【天使の祈り】飲めや騒げや?天使祭。
|
■ショートシナリオ
担当:鳴神焔
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月12日〜06月17日
リプレイ公開日:2009年06月21日
|
●オープニング
「神のお告げです」
司祭の一言に教会内にどよめきが走る。
ここの所各地で激化するデビルとの戦。特にここキエフ周辺では強力なデビルたちが密かに、しかし確実に迫りつつあった。人々は身近に迫るデビルの恐怖と日々戦いながら過ごし、徐々にその心の負荷を増していく。
一人の司祭がキエフの街に現れたのはそんなときだった。
流れるようなブロンドの髪の女性司祭で、すれ違うだけで目を奪われるような美しい姿をした司祭は、教会で静かに祈りを捧げていた。
最初はガランとしていた教会も、その司祭が祈りを捧げているところを一目見ようと徐々に人が集まり始め、やがて教会が埋まるほどの人が押しかけてくるようになっていたのだ。
で、突然のお告げ宣言である。人々が驚くのも無理のないことだ。
「一体どのようなお告げが‥‥?」
恐る恐る一人の男性が聞いてみる。
しばしの沈黙―――
誰かのごくり、と息を飲む音が教会内に響き渡る。
「‥‥天使様は嘆いておられます。人間界に負の感情が入り乱れていると」
朗々と、しかしはっきりと告げる司祭の声には、どことなく聞くものを魅了する響きがあった。
「今こそ街全体が活気を取り戻すときです。この街から全ての世界へ届くほどの―――大宴会を催すのです!」
地鳴りを起こすほどの歓声が教会を、キエフの街を揺らす。
こうして、急遽キエフの街の長が会議を開き、祭を開催することとなった。
その名も―――天使感謝祭。
「というわけだ、冒険者ギルドからも協力者を募りたいんだ」
腕に『実行役員』と書かれた腕章をつけた男が言う。
それを聞いた受付嬢は人差し指を顎にあてて小首を傾げる。
「この時期に協力してくれる方、いるかしら‥‥」
「何言ってるんだ、天使様からのお告げでデビルに対抗するには俺たち人間の気が沈んでちゃダメだって言ってたんだ。こうやって盛り上げりゃ少しでも力にならぁな!」
拳を握って力説する男。
確かに辻褄は合う。実際負の感情はデビルにとっては力を得るようなもの。そう考えれば人間の正の感情はデビルに対抗する力となり得るのかもしれない。現に祈りの力が効力を持つことは証明されている。
「でも‥‥その司祭という人は‥‥本物なのですか?」
「あんた、アノ人を疑ってんのか!?」
声を荒げて詰め寄る男に眉を顰める受付嬢。
彼女が敏感になるのも無理はない。最近は特にデビルが人間に化けて何かをする事件が増えているのだ。
「それによ、俺は見たんだ。教会に差し込む光で照らされたあの人の背中に‥‥真っ白い羽が生えてたんだ」
うっとりするように中空を眺める男に、受付嬢はただただ嘆息するだけだった。
「ねぇ、やってみようよ」
ふと飛んできた声に受付嬢が振り向くと、そこには緑を基調としたハンティングスタイルの少年が笑顔を浮かべて立っていた。
「あら、ポロムくん」
少年冒険者ポロム―――過去何度かギルドの依頼で仕事をこなしている僅か十歳そこらの少年だ。
つい一ヶ月ほど前にも街の郊外で祈りの儀式をする依頼をこなしている。
「街の人が明るくなることならやってみようよ♪」
ポロムの無邪気な笑顔にやられた受付嬢が依頼書を張り出すまでにはそう時間は掛からなかった。
●リプレイ本文
●準備。
キエフの街の外れ。
そこに今、臨時で一軒の酒場が開店しようとしていた。その名は『エンジェル・プレイヤ』
今回キエフにふらりと現れた一人の女性司祭が受けたお告げによって開かれた天使感謝祭。その一環としてこの酒場も急遽開店する運びとなった。提案は冒険者ギルド。
「とにかく楽しく騒げばよいのだろう? となれば宴会に決まっている」
そう言って背中に背負ったバックパックをどんと降ろしたのは西中島導仁(ea2741)。どうやら各地を回って食材を仕入れてきたようだ。今回祭を行うにあたり、冒険者ギルドにも参加要請が飛んできた。何ができるか思案した結果、やはり騒ぐなら酒だろうと今回の酒場開店となったのだ。
「街のみんなが明るくなればいいよね!」
そう言って少年冒険者ポロムはにこりと笑みを浮かべる。
「ここのところデビルとの戦いも激化しているからな。皆も不安でいっぱいなのだろう。たまには息抜きも必要だ」
「‥‥あれ? そういえば今回冒険者ギルドから何人か来てくれてたような気がするんだけど‥‥」
首を傾げるポロムに導仁は少し苦笑を浮かべる。
確かに今回自分を含めて三人の冒険者がこの宴会を開催するために協力を申し出ていたのだが、各人で食材や酒などの調達をしながら宴会を盛り上げる催しを考えよう―――そう言って今キエフに戻ってきたのは自分だけ。
「まぁ‥‥色々と忙しいのだろう、きっと」
導仁はポロムの頭にぽむと手を乗せた。
「ふにゃ‥‥ところで導仁さんは何を持ってきたですか?」
ポロムは導仁が持ってきたパンパンのバックパックを覗き込む。
「ん。宴会といえばやはり酒だろう」
にやりと笑う導仁はバックパックの中から次々と酒瓶を取り出していく。
ひょうたんのような形をした酒瓶の表面にはジャパンの文字で大きく『どぶろく』と書かれていた。
