お化け募集
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月25日〜08月01日
リプレイ公開日:2004年08月03日
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●オープニング
その屋敷は近隣住民の間では有名な屋敷だった。
建物はすばらしいし、広い庭もある。手入れが行き届いていなくて少々荒れているのが難点だが。
しかし何よりも、この屋敷を有名にしていたのは、夜の住民達の事だったのである。
「おら、見ただよ。庭をふわふわ〜っと飛ぶ灯り! あれは誰かがランタンを持って歩いたって感じじゃなかっただ」
近くの村に行ってこの屋敷の事を聞けば、10人中8人は似たような話をするだろう。残りの2人?
「し、知らないわっ。あ、あんなお化け屋敷、絶対に近付きたくない!」
屋敷のことを聞こうと声をかけた途端に顔を恐怖で引きつらせ、足早に去っていったり、卒倒してしまったりするのだ。
さて、その屋敷に関係ある依頼がギルドに張り出されていた。
タイトルは「お化け募集」
依頼主はこの屋敷を含めた一帯の土地を治める領主で、内容は以下である。
「当家で面倒を見ている子供たちが退屈しているので、お化け屋敷を作りたいと思います。つきましてはお化け役を募集いたします。詳細は当家をお訪ねの上、ご説明いたします」
興味をそそられた冒険者が数名、ギルドの人間に領主の屋敷までの道を訊ねていると、くたびれた様子の冒険者がやってきて大きなため息をついた。そして、こちらの手元を覗きこむと、真剣な顔をして警告してきた。
「あ〜、その依頼は気をつけたほうが良いぜ」
その冒険者の話だと、子供たちはみなとても悪戯好きでちょっと驚かすくらいでは、まったく驚かないのだ。それどころか、広い屋敷の様々なところに隠れて、夜通し子供たちを探す羽目になるのだという。
「まあ、戦闘しなくてもいいから、楽といえば楽なんだけどな」
そこまで話した彼は担当のギルドの人間が来たため、こちらにはもう見向きもしなくなった。
依頼主の屋敷は、件の屋敷から村と畑を挟んだ位置にあった。
出迎えたのは白髪で目は落ちくぼみ、薄暗いところで出会ったなら骸骨と見間違いそうな顔色の背の高い男性だった。
「わたくしは当家にお仕えしております、執事のバートンと申します」
深々とおじぎをした後、執事は説明を始めた。
「御主人様が治めておりますこの土地で孤児となった子供を集めて、当家の屋敷で世話をしております。御主人様は大層子供たちを可愛がっておりまして、子供達の喜ぶ顔を見たいとお思いになられ、この度の依頼を思いつかれたのでございます」
お化け屋敷を思い付いたのは領主で、噂の屋敷を舞台にすればより真実味を帯びるだろうとのことだった。
「お化けの衣装、小道具などは皆様にお任せいたしますが、一つだけ、注意していただきたい事がございます」
かっと目を見開き、執事は恐ろしく真剣な顔で言った。
「朝日が昇るまでに、かならず子供達が全員一つの部屋に居るようになさって下さい。迎えの馬車を玄関に用意しておきますので、かならず集めておいて下さいね」
冒険者の一人が理由を尋ねると執事は、
「子供達は朝日を浴びると身体中に湿疹や炎症を起こす病にかかっているのです」
と悲しそうな顔をして答えた。
今夜から1週間、よろしく御願いたします。と執事は深々と頭を下げたのだった。
●リプレイ本文
●準備
執事に説明を受けた後、依頼を受けた8人の冒険者は話し合い、夕刻にはお化け屋敷に集合すると決めて、準備のために一旦解散した。
フォリー・マクライアン(ea1509)はギルドに戻って、先ほど忠告してきた冒険者を捜していた。
「何か知ってそうだったんだけどなぁ」
きょろきょろとギルド内を見渡すと、掲示板の前にその男が立っているのを見つけてフォリーは声をかけた。
「あぁ、お化けを募集してたやつな。俺は途中で逃げて正解だったと思ってるぜ」
そう言って、彼はため息をついた。曰く。子供たちを驚かしてひと部屋に集めるにはなかなか根気がいるのだと言う。
「子供たちを集めたと思ってもあっという間に逃げ出しちまったり、集めた部屋で変な事が起きたりするんだ」
しかし、肝心の子供たちの病気の事はよく分からないという事だった。
