【黒の聖女】偽りの眼差し。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳴神焔

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月21日〜05月26日

リプレイ公開日:2008年05月25日

●オープニング

●村の異変。
 キエフから二日程行ったところにある小さな村。以前ズゥンビがどこからか発生し、その被害を冒険者たちが食い止めた村である。あの事件から数日、村は何事もなかったかのように時間が流れていた。とある一点を除いては―――。
 太陽がその身を地平線に隠し、夜の闇が朱色に染まった空をゆっくりと覆い隠していく頃、村の外れにある森には子供たちが集まっていた。子供たちはひそひそと会話をしながらも何かに期待し胸躍らせるような表情を浮かべている。そしてそこに一羽の大きな鳥がゆたりとした羽ばたきと共に舞い降りた。鳥はその足を地につけると身体をぐにゃぐにゃと歪ませ、やがてその影を人の形へと模っていった。
「こんばんわーボクちゃんたちー」
 場に不相応なほど呑気な声と共に白いドレスの女性が子供たちの目の前に姿を現した。それを見た子供たちは歓声を上げながら女性の側へと駆け寄っていく。
「お姉ちゃん! 今日はどんな魔法を教えてくえるの?」
「その前にー、ちゃんと宿題はできたー?」
 子供の一人が瞳をキラキラと耀かせて女性に問うと、女性は人差し指を子供の口にそっとあててぱちりとウインクした。子供たちは皆嬉しそうに大きく頷くとそれぞれがブツブツと言葉を紡ぎ始める。同時に全ての子供たちの身体が淡い黒の光を纏い始め、その手に怪しく光る黒い光が生み出される。光はやがて凝縮するとドロリとした液状のものに姿を変え子供たちの掌に収まった。
「すごいわー。さすが私の見込んだ子たちねー」
 女性はにっこりと微笑むと子供たちの頭を優しく撫でて回る。
「それでそれで? 次はどんな魔法を教えてくれるの?」
「そうねー」
 無邪気に喜ぶ子供たちに女性は人差し指を顎にあてて小首を傾げると、しばらく悩んだ末に一つの結論を導き出した。
「そしたらー、今度は気に入らない相手をやっつけちゃう魔法を教えてあげよっかなー」
 子供たちが感嘆の声を上げる。
 そのせいか誰もが気付かなかった。物影からそっと見つめる小さな影があったことを。

 数日後、冒険者ギルドには一人の少女の姿があった。そう、以前のズゥンビ騒ぎのときに依頼に来た少女だ。
「あら、また来たのね? いらっしゃい」
 受付嬢はまだ記憶に新しい事件の依頼人である少女の顔を思い出し、にこやかに声をかけた。しかし少女は何やら思いつめたような表情を浮かべており、その小さな拳はまるで石のように固く結ばれていた。ただ事ではない少女の様子を不審に思った受付嬢は、とりあえず座るよう少女を促した。
「それで・・・・何があったの? また魔法失敗した?」
 以前と同じように水の入ったグラスを少女に差し出しながら受付嬢は優しく聞いた。少女は俯きながらその首をぶんぶんと横に振ると、やがて受付嬢のほうにゆっくりと顔をあげた。
「みんなが・・・・みんながお姉ちゃんに・・・・」
 やっとの思いで紡ぎだした言葉は、少女の瞳に一筋の光を生み出してしまう。その光をそっと手で拭ってあげた受付嬢は、少女が落ち着くまで見守ることにした。しばらく嗚咽を漏らしていた少女だったが、溜めていたものが少し出せたようで落ち着きを取り戻し、自分が見た一部始終を受付嬢に話す。
「それじゃ・・・・素質のある子供たちを集めて魔法を教えているのね?」
 受付嬢の言葉に少女はこくんと頷いた。
「今回は村の人から頼まれたわけじゃないから・・・・その・・・・お金がなくて・・・・それに冒険者の人たちをすごく怒らせてしまったから・・・・」
 申し訳なさそうに俯いて語る少女。受付嬢はにっこりと微笑むと少女の頭を撫でてやった。
「確かに以前あなたがしたことは悪いことよ。でもあなたはちゃんとそれをわかってくれた。しかも今回皆を助けるためにちゃんと話してくれたじゃない。それに報酬がなくても動いてくれる冒険者もちゃんといるのよ?」
 受付嬢の言葉に若干頬を紅潮させながら少女は顔を上げた。受付嬢はしっかりと頷く。
「依頼、承りました♪」

