【北の戦場・ゲヘナ攻防戦】死者の章。
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■ショートシナリオ
担当:鳴神焔
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月02日〜06月07日
リプレイ公開日:2009年06月11日
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●オープニング
依頼は突如ギルドに持ち込まれた。
「大変だべ! 村が‥‥村が一大事だべ!」
ギルドの扉をくぐるなり叫ぶ中年の男は、受付嬢のほうにつかつかと歩み寄ると手にしていた小袋を乱暴にテーブルの上に置く。乾いた金属音からして恐らく依頼料というところだろう。
「とりあえず落ち着きましょう。話はそれからです」
そう言って受付嬢はカップに水を入れて男性に手渡す。
それでも何かを伝えようと男性は口をぱくぱくさせていたが、受付嬢の笑顔を絶やさぬ無言のプレッシャーを感じ取ったのか、慌てて水を飲み干す。
「す、すまねぇだ‥‥」
「いえいえ。それで、一体どういうことなのですか?」
受付嬢の問い掛けに男性は軽く頷くと、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「ほんの数日前だ‥‥オラたちの村に一人のおなごが現れただ。真っ白なドレスさ着たおなごでな、そらぁべっぴんでよ、天使さ現れたと思っただよ。男どもは皆そのおなごに夢中になっちまってよ、いやオラもそうだったんだけどもよ。そのうちおなごを取り合って争うようになっただよ」
「‥‥男ってほんとにもう」
受付嬢はそこまで聞いて深々と溜息をつく。
「そこまでなら可愛いもんだっただよ。ところが一人の男が勢い余って相手の男を殺してしまっただ。そしたらよ、死んだはずの男がもっさり動いて起き上がってきただよ! オラもうべっくらこいてまってなー! んだども他の男どもはそったらこと気にしねぇみてぇで、ずっと戦ってるだよ」
興奮気味に話す男性を横目に手元のペンを走らせていた受付嬢は、聞きながら一つの言葉を思い浮かべていた。
ズゥンビ。
死してなお動かされる哀れな怪物。
話を聞く限りでは間違いないようだが、そんなにすぐにズゥンビ化することは普通はありえない。外的干渉がない限りは。
「オラの知り合いも既に何人か死んじまって‥‥もう死体でうろついてるだよ」
「それで‥‥冒険者への依頼はその死体の退治ですか? それとも争いを止めることですか?」
「あ、あぁ‥‥できれば両方やってもらいてぇ」
先程の興奮はどこへやら真剣な顔つきになる男性。
「これ以上村人が戦って、また誰か死んじまったらそいつも動く死体さなってまう。そのうち村は死体だらけになるだよ。それは絶対阻止してもらいてぇ。後‥‥一つ気になることがあるだよ」
「気になること?」
首を傾げる受付嬢に男性はゆっくりと頷いた。
「誰かが死んじまったとき、決まって白い玉みてぇなのが浮かんできよるんだわ。んで、その玉をおなごが集めて回るだよ‥‥何だかオラ気味が悪くてよー」
そういって男性はぶるっと身震いをした。
「そうなると‥‥その女性がかなり怪しいですね。特徴ってありますか?」
「うーん‥‥特徴っつーか、妙に真っ白なドレスを着てるだよ。それこそ汚れ一つないような。それが変わってるっつったら変わってるとこだべな」
受付嬢は手元の紙にさらさらと何かを書き込むと、コトリとペンを置いて顔を上げてこう言った。
「どうやら一刻を争うようです。すぐに冒険者たちに応援を要請しましょう」
●リプレイ本文
●惨劇。
「酷いな、これは‥‥」
デュラン・ハイアット(ea0042)は村に到着するなり眉を顰めてため息を零した。
先発隊として先に村へと辿り着いた冒険者たちの一部は、目の前に繰り広げられる惨状に言葉を無くす。
死臭と血の独特の鉄臭さが辺りに充満し、その中で男たちの狂ったような声だけが耳障りなほど響いてくる。
「まずは無事な方の救助から、ですね」
エルマ・リジア(ea9311)の言葉にオグマ・リゴネメティス(ec3793)が静かに頷く。