一方、お化け屋敷では森里霧子(ea2889)を中心に、チップ・エイオータ(ea0061)やユニ・マリンブルー(ea0277)、鬼哭弾王(ea1980)、アーティー・ベルシア(ea0688)、クラム・イルト(ea5147)らが仕掛けの作成や宝となるお菓子の小袋を隠す作業を行なっていた。ラスボス役のセクスアリス・ブレアー(ea1281)も役づくりのためか念入りに化粧をしている。
各自がてきぱきと働いて、子供たちがやってくる時間までに準備は整った。
●お化け屋敷の七不思議と秘宝
夕陽が沈んだ頃、一台の馬車が屋敷の玄関に横付けされた。馬車と屋敷の両方の扉が開き、子供たちが滑るように玄関の中に入ってきた。白い木綿の寝間着に身を包んだ子供たちは男の子2人、女の子3人。年齢は5、6歳から10歳前後とばらばらのようだ。
お化け屋敷の趣旨である七不思議と秘宝については、すでに執事から話してもらっていたので、子供たちは興味津々といった顔できょろきょろと辺りを見渡している。続いて執事が入ってきた。
「何度も申しておりますが、朝日が昇るまでにはお部屋にお戻り下さいね」
執事の言葉は子供たちに向けられたものだが、同時にお化け役の霧子たちへの言葉でもあるようだった。
執事が馬車に乗り込み、屋敷を離れるとそこはお化けの世界となった。子供たちの左、厨房のある方から何かがやってくる気配がする。
「お皿が足りない‥‥」
ぶつぶつと呟きながら、子供たちの元へ近付いてくるのは見た事のない服を着たずぶ濡れの女性だ。
「きゃああー」
と悲鳴を上げて、子供たちが部屋へ通じる扉へ向かおうとすると、突如目の前に同じ女性が現れる。驚いてきびすを返すとそちらにもやはり同じ女性がいて、子供たちは結局外へと追いやられてしまった。
化けていたのは霧子で分身の術を使って驚かせていたのだった。
互いに手を取り合い、恐る恐る庭を歩いている子供たちの周りをフォリーが操る火の玉が飛び回り、馬小屋へと誘導した。
ぎぎぃっと扉を開けて中を覗き込んだ男の子は白い小さな袋が落ちているのを見つけた。
「なんだろう、あれ」
中に入り、手に取ってみる。そっと中を覗いたらお菓子が入っていた。
「わぁ」
ぱっと明るい顔になった子供たちの背後で、扉がバタンと閉まる。はっとして振り向いた途端、どこからともなく笑い声が響いてきた。
「ふふふふ。いらっしゃい」
声の出所を探して視線を泳がす子供たちの前に、一人の青白い顔をした女性が現れた。
子供たちは一瞬味方かと期待したが、微笑む女性の口元に鋭い牙を見つけたとき、その顔は恐怖におののいた。しかもいつのまにか、この吸血鬼の後ろには先ほど玄関で見たずぶ濡れの女性の霊までいる。
一番小さい子が恐怖のため半泣きになっているのを、健気にも年長の子が庇い、これ以上驚かせるのは可哀想だと裏方は思ったらしい。しかし、初日に子供たちの心を恐怖で掴んでおかなければ、これから先いかなるいたずらをされるかわかったものじゃない。
「一番最初は誰にしようかしらねぇ」
セクスアリスの化けた吸血鬼は子供たちの顔をじっと見つめ、にやりと笑う。
ぎゅっと目を瞑る子供たちの中で小袋を抱えていた子を選んで、吸血鬼は詰め寄った。
「お前にしよう!!」
選ばれた子供は悲鳴を上げる事さえままならず、固まっている。
長く伸びた爪の先で、ふっくらとした子供の頬を撫で上げた吸血鬼が喉元に噛み付こうとしたとき、子供が持っている袋を見つけた吸血鬼は短く叫んだかと思うと、飛び退いた。
「おのれぇ、その袋を早く捨てておしまい!」
子供たちはお菓子が入っているだけの袋に、なぜ化け物がおののいているのかわからずに、首を傾げていたが、一番大きな女の子が袋に何かの模様が描かれているのをみつけた。
「これが恐いのねっ」
女の子が模様を見せつけると吸血鬼もずぶ濡れの霊も苦しむが、逃げて行ったりはしない。
「それ一つでは我らは退散なぞせぬ!」
それでも一縷の希望を見い出した子供たちは、もしかしたら他にも小袋があるかも知れないと辺りを見渡してみると‥‥
「あっ、あそこにあったよっ」
よく見ると馬小屋のあちこちに似たような袋がある。子供たちが袋を一つ見つける毎に化け物は苦しみを増すようで、ジリジリと下がって行く。
最後に、模様の横に1と数字の入った袋を見つけたとき、ひと際大きく叫び声を上げたかと思うと、化け物たちは逃げて行った。
