模様替えは楽し?
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■ショートシナリオ
担当:中舘主規
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月19日〜08月24日
リプレイ公開日:2004年08月27日
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●オープニング
極々一部に限られているけれど、暇も金も持て余している人々は確かに居る訳で。そういう人々の暇の潰し方、金の使い方というのは、一般階級な冒険者には奇異に見える事もある。
奇異に見えてもそこはそれ、冒険者ギルドに依頼としてやってきたからには受けますよ。ね?
今回の依頼はそんな特別な一部の、ある貴族からの依頼でありました。
「屋敷の模様替えをしたいので、手伝い募集。力自慢の冒険者求む」
こんな見出しで始まった依頼の詳細をギルドの人間に尋ねてみると、次のような事だった。
「長年住んだ屋敷のインテリアは少々見飽きてきたので、思いきってある設計士にコーディネイトを依頼したのだが、末娘がその設計士の案では納得しない。何とか末娘の意を汲み取って、満足する部屋に変えて欲しい」
依頼主のところにはチェンバレン男爵のサインが書かれている。
「チェンバレン男爵の末娘って言うと‥‥」
誰かがぽつりと呟き、周囲に居た者たちの頭にある少女の姿が思い描かれた。
「‥‥こりゃあ、一筋縄じゃぁいかないかもなぁ」
チェンバレン家の末娘、名前はシンシアと言う。(既に嫁いでいて離れて暮らしている)二人の娘と、目下跡を継ぐべく勉強中の長男(三人目の子供)の後、8つも歳が離れて産まれたシンシアの事を、男爵も夫人も大層可愛がり、結果、わがまま娘の代名詞とも言える存在になったのである。
しかもタチの悪い事に、父や母、兄の前ではお淑やかで通しているので、周囲がどんなに苦言を呈しても信じてもらえないのだ。
だがしかし、この男爵からの依頼は、シンシアの性格を正すのが目的ではなくて、飽くまでも部屋の模様替えが目的である。
依頼を終了させるまで、シンシアのわがままに晒されるかと思うが、どうか耐えて欲しい、とはギルドの人間の言葉。
さて。シンシアのことをもう少し詳しく説明すると。歳は10。おしゃまで生意気でわがままで、一人前の淑女として接しないと非協力的になるので、要注意。
事前に家族(父、母、兄、乳母、執事、他の使用人)から聞き出せたのは以下の通り。
父と兄曰く
「シンシアはお淑やかで小さきものを慈しみ、親を敬愛するとてもすばらしい娘だが、少々甘えん坊のようだ。好きな色は白だから、いつも白い花やドレスをプレゼントしている」
母曰く
「シンシアは芯が強くて、情熱的。好きな色は赤だから、真っ赤なバラなんて喜ぶかも」
使用人曰く
「シンシア様はご自分の思っている事を何でも口になさる素直な方です。好みの色は青でございましょう。野を駆ける馬もお好きなようでございます」
父、母、兄の言う事と、使用人の言う事がてんでばらばら。あなたはどれを真実として、どんな部屋へ模様替えする?
●リプレイ本文
シンシア・チェンバレン嬢の我がままに晒されようという勇気ある8人の冒険者は、まず応接間に通された。
部屋には既にチェンバレン男爵夫妻がいて、その横には愛らしい1人の少女が立っている。
「いやあ、お集まりくださり、ありがとうございます。いろいろと大変かと思いますが、よろしくお願いします」
男爵が挨拶を終えると、金の巻き毛に白い肌、紅をさしたような桃色の頬と唇、くるりと好奇心いっぱいの光をたたえた瞳の、まさに絵本から出てきたような何とも愛らしい少女が、白いドレスの裾を摘んでゆっくりとおじぎをしながら挨拶した。
「初めまして。シンシア・チェンバレンと申します。わたくしのお部屋を改装して下さると聞き、大変嬉しく思っています」
シンシアの流暢な挨拶に、男爵夫妻はよく言えたと誉めながら親ばかっぷりを披露する。
このままでは埒があかないと思ったキース・レッド(ea3475)が強引に会話に割り込み、一行はシンシアの部屋へと移動した。
