届け、愛妻弁当

■ショートシナリオ


担当:中舘主規

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月19日〜09月24日

リプレイ公開日:2004年09月27日

●オープニング

「ちょいと悪いんだけど、これ頼みたいのだけどいいかい?」
 冒険者ギルドのカウンターに現れたのは、大きなお腹の奥さんだ。足元でスカートをぎゅっと握っていた小さな男の子を抱き上げてあやしながら、担当の者と話をしている。
 依頼書には期間中、お弁当を毎日旦那さんに届けて欲しいと書いてある。
「つい最近まで自分で持って行ってたんだけどさ、このお腹だろう? 旦那がやめてくれって言うのよ。生まれるのはもうすぐだし、旦那が働いてる森にモンスターが出るんだよ」
 旦那さんはキャメロットから3、4時間歩いた森の中で木を伐る仕事をしている。いつもは仕事仲間がいるのだが、奥さんが言うには先日仕事中にモンスターに襲われて怪我をし、休んでいるらしい。
「目撃した旦那の話だと、仕事仲間はいきなり木の上にさらわれたんだってさ。仲間の悲鳴を聞き付けて見上げたら、茶色っぽくて腕の長い大きなのが仲間を木の上で羽交い締めにしていて、もう1匹が仲間の食べていたお弁当を奪い取ってたらしいよ」
 奥さんはおお恐い、と身震いする。

「‥‥だからさ、お弁当を届けた後、できればモンスターも倒して欲しいんだよ。仕事仲間が怪我をしたって聞いてから、不安でね。見た目だけなら旦那もモンスターに負けないけどね」
 あっはっはと豪快に笑う奥さんの腕の中で、いつの間にやら男の子は眠りについていた。
「この子や生まれてくる子のためにも、腕っぷしの強い冒険者に頼みたいねぇ」
 奥さんのつぶやきを聞きながら、ギルドの者は依頼書を貼り出すのだった。

●今回の参加者

 ea1281 セクスアリス・ブレアー(37歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5884 セレス・ハイゼンベルク(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5995 カッシュ・ハイアーファ(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6401 ノイズ・ベスパティー(22歳・♂・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea6596 フィミリア・リヴァー(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6978 緋翼 龍心(33歳・♂・ファイター・ジャイアント・華仙教大国)
 ea6999 アルンチムグ・トゥムルバータル(24歳・♀・ナイト・ドワーフ・モンゴル王国)

●リプレイ本文

●お弁当運び
 依頼人の家は、キャメロットの郊外にあった。
「こんなところまでわざわざすまないねぇ」
 依頼人である奥さんと、奥さんのスカートをぎゅっと握ってじぃっとこちらを見つめる男の子に迎えられ、冒険者一行はこざっぱりした家の中に案内された。
「‥‥それでだな、ご主人のいるところまでの地図を描いてほしいのだが」
 カッシュ・ハイアーファ(ea5995)の頼みを奥さんは快諾する。
「もちろんそのつもりさ。でも毎日同じ道だとモンスターに気付かれちまうかねぇ」
 地図を描きながら呟く奥さんの手元を覗き込みながら、ノイズ・ベスパティー(ea6401)がにぱっと笑ってみせる。
「大丈夫。僕ら、毎日ルートを変えようと思ってるんだよ。僕と地の魔法を使うフィミリアさんとレンジャーのミリートさんで、帰り道にモンスターの行動範囲とか調べるんだ」
 ノイズの言葉にミリート・アーティア(ea6226)とフィミリア・リヴァー(ea6596)がうんうんと大きく頷いてみせる。
 書き上げた地図と今日の分の弁当をカッシュに渡して、奥さんは抱え上げた息子と共に皆を送りだした。
「くれぐれも怪我の無いように。気を付けておくれよ〜」
 外で馬を世話しながら待機していたセレス・ハイゼンベルク(ea5884)、アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)と共に、一行は出発する。

