【黙示録・北の戦場】外壁封鎖網。
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■ショートシナリオ
担当:鳴神焔
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月14日〜05月19日
リプレイ公開日:2009年05月22日
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●オープニング
外壁都市フロンラタン。
キエフより一日ほど暗黒の森を分け入ったところにある中堅都市。
その名の通り街全体が城壁のような外壁で覆われた街である。
このフロンラタンでデビルが何かを企んでいるという報告が入ったのは数日前。入った目撃情報からムルキベルの配下、ダンタリアンであると予想される。
「あそこで何をするかは予測することしかできん。が、奴の仕える者が砦丸一つを動かすほどの相手だ。奴自身もあの都市で何かをするつもりなのかもしれん」
緑林兵団第一部隊隊長リューレル・ハイアットの見解はそんなところだった。
その都市には既に自分の部下が行こうとしていた。
さらには元自分の部下がデビルと共に行動している。
冒険者たちにも奴の計画を阻止する依頼を投げかけている。
「だが‥‥ここで奴を仕留め切れなければまた同じことが起こる」
呟いたリューレルの瞳にはやり切れない悲しみが見て取れる。
「同じ過ちを繰り返してはならない」
ぼそりと呟いたリューレルは手元の書類を手に取り、部屋を後にした。
「それで‥‥このフロンラタンの城壁に細工を仕掛けるのですか?」
キエフの冒険者ギルド。
このギルドの顔であり依頼の窓口である受付嬢は、リューレルの話に首を傾げた。
「でも‥‥それならこの前出していただいた時に一緒にしていれば‥‥」
受付嬢の言葉にリューレルは静かに首を振る。
「彼らには全力で計画阻止の為に動いてもらわなければならない。余計な情報はかえって行動を制限する。こちらは向こうに気付かれずにやりたいのだ」
そう言ってリューレルは一枚の羊皮紙をテーブルに広げた。どうやらフロンラタンの地図のようだ。
「フロンラタンには入り口が二箇所ある―――西門と東門だ。通常キエフから向かうとすると通るのは東門、当然敵も東門に注意を置くし、計画阻止部隊は普通に東門から入るだろう」
「まぁそうでしょうねぇ‥‥西門までは歩いても結構な時間かかりますし」
顎に人差し指をあてて言う受付嬢に、リューレルは満足そうに頷いた。
「そう、そこで東門前で敵の注意を引いている間に、別働隊が西門に向かい外壁にありったけの油をぶちまけておく。さらに外壁の一部を破壊し、侵入経路を確保しておく」
ムルキベルは砦を一つ自在に動かした。
その配下であるダンタリアンも似たようなことをする可能性がある。
そのときの為にも、またそうでなかったとしても、奴を包囲する手段として、西門突破は絶対に必要。そのための布石でもある。
「では、陽動する班と細工をする班に分かれての行動、というわけですね」
「あぁ。ただしここで戦力を減らすわけにもいかない。陽動の際は無理をせぬように‥‥では頼む」
そう言ってリューレルは受付嬢に頭を下げた。
●リプレイ本文
●敵に見つかれ。
外壁都市フロンラタン。
街中を巨大な壁がぐるりと囲っているところからその名前がついた城砦のような街。
当然この街自体が防衛に特化した一つの砦のような役割も果たしている。
そんな街中の一軒の酒場の隅っこで、明らかに異質な空気を纏った集団が顔を突き合わせて何やら話し込んでいた。
「何か動きがありましたか?」
その集団の一人、エルマ・リジア(ea9311)はぽそりと呟いた。人々が集まる酒場なら何か情報があるのではないか、そう思っての行動だったのだが、その見かけから最初入れてもらえずちょっと店の人と揉めたのは今のところ彼女だけの秘密である。
「どうやら町長さんが秘密で柄の悪い庸兵さんを雇ったみたいですけれど、何か関係があるのかもしれませんね」
マロース・フィリオネル(ec3138)もここ数日で集めた情報をひそひそと話す。二人の姿はその容姿と相まって街の中では噂になりつつあった。曰く、ここ最近酒場に頻繁に出入りする美人姉妹がいるぞ、と。
「こちらでもその話は聞いているでござる」
