【緑林へようこそ】森の守護者。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳴神焔

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月18日〜06月21日

リプレイ公開日:2008年06月26日

●オープニング

●緑林兵団出撃。
 ロシア王国の首都キエフ。
 ここにはいくつかの部隊に分かれた兵団が存在する。
 森の守護者とも言われる緑林兵団もそのうちの一つである。
 古くから森に住む種族として知られるエルフと、エルフと人間の混血であるハーフエルフを中心に編成された緑林兵団。彼らは暗黒の森といわれるロシアを覆う深い森で息を潜める蛮族たちを見張ることでロシアの平和を維持することを目的に結成された。勿論蛮族の中にはエルフの姿もあるため、基本的には争うことはせず話し合いや威嚇などで小競り合いを収束させるように心がけているのだが。
 その日緑林兵団の一隊長であるリューレルの元に一つの知らせがあった。
 曰く、とある村で一匹のモンスターが暴れているということだ。
「それぐらいなら冒険者で対処できるのではないか?」
 リューレルは報告をしにきた兵士に向かってそう言い放った。基本的に緑林兵団は余程のことがない限りモンスター退治には関与しない。なぜならそれは冒険者たちの、または鋼鉄の槌と呼ばれる力自慢の荒くれ兵団の役割だと考えているからだ。
「はっ‥‥それがそのモンスターを暴れさせているのがどうやら一人のエルフであるようで‥‥」
 跪いたままの姿勢で兵士は告げる。
「そのエルフが蛮族だ、と?」
「その可能性が高いかと‥‥」
 兵士の言葉にしばし腕を組んで考え込むリューレル。
 このまま放っておいてもモンスターは冒険者などの手によって退治されるだろう。しかしそれではエルフが何故そんなことをしたのかはわからないままになってしまう。蛮族と呼ばれるエルフたちにとって人間やハーフエルフというのはあまり好ましい印象を与えるものではないのだ。そのエルフと話し合うのは同じ種族のエルフのほうがやりやすい。もちろん冒険者にもエルフはいるが―――
「村の人々の避難は済んでいるのか?」
 モンスターが暴れているとなるとその村の人にも被害者が出ている可能性が高い。そうなれば余り悠長なことも言ってられない。
「それが‥‥村の少女がモンスターの攻撃を防いでいるそうで‥‥」
「何?」
 兵士の報告にリューレルは目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
 確かに冒険者の中には低年齢の者も存在するため、才能のある子供たちもいるにはいるが、そんな辺鄙な村にそういるものでもないのだ。しかも冒険者でもない者となればなおさらだ。
「それが事実ならば‥‥ふむ。調べる価値はあるようだな」
 リューレルは口元に微笑を浮かべると兵士に対して出撃の命令を下した。

●守護の少女。
「くぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 聞くものの耳を劈くような奇声を発しながら一匹の巨大な猿が目の前にあった大きな木に腕を振り下ろす。
 轟音と共に木の幹が砕け、淡い緑を纏った木が地面へとゆっくりと倒れる。倒れ行く木の陰から一つの小さな影が猿に向かって躍り出た。その尖った耳と流れる長い髪からどうやらエルフの少女のようだ。
 その両手に杖を構えた小さな少女は既に唱え終わっている魔法を猿に向かって放つ。
「ブラックホーリー!」
 淡く黒い光に包まれた少女の手からさらに漆黒の光が打ち出されて猿へと伸びていき、その大きな体躯に吸い込まれるように命中する。
「ぐおあぁぁぁぁぁぁっ!」
 多少のダメイジはあるのだろう、猿は一瞬苦悶の表情を浮かべる。
 しかしそれも束の間、すぐさま少女に向かってその太い腕を振り下ろす。腕は少女の髪を一瞬掠めるものの虚しく宙を切った。そのまま猿と距離をとる少女。ダメージこそ受けていないもののその顔には拾うがありありと浮かんでいた。
「冒険者の人が来てくれればきっと‥‥頼んだわよサフィニア」
 息を荒げながら少女は遠くにいる友達に祈るように呟いた。

