奪われた竪琴

■ショートシナリオ


担当:中舘主規

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月14日〜08月20日

リプレイ公開日:2004年08月23日

●オープニング

 彼は大切な人が待つキャメロットへ戻るために、険しい峠道を黙々と歩き続けていた。最近作り上げたバイキングの歌をキャメロットで待つ人に聞かせたいと思っていた。
 ただ一つ、妙にカラスの鳴き声が耳に付くのが気になっていたが、それを気にしている余裕など彼にはなかった。
 その余裕がもしあったなら、大事な竪琴を奪われることはなかったのだが。

 一休みしようかと足を止め、ふぅっと大きく息を吐きながら辺りを見渡してみて初めて、彼はカラスの群れが周りの木々の枝に止まっているのに気づいた。
「狙われている?」
 カラスに狙われるようなことはしていないはずだと思いながら、自分の姿を思い描いてみて、彼は自分の商売道具である竪琴の事を思い出した。飾りにエメラルド色の石が使われている。カラスはキラキラする物が好きだと聞いたことがあるぞとかすかに思い出し、背負っていた竪琴を腕に抱え直した。
 途端に、ぎゃあぎゃあとカラスたちが騒ぎだす。
 小走りに歩き出した彼の周りを、枝から枝へと飛びながらカラスたちが追い掛ける。いくら旅慣れているとはいえ、こんなに大勢のカラスに追われた事はない。
 峠を越えた道は、緩やかながらも下っている。時たま頭を突いてくるカラスを避けながら、彼は既に走り出していた。遠くに民家の屋根が見えた気がする。そこまで逃げれば、カラスたちは諦めるかもしれない。そう思った矢先だった。
「うわっ」
 木の根か何かにつまづいて、転げた拍子に腕をすり抜けて竪琴が飛んで行く‥‥。
 ばさばさばさ‥‥と集まっていたカラスたちが距離を置いた。
「いたたた‥‥」
 起き上がり、擦りむいた膝や手についた土を払いながら、吟遊詩人が竪琴を探して前方を見やると、辺りにいるカラスたちの2倍はあろうかという大きなカラスが、悠然と竪琴をくわえて飛び去って行くところだった。

 二日後。吟遊詩人はキャメロットの冒険者ギルドに依頼を出していた。
「大事な竪琴を取り返して下さい。 エメラルドハープの吟遊詩人」

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1509 フォリー・マクライアン(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea4554 ゼシュト・ユラファス(39歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5821 ハリー・ベイカー(63歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「私が竪琴を奪われたのはあの峠です」
 依頼人である吟遊詩人の案内で辿り着いた峠のふもとで、皆は道中に話し合った作戦を遂行するべく行動を開始した。
 まずは巣の位置を確認するのが大事、と日が西に傾きかけた空をアリオス・エルスリード(ea0439)がじっと見つめていると、三々五々飛んで行くカラスを確認する事ができた。一緒にカラスを探していたヒックス・シアラー(ea5430)と共にカラスの後を追う。
「飛ぶのと歩くのじゃ違いありすぎですね」
 途中までは街道を歩いたのだが、カラスたちはどんどん山の中へと飛んで行くので、アリオスもヒックスも獣道すらない斜面を進むしかなくて。体力的には上のはずのヒックスの方が先に音を上げた。
「もう奴らのねぐらは目の前だ。見ろ、集まってきてるだろ?」
 アリオスに言われてヒックスが頭上を見やれば、確かに枝という枝に数え切れない程のカラスが止まっている。
「今は巣を作って子育てをしているわけじゃないから、こうして近くにいても攻撃されることはない」
 アリオスの説明に、ヒックスはふむふむとうなずく。
 しばらくして、集まっていたカラスたちが一斉に飛び立つ。
 木々の間から見えるカラスの集団の中に、ジャイアントクロウだと思われる体躯の大きい個体を見つけることができた。
「あれがどの木に降りるか、しっかり確認しないとね‥‥」

「トリモチの材料は揃ったけど‥‥」
 フォリー・マクライアン(ea1509)の植物知識でトリモチの材料となるもちの木の樹皮は集めたけれど、どれくらい使ってどう加工したらトリモチとして巧く作れるのかまでは分からない。ハリー・ベイカー(ea5821)が隠密行動に関する知識を活用してトリモチを作ろうと試みたのだが、失敗に終わってしまった。
「ふむぅ。わしの持ってる知識とはちっとばかり方向性が違うようじゃのう」
「猟師なら、トリモチくらい簡単に作れそうだよな」
 アーウィン・ラグレス(ea0780)の言葉に、フォリーもハリーもうなずいて、近くの集落に材料を持って行く事にする。峠が近く、狩猟場として適しているからか、幸いすぐに猟師をしている住民に出会い、持っていた樹皮で作れるだろう量のトリモチを分けてもらう事ができた。ついでにトリモチを使った罠の作り方も教わったので、ヒックスに教えようということになった。
 野営地に戻ってみると、既に巣を探していた皆が戻ってきていて、巣を探すついでに集められた食料と依頼人から差しいれられた保存食で本多桂(ea5840)が簡単な食事を作り上げたところだった。

 焚火を囲みながら、現在地から巣の場所までの道、ジャイアントクロウをおびき寄せるための囮作戦の再確認をした。
「この作戦をしくじったら回収班であるフォリーたちにツケが回る。何としてでも仕留めるぞ」
 ゼシュト・ユラファス(ea4554)の言葉に、皆改めて気合いを入れるのだった。

