【暗黒街の主】ぷらいすれす。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳴神焔

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2008年06月05日

●オープニング

「厄介なことになりました」
 赤を基調とした東方の民族衣装に身を包んだ男は余り困ってなさそうな顔でそう言った。
 キエフ冒険者ギルドにおいてこの人物が現れたときほど厳戒態勢が敷かれることはない。なぜなら彼の周りには数十人という山賊まがいの男たちが常に付きまとっているからなのだが、ギルドで依頼をするときは席を外してもらうようにお願いしたため今目の前には依頼主と側近らしき二人の男しかいない。
「厄介なこと、と言いますと?」
 受付嬢はなるべく平静を装って尋ねた。彼女の後ろには二人の警護兵が武器を構えて立っている。それでも外には数十人控えていると思うと背筋が寒くなる思いだ。
「実は先日取引をした相手にブツを持ち逃げされましてね」
 キセルをふかしながら依頼人の男は呟いた。ブツが一体何なのか気になるところではあるが、それを聞いてしまったら自分の身が危険な予感がしてあえて聞かないことにする受付嬢。
「しかも困ったことにそれを利用してとある街で悪事を働いているようなのですよ」
 やれやれと言わんばかりに首を横に振る男。
「悪事、ですか? それはどのような・・・・?」
 受付嬢が尋ねると男は目を細めてにやりと笑みを浮かべた。
「人斬り、ですよ」
 簡単に悪事、というからにはそんなに大事ではないのだろうと思っていた受付嬢はその言葉の意味を一瞬理解できなかった。
「人・・・・ってただの殺人鬼じゃないですかっ!? 何でそんなものを取引に使ったのですか!」
「私が提供するのはあくまで物品です。それをどう使うかまでは責任なんて持ちませんよ?」
「そんなっ・・・・」
 口を手で押さえながら怒りでふるふると肩を震わせる受付嬢に冷たい視線をくれた男の合図で後ろの二人はすっとギルドの外へと姿を消す。
「たとえば冒険者だという男に武器を渡したとしても、その男の趣味が人斬りであったなら同じことでしょう。取引した後のことなんて我々商人には追えませんから]
 ぷかりとキセルをふかしてしれっと言い放つ男に、いつの間にか戻ってきていた後ろの二人が小さな筒状のものを手渡す。それを受け取ると男とはそのまま受付嬢の方へと差し出した。
「その辺りを解決してくれるのも冒険者の役割でしょう?」
 にやりと笑う男の姿は死の商人という言葉を連想させるには充分であった。

●今回の参加者

 eb6993 サイーラ・イズ・ラハル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1877 ナスリー・ムハンナド(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4309 狩野 幽路(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アナマリア・パッドラック(ec4728

●リプレイ本文

●情報収集。
 キエフの郊外にある古びた、しかし荘厳な雰囲気のある館。
 その館の中にサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)はいた。無論今回の冒険者たちの目的は村で暴れる人斬りの退治と盗品の奪還であることはわかっていたが、これを機に裏社会に食い込もうと考えていたサイーラにとって依頼主から情報を聞き出すことは願ってもないチャンスだった。ギルドからの紹介という形で依頼主に単独で会いに来たサイーラは、彼らが根城にしているこの館へと案内されていた。
「随分と年季の入った館に住んでるのね」
 部屋の中を見回しながらサイーラは目の前にいる男に話しかけた。
「ここは昔とある有名な商人が住んでいた場所でね。古びてしまってはいるが拠点とするにはいい場所なのですよ」
 にっこりと微笑を浮かべながら男は言った。年の頃は二十代半ばといったところか、想像以上に若い男の姿に驚きながらも、サイーラは男の腹を探っていた。
「それで、サイーラさん、と言いましたっけ。私にどのようなご用件でしょう?」
「そうね・・・・まずは盗品の情報が欲しいわ」
 常に笑みを崩さない男の表情からその真意を推し量ることはできそうにないと判断したサイーラは直球で聞いてみることにした。
「ふむ・・・・実は私もアレに関してはよく知らないのです。ただ何かの封印が施されていたということだけはわかっているのですが」
 考えるような仕草をした男は少し困ったように告げた。どのような経路で手に入れたのかまではわからなかったものの、問題の品は剣であること、封印が施されていたこと、武器収集を名乗る男に売る予定だったがその相手が交渉人を切り捨てて逃げたことがわかった。
「つまりはその盗品を回収してくればよいのよね?」
 事前にある程度わかっていたものの確認の意味を込めて問うサイーラに、男は満足そうに頷いた。
「問題はその相手なんだけれど・・・・」
 サイーラが言い終わる前に男は言葉を手で遮る。
「相手は元冒険者で騎士、特徴はその右目に大きな傷があること。さらに言ってしまえば品物さえ返ってくれば後はどうでも構いません」
「生死は問わない、と?」
 男の顔に今までとは明らかに異質な笑みが浮かぶ。それを肯定ととったサイーラもまた、冒険者とは思えない程の邪悪な笑みを浮かべていた。

