっかもーん!!」
 親方の怒声を背に、若者は走り出す。
 鉱山の入り口から転げるように飛び出した若者が見たものは‥‥。
「ゴブゴブッ!」
 たった今若者自身が運んできた鉱石をゴブリン数匹が運び去るところだった。
 がっくりと肩を落として戻ってきた弟子を見て、親方は深いため息をついた。
「まあ、いいわい。今は注文も少ないから多少鉱石を奪われても何とかなるじゃろ」
 しかし。若者が親方を抱えるようにして二人が住まいとしている小屋へ戻ってみると、得意先の一人からの使者が澄ました顔をして待っていた。
「旦那様のお言い付けで参りました。今回はこちらの品を頼みたい、との事でございます」
 使者から渡された注文書を見た親方は一瞬難しい顔をしたが、使者へ頷いてみせた。
「わかりました。確かに期日までに納品しましょう」
 使者が去って行った後、若者は親方に問いかける。
「大丈夫なんですか? 鉱石足りないんじゃ?」
 親方は使者が背を向けた途端、先ほど見せた難しい顔に戻った。
「仕方ないのぅ、お前ちょいとキャメロットまで行ってこい」
 しばらく考え込んでいた親方は、若者にキャメロットの冒険者ギルドに依頼を出してこいと告げた。

 そうして丸1日が過ぎた頃。
 キャメロットの冒険者ギルドにこのドワーフの鍛冶職人からの依頼が貼り出される事になったのである。

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0823 シェラン・ギリアム(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 依頼を受ける事にした冒険者8名は、ドワーフの若者の案内で鍛冶屋の親方の小屋へ到着した。小屋といっても、鉱石を融かす炉も一緒になっているので、思ったよりも大きかった。どうやってゴブリン達を見つけだすかという作戦は到着までに済ませている。
「こやつだけでは頼りにならんで、よろしく頼むわぃ」
 ベッドに臥せっていた親方は身体を起こして右手で腰を擦りながら、やってきた冒険者達に礼を述べる。
「親方に一つ頼みがあるのだが‥‥」
 ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)がゴブリンおびき出し作戦を説明し、鉱石をいくつか貸して欲しいと切り出した。
「ふむ‥‥デール、彼らに鉱石をお渡しするんじゃ」
 デール(先ほどここまで案内してくれたドワーフの若者)が炉の横に積まれている鉱石を十数個運んできた。10キロ程の重さになるのだろうか。
「ではお借りします。これも以前盗まれたものも絶対に取り戻してみせますから」

 坑道の入り口の近く、いつも鉱山から鉱石を運び出して置く場所で作戦は決行された。ウォルフガングの考えた貝殻の粉が入った小袋も鉱石のひとつに目立たぬように張り付けてある。
 しかし、1日目、2日目はゴブリン達は現れなかった。
「こちらの気配に気付いてしまったのかもしれませんね」
 夕飯を親方の小屋で食べながら、シェラン・ギリアム(ea0823)が呟くと、デールが首を横に振った。
「ゴブリン達は毎日来たわけじゃないですから」
 しかし3、4日に一度は現れているから明日辺り来るかもしれないとデールは言うのだった。