●冒険者ギルドinキエフ
「あら‥‥サフィニアちゃん、だったかしら?」
 息を荒げてギルドの扉を勢いよく開いた少女の姿にギルドの受付嬢は懐かしいといった表情でそう言った。懐かしいといっても、前回少女がギルドに訪れてまだ一月も経っていないのだが。
「お‥‥お姉ちゃん‥‥助け‥‥冒険‥‥お願い‥‥」
 余程急いで走ってきたのだろう、息が切れて断片的にしか言葉が聞こえない。受付嬢は苦笑しながら少女サフィニアにコップ一杯の水を差し出した。サフィニアは水を奪い取るように受け取ると一気に飲み干した。
(何だかこの子にはいつも水を出してるような気がするわ)
 そんなことを思いながら空のコップを受け取った受付嬢は改めてサフィニアを椅子に座らせた。
「それで? 今度は何をすればよいのかしら?」
 受付嬢はいつもの笑顔で尋ねる。
「フラミーおねえちゃんを助けて欲しいの! このままじゃお姉ちゃんがやられちゃう‥‥冒険者のお兄ちゃんお姉ちゃんに助けて欲しいの!」
 

●今回の参加者

 ea9524 ジェラルディン・テイラー(21歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4040 ユリア・ヴォアフルーラ(35歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec4270 シリウス・ディスパーダ(27歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ec4728 アナマリア・パッドラック(26歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)/ フィン・レリクトア(ec4967

●リプレイ本文

●間一髪。
 森の中を疾走する一つの影。
 どう見ても小さな影は森の中を縫うようにして移動していた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥さすがにまずいわね‥‥」
 息を切らしながら呟いた影―――フラミーは木の陰を隠れ蓑にしながらちらりと後ろを振り返る。小さな少女を追ってくるのは一匹の大猿。どこからか村に舞い込んできたその猿はフラミーの住む村を破壊し始めた。何が目的なのかはわからないもののそれを黙ってみているわけにもいかず、知り合いにいざと言うときのために教わっていた魔法を駆使してどうにか猿をこの森までおびき出したのだ。しかし少女の扱う魔法では到底猿を退治するまでにはいかず、現状逃げながら時間を稼ぐこととなった。
 
 どれくらいの時間逃げ続けていただろうか。フラミーの体力は既に限界に近付いていた。
 当然のことだがいくら魔法を扱えるとはいえフラミーは一般の、しかもまだ子供である。一匹とはいえモンスターの攻撃を一人で凌いで逃げているだけでも上出来といえる。しかしそれも既に終わりのときを告げようとしていた。
「きゃあっ!!」
 猿の放った一撃がついにフラミーの身体を捕らえ、彼女は大きな木にその身を打ちつけた。
 ぐったりとなった少女はうめき声をあげながらも何とかその身を起こそうと必死にもがく。しかしそれを猿が放っておくはずもなく、少女の傍へと近付きその巨大な拳を振りおろそうとしたその時―――
「させませんっ!!」
 掛け声一閃、黒い光が腕を直撃し猿はその身を後退させ光が放たれた方向にギラついた目を向ける。その視線の先にいたのは箒に跨ったアナマリア・パッドラック(ec4728)が淡い黒の光を纏いながら猿を見据えていた。
「あ‥‥あなたは‥‥」
「大丈夫か。よく一人で頑張ったな」
 不意に別の声が聞こえてフラミーはそちらに顔を向けた。
 視線の先にはユリア・ヴォアフルーラ(ec4040)が柔らかな笑みを浮かべながら立っていた。
「どうやら間一髪で間に合ったようだな」
 ユリアは目を細めて猿を睨みつけると、スラリと腰の剣を抜き放つ。
 二人は他の仲間よりも早い移動手段を持っていたため、フラミーを救うために一足先にこの森へと来ていたのだ。ある程度の場所は聞いていたものの動き回るフラミーを見つけられずにいたのだが、彼女の悲鳴が二人を案内してくれた。
「もうすぐ仲間が駆けつける。それまで何としてでも持ちこたえるぞ!」
 ユリアの言葉にフラミーは弱々しいながら笑みを浮かべてしっかりと頷いた。
 猿はしばらくアナマリアとフラミーを交互に見ていたが、腕への一撃の借りを返さんとばかりに低い唸り声と共にアナマリア目掛けて大きく地を蹴って跳躍する。
 アナマリアはそれをホーリーフィールドで防ぐものの衝撃で身体が若干持っていかれる。
「くっ‥‥さすがにこの衝撃はキツイですわね」
「アナマリア! フラミー殿をっ!」
 叫んだユリアは猿の後方から手にした剣で切りかかる。太刀筋は銀閃を描くも宙を斬り猿は、ユリアたちから少し距離をとった場所に着地する。その隙にアナマリアがフラミーの傍へと駆け寄った。
「さすがに私たち二人では難しいですね‥‥」
 苦笑を浮かべるアナマリア。
 猿もまた突然現れた冒険者二人に戸惑っていた。どうやら自分の攻撃が防がれることは本能で理解したようで慎重に間合いをとっているようだ。
 緊迫した空気が辺りを支配し、両者の間を一時の静寂が通り過ぎていく。
 まさに一触即発のその空気を破ったのは両者どちらでもなかった。