 一方先に村へと辿り着いていた残りの冒険者は村の中で情報を集めていた。
 今回凶行に及んでいる相手が元冒険者だけに、村の人たちの警戒はかなりのものだった。村人からすれば冒険者だろうが元冒険者だろうが一度牙を剥けば恐ろしい存在に違いはない。冒険者一行はひとまずバラバラに別れて情報を集めることにした。幸い中には冒険者を良く知る者がいたおかげで話は聞き出すことはできた。
 村の人の話では問題の相手は鎧を纏った男であること、宵闇に紛れて笑いながら人を斬り続けていること、そして右目に大きな傷跡があることがわかった。
 しばらくしてサイーラが村に辿り着いたのをきっかけに、一行はお互いが手に入れた情報を交換する。
「狂気に駆られて人斬りですか。美しくないですね。 早々に片付けることにしましょう。ぐずぐずしていると、犠牲者が増えてしまいますからね」
 そう言って相手への怒りを顕わにするのは狩野幽路(ec4309)。彼の出身であるジャパンの中には精神を蝕む妖刀の類もあるため、その恐ろしさを十分に熟知していた。
「尤も、話が通じるような相手ではないだろうが、な」
 苦笑を浮かべながらナスリー・ムハンナド(ec1877)は呟いた。できることなら穏便に済ませるに越したことはないのだが、彼の中ではそれが不可能なことだと感じていた。
「聞いてる限りでは無差別でしょうしね。目的が快楽だとすれば・・・・少々厄介ですが」
 腕を組みながら考えるのはフォン・イエツェラー(eb7693)。同じ騎士と言う身分でありながら人斬りに興じる相手に油断は禁物と考えるフォン。
「どっちにしろ相手が動き出す夜が勝負ね」
 サイーラの言葉に一同は静かに頷いた。