 そうして、翌日。前日と同じように朝から見張りを続けていると、ガサガサッと下草をかき分けてゴブリンが1匹顔を覗かせた。
 待望の相手に皆はしめしめと思いながら動向を見守っていると、積んである鉱石を見つけたらしくゴブリンはそろりと近付いて行き、鉱石の元に辿り着くといくつかの鉱石をいじっている。罠が無いか、見張りの人間がいないか確認しているらしい。
 今がチャンスとシェランがインフラビジョンを唱える。シェランの身体が赤い淡い光に包まれたので、気付かれたのでは無いかと隣にいたレイン・シルフィス(ea2182)は冷や冷やしたが、幸い気付かれなかったようだ。
 残りのゴブリン達が次々と鉱石のところへやってきたのと同時に、シェランとウォルフガングは目配せをして森の中に入って行った。恐らく1匹だけ離れて指示を出しているリーダー格のゴブリンがいるだろうと予測しての行動だった。
 4匹のゴブリンが手に手に鉱石を抱えると、森の中から先日の時と同じように
「ゴブッ、ゴブゴブッ」
 という声が聞こえた。
 小さな鉱石を取りこぼしたので拾おうとしたりしていた4匹はその声を聞くと、来た道を帰って行く。ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)が隠密行動万能のスキルを生かして見つからないように4匹の後を追った。
 ヴァレスの少し後をアリオス・エルスリード(ea0439)、レイン、ラディス・レイオール(ea2698)、アリア・バーンスレイ(ea0445)、デールと少しずつ距離を置いて追い掛けた。
 馬を連れて最後尾を行くアレス・メルリード(ea0454)まで迷わずについて行けたのも、ウォルフガングの細工とヴァレスが所どころの木の幹にダガーで付けた傷が目印になったからだろう。

 途中でウォルフガングとシェランも合流してヴァレスに追い付いたとき、ちょうどゴブリン達がアジトらしき洞窟に鉱石を運び入れようとしているところだった。
 洞窟へ入られては厄介だと武器を構えながらアリアが飛び出すと、同時にアリオスが弓を構えて手近な1匹目掛けて矢を放った。
「ギャゥッ」
 矢が命中したゴブリンの短い悲鳴に残りの4匹が一斉に振り向く。
「ゴブゴブッ!」
 鉱石を洞窟の入り口へ置いた3匹が武器を構えてこちらへ向かってきた。ヴァレスとアリア、それに馬を近くの木にしっかりつないだアレスの3人が応戦する。
 リーダー格のゴブリンの前にはウォルフガングが立ちはだかっていた。
「何のつもりで鉱石を盗んでいたのか知らないが、もう2度としないと誓うならば見逃してやろう。誓えないと言うなら‥‥」
 ロングソードを抜いて刃を煌めかせると、ゴブリンはガクガクと頷いて逃げ出してしまった。指示はしていても特に強いとか言う訳ではなかったらしく、ウォルフガングの気迫に負けしてしまったようだった。
 アレスと対峙したゴブリンはアレスのノーマルソードに炎が纏わり付いているのを見て、怖じ気付いたらしくアジトに向かって逃げ出した。そこへラディスのアイスチャクラが飛んできて命中し、そのまま気を失って倒れてしまった。
 アリアはロングソードでゴブリンの攻撃を受け流し、体勢を低くすると蹴りを入れてゴブリンを転倒させた。
 ドスンと尻餅をついたゴブリンは、アリアが体勢を立て直しているうちに這うように逃げて行った。
 ヴァレスはアリオスの援護を受けつつクルスダガーで応戦し、なんとかゴブリンを追いやる事ができた。
 
「鉱石ありましたよ〜」
 洞窟の中からレインの声がする。戦闘中、シェランと二人で一足先に中に入って鉱石を探していたのだ。
 皆で中に入って量を確かめてみると、馬で運んでも1往復では運びきれない程あった。
「とりあえず積めるだけ馬に載せて、後は手分けして運びましょう」
 小屋に戻ると腰を擦りながら親方が出てきた。運ばれてきた鉱石を見て、親方は驚いていた。
 ゴブリン達は親方が思っていた以上に鉱石を盗んでいたのだ。
「ふむ。これだけ有れば、注文の品を作っても余りそうじゃのぅ」
 呟いて考え込んでいた親方はポンと手を打つと、にかっと笑って皆にもう少し滞在するよう勧めた。
 それから昼夜関係なくしばしも休まずに槌を打って親方が作り上げた物は3本のナイフだった。
「全員分作るには時間が無いんでな。銘入れも勘弁してくれ」
 デールから子細を聞いていた親方は特に頑張ってくれた3名にナイフを渡した。
「皆さーん、お気を付けて〜」
 小屋の前で手を振るデールの姿が見えなくなっても、しばらくは親方の打つ槌の音が一行を見送ったのだった。