同じように低い声でラグナート・ダイモス(ec4117)が呟く。こちらは完全に鎧を身に纏っているため聞くまでもなく正体はわかってしまう。そして極めつけはもう一人―――
「では‥‥決行だな」
くぐもった声を放ったのは百鬼白蓮(ec4859)。その出で立ちを一言で説明するならば、忍者。もう隠しようもない程忍者。これは疑いようがない。明らかに何かを探っているとわかる。そんな統一感のない四人が酒場でこそこそ話をしていれば誰だって怪しいと思ってしまうところだ。勿論彼らには見つけてもらわなければ困るという意図もあったため、目的は完全に果たしていると言ってもいいだろう。
彼らの今回の目的は街に潜んでいるデビルの陽動。
勿論誘き出すからには自分たちが何かを企んでいます、と相手に気付いてもらわなければ意味がない。本来強力なデビル相手にはこんな手段は通用しないのだが、手強いデビルは今別の動きで動いていて残っているのは小物だけ。それならばとこういう作戦になったのだ。
「それでは‥‥明日行動ということでよろしいですね」
エルマはそう言ってくるりと三人を見回し、それぞれが思い思いに首を縦に振る。それを確認したエルマが最後に首を振り、ゆっくりと席を立った。残りの三人もそれに習って立ち上がる。
「では明日の早朝、東門の前で落ち合いましょう」
そう言い残して冒険者四人は酒場を後にした―――勿論酒場の中に明らかに彼らに意識を向けていた者がいたのをしっかりと確認して。
●穴を開けろ。
作戦決行日、早朝―――
まだ朝靄の残るフロンラタン周辺の森を一台の馬車が音静かに走っていた。
予め街中に潜んでいた東雲大牙(ea8558)が陽動班の動きを見ていたおかげで作戦の決行時間を合わせることに成功。勿論意識して見ていたわけではなく、彼らが目立つように行動していたので嫌でも見えたのだが。
「随分と硬そうな壁だね」
馬車に揺られながら街の外側を見たティアラ・フォーリスト(ea7222)は率直に感想を述べた。
「ま、そうでなくては防衛にならんからな」
馬車を慎重に操りながらマグナ・アドミラル(ea4868)がそれに応える。彼は予めフロンラタンの西門の様子を探っており、今回作戦を決行する場所の目星を既につけていた。
今回の作戦―――壁の一部粉砕と積んである油の散布。
後にダンタリアンがどういう行動に出てもいいようにと緑林兵団のリューレルが考えたものである。
「ちゃんと壊せるかな‥‥?」
「‥‥仔細無い」
不安を表に問いかけるティアラに大牙が淡々と返す。どうやら彼なりに励ましてくれているのだろう、とティアラはぎこちなく笑みを返した。
「そういや陽動の方はどうだったのだ? うまくやっていたか?」
「‥‥そちらも仔細無い‥‥寧ろ‥‥少しわかりやすすぎた感もあるぐらいだ‥‥」
何かを思い出したのだろうか、問い掛けたマグナには大牙が苦笑したようにも見えた。
「ティアラ、力仕事は向いてないので油撒きはお二人にお任せになってしまうかもなんだけど‥‥ふにゃ」
申し訳なさそうに言うティアラの頭に大牙がそっと手を乗せる。
特に言葉を発するわけでも大牙だったが、その動作は『気にするな』と言っているように思え、ティアラは表情を和らげた。
それを横目に見てマグナも口元を緩める。
「ティアラ嬢ちゃんには壁の粉砕のほうを頼んだ」
「頑張るです!」
マグナの言葉にティアラはぐっと力こぶしを握る。
頼りになるのかならないのか、その様子がどこか可笑しかったマグナは再び苦笑するが、視線を元に戻した瞬間にその笑みを消した。
「どうやら見えてきたようだ。準備はよいかな」
マグナの言葉にティアラと大牙が前方に目を向けると、木の陰の隙間からフロンラタンの灰色の無機質な壁とそれに埋もれる巨大な門が見えた。
「‥‥いよいよだね」
ティアラは杖を持つ手にぎゅっと力をいれる。
「‥‥砕拳、大牙‥‥参る」
大牙は手にした不気味な仮面を被り、ぼそりと呟いた。
フロンラタン西門―――秘密裏に行われる作戦が今、静かに幕を開けた。
●勝たないけど負けない。
西門に向かう仲間が疾走している頃、東門に集まった仲間たちもまた新たな動きを見せていた。
早朝の霧に紛れて集まった冒険者たちの前には同じように集結していた十体のインプ。
「迂闊‥‥見抜かれていたか‥‥」
白蓮が悔しそうに―――勿論演技だが―――インプたちを睨みつける。
