【動乱】幕開け。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳴神焔

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月25日〜05月30日

リプレイ公開日:2008年05月31日

●オープニング

 キエフから西へ二日程、そこにある小さな小さな村。キーリフという名がついたその村は気候穏やかな農村で、数十人が静かに暮らしていた。自然に囲まれたキーリフでは森からあらゆる動物が姿を見せ時にはモンスターなども村に入り込んでくることがある。そのため村では自警団を結成し、村の青年と辺境に配属された兵士がその対処にあたっていた。
 その日も警護団の青年ブラームとムンスは村の周辺の見回りをしていた。
「今日も異常なしっと」
 ムンスは大きく伸びをすると首をこきこきと鳴らした。
「ここのところやけに静かだな」
 ブラームはそう言って辺りを見回した。数日前までは異常な程活発に行動していた動物やモンスターたち。そのために自警団は見回りをして村の警護を強化することにしたのだが、昨日今日とモンスターどころか鼠一つ姿を見せない状態だった。
「つい最近までのアレは一体なんだったんだ」
 やれやれと両手を広げたムンスは手にした剣をくるくると遊ばせた。
「あまりに静か過ぎる・・・・いやな予感が当たらなければいいが」
「気にしすぎだろ。平和なのはいいことじゃないか」
 やけに真剣な顔で腕を組んで考えるブラームとは対照的に笑いながらそう告げるムンス。それもそうかと頷いたブラームは村の外れにある見張り台に登っていく。見張り台の上にある小さな鐘を一度だけ鳴らすこと、それが異常なしということを村人に知らせる合図なのだ。見張り台の頂上に登ったブラームは鐘を鳴らそうとして突如その手を止める。
「・・・・どうしたー?」
 なかなか鳴らない合図にムンスは見張り台の頂上に向かって叫んだ。
「・・・・大変だ・・・・ムンス! すぐ皆に知らせてくれ! やばいことになってる!」


「今回はキーリフの村で起きている異常事態の調査をお願い致します」
 キエフの冒険者ギルドの受付嬢は目の前にいる冒険者に向かってそう言った。
「キーリフ・・・・? 聞いたことのない村だが」
「キエフから二日程のところにある非常に小さな村です。余程のことがなければ訪れることはないでしょう」
 首を傾げる冒険者の一人に受付嬢は説明する。
「キーリフの青年がつい先程依頼を出してきました。本来なら依頼は先着順に選ばれるのですが」
 そこまで言うと受付嬢は手元にある依頼状に視線を落とすと小さくため息をついた。
「つまり、そこまで急を要するということか」
 冒険者の言葉に受付嬢はこくりと頷いた。
「青年の話では村の見張り台から見える丘に大量のモンスターが集結しているとのこと。何故集まっているのか、何をしようとしているのかは現状では不明。しかし、その数があまりに多いため冒険者に調査を依頼することにしたのだそうです」
「村が襲われているわけではないのか?」
「えぇ、村には今のところ被害はないそうです。一応警備を固めて襲撃に備えているそうですが」
 受付嬢はキーリフの場所が書かれた地図を冒険者に渡すと、深々と頭を下げた。
「モンスターの目的とその編成を調査してきてください。くれぐれも調査だけを目的にするようにお願い致します」

●今回の参加者

 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●異変。
 村にたどり着いた冒険者たちはまず村中の張り詰めた空気を目の当たりにする。
 村自体はモンスターを見慣れていないわけではない。むしろ自然に囲まれ都市部から離れたキーリフでは日常的に見るものでもあった。しかし見たことのない数のモンスターが近くをうろついているという今まで経験したことのない事態に、人々はただただ不安と恐怖と戦うしかなかった。
「それでは我々はこのまま村の警護に当たりますので・・・・」
 依頼人の青年―――ブラームは冒険者たちに一礼すると剣を携えて村の中へと姿を消した。
「とりあえず状況の確認をしないといけませんね」
 リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)は丘の様子を探るためブラームたちが見たという見張り台へと足を進める。もちろん最終的には近くまで行って確認することにはなるわけなのだが、まずは敵がどこにいるのかを確認する必要がある。
「あたいってか弱いしふしふだから確かめに行くのは任せちゃいたいんだけど・・・・ダメだよねぇ?」
 苦笑を浮かべながらシャリン・シャラン(eb3232)が隣にいたクリスティン・バルツァー(eb7780)のほうに目をやる。クリスはちらりと目を向けるが、その瞳に無言の圧力が見えたのは言うまでもない。
 見張り台に着いた一行は依頼人が見たという方向に視線を向けてみる。そこには数十にも及ぶ黒い影といくつかの大き目の影。
「ここからではどんなモンスターかは判別できんか・・・・」
 クリスは苦い表情を浮かべて呟く。
「見えるところまで行ってみるしかありませんね」
 リディアの言葉に一同はゆっくりと頷いた。
「すまないが俺は今回別行動を取らせてもらう」
 そう言ったのはヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)。他の冒険者も今回の目的が調査である以上は団体よりも単独で動いた方がいいことは承知していたので異論はなかった。むしろ今回はほぼバラバラの行動となるだろう。
「気を付けるのだぞ」
「そっちこそな」
 言い合いながらクリスとヴィクトールが拳を軽く合わせる。信頼した仲間同士だからこそ命を賭けた任務でも無事に戻ってくると信じられる。言葉は少なくとも確かな絆がそこにはあった。
 暇つぶしのつもりで来たシャランはその身の軽さを生かして上空から。
 目の良さを武器に見晴らしの良い丘からの偵察をするクリス。
 リディアはモンスターの裏に潜む何かを警戒して遠巻きから確認。
 そしてモンスターの足跡や痕跡を調べてその行動の元と先を予測するヴィクトール。
 それぞれが思い思いの行動を取ることで調査は開始された。

