【レミエラ症候群】ガラス職人を護れ!西部
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:鳴神焔
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 1 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月06日〜06月12日
リプレイ公開日:2008年06月15日
|
●オープニング
●夢の欠片『レミエラ』
透明度の高い、クリスタルのようなガラス。それ自体が宝石のような品であるが、それが魔物に抗することのできる魔法の品となれば‥‥まさに人々の夢そのもの。
しかも、素体となるレミエラは庶民でも手の出る金額で販売され、庶民でも入手可能な何らかの品と、庶民でも手の出せる金額で合成すれば──‥‥
ある時は鋤や鍬を軽くさせることができる魔法の品になり、
ある時は野生動物のような鋭い感覚を身につけることができる魔法の品となり、
ある時は冒険者のような素晴らしい剣技を習得することができる魔法の品となり、
またあるときはデビルやオーガに抗する素晴らしい力を得ることができる魔法の品となる。
その金額と利便性故に急速にレミエラが普及しつつある昨今、その品で直に命が左右される冒険者が新たなるレミエラの開発に没頭するのも当然の話であるが──各地の大公や領主、貴族らもまた先を争いレミエラの開発に着手しているのもまた当然の話。
だが、何らかの魔的な力が作用しているようで、レミエラは5つまでしか装備することができない。使用時に胸の前に浮かぶ光点にかかわりがあるという噂もあるが、真偽の程は未だ定かではない。解っていることは──数が限られている以上、少しでも有利なレミエラを開発した方が有利だという厳然たる事実。特に互いに様子を探り陰謀を廻らせ合い、隙あらば足元を掬おうとしている各大公や野心あふれる貴族らにとっては死活問題と言っても過言ではないようである。
──夢の欠片『レミエラ』を真の『夢の結晶』たらしめんために、多くの者が日夜汗を流していた。
●ガラスの街ペンデュラス
キエフから西へ一日半。街道を抜けたその先に、さほど高くはないが城壁に囲まれたとある大きな街がある。
大きな、といっても周辺の村と比べてというだけでキエフとは比べものにならないほど小さな街だが。
その街―――名をペンデュラスという―――は古くよりガラス産業を中心に発展しており、その名はキエフでもそこそこ有名であった。特に街に教会ができはじめたことによりガラスの需要は一気に高まり、ペンデュラスのガラスはその質の高さから高値で売買されるようになっていた。
さらにそこで現れたレミエラの存在。貴族やエチゴヤなどがその素材であるガラスを一気に買い占めていくために、ガラスの値段は瞬く間に上昇していった。しかし―――
金の生まれる場所には必ず危険が付きまとう。
ガラスの街ペンデュラスにも今、未曾有の恐怖の足音がひそやかに近付きつつあった。
「レミエラってのは随分高値で取引されるらしいな」
低くしゃがれた声が森の中でひっそりと響き渡る。黒いローブに身を包んだ男と赤いローブに身を包んだ男が手の中にある小さなガラス、レミエラを弄んでいる。
「冒険者どもがせっせと集めてるらしいぜ?」
「それだけじゃねぇ、森の中で息を潜めてるアノ人も喉から手が出るほど欲しがってるって話だ」
言い合いながらくつくつと不気味な笑い声をたてる男二人。
「こいつの原材料はガラスなんだってな」
黒ローブの男が手の中のレミエラを太陽に透かしてみる。光を受けたレミエラはキラキラと変則的な光を男たちに浴びせる。