「ケケケッ。間抜けな人間どもだ。そんな人数で何をしようというのかね」
恐らく集団のリーダーであろうインプが笑いながら言い放つ。
「敵に教えるつもりなどないでござる!」
武器を構えて叫ぶラグナート。
インプたちとのやりとりをする二人を見ながらエルマは、こんなわかりやすい格好してるのに何も疑わずにやってきてくれるおバカさんでよかった、などと思っていたのだが、それは彼女だけの秘密である。
「まぁいい、これぐらいならばダンタリアン様に報告することもないだろう。それにここで魂を増やせればダンタリアン様もお喜びになるだろう」
「私たちも負けられませんっ!」
杖を構えたマロースが気合を入れるかのように叫ぶ。
次の瞬間、インプたちが一斉に動き出した。
「させませんっ!」
その動きを封じるかのようにエルマのかざした手から吹雪が吹き荒れる。
一瞬動きの止まったインプたちだが、その威力が余り高くないことがわかるとお構いなしにエルマのほうへと突進してきた。
しかし横から飛来する幾本かの白銀の光に再びその足を止められる。放たれたのはマロースのホーリー。
さすがにそれは痛かったのだろう、インプたちはそれぞれに標的を決めて散開し始める。
ただ時間を稼ぐために戦う冒険者と当然倒しに来るインプたち。さらに冒険者たちは基本的に一箇所に固まりながら防御をラグナートと白蓮が、攻撃をエルマとマロースが、と分担していたため消耗も少ない。一方のインプたちは優勢に思えても攻めきれずしかも飛来する魔法がちくちくと身を刻むので苛立ちが募る。
その苛立ちがピークに達したのだろう、やがてインプたちの体が黒い光を放ち始めた。
してやったり―――マロースは心の中で笑みを浮かべたが、確認の為に数発のホーリーを放ってみる、がやはりインプたちにダメージは見えない。
「駄目です。エボリューションを使われました。しばらくこちらの攻撃は通じません!」
仲間に向かって叫ぶマロース。聞いた仲間にも動揺が走る―――と言っても演技だが。
そこから均衡が崩れ始め、やがて冒険者たちが徐々に追い詰められていく。
攻撃が効かないのだから当然といえば当然なのだが、より時間を稼ぐため辛抱強く徐々にやられていくように見せかけていたのだ。
退却を始めるか―――冒険者たちがそう思い始めたとき、言葉が飛んできた。
―――作業完了だよ!
脳裏に響くティアラの声、それが全ての合図となった。
●逃げるが勝ち。
西門から戻ったティアラ、マグナ、大牙の三人はテレパシーで東門の仲間とコンタクトをとり、馬車を走らせていた。
加勢して殲滅するという選択肢もあったのだが、人数が増えたことで下手に怪しまれることを考えて退却することにしたのだ。
「向こうは何と?」
行きと同じように馬車を操りながらマグナが問う。行きは静かに、というのが絶対条件だったが今は全速力だ。
「すぐ合流するからしばらく走っててって」
「そうか」
マグナとティアラのやり取りを耳にしながら大牙はふと来た方向に視線を向ける。
巨大な門があった方向からモクモクと煙が上がっている。
「‥‥少し、やりすぎたか‥‥」
マグナと大牙が壁にひびを入れてそこにティアラがグラビティキャノンを撃ち込む。
その作戦は効果覿面で、もっと時間がかかると思っていた破壊工作は一瞬で効果をなし、崩れた部分からさらなる崩落を生み出したことで退却を早めることとなった。最も、それは嬉しい誤算ではあったのだが。
「あ、皆がきたよー」
ティアラが嬉しそうに手を振る先に陽動班の四人の姿。
程なくして合流した一行は、しばらく走り続けた後に追っ手がないことを確認して一旦立ち止まる。
「大丈夫だったか」
マグナの言葉に頷く陽動班の四人。
聞けば四人はテレパシーが送られてから脱出するまでに、行く手に立ち塞がったインプ三匹を瞬く間に薙ぎ倒してきたらしい。全力でかかれば一点突破は容易いことだ。デビル相手に手加減という慣れない作業のせいか鬱憤が溜まっていたのだろう、三匹の余りのやられっぷりに他のインプが愕然としていたらしいことが後の報告にはあげられる。
「それにしても‥‥随分早かったのですね」
エルマが驚いた表情で言うと、大牙が視線を宙に泳がせて頬をぽりぽりと掻いた。
「‥‥予想以上に‥‥壊れた」
普段余りお目にかかれない大牙の姿に一向は笑みを零しつつ、作戦の完了を報告しにキエフへの帰路についた。
〜Fin〜