これだけ村中が殺気立っているならば、正気の者は一箇所に固まっていると踏んだ冒険者たち。
ブレスセンサーなどで生存者の位置を探っていたその時―――
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
村の中央の方から女性らしき悲鳴が飛んできた。その方向には大きな十字架が天に向かって伸びているのが見える。
「急ぎましょう!」
そう言って真っ先に走り出したのはセシリア・ティレット(eb4721)。他の者もすぐ後を追う。
教会の前に到着した冒険者たちの目に飛び込んできたのは、無残に壊された教会の重苦しい扉。そしてそこから中に入ろうとするズゥンビ。悲鳴は中からまだ聞こえてくる。
動いたのはエルディン・アトワイト(ec0290)。
全身に魔力を通わせ高速で呪文を唱え終えると、ズゥンビ向かって利き手の杖を突き出した。
「ピュアリファイ!」
エルディンの声と同時に光が急速に拡大していき、そのままズゥンビを飲み込んでいく。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
断末魔が響き渡り、光の中でズゥンビの身体は塵へと化していく。
「大丈夫ですかっ」
「あぁっ! それは私の役得のはずなのに!」
教会の中に駆け寄るセシリアの後ろからなにやら恨めしい声を投げかけるエルディンが追いかけていく。
他の三人が顔を見合わせ苦笑しながら後を追うと、中には十数名の女子供が怯えた視線で冒険者たちを見ていた。
どうやら現状男以外の生存者はここにいるだけということを女性の一人から聞いた一行は、自分たちが来た趣旨をかいつまんで説明し、ここで大人しくしているようにと伝える。
「しかし、見事なまでに男ばかりがやられているな」
デュランが忌々しそうに呟くと、エルディンが真剣な顔で何かを考え込んでブツブツと呟いている。
不審に思ったエルマとオグマがそっと、エルディンの呟きに耳を傾けてみる。
「男がこぞってやられるということは絶世の美女ということなのか‥‥であれば一度私も見てみたい‥‥」
「エルディンさん‥‥何考えてるんですか‥‥」
「えっ!?」
驚いたエルディンが顔を上げるとそこには半眼でじとっと睨むエルマとオグマの姿が。
「‥‥絶世の美女でもデビルなら倒しますって。当たり前じゃないですか」
この瞬間エルディンの好感度が音を立てて崩れ去ったことは言うまでもない。
●邂逅。
避難していた村人が教会にいるだけで全てということを聞いたオグマが、教会の扉があった場所に魔除けの風鐸をぶら下げ、ウェザーコントロールのスクロールを使用する。曇り空だった空から雨が零れ始め、生温い風が村を吹き抜けて吊るした風鐸から音を生み出す。
正気を失った者はどうやら何か特殊な力で操られているようで、ニュートラルマジックを試みた者はその場で効力が切れ呆然と立ち尽くす姿が確認された。デュランとエルマのアイスコフィンで足を止め、エルディンがニュートラルマジックで正気に戻し、間に襲い来るズゥンビをオグマが弓で撃っていく。うまく分散したメンバーによって村人の半分ぐらいは教会の中に集めることに成功した。
その頃にはズゥンビの数もだいぶ減り、後は村人を正気に戻すだけとなったとき、それは静かに現れた。
「あらあら〜、随分やってくれましたねぇ〜」
のんびりとした独特の口調、そして嫌でも目に付く純白のドレス。遠くにいても視認できるかもしれない違和感を放つ女性。
ダンタリアンの傍に仕えるデビル―――グスタフである。
「なっ!? お前は‥‥!!」
「あら〜? どこかで見た顔の子がいるわねぇ〜」
驚愕の表情を浮かべるデュランににこりと微笑むグスタフ。
「此度の騒動‥‥あなたの仕業なの!?」
「うふふ、今頃気付いたのぉー? オバカさんねぇ〜」
癇に障る物言いのグスタフ。エルマは平静を装うのに必死だ。
「まさかここにはダンタリアンも‥‥」
「さぁ、どうかしらねぇ」
「くっ‥‥どちらにしてもこの人数では勝てん‥‥!」
過剰な程反応して逃げ道を探すかのごとく辺りを見回すデュラン。
「ふふ、少し遊んであげましょうかねぇ〜」