「ガラス職人を攫ってくればガラスは作りたい放題・・・・アノ人には良い土産になるな」
赤ローブの男はレミエラを握り締めてにやりと笑みを浮かべた。
「それどころか俺たちは英雄扱いだぜ」
「だよな!」
二人は再び気味の悪い笑い声を響かせる。
短絡的な考えだとは思う。しかしガラスが今重要な素材であることは間違いないことだ。
「では狙いは決まりだな・・・・ガラスの街ペンデュラス」
黒ローブの男が一枚の紙を取り出す。どうやらペンデュラスの地図のようだ。
「街の中央にガラス工房があったな」
「あぁ・・・・キエフ周辺じゃ名の知れた職人が数人働いてたはずだ」
赤ローブの男が地図の中心部分に指を置いてそのまますっとスライドさせた。
「俺たち『赤の竜』は東から」
黒ローブの男も同じようにして対照的な動きをとる。
「俺たち『黒の虎』が西から」
お互いの意思を確認した男たちはゆっくりと頷き合うとそれぞれが別方向へと姿を消していった。
●冒険者ギルドinキエフ
「大変な問題が起きました」
ギルドの受付嬢はそう言って大きく溜息をついた。
「皆さんはガラスの街ペンデュラスというところをご存知ですか?」
受付嬢の言葉に冒険者たちの反応はそれぞれだった。もちろん知っているものも多くはいたが、ガラス製品にゆかりのない者には馴染みの浅い街。知らないものももちろんいた。
「そのペンデュラスにある最大のガラス工房に脅迫状が届きました」
受付嬢は手元にある一枚の紙切れを冒険者の方に向かって見せた。
七日後、そちらのガラス職人をいただきにあがる。大人しく差し出せばよし。
もし抵抗する場合は―――街に死体が転がるだろう。
黒の虎より
汚い字で殴り書きされた文字が綴った内容はとても穏やかなものではなかった。冒険者たちもごくりと息を飲む。
「しかし・・・・なぜ犯行予告文なんかを?」
冒険者の一人の疑問に受付嬢は首を横に振った。
「それはわかりません。何かを企んでいることは確かでしょうけど・・・・」
「とにかくだ。俺たちは街とガラス職人を護ればいいんだな?」
「はい、宜しくお願いします」
そう言って受付嬢は深々と頭を下げた。
●リプレイ本文
●襲撃前日。
依頼を受けた冒険者たちはペンデュラスに着くや否や街の中央にあるガラス工房に向かっていた。
今回護らなければならないのはガラス職人十数人全て。しかも敵は盗賊団二つという非常に厳しいものである。元々は東と西の二部隊に別れて防衛する予定だったのだが。
「結局集まったのは我らだけか」
厳しい表情を浮かべて呟くのはヴィクトル・アルビレオ(ea6738)。今回参加した冒険者の中で最も経験が長い。その分この状況の厳しさが痛いほど理解できた。
「ん〜‥‥やっぱり詳しいことはわからないわね」
シャリン・シャラン(eb3232)はフォーノリッヂで予知をしてみるものの、望むような結果は得られず大きな溜息をついた。
「おい、兄ちゃんたち」
ふと声を上げたのは冒険者たちに言われて一つの部屋に集められた職人の一人だ。
「ただ単に隠れてるんじゃ職人の名折れだ。俺たちにも何かさせてくれ」
突然の申し出に冒険者一同は困惑した。
確かに人手は全く足りてないといっていい。だからといって敵の前に職人の姿を出せば攫ってくれと言っているようなものだ。
「ふむ‥‥では罠の設置を手伝ってもらってはどうでしょう」
そう提案したのはウォルター・ガーラント(ec1051)。彼は圧倒的な人数不足を埋めるために自らの得意とする工作で敵の足止めを考えていた。今回のような範囲の広い防衛で罠を仕掛けるのはそれだけで大きな労力が必要になる。元々手伝ってもらうつもりだったウォルターにとって願ってもないことだった。
「問題ない。全力で手伝わせていただく」
男らしい笑いを浮かべた職人は自分の右腕をパシッっと叩いた。