●勢揃い。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
 突如辺りに気合を込めた声が響き渡り、猿のいる場所目掛けて何かが突進してくる。猿はその突進を跳躍してかわすと近くの木の上へとその身を預けた。
 突進してきたのは馬に乗った百瀬勝也(ec4175)。その後ろから続いて他の仲間が続々と姿を現す。
「やっと追いついたわ。大丈夫? 怪我とかしてない?」
 深刻な顔で声をかけてきたのはジェラルディン・テイラー(ea9524)。まだひどい疲れに襲われながらもしっかりと頷くフラミーの様子に安心したのか、ジェニーは気持ちのいい笑顔を浮かべながらフラミーに向かって親指をぐっと立てる。
「さて‥‥あれが問題の猿か」
 指をパキパキと鳴らしながら今だ木の上から睨みつける猿に視線を向けたのは陽小明(ec3096)。彼女の後ろには今回の依頼人であるサフィニアの姿もあった。
「フラミーお姉ちゃん!」
 フラミーは叫びながら傍に駆け寄ってきたサフィニアの頭をそっと撫でる。
 その様子を無言で見ているのはシリウス・ディスパーダ(ec4270)。彼は以前の依頼でサフィニアに余り良い感情を持っていなかった。だが仲間たちからその活躍を聞き、今こうして友人を救おうと必死になる姿を見て少し考えを改めなければと考えているようだ。
「これで全員揃いましたね」
 アナマリアの言葉で全員が猿の方へと視線を向けた。
 血走った眼で冒険者たちを見下ろす猿。
「私が何とか猿の動きを止める。そのための時間を少しの間稼いでもらいたい」
 ユリアの提案に一同は頷くと、小明と勝也、それにシリウスが猿の方へと前進する。
 それを見た猿は大きく咆哮すると木の上から一気に三人目掛けて跳躍し、そのまま拳を放つ。轟音が響き土煙が舞い地面が僅かに揺れる。三人はそれぞれにその一撃をかわし猿に向かってそれぞれの獲物を振るう。猿は再び宙に飛び上がって三人の攻撃をかわすと、小明に狙いをつけて拳を振り下ろす。それを素早いステップでかわした小明はそのまま猿の腹目掛けて手にした爪を突き出した。猿は一瞬苦悶の表情を浮かべたものの、そのまま小明の腕を掴んで強引に投げ飛ばす。
「御免!」
 背後に回りこんでいた勝也が隙の出来た猿の背中を愛刀・花霞で切りつける。
 僅かに鮮血が舞うものの、猿はお構いなしに振り向きざまに勝也に拳を放った。直撃こそしなかったものの、その力で吹き飛ばされる勝也。さらにシリウスが斬撃を放つものの同じように拳で吹き飛ばされてしまう。
 投げ飛ばされた小明が何とかその身を起こすと、猿がこちらに向かって拳を振り上げるのが見えた。
(間に合わないっ!)
 そう判断した小明は両手で顔をガードするように構える。猿が拳を振り下ろそうとしたとき、その視界の前に大きな影が覆いかぶさる。ジェニーが毛布を矢の先端に引っ掛けて猿の前に放ったのだ。
「これでも目くらましぐらいにはなるわっ!」
 猿は突然現れた毛布に一瞬怯んで払うために腕を振るう。それは小明が間合いを取り直すには十分すぎるほどの時間だった。
 猿はさらに目を血走らせて毛布を飛ばしたジェニーに目を向ける。しかしその後ろから黒い光が飛来して猿の頭部を直撃。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 震えるような咆哮を上げて猿が背後を振り返ると、右手を翳したアナマリアが猿を見据えていた。
「忘れちゃ‥‥ダメですよ?」
 次々に襲い掛かる冒険者たちの攻撃に、猿の怒りは既に頂点に達していた。そのことが猿に一つのことを忘れさせていた―――そう、ユリアの存在を。
 猿が跳躍のためにその身を地に僅かに沈めた瞬間―――その動きがピタリと止まった。
「よし‥‥今だ皆!」
 コアギュレイトの詠唱を終え、見事に猿の動きを封じたユリアの掛け声で冒険者たちは一斉に動いた。猿の巨体に小明・勝也・シリウスの斬撃が走り、ジェニーの射撃が降りそそぎ、アナマリアの光が直撃。鈍い音を立てながらついに猿はその巨体を地面へと沈めることとなった。