●今回の参加者

 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4040 ユリア・ヴォアフルーラ(35歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec4728 アナマリア・パッドラック(26歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec4851 テレーゼ・エンゲルハルト(23歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4862 ヒャーリス・エルトゥール(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4894 セリア・クルギス(21歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec4924 エレェナ・ヴルーベリ(26歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●再会。
 村までの道程を少女を連れた冒険者たちが歩いていく。思い出せば前回のこの道は非常に重い空気の中での出発だった。少女は魔法の練習をして皆を怒らせてしまったことがあるのだ。それを気にしたのだろう、少女はしばらく俯いたまま黙って歩いていた。そんな少女を見かねて声をかけたのは陽小明(ec3096)だった。
「陽 小明。シャオミンで構わない。名前を教えてもらえないか?」
 柔らかな笑みを浮かべながら小明は少女に尋ねた。少女は一瞬強張ったような仕草を見せたが、小明の顔が決して怒ってるものではないことがわかると恐る恐る小明の目を見た。
「えっと・・・・サフィニア・・・・です」
 呟くように名乗った少女―――サフィニアのすぐ傍にセリア・クルギス(ec4894)がふわりと舞い降りる。
「私はセリアよ。この前はごめんね? キツイこと言っちゃって・・・・」
 申し訳なさそうに言うセリアにサフィニアはふるふると首を横に振る。
「私の方こそごめんなさい・・・・勝手なお願いばかりで・・・・ひゃっ」
 俯きながら言葉を紡いでいたサフィニアの身体がひょいと持ち上げられる。ユリア・ヴォアフルーラ(ec4040)がサフィニアを抱きかかえたのだ。驚いたサフィニアは慌ててユリアにしがみ付く。
「私たちの方こそすまなかった」
 ユリアはサフィニアに目線を合わせてそう言い、ゆっくりと彼女を地面へと下ろしてやると、彼女の前に膝をつきその頭をそっと撫でた。
「今回の依頼を出しに来たという事は、術使いにとって最も大切なものを育んだ証だ。サフィニアはきっと良い術使いになるだろう」
 思いもよらぬ笑顔と共に告げられた言葉はサフィニアに笑顔を取り戻すのに充分すぎるほどであった。その様子を暖かく見守っていたエレェナ・ヴルーベリ(ec4924)はすぐに表情を引き締めるとサフィニアの隣へと移動する。
「私は件の女性とやらは見ていないのだが、どのような相手なのだ?」
 今回恐らく最大の障害になるであろう女性と面識がある四人は初対面となる冒険者たちにその容姿や特徴を説明する。
「では随分危険な相手ですね。手を出さないに越したことはありませんけれども・・・・」
 神妙な面持ちで腕を組んで考え込んだのはヒャーリス・エルトゥール(ec4862)。同じ魔法を扱うものとして子供たちには魔法の危険性も理解して欲しいと考えていたヒャーリスだったが、その難しさをなんとなく理解していた。他の仲間も思いは同じようで、皆考え込むように黙ってしまう。その沈黙を破ったのは件の女性と同じ宗派のアナマリア・パッドラック(ec4728)だ。
「悩んでいても仕方ありません。問題の女性と子供たちが会うのは夕方、昼のうちに何とか子供たちに接触しましょう」
 アナマリアの言葉に一同は強く頷くと再び村への道を進み始めた。
「そう言えばサフィニアさん、どの子供が魔法を使えるのかわかりますか?」
 歩きながらサフィニアのほうへと視線を向けるとテレーゼ・エンゲルハルト(ec4851)は疑問に思っていたことを口に出した。
「え、うん。魔法習ってるときにみんなの顔は見てるよ?」
「じゃあその子達が誰なのかは後でこっそりお姉ちゃんたちに教えてね?」
 人差し指を唇にあててウインクするセリアにサフィニアは満面の笑みで頷き返した。