●シャランの場合。
 シャランがまず行ったことは不安に怯える村人たちを元気付けることだった。
「暗い顔しててもいい事なんてないわよ? あたい達の踊り見せてあげるから元気出しなさいよね♪」『よね♪』
 そう言いながら村の広場で相棒のフレアと共に自慢の踊りを披露する。最初はこんなときに、と思っていた村人たちもその踊りに次第に目を奪われ、最終的には一緒に踊るまでになっていた。
「そうそう、笑顔が一番よね♪」『よね♪』
 不安を一時的にでも忘れてわいわいと騒ぎ出す村人を見てにっこりと微笑んだシャランは、こっそりと輪の中から抜け出す。
「さてっと・・・・まずは相手に近付かなくてもできることからね♪」『からね♪』
 小さくガッツポーズをしたシャランが静かに意識を集中させる。淡い黄金の光を纏ったシャランは二つの言葉を脳裏にイメージする。その言葉は『キーリフ』と『モンスター』。
 シャランの脳裏に次第に浮かび上がってくるイメージ―――炎に包まれた村の中を逃げ惑う人々とそこに蹂躙するモンスターたち。そしてその中で高笑いをあげる一つの影。一瞬のイメージだったがシャランの顔を歪ませるには十分なものだった。
「嫌なものね・・・・何もしなければこの未来の通りになっちゃうかもしれないし・・・・ちょっと気合入れないといけないわね♪」『わね♪』
 隣でふわりと舞うフレアと顔を合わせて頷くシャランはモンスターが見えた方角へ向かって勢いよく飛び出した。途中サンワードを使用してモンスターを統率する存在のことを尋ねてみたが、どうやら日陰にいるようでその答えは得られなかった。
 シフールである彼女はその小さな身体で上空から確認する方法を選択した。もちろん近付き過ぎない程度にしなければ余計な戦闘になってしまうため遠目からの確認になってはしまうが。ある程度視界の開けた場所まで出た彼女は下に群がるモンスターたちを確認する。
「・・・・すごい数ね。あれは・・・・狼かしら」
 見張り台から見えた小さめのモンスターはどうやら狼の群れのようだ。しかし上空からでは大きな影の姿は確認できなかった。先行しているのかそれともどこかに隠れているのか。近付いて確認しようかと思ったが、他の仲間が確認しているかもしれないのでとりあえず戻ることにした。

●クリスとリディアの場合。
「モンスターが統率されているなんて・・・・おかしいですね」
 一人腕を組みながら考え込むリディア。元々モンスターというのはアニマル系統のモンスターであったり、集落で住んでいる種族でない限りは群れを成すということはない。まして異種族が同時に行動を起こすなどということは通常では有り得ない。それだけで十分異常事態であることは間違いないのだ。
「集団で動けんからどうとでもなるようなものを・・・・厄介な話ではあるな」
 やれやれと首を振るクリス。彼女たちはなるべく遠くからの確認をするという同じ方法を選択したため共に行動することにしたのだ。
「考えられることは・・・・何者かが手引きをしている、と考えるのが妥当・・・・つまりモンスターたちが向かう先にその何者かがいる、ということですね」
「うむ。余り考えたくはないことだが・・・・ここはロシアだ。何があってもおかしくはあるまい」
 お互いの予測を確認した彼女たちはモンスターの大群が確認された場所がある程度確認できるぐらいの位置まで慎重に移動する。物陰からこっそりと覗き込む彼女たちの目の前に姿を現したのは多数の狼の群れ。その群れの先は近くの森の中へと続いているようだ。
「やはりどこかに向かっているようですね」
 小声で囁くリディアに静かに頷くクリスは、群れの先頭のほうに目を凝らしてみる。辛うじて見えたのは狼の数倍はあろうかという巨大な影。
「あれは・・・・オーガか?」
 その影の形からある程度の種別は判別できるが、正確にどれと言われるとやはり首を傾げてしまう。体躯から考えれるのはオーガ、オーク、ミノタウロス、その辺りだろうか。
「どれであっても確かに強力なモンスターだが・・・・奴らが統率してるとは思えん。もっと上の奴が手引きしておるのだろうが」
 クリスはそう言って必死に群れの中でそれらしいものを探しては見るものの、結局見つけることはできなかった。
「それでもある程度の編成はわかりましたね。数はウルフが約五十。さらにオーガっぽいのが五匹。それらはあの森の中で待機しているということ。調査としては十分な成果ではないでしょうか」
「うむ。これ以上近付くと余計な貧乏くじを引きかねん。それに国や村への報告のほうが急務だろうな」
 こうして二人は報告を済ませるために村に向かって静かに駆け出した。