と、そこへ一人の男が駆け込んでくる。
「私設軍隊四十名、全て揃いました」
男の言葉に頷いたのはキース・レイヴン(ea9633)。
「この街の中で防衛しやすい拠点を数箇所あげてもらいたい。できれば広い場所がいい‥‥街の人が避難できるような場所が」
キースの問いかけにしばし考える男と職人たち。
「一番なのはこの工房なんじゃねぇか‥‥?」
しばしの沈黙の後で呟いたのは職人の一人。
その言葉に一同は顔を見合わせた。
確かに街で最大とも言えるほど大きなガラス工房には出入り口も少なく窓も高い位置に設置されている。
「しかしここは敵が真っ先に狙ってくる場所であろう。ここは職人の方々にいてもらうため余り人数は収容できない」
ヴィクトルの言葉で一同はまたも頭を悩ませる。
「教会なんかはどうかなぁ? ほら、工房からは少し離れてるし」
シャランの言葉に一同の視線が窓の外に集中する。
「工房と教会とで分ければいけそうですね」
「では決まりだな」
ウォルターの同意とヴィクトルの声にそれぞれが力強く頷き、一同は行動を開始する。
―――こうしてペンデュラスの長い二日間が始まった。
●黒の虎襲撃。
襲撃予告日当日。
冒険者たちは西の門からガラス工房までの道に細かく罠を仕掛け、街の人々を教会に入れるだけ避難させる。私設軍隊の人々には今回一部を除いて東門のほうに回ってもらった。あちらからも襲撃予告が来ているのだ。自分たちの役割ではないとはいえ目的が同じである以上放っておくわけにもいかない。正直に言えばこれだけでもかなりの戦力が削られたのだが。
「この人数でどの程度がんばれるかですが‥‥まあやるしか無いでしょう。」
苦笑しながら呟いたウォルターは、一人街の入り口付近にある建物の屋根の上に腰を下ろしていた。門の前には自分がペットとして飼っているゴーレムが静かに佇んでいる。
流れるように過ぎ去る時間の流れを楽しむかのように目を閉じていたウォルターは、その瞳をゆっくりと開いた。視線の先には土煙を上げながら向かってくる黒い集団。
ゴーレムの腕がゆっくりと振り上げられたその時―――
ゴォォォォォォン!!
大地を揺るがす轟音が街中に鳴り響いた。
「来たな」
短く呟いたキースの言葉が工房の前にいた男たちの緊張を一気に高めた。
編成的に前衛が少ないと感じた冒険者たちは、私設軍隊の中から五名ほど前衛を借りて補填していた。どうやら入り口で陣取っていたウォルターの足止めと皆で仕掛けた罠が功を奏しているようで、悲鳴や何かが壊れるような音が次々と聞こえてくる。
と、八つの人影が通りの向こうからこちらに向かってくるのが確認できた。
「いたぞ! あそこだ!」
黒いローブに身を包んだ男たちがこちらを見るや叫びながら刀を振りかざして向かってくる。
大きく跳躍しながら振り下ろした男二人の刀はその入り口付近で見えない壁に阻まれてはじき返された。
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべる男たちににやりと笑いかけるヴィクトル。その身体には淡い漆黒が纏わりついていた。
「まったく‥‥お前たちには無法なことをすれば痛い目にあうということを思い知ってもらわねばな!」
叫ぶと同時にヴィクトルの両の手から放たれる黒い光。
光は二人の男に吸い込まれるように突き刺さるとそのまま男の意識を刈り取っていく。
一方キースの方に切りかかっていた男二人はその攻撃が彼女に命中したことにほくそえんでいた。
「へへへ! 俺たちの邪魔をするからこう‥‥ぐえっ!?」
安心した男が得意げに紡いだ言葉はキースのカウンターによって強制的に途切れさせられる。攻撃があたったのはフェイク、キースはわざと攻撃を受けてその隙にカウンターを狙っていたのだ。