到着して早速ヲーク・シン(ea5984)は家具の配置など改装すべき点をピックアップする。
部屋の主であるシンシアは「みなさんにお任せしますわ」と言って、まっすぐ部屋を進み、窓の外にあるベランダ(1階の屋根部分)へと出た。
「僕はユーリユーラス、ユーリと申します。この竪琴にて一時の安らぎを捧げにやって参りました。」
少しオーバーアクション気味に膝を折って挨拶したユーリユーラス・リグリット(ea3071)が、まずはゆったりと寛げるような曲を竪琴で奏で始める。
ベランダに置かれたテーブルセットには紅茶とお菓子が用意してあり、シンシアは優雅にアフタヌーンティーを嗜む。
「こんにちは、シンシアさま。俺は、ユウって者です。本日はあなた様のお部屋の模様替えをするにあたって、ご希望を聞きに参りました。俺の事は『犬』なりお好きにお呼び下さい」
ユウ・ジャミル(ea5534)の挨拶に、シンシアが軽く頷いてみせる。10歳とは思えぬほどそれが様になっているのでなんだかしゃくに触るが、そんな事はおくびにも出さない。
「そうですわね、じゃあ調理場へお紅茶のおかわりをもらってきてくださるかしら?」
「かしこまりました」
そう言って一礼するや、ユウは素早く部屋を出て行った。
シンシアの側では、シンシアに曲のリクエストを尋ねつつ何曲目かを演奏しているユーリと曲に合わせて歌うライカ・アルトリア(ea6015)、スキルを活かして流行や化粧などシンシアが気になるだろう話題でセクスアリス・ブレアー(ea1281)が話し掛けている。
シンシアはセクスアリスの問いかけに相づちを打ちながらも、ずっと部屋の中を見つめている。
改装の様子が気になるなら、好みを聞き出そうとユーリは演奏を止めてシンシアに話しかけた。
「シンシア様に捧げる曲を作ろうと思っているのですが、なかなか作詞がうまくいきません。もしよろしければ、お手伝いお願いできませんか?」
「わたくしのために‥‥そうね、少しなら」
多少の興味を引かれたらしいシンシアが頷いて、ユーリは俄然やる気が出てきた。先ほどまでのリクエストでシンシアの曲の好みは把握した。最初は淡い恋物語調の曲を考えていたが、シンシアの好みからすると、違う方が良いらしい。ユーリは竪琴の弦をつま弾き、曲に合わせて軽く歌ってみせた。
「白い風 夢包まれた 夜空の下で 君の声 揺れてる月に瞬く星が
薔薇の花びら一枚 願い乗せて風に託し‥‥」
この詞の色や花の名前で悩んでいるのだと告げると、シンシアは顎に手を当て小首をかしげて少し考えると、にこっとユーリに答えた。
「色はそのままで良いと思うわ。花は薔薇も好きだけど、百合なんてどうかしら?」
花の名を言い換えて再び歌ってみせると、シンシアはなぜか首を振る。
「うーん、やっぱり花は薔薇に戻して、色を赤にしてみて」
シンシアとユーリのやり取りを聞いていたライカは、シンシアの顔が先ほどまでのふて腐れた感じとはうってかわった、いきいきとした感じになっている事に気付く。セクスアリスもユーリも気付いたようで、ライカがやれやれという顔をしてみせるとユーリはウインクしてみせた。
「仰せのままに、シンシア様」
何度目かの歌詞の変更をしたとき、新しい紅茶を持ったユウが帰ってきた。
部屋の中ではヲークの陣頭指揮により、キース、九条響(ea0950)、クラム・イルト(ea5147)が徐々に家具を動かしている。
「お待たせいたしました。シンシアさま」
空になっているシンシアのカップに紅茶を注ぎティーポットをテーブルに置くと、ユウはさり気なく部屋の中に戻り、クラムの作業を手伝ったりしながら、調理場などで使用人たちから聞いたシンシアの好みをヲークに報告する。
「わかった。カーテンの色はそれにしよう」
シンシアのところに再び戻ったユウは、今度は風が吹いてきて寒くなったからという理由で、クローゼットから出されて向かいの部屋に運ばれた衣類の中から羽織るものを持ってくるように言い付けられ、椅子に座る間もなく動き回るはめになった。
予想した通りではあったが、シンシアの我がままっぷりにセクスアリスの怒りゲージが貯まっているようで、これはなんだか一波乱ありそうである。
夕方、今日の作業はこれまでにしようと肉体労働班が決めたとき、シンシアが部屋に入ってきてぐるりと見回した。