●村の子供たち。
 村に到着した一行は昼のうちに子供たちに接触するために二組に分かれることにした。
 一つは今回初めて村を訪れたテレーゼ、ヒャーリス、エレェナ、アナマリアの四人。こちらはどうやら旅芸人を装ってさりげなく子供たちに接触するようだ。
 オカリナを演奏するエレェナと竪琴を演奏するヒャーリス。テレーゼとアナマリアは子供たちが集まる場所へと二人を誘導するように歩いていく。
 一方他の三人とサフィニアは少し離れたところからその様子をこっそりと見ていた。
「サフィニアちゃん、この中に子供たちはいる?」
 ひそひそと語りかけるセリアにサフィニアはこくりと頷き返す。セリアはサフィニアが指した子供たちの情報をテレパシーで旅芸人チームに伝える。しかしここで一つ問題が発生した。
 子供たちは確かに村の中にいたわけなのだが、旅芸人を装ったことで村の大人たちもわらわらと集まってきたのだ。しかしここで作戦を中断しては結局子供たちはあの女性と会ってしまう。エレェナは集まってきた人たちの前で注目を集めると、優雅に一礼した。
「私はエレェナ。レェナでもリョーカでも好きに呼ぶといい」
 簡単な自己紹介を終えると、共に連れてきていた馬にスリープの魔法を唱え始めた。まるで奏でられる演奏に酔いしれるかのように眠りに落ちていく馬。
「私は月の精霊の力を借りることが出来る」
 周りから感嘆の声があがる。そして演奏が終える頃に馬の首筋をそっと撫でると馬はぱちくりと目を開けた。エレェナは群衆の中の子供たちに特に視線を合わせながら再び一礼した。そこで演奏を終えたヒャーリスが周りをぱたぱたと駆け出す。何事かと見守る群衆の目の前でテレーゼはヒャーリスにコアギュレイトをこっそりとかける。駆けていた途中で動きを封じられたヒャーリスは慣性の法則に従ってそのまま地面へダイブ。
「きゃうんっ」
 可愛い声をあげて倒れるヒャーリスの姿は群衆の笑いを誘い、いいぞどぢっこー! などという掛け声までが飛び出した。頬をほんのりと紅く染めながら群衆に頭を下げるヒャーリス。
 結局村人を盛り上げるだけに終わってしまった一行は子供に気を取られて大人がいる事実を失念していたことに少し気を落としていた。と、そのとき―――
「ねぇお姉ちゃんたち、魔法使えるの?」
 群衆が去った後に残っていた子供たちが彼女たちに話しかけてきた。セリアのテレパシーが飛び、それが問題の子供たちであることが彼女たちに伝わった。
「えぇ、使えるわよ」
 集まった子供たちに桜まんじゅうを渡しながらヒャーリスはにっこり微笑んだ。
「嘘だー? 転ぶようなドジなお姉ちゃんがー?」
 子供たちにくすくすと笑われてちょっとショックを受けるヒャーリスの代わりにこかせた張本人であるテレーゼが答える。
「あれはね、魔法を使ったの。本当は悪い人を捕まえるための魔法だけれど、私は悪いことに使ったからこのおねえちゃんは転んじゃったのよ?」
 魔法の危険性を教えるためにテレーゼは言ったのだが、子供たちは魔法の凄さに目がいってしまい感心するばかりだった。
「あなたたちは魔法を使えるの?」
 子供たちの前にしゃがみこんで聞くアナマリアに、子供たちはお互いの顔を見合わせてにんまりと微笑むと、それぞれが同じような詠唱を始める。子供たちの身体を淡く黒い光が包み込むと、その小さな掌にドロリとした液状のものが出現する。
「へへっすごいでしょ!」
 得意そうな顔をする子供たち。その様子を見たアナマリアはにっこりと微笑むと子供の一人の手を取り、中にあった液体を一気に飲み干した。苦しそうな表情を浮かべてその場に倒れこむアナマリアに、何が起こったのかわからずオロオロする子供たち。そこに別チームの冒険者たちが近付いてきた。
「あっ・・・・お前はっ!」
 子供たちの一人がサフィニアの姿を見つけて指を刺す。サフィニアは怒ったようなかつての友達の視線にびくっと肩を震わせて小明の後ろに隠れた。小明はサフィニアの頭をそっと撫でてやると、子供たちの方をきっと睨む。
「彼女は解毒が出来た。しかしそれをしなかった。お前達の身に付けた力がどの様なものか身を呈して教える為だ。お前達の師はそれを教えてくれたか?」
 子供たちはその言葉にバツの悪そうな顔を浮かべて小明と苦しむアナマリアを交互に見やる。
「君たちがしたことをよく考えるんだ。君たちの無責任な魔法が見ず知らずの人を苦しめたのだ」
 小明と同じく怒りを顕わにするユリアの言葉に子供たちは思わず目を瞑る。
「力というのは使い方次第なのだよ。君達が力を持っている・・・・或いは、持とうとするのなら、その意味を良く考える事だ。よく覚えておおき?」
 その言葉がトドメとなり子供たちはトボトボとそれぞれの家へと帰っていった。