「獲物を持っていないからと言って安心したか? 愚かな」
完全に決まったカウンターで意識を失って倒れこむ男に、キースは一瞥をくれてそう言い放った。
「く、くそっ! だいぶ数を減らされちまった‥‥赤の奴らはまだ来ねぇのか!」
リーダーと思われる男が忌々しげに怒鳴り声を上げる。
冒険者たちもそれが気がかりはあったのだが、どうやら私設軍隊が踏ん張っているようでまだ東の方から攻めてくる姿は見られない。
「えぇい、一旦体勢を立て直すぞ!」
リーダーの男が撤退を指示した瞬間―――上空から飛来する光と背後から突き刺さる矢が同時に地面に突き刺さる。
「そうはさせないんだからっ!」
「後ろはもう片付けました。後はあなたたちだけです!」
近くの家の屋根にいたシャランと門から駆けつけてきたウォルターがそれぞれ男たちに告げる。さらに私設軍のメンバーが男たちを取り囲むように立ちふさがった。
こうなったら決着は早いものであった。
私設軍のメンバーが男たちの攻撃を防いだところに後方支援という名の強力な攻撃が容赦なく男たちに襲い掛かる。さらに傷を受けたとしてもヴィクトルのメタボリズムがすぐさま発動、そしてさらに前衛組の士気があがる。
最後に残ったリーダーが冒険者たちに捕らえられたのは僅か数分後のことであった。
●決着。
西から攻め入る黒の虎の集団を何とか防ぎきった冒険者たちはすぐさま東の門へと向かった。
人数的に勝っているとはいえ私設軍の人々は一般の人々だ。確実な指揮を取れる者も存在しないため長引けばそれだけ戦闘慣れしている盗賊に軍配が上がってしまう。勿論それを含めても西が片付くまでの間よく耐えていたほうだといえるだろう。
一行が戦闘区域に入った時には既に私設軍はボロボロだった。すぐさま行動に移したのはヴィクトル。目に付くものから魔法でその傷を癒していく。
「すまない‥‥君たちのおかげであちらは片付いた」
魔法をかけながら深々と礼を言うビクトルに、兵士たちは弱弱しいながらに笑みを浮かべる。
「信じて‥‥ましたから‥‥」
盗賊たちも兵士たちに随分体力を奪われており、さらに到着した冒険者の援軍にすっかり士気をなくしていたため、冒険者たちの攻撃に呆気なく崩れ去っていく。
「これで‥‥終わりだっ!」
キースの放った拳が盗賊の最後の一人を打ちのめし、長い攻防戦はようやく幕を下ろすこととなった。
その日の夜、ガラス工房の中には街中の人たちが集まっていた。
「それじゃいいかの‥‥かんぱーい!」
町長の掛け声と共に人々が手にしたグラスを高々と掲げてそれに続く。
そう、全員が今回の襲撃に耐え切ったことを喜び、それを祝って宴が開かれることになったのだ。
勿論冒険者たちもそれに参加する。彼らにとっても今回の戦が集結したことは喜ばしいことだったからだ。
「おい、兄ちゃんたち! 今日は目一杯飲んで騒いでくれ!」
工房の職人たちが大声で笑いながらヴィクトルの肩に手をかけた。少々困惑の表情を浮かべるも、その雰囲気は嫌いではない。ヴィクトルは手の中のグラスを一気に飲み干す。
「く‥‥も、もう飲めねぇ‥‥」
樽に突っ伏すかのように倒れこむ男の隣で平然と樽を開けていくキース。
「なんだ、もう終わりか?」
後に職人たちの間で大酒豪の噂が流れたという。
大騒ぎする街の人たちに混じって相棒のフェアリーのフレアと共に踊りを披露するシャリン。その周りからは大きな歓声が巻き起こっていた。
そんな騒ぎを少し離れたところから微笑を浮かべて見つめるウォルターは、グラスをちびりちびりと開けていた。
すっかり街の人たちと打ち解けた冒険者たち。
翌朝彼らが帰るときには工房の職人たちから一人一人に美しいガラスの結晶が贈られたという。
Fin〜