 翌日早朝、カラスたちが今日のえさを求めてあらかた飛び去った後、悠然とジャイアントクロウがねぐらから飛び立つ。山の奥からジャイアントクロウが飛んでくるのを発見した桂は進路を予測して待ち伏せ、持っていた銅鏡に朝日を反射して見せた。
 えさを求めて辺りを見回しながら飛んでいたジャイアントクロウの視界にその光が入る。
「クァッ」
 自分に向かってジャイアントクロウが飛んでくるのを確認した桂は、さりげなく移動を始めた。目的地は吟遊詩人が竪琴を奪われた辺りだ。そこで皆が待ちうけている。
 桂が移動している一方で、からすのねぐらにたどり着いたフォリーはジャイアントクロウの巣を探して、手近な木に登って辺りの様子を探っていた。
「えと‥‥。あった!」
 梢から見た木のてっぺんばかりの景色の中、一箇所だけきらきらと光を反射しているところがある。今いるところからの位置を確認して、フォリーはアーウィンとハリーの待つ地上へ戻った。

「痛いわねぇっ」
 頭を突かれた桂は思わず母国ジャパンの言葉で呟いた。
 光を反射する銅鏡が逃げて行くのに耐えきれなくなったのか、ジャイアントクロウは桂に対して急降下してきた。皆が待っているところまでは後少し。今は反撃するのを我慢して、皆と合流したら返り打ちにしよう‥‥と桂が不穏な事を考えていたら、「ギャッ」とクロウが短く叫んだ。
 桂がはっと振り向くとクロウの右の翼の付け根に一瞬だけ淡い光の矢が見えた。どうやらケンイチ・ヤマモト(ea0760)か依頼人の吟遊詩人がムーンアローで攻撃したらしい。
 クロウは攻撃を受けた事で桂への攻撃を止めてホバリングして辺りを伺っている。そこへ狙いを定めたアリオスが矢を放ったが避けられてしまう。その隙にゼシュトが桂と合流した。
 桂はまだ銅鏡を持っていて、クロウとしては執着が解けないらしい。逡巡していたクロウは意を決したかのように桂に向かって再度急降下し、今度は嘴で攻撃してきた。
 しかし、桂は寸前に銅鏡を放るや、腰に差していた日本刀でカウンター&ブラインドアタックし、見事に命中。クロウはバランスを崩して落下してきた。
 そこを目掛けてゼシュトが水平斬りからスマッシュに繋ぎ、ジャイアントクロウは絶命した。
 とさり、と地に落ちたジャイアントクロウの死骸をゼシュトは拾い上げ、ケンイチや依頼人の側で防御に徹していたヒックスに向かって放り投げた。
「‥‥ついでだ、土産としてギルドに持って帰るか、剥製にでもしてやれ」
 とっさに死骸をかわしたヒックスだが、ゼシュトの言葉を受けて死骸を拾いながら、
「焼き鳥にしてやりますか」
 と返す。
 戦闘の緊張感が解けたのもつかの間、これ以上付近のカラスたちに因縁を付けられてはたまったものではないので、早々に野営地へ移動した。

 ジャイアントクロウの巣を確認したフォリーは弓矢をアーウィンに預け、ロープと大きな布を担いで、巣のある木を上り始めた。
 梢まで上って巣の中を覗いてみると、何ともまあ、たくさんの光ものが溜め込まれている。巣材の枝等とからみ合っているものもあるから、何年も前から集められたものもあるのだろう。
 そんな中、目的であるエメラルド色の石が付いた竪琴はすぐに見つかった。残念な事に弦は切られなくなっていたが、本体には使えなくなる程の傷は付いていないようだ。
「まあ、使えるかどうかは私にはわからないんだけど‥‥」
 竪琴を持ってきた布に包んで背中に背負い、枝に結んだロープを伝って地上まで運ぶとハリーに預けた。
 再び布を持って上ると、今度は金目のものを見繕う。
「泥棒じゃないわ、回収よっ。元々カラスが人様から盗んだ物なんだしっ」
 と独り言を言いながら巣を満遍なく見回したが、高価そうなものは数個しか見つからなかった。
 降りてきたフォリーが見せた戦利品を見て、ハリーとアーウィンは残念そうな顔をした。
「‥‥こんなもんなのかのう。所詮カラス、高価なものかどうかまでは分からないということじゃな」
「しゃーねーよなぁ。そんじゃサッサと‥‥トンズラすっぜ!」
 
 野営地で合流した一行は、まず取り戻した竪琴を依頼人に渡した。
「みなさん、本当にありがとうございます」
「弦が切れちゃってたけど‥‥」
 と呟くフォリーに吟遊詩人は首を振る。
「いいえ、とんでもない。弦なんて張り直せば良いんですから」
 にこにこ顔の詩人につられて、皆の顔も穏やかになる。
「大事なものはちゃんと抱えておくんじゃよ。お若いの」
 微笑むハリーに詩人はしっかり頷いた。
「じゃあ、キャメロットに帰りましょうか」
 野営の後片づけをして、一行はキャメロットへと向かった。
 途中、フォリーの願いで依頼人とケンイチが歌と竪琴で見事に合奏して、他のメンバーや道行く人々から賛辞の拍手喝采を受けたりと、旅は終始和やかに進んだ。

 ギルドへ依頼完遂の報告へ行く前に、戦利品(?)を買い取ってもらったが、案の定1人1Gに満たない、アーウィンの言葉を借りれば「しけた」結果となった。

「しばらくキャメロットにいると思います。またどこかで会う事があったら、今度は是非この竪琴を使った演奏を聴いて下さいね」
 ギルドの前でそう告げて、依頼人は去って行ったのであった。