言葉と同時に地面を滑るように近付いてくるグスタフ。交差する腕から見える爪が異様な程の長さに変化していることに気付く。腕を広げるように爪を振るうグスタフ。エルマはしゃがんで、デュランは上体を反らしてかわす。その後ろではオグマがエルディンに借りた弓で上空に矢を放ち流れ星を作りだす。
「何のつもりか知らないけれど〜、無駄ですよぉ〜」
言いながらオグマのほうに身体を躍らせるグスタフ。弓を番えるオグマは間に合わない。振り上げられた爪―――オグマを切り裂くと思われた爪は乾いた音と弾かれ、白き風が二人の間を駆け抜けた。
●合流。
「させませんよっ!」
グスタフの爪を刀で弾き飛ばした風はペガサスに騎乗したディアルト・ヘレス(ea2181)。オグマの合図に愛天馬に跨り駆けつけた。一方のグスタフは思いがけない反撃に目を丸くする。
「余所見をする余裕はありませんよっ!」
掛け声と同時に一閃―――虚をつかれたグスタフは反応が遅れる。白いドレスを一部切り取りグスタフの横をすり抜けたのはフォン・イエツェラー(eb7693)。反転して突きつけた剣の刀身は雨に濡れて縞模様が浮かび上がる。
「あらあら‥‥仲間がいたのねぇ」
少し驚いた表情を浮かべるグスタフは淡く黒い光を身に纏い始める。何かの魔法を唱えるつもりだ。
気付いたディアルトすぐさま斬撃―――しかし踏み込んだ足が何かに掴まれる。現れたのはズゥンビ、それも数体。
「なっ‥‥!」
「少しこの子たちと遊んでて下さいねぇ〜」
言いながらグスタフの姿がぐにゃりと歪む。逃がさない―――思いとは裏腹にズゥンビたちが立ち塞がる。強い敵ではない、が邪魔以外の何物でもない。デュランのサンダーストームも身体を張って邪魔するズゥンビに阻まれる。
「伏せてっ!」
甲高い声が響き渡り、グスタフの近くでズゥンビに斬りかかっていたディアルトとフォンが咄嗟に身を屈める。二人の頭上を一陣の光が通り過ぎ、グスタフの顔面に命中。炸裂。煙を上げて仰け反るグスタフ。振り返ると片手を前に突き出した姿勢のイルコフスキー・ネフコス(eb8684)。イルコフはそのまま上空に向かって声を張り上げる。
「今ですっ!」
「っだらぁぁぁぁぁっ!」
グリフォンに跨ったままグスタフ目掛けて飛来するセイル・ファースト(eb8642)は飛び降りざまに振りかぶった剣を思いっ切りグスタフに叩きつける。交錯音。辛うじて受け止めたグスタフ。セイルは勢いで地面を滑りつつ体勢を立て直す。グスタフはそのまま黒い光をセイル目掛けて放つ。セイルはそれを盾で受け止める。轟音。音に紛れてセシリアがグスタフに接近。
「その服、剥ぎ取ってあげますわ!」
何か妖しい光を目に映しながら指につけたディスペルリングの力を解放―――しかし何も起こらない。どうやら魔法の類ではないようだ。グスタフは邪魔だと言わんばかりに舌打ちしてセシリアに裏拳を放つ。セシリア、クロスシールドでダメージは相殺するも後方に吹き飛ばされる。
グスタフは近くにいたズゥンビも呼び寄せて自分の周りを囲ませると、そのまま再び身体を変化させる。イルコフがさせまいとホーリーを放つがズゥンビに阻まれる。他の者もそれぞれがズゥンビに手間取って間に合わない。
「それでは、御機嫌よう〜」
羽ばたき一つ、ゆっくりと宙に浮かび上がるグスタフ。が、その背中にずんと重みがのしかかり、バランスを崩す。
「な、何〜!?」
「逃がさんよ」
ぼそりと呟くように言ったのはラザフォード・サークレット(eb0655)。どうやら空中から直飛び降りてきたらしい。騎乗していたであろうグリフォンがくるくると旋回してそのまま飛び去っていくのが見えた。そこそこの高さから重力をプラスしたラザフォードは飛び立とうとしていたグスタフを墜落させるには十分な重さだった。
●決着。
「枷をくれてやる‥‥!」
グスタフごと地面に着地したラザフォードはすぐさまその場から離れると、グスタフにアグラベイションを放つ。瞬間、グスタフの身体を鉛のような重さが襲いその動きを抑制。冒険者たちはその隙を逃さない。
「デッドライジング!」
高速で番えた矢を連続で放ち、近くのズゥンビを貫いていくオグマ。
「神様、力を貸して! ホーリー!!」