●緑林兵団。
 猿が完全に沈黙したのを確認した後、一行は辺りの探索を行うことにした。特に以前よりサフィニアの周囲に付き纏う黒い聖女の存在を気に掛けていた小明・ユリア・アナマリアの三人は、今回もその可能性を考えてより注意深く探索をしていたが、今回それらしき姿は見かけられなかった。
「どうやら他には何もないようだが‥‥」
 シリウスが他の者の存在を否定しようとしたその時、森の奥からいくつかの人影が姿を現した。
 一行に緊張が走りその影に対して戦闘態勢をとる。
「おや‥‥こちらももう終わっていたか」
 余り緊張感のない声と共に影が木々の隙間から漏れる光に照らされていく。
 動きやすい皮鎧と緑を基調とした服装に身を包んだ数人の男と、それらに捕らわれている一人の男。全員の耳が鋭く尖っていることからどうやら全員エルフのようだ。
「あなた方は‥‥」
 サフィニアに支えられながら問いかけるフラミーに、男の一人がにこやかに微笑んだ。
「失礼、私たちは公国に仕える緑林兵団の第一部隊の者。そして私は第一部隊隊長のリューレルという。宜しく頼む」
 リューレルと名乗った男はそう言うと恭しく一礼する。
「我々のところにもこの村の情報が入っていてね。どうも面倒なエルフが裏で騒ぎを起こしてるというので調べにきていたのだが」
 リューレルはそこで縛っているエルフの男に一瞬視線を向ける。縛られている男は忌々しそうな顔を浮かべるとそのまま俯いた。
「猿のほうは退治してくれたようで。重ね重ね感謝する」
「いえ‥‥冒険者として当然のことをしたまでです」
 礼を述べるリューレルに丁寧な言葉遣いで答えるシリウス。
「しかし‥‥一体なぜこのようなことを‥‥?」
 ユリアの疑問にリューレルは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「どうも最近蛮族の中で奇妙な信仰が流行っているらしい」
「奇妙な信仰‥‥?」
 首を傾げながら問い返すアナマリアにリューレルは嘆息して頷いた。
「何でも聖女様信仰とかどうとか‥‥」
 リューレルの言葉に顔を見合わせる一行。そう、今回の依頼に名乗りを上げた冒険者の中には聖女という言葉に非常に馴染みがあるものがいる。突然現れて今回の依頼人の周りで暗躍し、冒険者たちを惑わせる女の存在―――彼女もまた聖女である。
 冒険者たちは今までサフィニアの周りで起きたことの詳細をリューレルに説明する。説明を受けた後リューレルはしばらく腕を組んで考えていたが、やがて大きな溜息をつくと冒険者たちのほうへと視線を戻した。
「事情はわかった。恐らくこの男もその聖女とやらに関わりがあるのだろう。その辺りはこちらで調べておく。もし何かあったときは冒険者の方々にも手伝ってもらうことになるかもしれん。そのときはよろしく頼む」
 リューレルの言葉に冒険者たちは真剣な面持ちで頷いた。
 これから先に冒険者ギルドに兵団から要請が来たときは、兵団だけでは対処しにくい問題だと言うこと、そして―――聖女に関わる何かである可能性が高いということ。
 その後緑林兵団はサフィニアとフラミーを連れて基地へと帰っていった。どうやら魔法の資質のある子供をスカウトしにきたのが大きな目的だったようで、フラミーとサフィニアはその対象となったらしい。
 別れ際、ユリアはサフィニアに一つのネックレスを差し出した。
「‥‥これは?」
「立派な術者になれるように‥‥私からのプレゼントだ」
 サフィニアはしばらくの間それを眺めていたが、やがて首を横に振ってそれをユリアに返した。
「それは‥‥私がもう少し誰かを護れるようになってからのお楽しみにしておきます」
 そう言うとサフィニアは満面の笑みをユリアに返した。少しの間呆気に取られていたユリアだったが、ふっと微笑むとネックレスを自分の首へと掛けなおした。
「いつか共に戦える日が来るだろうか?」
「‥‥必ず‥‥!」
 固い握手と再会を誓った冒険者たちとサフィニアはそれぞれの帰路へとついたのであった。

Fin〜