「覚えておおきよっ、必ずお前たちを喰らってやる!」
という言葉を残して。
初日が終わって、着替えているとき、セクスアリスは指先に痛みを感じていた。見ると、怪我をしている。いつどうやって怪我をしたのか見当もつかなかったので、自分で応急手当を施し、みなには報告しなかった。
●笑顔と共に
次の日から、子供たちはアンデッドや動く肖像画等色々なお化けに追い詰められながらも、初日と同じように小袋を探して模様を突き付けてお化けをやっつける事を楽しんだのだった。
時たま、裏方としてアーティーやクラムがいる部屋で変な音が聞こえたりしたが、音がするだけで害はないようだった。
最終日の地下室で、ラスボスである吸血鬼を倒し、子供たちが宝の箱を手に入れると、裏方をやっていたチップ、ユニ、弾王が拍手をしながら子供たちの前に現れた。
「みんな頑張ったね〜。箱を明けてみなよ」
ユニに言われて、子供たちが箱を開けてみると、中には七不思議探検隊証明書なるものが入っていた。
「わぁ、これ僕たちが貰っていいの?」
子供たちの問いに弾王が頷くと、子供たちは満面の笑みを浮かべてそれぞれ大事そうに証明書を握りしめた。
そこへアンデッドの衣装のまま、お化け役だった人たちが駆け込んできた。
「大変! もう夜が明けるのに、馬車が来てないよっ」
「えっ、子供たちかえれないじゃないかっ!」
チップも一緒になって慌てていると、子供の一人がチップの上着のそでを引っ張った。
「いいの。おにいちゃん、ありがとう」
振り向くと、子供たちは5人ともにこにこしている。
「今までのお化け屋敷の中で一番楽しかった」
「もう行かなくちゃ。じゃあね〜」
子供たちは手を振り、煙のように消えた。
「消えた!?」
何が起こったのかわからずに呆然としていると、執事がやってきて皆を馬車に乗せ、領主の屋敷へと向かった。
応接間に通されてしばらくすると執事が現れ、まずは領主の不在を詫びた。
「改めまして。皆様をだますような事をしてしまい、申し訳ありません」
執事は深々と頭を下げた。
クラムは喉元まで文句が出かかったが、ぐっと押さえて理由を尋ねる。それに対し、執事はぽつりぽつりと説明し始めた。
「あの子供たちは、昔あの屋敷で殺されたのです‥‥」
昔、あの屋敷には子供のいない老夫婦が暮らしていた。夫婦は村の子供たちを我が子のように可愛がり、子供たちも夫婦を慕ってよく遊びに来ていた。
ある不作の年、領主に納める年貢もままならず、食事もできなかった子供たちを不憫に思った老夫婦は屋敷を開放し、子供たちに食事を振る舞っていた。
不作はこの村だけでなく、近隣一帯にも広がっていたため、治安は悪くなる一方だった。
ある嵐の夜、この屋敷に賊が侵入。老夫婦とたまたま泊まりに来ていた子供たちが惨殺され、残っていた資産の殆どが奪われていたのだった。
「子供たちは眠っている間に殺されたらしく、自分たちが死んでしまった事に気付けなかったようです」
屋敷に残った子供たちの霊は実体を伴うようになり、屋敷の中や敷地内から村の人々にちょっかいを出し、からかっては楽しむようになった。
困り果てた村人達の真摯に怯えた訴えを聞いた領主はあの屋敷に訪れ、子供たちの霊と対面して考えたのだった。
「あの子たちが遊ぶ事に心から満足してくれれば、天に召されると思ったのです」
普通に子供と遊ぶ依頼を出しても良かったのだが、それだと子供たちの正体がばれてしまう。領主は飽くまでも子供たちを人として扱い、その上で天に召される事を望んだのだった。子供たちは生きている人と同じ生活をしていたから、アーティーが昼間、領主の屋敷で子供たちの部屋を覗いたとき、ベッドで寝ていたのだろう。
「なるほどー、あの子たちはレイスだったんだね。まともに戦ってたら、おいらたちじゃ勝てなかったかも」
レイスなら触っただけで怪我してたよーと言いながら、ぶるっと身震いするチップの後ろで、セクスアリスがぽつりと呟いた。
「だから指先が傷付いたのね」
子供たちは満足して天に召された。大事な思い出の品である証明書は地下室の宝の箱から無くなっていた事からもわかる。
「子供たちが満足してくれたなら、それでいいじゃない?」
セクスアリスの言葉に、クラムも頷いた。
8人の冒険者はみな、すがすがしい気持ちで領主の屋敷を後にしたのだった。