「いかがですか? シンシア様」
ヲークの問いかけに、シンシアは腕組みをして家具の位置をひとつひとつ見て歩くと、首を振った。
「明日、クローゼットの位置を変えてみてくださいね」
にっこりと可愛らしさ(小憎らしさ)120%でヲークに告げるシンシアの言葉に、作業をしていた者もシンシアの相手をしていた者もがっくりと肩を落とす。
屋敷からの帰り道。先頭を歩いていたキースが振り向いた。
「みんな、今日はお疲れさま。明日も大変だろうけど、大人な対応で乗り切りましょうね」
もちろんと頷く皆をよそに、セクスアリスだけがむっつりとしている。
なんだか不安を感じながらも、その日は皆それぞれ寝泊まりしているところへ帰って行った。
翌日も朝から作業は行われた。前日のようにベランダから部屋を見ていたシンシアは、今日は何度も駄目だしをしてきて、作業は一向に進まない。そんな中でも期限は迫ってきていて、セクスアリスの怒りゲージはマックスに近づいていた。
最終日、細かい部分でシンシアのツッコミが色々あったものの、大体の家具の配置はヲークの案が通っていた。
ベッドの頭側を東壁に移動。収納全体を西壁に移動して外からの視線を遮り、着替えの行える場を作成。収納家具の高さを少し低くし、シンシア付きの女中が背伸びしなくても衣類を取り出せるようにしてある。
窓には日射しを柔らげるための薄い生地の薄桃色のカーテンがかかっていて、ベッドカバーやまくらカバーなどにもカーテンと同じ薄桃色の生地が使われていた。このあたり、女の子なんだなと思わせる可愛らしい色の好みだが、本人の態度はどうやっても可愛らしいとは思えなかった。
最初の配置ではベッドの頭と並んで置かれていたドレッサー(鏡付き化粧台)を着替え場の方に移動させようと、響が持ち上げた途端、シンシアが止めた。
「それは動かさなくて良いのっ、そこに置いてよっ」
びっくりして、多少乱暴に置いた事が更にシンシアの勘に障ったらしい。
「どうしてそんなに乱暴に置くのっ」
「ご、ごめんなさい」
謝る響を振り向きもせず、怒ったシンシアはそのまま廊下へと出て行った。途端、悲鳴が聞こえてきた。
「キャーーーッ」
キースが慌てて出てみると、吸血鬼のような変装をしたセクスアリスがシンシアに迫っているところだった。
「もし、自分が同じ目に有ったらどう思う?そんな子はこの世に必要無い。 だから私が貴方の血を頂くわ。あの世で後悔するがいい」
セクスアリスが迫る中、恐怖に怯えるシンシアをキースとクラムがかばう。この暴挙にヲークが血相を変えて、セクスアリスに掴み掛かった。
「生活費にすら困ってるんだ! 失敗出来ないんだぞ!」
騒然とした廊下に男爵夫人がやってきた。母親の顔を見て安堵したのか、シンシアは声を上げて泣き出した。
数十分後、ユウとライカ、ユーリの尽力でシンシアは落ち着きを取り戻し、響とキース、クラムの誠心誠意込めた謝罪で夫人の気持ちも落ち着いたのだった。
屋敷の外では、ヲークとセクスアリスがにらみ合っていた。キースたちがやってきて報酬が貰えそうだと伝えると、ヲークは安心して大きく息をついた。
改めて応接室に集められた8人は、夫人とシンシアの前で恐縮していた。騒ぎを起こしたセクスアリス自身を除いて。
「ブレアーさんがなぜあのような事をしたのかはお聞きいたしました。シンシアの態度にも問題があったようですわね。報酬はお支払いいたします。でも、騒ぎの事はギルドに報告させていただきます」
夫人の鋭い視線を受けつつも、セクスアリスは一言だけ、と口を開いた。
「私はやり方を間違えたかも知れないけど、シンシア様に正しい事は何か伝えたかったのよ。我がままが過ぎちゃいけないって教えたかったの」
「でも、今回の俺たちの仕事は部屋の改装であって、シンシア様を正す事じゃないぞ」
だから謝るべきだと言うクラムの言葉に他の6人が大きく頷くのをみて、セクスアリスはしぶしぶシンシアに頭を下げた。
「脅かしてごめんなさいね」
この言葉に首を振ったシンシアは、セクスアリスら8人の冒険者に向かってにっこりと微笑んだ。
「とっても楽しかったですわ。また遊びに来て下さいね」
なんだかとっても厄介な人に気に入られたぞと思いながら、8人は愛想笑いを浮かべてその場をごまかすしかなかったのだった。