●後始末。
 村を夕闇が包み始める頃、サフィニアの案内で一行は村外れにある森へと来ていた。目的はもちろん魔法を教えた女性をこれ以上子供たちに近づけないようにするため。昼間の一件が効いたのか、その日子供たちは森に現れることはなかった。
 子供たちが女性と会っていた場所にたどり着いた一行はサフィニアを護るような布陣で辺りを警戒する。どれくらいの時間が経っただろうか、どこからともなく一羽の白い鳥が一行の上空をふわりと旋回し、ゆっくりと地面に舞い降りた。ぐにゃりと歪んだ鳥は徐々にその姿をドレス姿の女性へと変貌させていく。
「はぁ・・・・またあなたたちですかぁー」
 目の前にいる冒険者たちを確認した女性は盛大なため息をついてがっくりと肩を落とすと、サフィニアの方にちらりと視線を送った。
「やっぱり役立たずは始末しておけばよかったですねぇ」
 のんびりとした口調でとんでもないことを呟く女性にサフィニアは震えを止めることができずにいた。そのサフィニアを庇うようにして冒険者たちが女性の前に立ちはだかる。
「子供たちはもう魔法の恐ろしい一面をしっかりと見ています。これ以上は無駄だと思いますよ」
 初めて見る噂の女性の姿に異様な雰囲気を感じながらもヒャーリスはきっぱりと言い放った。
「今回はいけたと思ったのにー」
 残念そうに呟く女性の姿に激しい怒りを覚えたのはセリア。前回対峙したときにも感じたことだが、この女性は完璧に歪んだ思考の持ち主であることを認識していた彼女は女性の目的を知ろうと試みる。
「どうしてこんなことをするのですか! 子供達には何の罪も無いのに・・・・!」
「どうして? それは私の仲間を増やしたいからよー」
 きょとんとした様子で答える女性。
「父の望まれる賢人は、心の強さも兼ね備えた人ではないでしょうか? 貴女のやり方では、真の賢人を育てる事はできないかと・・・・」
 同じ黒の神聖魔法を扱うアナマリアは女性に対してやんわりと、しかしきっぱりと告げる。
「魔法の危うさも知らぬ子供に力を与えることが、大いなる父というものの教えに沿うことかっ!?」
 小明も女性を挑発するように言い放つ。皆女性が黒の教義に基づいて行動を起こしていると考え、それをやめさせるようにしたいと考えていたからなのだが。
 次々に浴びせられる言葉に女性は、何を言われているのか理解できないと言わんばかりに小首を傾げて考え込んでいる。向けられた怒りは彼女の前では受け流されているような錯覚さえ覚える。
 と、そこで女性は何かを閃いたように両手をぽむと叩くと、くつくつと含み笑いを始める。
「何がおかしい・・・・?」
 説得は恐らく難しいと考えていたユリアは充分に警戒しながら女性の方を睨みつける。他の冒険者たちも武器こそ構えなかったが、女性の奇怪な行動に妙な違和感を感じて身構えた。
「あーおかしー。もう気付かれてるかと思ったわー? 意外に鈍感さんなのねー」
 笑いを堪えながら女性は馬鹿にしたように言い放つ。
 一体何に気付いてなかったというのか―――そんな疑問が冒険者の頭の中をぐるぐると駆け巡る。女性はにやにやとしながらその様子を眺めていたが、いつまで経っても答えの出ない一行にやがてがっくりと肩を落とす。
「ここまで鈍いと腹が立つわねー・・・・殺しちゃおうかしら」
 女性を取り巻く空気が突如氷のような冷たさを放つ。冒険者たちの背筋に刃物を突きつけられたかのようなざらっとした感覚が襲い掛かる。
 誰もが脳裏に死のイメージをよぎらせたその瞬間、女性の後ろから一人の男が現れた。あまりの戦慄に気配を悟ることができなかったのか、一行は男が近くにいたことに気付かなかった。
「グスタフ様、そろそろお時間です。お急ぎになられませんと・・・・」
「あら、もうそんな時間? また遊べなかったわねー。私の正体は次に会う時までの宿題にしておくわー。会えたら、だけどね。それじゃあねー」
 恭しく一礼する男のほうにちらりと視線をやると、グスタフと呼ばれた女性は一行にくるりと背を向け、ひらひらと手を振りながら森の中へと消えていった。男も一瞬冒険者のに目を向けたがすぐに女性の後に続いて姿を消していった。
 しばらくの間そのままで固まっていた冒険者たちは、張り詰めたものが切れたようにがくっと地に膝をつけた。

 目的は恐らく果たしたのだろう。
 子供たちは魔法の怖さをわかってくれたと思う。
 グスタフというあの女性もそれほど子供たちに執着はなさそうだった。
 しかし一行の胸には何やら言い知れない不吉な予感めいたものがしこりの様に残ったままになってしまったのであった。

Fin〜