「本物の弁当を持ってない人は、これを持ってねぇ」
 セクスアリス・ブレアー(ea1281)が隣を歩いていた緋翼龍心(ea6978)や後ろを歩くミリートたちにダミー弁当を配って回る。
「何が入ってるのかな? これ〜」
 興味津々にミリートが尋ねると、セクスアリスはフフフと笑って答えた。
「ひ・み・つ♪ ‥‥見た目美味しそうかもしれないけど、食べない方がいいわよぉ。味付けはめちゃくちゃにしたから」
 念のために隠して持っててねと言われ、カッシュの他は皆素直にバックパックにしまう。
 本物の弁当はカッシュのマントと毛布に包まれて、見た目はそれとわからないようになっていた。更に1人がずっと持っていると狙われかねないからと、10分程を目安にランダムに回し持った。

 そうして、森の中を進んで太陽が南天に差し掛かった頃、遠くの方で斧で木を伐る音が聞こえてきた。
「きっとあの音のするところにご主人がいるんですわ」
 フィミリアの言葉通り、依頼人のご主人はそこにいた。
 ジャイアントの龍心に比べれば身長も体重も小さいのだけれど、無駄な肉のそぎ落とされたたくましい体はそれなりの迫力がある。
「ああ、かあちゃんに頼まれたのか、すまねぇな」
 ご主人から直接モンスターを目撃した時の事を聞きながら、みんなでお昼ご飯を食べた後、奥さんに宣言した通り、ノイズたち3人はエイプの行動範囲の調査のため出発し、それ以外の者はご主人の側で警戒に当たった。

●調べもの
「ノイズさまと2人きりで森の中なんて‥‥ロマンチックですわぁ☆」
 いきなり乙女チックな妄想を膨らませているフィミリアの後ろで、ノイズとミリートは苦笑しながら顔を見合わせる。ミリートなど存在さえも忘れ去られているから、尚のこと苦笑せざるを得ない。
「フィミリアさんにやってもらわなきゃならない事はいっぱいあるんだから、現実に戻ってよっ」
 身長差100センチの恋人、ノイズに頬をてしてしとやられて正気付いたフィミリアは少し照れくさそうにしながら、手近にあった1本の木を対象に早速地の精霊魔法『グリーンワード』を唱える。
 何度も何度も場所を移動しては質問をする、を繰り返してフィミリアのMPが底を尽きかけたとき、どうにかエイプの行動範囲を半分程把握する事ができた。
 途中、まだ熟すにはほんの少し早い果樹を何本か発見する事ができたので、これもカッシュが奥さんから受け取った地図に位置を書き込んだ。
 依頼人の家にご主人を送り届けた後、8人はギルド近くの酒場に集まって、明日のルートと今後の行動方針を確認してから帰路についた。