祈りを力に変え、イルコフの放つ白い光がズゥンビを塵へと化していく。
「これ以上の悲しみは産み出させません!」
ディアルトの愛刀『炎舞』の紅い刀身がズゥンビの身体を舞い散らせていく。さらにフォンの魔剣『ストームレイン』がズゥンビを切り刻んでいく。邪魔なズゥンビの壁は消え去った。後は―――
「清楚なのは人間だけでいいのですよ」
言いながらセシリアはグスタフのすぐ傍に。はためく聖骸布の隙間から高速で繰り出される斬撃は容赦なくグスタフの身体を蝕んでいく。辛うじて致命傷は避けてはいるが、動きの抑制された状態ではそれが限界だ。一頻りの斬撃の後、セシリアは身体をひらりと舞わせて横に飛ぶ。その後ろにはラザフォード。
「私達を侮りすぎたようだな‥‥飛べっ!」
普段ならば何ということのない魔法。しかし動きを制限された上にセシリアの斬撃のダメージが抜けていない今、グスタフに抵抗する余力はなく、反転した重力により空中へ放り出される。宙より見える視界の端に、一人の男がこちらに手をかざして構えている。
「残念だったな。お前では勝てない。何故なら!」
そこで男―――デュランの掌から青白い稲妻が飛来。爆砕。
「私がデュラン・ハイアットだからだ!」
煙を撒き散らしながら落ちてくるグスタフ。何とか着地しようと空中でもがく。その落下地点付近にはセイルとエルディンの姿が。
「頼んだぜ」
セイルはそう言い放つと氷の剣を構えて落下するグスタフを見据える。
「任せろ」
応えたエルディンはセイルからもらったソルフの実を口に含み飲み込む。
落下まで三メートル―――
セイルの身体が淡いピンク色に包まれて光り始める。同時に身体のあちこちから激痛がこみ上げてくる。代償として得られたのは漲る力。
落下まで二メートル―――
エルディンが膝を付くセイルに全力でリカバーを唱える。光に包まれたセイルの身体から徐々に痛みが取れていく。
落下まで一メートル―――
セイルの身体が弾丸のようにその場から躍り出る。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
奮迅一閃、構えた剣を着地寸前のグスタフ目掛けて力一杯薙ぎ払う。
柔らかく、弾力性のある感触が一瞬剣を通して伝わる。が、セイルは無視して剣を振り抜いた。
静寂―――
ずるり、とグスタフの上半身が下半身から抜け出した。
●後始末。
「‥‥終わった、のかな」
恐る恐る問いかけるイルコフ。両断されたグスタフの身体は既に原型を留めておらず、復活するようにも見えない。
「これで‥‥村人さんも元に戻っているでしょうか」
エルマは辺りを見回す。が、近くに争う声もなければズゥンビの姿もない。不気味なほど静かになっている。
「この様子なら平気‥‥ですかね」
オグマも辺りの気配を探るが、殺気のようなものは特に感じられない。
「いやぁー、もう終わっちまっただかー」
緊張感のない声が響き渡り、今回の依頼人の男が姿を現した。
男は頭をがしがしと掻きながらちらりとグスタフの死体だった塵に目をやる。
「もう少しやると思ったんだけどねぇ」
突如―――男の発する声が先程と全く異質のものとなる。
一瞬の後、冒険者たちは男から距離を取る。デュランがちらりと自身の石の中の蝶を見ると、今までにないほど激しく羽ばたいている。
「‥‥なるほど、男たちが全員おかしくなっている、というところで気付いておくべきでしたね」
苦笑しながら言ったフォンの言葉に、一同ははっとなる。
男全員が女を争っていたのなら―――何故この男はその呪縛から逃れたのか。
「部下が世話になったようで‥‥おかげで中途半端な実験しかできてないけど‥‥まぁ上出来かな」
そう言って男はにこりと微笑んだ。
一同の背中に嫌な汗が噴出してくる。
「何が目的だ‥‥!」
セイルは質問を投げかけながらも剣を、他の者も思い思いに武器を構える。
「今日はあなた方と争うつもりはありませんよ」
そう言って男はふふっと笑うとすぅっと影の中に消えていく。
慌てて追いかけるも既にその姿はどこにもなかった。
(ふふ‥‥慌てなくともすぐに会えますよ。すぐに、ね‥‥)
風に乗った男の声は耳鳴りのようにいつまでも冒険者たちの耳に残っていた。
〜Fin〜