●ヴィクトールの場合。
 一人単独で行動することを提案したヴィクトールは、見張り台から見えていたモンスターの姿からその進行方向に先回りすることを選択していた。列を組んで前進するモンスターの足跡はある程度の距離からでも十分に確認できるため、その移動ルートを把握することは容易なことだった。手にした地図とそのルートを照らし合わせながら、ヴィクトールはモンスターが向かっていると思われる一つの森を割り出し、既にそこの調査へと向かっていた。
「モンスターも森の中には入ってきてるな・・・・急がねぇと」
 森の奥の方に進んでいくと、突如目の前に開けた空間が出没する。そこそこ木々の生い茂る森の中で唯一燦々と日の光が降りそそぐ場所。その中心に二つの人影があるのを確認したヴィクトールは影から息を潜めてその様子を窺う。
 一人は黒いローブを着た人影、もう一つは甲冑を着込んだ騎士のような出で立ちの男だった。
「随分と集まってきてるようだな」
「順調だよ。この調子でいけば数日後には一個師団ぐらいの数にはなるよ」
 騎士姿の男の言葉にくぐもった声で答えるローブ姿の男。
 二人の姿も気になるところだが、会話の内容は聞き流すにはあまりに危険なものだった。モンスターが一個師団―――はっきり言ってぞっとしないことだ。
「それだけ集まれば厄介な冒険者を足止めすることはできる、か」
 にやりと笑いながら甲冑の男が呟く。
「これでグスタフ様もやりやすくなるだろうさ。最も、アノ人が何したいのかなんて僕たちにはわかんないけどね」
 肩をすくめながら軽い口調で言うローブの男。
 どうやら彼らがモンスターを集めて、さらに何者か―――グスタフというのがその名前だろう―――がそれを指示しているらしい。
 さらにそれ自体は何かの目的のための陽動であることがわかる。
 もう少し聞いていれば何が行われているかわかるかもしれないと考えたヴィクトールは二人の会話に聞き耳を立てる。
「そんなことより・・・・鼠が迷い込んでるようだが、始末するか?」
 言葉と同時に激しい殺気がヴィクトールの全身を包み込む。一瞬で身体の動きが制限され、恐怖で身体がすくみ上がる。
(やばい・・・・っ!)
 本能的に身の危険を感じ取ったヴィクトールは動きの鈍い体を無理矢理動かして全力でその場から離れていく。ただでさえ一人しかいない現状で敵に捕まれば命はない。まだこんなところで死ぬわけにはいかないという強い思いがヴィクトールの身体に自由をもたらした。
「・・・・いいのか?」
 ヴィクトールの姿が完全に見えなくなった後、甲冑の男がローブの男に問う。
「いいさ。そのほうが面白いだろう?くくく・・・・」
 ローブ男の不気味な笑いが森の中に木霊した。

●合流。
 それぞれの調査を終えた冒険者たちは村の見張り台のところで集めた情報を整理していた。
「じゃあ・・・・集まってるモンスターは陽動のためだってこと?」
 シャランの言葉にこくりと頷くヴィクトール。クリスとリディアも予想以上に深刻な状況に眉をひそめる。
「そのグスタフという輩が何を考えているのか・・・・それが問題ではあるな」
「あぁ。それ次第では・・・・この村にも危険が及ぶことになる」
 そう、モンスターが陽動ということは冒険者が動かざるを得ない状況を作るということ。一番手っ取り早いのは村の襲撃であることは間違いない。それを案じたためにクリスとヴィクトールは大きく溜息をつく。
「この結果は・・・・村の人には伝えておきましょう。万が一のときは逃げる準備だけはしておいてもらわなくては」
 リディアの意見に反対するものはおらず、一同は残りの期間を村での情報展開に費やすことにした。
 今回のこの調査が一体何をもたらすのか、また冒険者たちがどのように動かされるのかはわからない。ただ言い知れない不安だけが冒険者一行を包み込んだことだけは確かであった。

Fin〜