 2日目、初日と同じように調査した結果、どうにかエイプの行動範囲を把握する事ができた。そうして得た情報を元に、エイプにお仕置きするための下準備は整った。

●エイプ発見
 3日目、依然エイプの襲撃はなかったが、昼食時に何ものかに見張られている気配を8人がそれぞれに感じていたようだ。
 午後、8人はご主人のいる場所から離れて、お仕置きのための行動を開始した。
 まずノイズが声色のスキルを使って何とかエイプの声を真似して誘き寄せようとみようとしたが、聞いた事がないため、あまりうまくいかない。
 仕方ないので、アルンチムグが囮用にと朝市で買っておいた果物を持って、風向きを読みつつノイズが飛び回ってみた。ノイズ以外はエイプに悟られないよう、茂みに隠れて時を待つ。
 すると、風に葉がなびく音とはあきらかに違う、葉の擦れあう音や枝の軋む音がかすかに感じ取れた。
 ノイズがそちらに気をとられ、ぱたぱたと飛んで行こうとした瞬間、突如背後の木の枝が大きく揺れ、エイプがその両腕でノイズを掴もうとした。
「わっ‥‥っと危ないなぁ〜」
 回避能力に秀でていたお陰で、ノイズはエイプの不意打ちな攻撃を避ける事ができた。
 そしてこれを合図に皆は茂みから姿を現した。
「‥‥大地の力よ、今こそ我に力を示せ! グラビティーキャノン!!」
 詠唱を終えたフィミリアからエイプの掴まっている木を目掛け、黒い帯が走る。エイプ自身は避けたのだが、木から衝撃が伝わった際に手を滑らせたエイプは地面に叩き付けられた。
 下には龍心が待ち受けていた。
「猿だって生きてくためにゃあ、食わないといけないのはわかるが、手癖の悪い猿にゃ灸を据えなきゃな」
 アルンチムグがオーラパワーを付与した龍心のロングソードが、未だ体勢の整っていないエイプ目掛けて振り下ろされる。
 と、そこへもう1匹のエイプが飛び出してきたが、龍心へ襲い掛かるより早くミリートが投げた小石が肩に命中した。
「悪い子にはお仕置きだよ!」
 ミリートの声に反応して、2匹目のエイプがそちらを向いたとき、エイプの前にはセレス、セクスアリス、カッシュが立ちはだかっていた。
「お前の相手は俺たちだ!」
 セレスの一撃目を何とかかわしたエイプだが、セクスアリスの攻撃を受け、カッシュのブラックホーリーを喰らって、エイプは叫び声を上げた。
 アルンチムグは弓を構えてエイプを狙うが、近接戦闘をしている3人に当たらないように矢を射るにはアルンチムグの技術では厳しく、射る事ができない。アルンチムグは弓での攻撃を諦めて、ダガーを手に取り、セレスたちに加勢した。
 エイプは傷を負いながらも攻撃を止めることなく、カッシュに向かって殴り掛かった。1発は左腕に喰らってしまったものの、2発目はなんとかかわした。
 先ほどかわされてしまったセレスが、今度こそ、と会心の一撃を当てたとき、フィミリアからダミーの弁当を受け取ったカッシュがエイプの口に弁当を突っ込んだ。
 エイプはもぐもぐと口を動かしていたが、すぐにげぇぇと吐き出した。
「どうだエイプ、これが人間の食べ物だ! 分かったら二度と人間を襲わないことだ」

 最初のエイプは落下したときのダメージも蓄積されていたからか、龍心の攻撃を受けて、戦意を喪失してしまった。
 2匹のエイプは互いにかばいながら、森の中へと姿を消していった。
「これで、もう人間を襲わないと良いですね」

●祝福
 エイプを撃退したことを、ご主人に告げ、一足先に奥さんの元へ戻ってみると、奥さんの家や近所が騒がしい。
「何があったんですか?」
 と通りすがりの主婦らしき人にノイズが声をかけてみると、主婦は足も止めず振り向きもせずに答えた。
「あそこの奥さん、陣痛が始まったんだよっ」
 何か手伝えることはないかと思った一行だったが、十分手は足りるからと、近くの民家に追いやられてしまった。

 数時間後、依頼人の家から元気な赤ん坊の泣き声が聞こえると拍手が沸き起こり、家の中から主婦達が出てきた。
 既に森から戻ってきていたご主人に、主婦たちは次々におめでとうと声をかける。8人もご主人のところへ行くと祝福の言葉をかけた。ご主人は照れくさそうに礼を言ってから、家の中に入っていった。
「お腹触らせてもらう前に、産まれてしもたなぁ」
「本当に。私も触らせてもらおうと思ったんだけど‥‥」
 でも、めでたいことだから良いか、とアルンチムグもミリートも顔を見合わせて頷いた。
 そんな2人の後ろでは、フィミリアがうっとりと妄想に浸っていた。
「私もノイズ様との赤ちゃんが欲しくなってしまいましたわぁ」

 フィミリアの呟きに、男性陣はみんな、シフールとエルフじゃ絶対子供は無理なのにと思いつつ、それを顔に出すことはしなかった。

 しばらくして、上の子を抱いたご主人がドアを開け、8人を迎え入れた。
 通された寝室では産まれたばかりの赤ん坊が奥さんの横ですやすやと眠っている。
「みなさんありがとう。心配事も解消されたし、これで心置きなくこの子を育てられるよ」
 奥さんの言葉が、何よりもの報酬だと皆は感じたのだった。