●接触。
 冒険者たちが辿り着いた日の夜。月明かりが村を覆い隠す闇を柔らかく照らし出す。このところの騒ぎのせいか夜の村は人影はなく、虫の声と時折響く梟の泣き声が一層辺りの不気味さを象徴していた。
 ひっそりとした村の中をぶらぶらと歩く一つの影―――幽路である。夜の村を徘徊するという相手と手っ取り早く接触するために、幽路は自らを囮として誘き寄せる作戦に出たのだ。もちろん普通ならこんな罠にかかる可能性は低いわけなのだが。
「けはははは! 随分と度胸のある奴だなぁ?」
 歩く幽路の後ろから静けさを破る甲高い声が響き渡る。幽路がゆっくりと振り向くと、そこには狂気の笑みを浮かべた一人の男が月明かりに照らし出されていた。その右目には話通りの傷跡、そして男の右手には黒い光を纏った剣が一本、無造作にぶら下がっていた。
「ん〜? 見かけない顔だなぁ?」
 幽路の顔を確認したその男は訝しげに首を傾げた。
「お前か、商品を盗み出したあげく人斬りまでやってる阿呆な奴は」
 そう言いながら男の後ろからすっと姿を現すナスリーとフォン。それにぴくりと反応した男はそのままエビ反りの体勢になって逆さまに二人の姿を見た。
「今のうちなら商品を返すか金を支払えばまだ許してもらえるかもしれんぞ? 可能性は薄いが」
 無駄とはわかっていながらも説得を試みるナスリーだったが、男はにやにやと薄気味悪い笑みを浮かべたまま舌をぺろっと出す。
「話なんか通じていませんね」
 苦笑を浮かべるフォンにナスリーはやれやれと肩をすくめる。
「けはははは! どうせわかってたんだろ?」
 明らかに不気味な姿勢のまま笑い声を上げる男に、幽路はスラリと腰の太刀を抜き放つ。刀身が若草に萌ゆる彼の太刀は月明かりに照らされて淡い光を放っていた。
「既に人の心はないようですね。では遠慮なく・・・・斬らせていただきます!」
 掛け声と共に幽路は大きく地を蹴り上げて男との間合いを一気に詰める。同時にナスリーとフォンも各々の武器を抜き放つ。幽路の太刀筋がエビ反りになった男の腹を薙ぐと思われた瞬間、器用にも男はそのまま地面に倒れ込んで太刀をかわすと足を上げた反動で幽路に蹴りを見舞う。その隙にナスリーとフォンが倒れこんだ男の上から武器を振り下ろすが、男が手にした黒い刀身がそれを弾き飛ばす。
 一瞬にして辺りを静寂が包み込む。倒れた男を中心に若干距離を置く三人。傍目から見れば変な図式ではあるが、男の実力はかなりのものであることは十分にわかる。警戒して動かない冒険者一行を確認した男はゆらりと起き上がる。
「フォン・・・・例の奴を頼む」
 ボソリと呟くナスリーにフォンはこくりと頷くと、手にした両刃の剣を地面と垂直に構えなおす。
「では・・・・一瞬だけ隙をお願いしますねっ!」
 フォンの声と同時に三人は一斉に動き出した。
 男に攻撃を仕掛けたのはナスリーと幽路。対極に位置していた二人は両側からの同時攻撃を試みる。男は身を一歩横にずらして両側の刃を剣の腹で受け止め、且つ弾き返す。男はそのまま体制の崩れたナスリーに刃を振るおうとその手に力を込めた―――が。
「・・・・・・・・!?」
 一瞬にしてその腕が硬直する。驚いた男が自分の腕に視線を向けると、そこには幾重にも重なった蔦が地面から男の腕を絡み取っていた。
「今よっ!」
 上空から叫んだのはサイーラ。彼女は一行が戦っている間に屋根の上へと移動して隙を窺っていたのだ。そして静かに詠唱を終えた彼女がここ一番で発動させた魔法、それが男が見た蔦―――正確にはその幻影である。
 男が声のした方に目を移した時には既にフォンが眼前にせまっていた。あくまで絡まっている幻影を見ている男は舌打ちしながらも何とか武器をフォンと自分の身体の間に滑り込ませた。
「ちょうどそれを待ってました!」
 叫んだフォンの手に武器はなく、固く握り締められた拳がそこにあった。そしてその拳はそのまま男の右手、つまり武器を握っている部分に命中する。
「があぁっ・・・・」
 男はうめき声を上げて思わず手の力を緩める。乾いた音と共に黒い刃が地面へと沈んだ。慌てて武器を拾おうとする男だったが、何故かその手は武器から離れた方向へと向かってしまう。
「・・・・・・!?」
 訳がわからず混乱する男。それはサイーラのコンフージョンが見事に成功した証でもあった。当然その隙を現役の冒険者が見逃すわけはない。
「もらったぁっ!」
「終わりです!」
「斬!」
 ナスリー、フォン、幽路がそれぞれに手にした武器で男を薙ぎ払う。
 三方向からの攻撃に男は為す術もなく吹き飛ばされ、地面と熱い抱擁をかわすこととなった。

●解決。
 先程までの喧騒が嘘のように静まり返る村。
 冒険者一行は完全に沈黙した男にぐるぐると縄をかけると、問題の商品である剣へと視線を移した。念のためにオーラエリベイションで感覚を研ぎ澄ませたナスリーは、ゆっくりとその黒い剣を持ち上げた。
「ふむ? これは中々。…手近なもので試し斬りをしたくなるな・・・・冗談だ、怒るな」
 ナスリーのあまりに場違いな冗談に苦笑を浮かべた幽路は、その刀身にそっと鞘を滑らせる。
「これで依頼完了、ですかね」
「ですね」
 幽路の言葉にフォンも頷く。
「一応生死問わず、と依頼人も言ってたけれど・・・・」
 縛られた男を見ながらサイーラは呟く。屋根の上から見ていたサイーラは、三人の一撃が命中した瞬間確実に死んだと思っていた。が、どうやら三人が三人とも刃を立てずに剣の腹や峰打ちであったために男は気絶ですんでいたのだ。やはりどんなに狂ってしまっても人間は人間、冒険者としては殺すことには些か抵抗があったようだ。
「まぁ後は依頼人が煮るなり焼くなり好きにするだろ」
 欠伸をしながら面倒臭そうに言うナスリー。
 その言葉にサイーラは昼間に会った依頼主の姿を思い浮かべた。
「むしろその方が辛い目に遭うかもしれないわね」
 こうして村を襲った一連の事件はひとまずの解決を見たのである。

Fin〜