「これは‥‥?」
「ジャパンの酒でな、米を発酵させて作る酒だ。ポロムは‥‥さすがにまだ飲めんか」
「お酒はちょっと‥‥」
困った表情を浮かべるポロム。
「おーい、兄ちゃんたち。ちょっと手伝ってくれやー」
そこで依頼人である天使感謝祭実行委員である男が二人に声を掛ける。すぐいく、と手を振る導仁。その後をとてとてとついていくポロム。天使祭の本番は夜―――その準備は着々と進められていた。
●宴会開始。
キエフの街を闇が照らし、家々の軒先にポツポツと明かりが灯り始める頃、キエフの外れにある催し会場には煌々とした明かりに満ち溢れていた。本当は街中で盛大にやりたかったところなのだが、協力者を募る動きがうまくいかず、結局キエフの一部だけで執り行うことになった。勿論そうは言ってもキエフ、宴会好きで知られるこの街の人は祭には敏感で既に多くの人が会場に訪れていた。酒場『エンジェル・プレイヤ』も既に開店しており、既に店内に溢れかえっていた。
「おーい、こっち例のどぶろくくれやー」
「こっちには干し肉追加ー」
店内を覆い尽くすほどの喧騒の中、注文と思われる声が飛び交う。それに反応しているのはポロム。皆の為に何かできることを、と考えたポロムはこの酒場の店員として働くという選択をした。
「えっと、どぶろくと干し肉‥‥っと」
手元の紙に必死に書きとめながら店内を走り回るポロム。ちらりと視線を流すと客の中に見知った顔が。
高価そうな鎧に身を包んだ黒髪黒目の騎士―――導仁だ。
「お、兄ちゃん冒険者かい?」
「わかるのか?」
「あぁ、俺ぐらいになりゃ見ただけでピーンと来るってもんよ!」
「それは素晴らしい」
街のおぢさんとすっかり馴染んでいる導仁にポロムは少し涙目になりながら厨房の方へと駆けていった。
「さて、と。そろそろ行くか」
「なんでぇ、もういくのか」
言いながら徐に立ち上がる導仁に隣のおぢさんは少し寂しそうな顔をする。
「表で少し、な」
「んー、よくわからんが‥‥頑張れよ!」
よくわからない激励を飛ばすおぢさんに手を振った導仁はすっと酒場を後にした。。
この後店の忙しさがピークになり、働いていたポロムが真っ白に燃え尽きてしまっていたが、導仁がそれを知ったのは次の日のことでだった。
「‥‥イマイチぱっとしないわね」
祭が行われている一画を少し離れた場所から見て呟いた司祭服の女性。彼女こそが今回の騒動の始まりである。
「せっかく人が集まってるのに‥‥もう少し視覚効果があればいいのかしら」
「目に見える何かがあればいいのか」
眉を顰めながらブツブツと呟いているところに突如声をかけられ、驚いて振り向く女性。立っていたのは導仁。
「そうね。それが一番わかりやすいでしょうから」
「ならば‥‥魔法を使った演舞というのはどうだ?」
「演舞、ね。いいかもしれませんね。魔法は一般人には使えませんし‥‥見た目的にも派手でしょうし」
にこりと微笑む女性司祭に、満足そうに頷いた導仁は早速そのための場所確保と準備のためその場を後にする。
残された女性は笑みを浮かべたまましばし固まっていたが、やがてすっと目を閉じると両手を胸の前で組んで祈りを捧げる。
「演舞とやらがうまく人々の注目を浴びれば‥‥いいですよね? ガブリエル様」
呟いた女性の言葉は人々の喧騒の中へと溶けて消えていった。
●天使の贈り物。
酒場のすぐ近く―――昼間のうちに準備をしていた特設会場では街の住人の代表たちが思い思いの催しを行い、盛大に賑わっていた。その中には導仁の仲間であるクレア・エルスハイマーが魔法を使った大道芸をやって拍手喝采を浴びる姿もあった。一通りの催しが終わった後、導仁はゆっくりと会場の中心に歩を進める。
「今我々冒険者はデビルたちと壮絶な死闘を繰り広げている。その余波はこの街にも来たことだろう。募る不安は尤もだ。だが、安心して欲しい。街は、人は、必ず我々が護る。今日はそんな決意を表した舞を一つ、ご覧に入れよう」
口上を述べた導仁、言い終わると同時に精神を集中させる。
導仁の身体を柔らかな光が包み込み始める。
更に導仁はスラリと剣を抜き放つ。その剣もまた優しい光を発していた。
流れるように、そして優雅に。彼の降る剣の軌道は光によって宙に描かれ、その後粒子となって天へと昇る。どこか荘厳とした雰囲気が辺りを支配し、彼の一挙手一投足全てにまるで神が宿ったかのような神々しさを感じる。
しばしの間その空間に酔いしれる人々。
舞を終えて導仁が一礼すると同時に、盛大な拍手と耳を打つほどの歓声が導仁に降り注いだ。
「ふぅ」
演舞を終えた導仁は、興奮冷めやらぬ人々から少し離れた場所で腰を下ろす。と、パチパチと手を打つ音が聞こえ、そちらに視線を移す。
「ふふ、お見事でした」
そこには先程の女性司祭が柔和な笑みを浮かべて立っていた。
「いや‥‥本当は俺だけでなく皆でできればよかったんだがな」
額に浮かんだ汗を拭いながら苦笑する導仁に、女性はゆっくりと首を横に振る。
「お一人であれだけの人心を掴んだのです。十分でしょう」
「‥‥ありがとう。そう言ってもらえると助かる」
「本当に‥‥これでこの街の負の感情は少しは減ることになるでしょう」
そう言って女性は懐から何かを取り出すと、導仁の右手をそっと取って中に握らせる。
「‥‥? これは?」
開いた導仁の目に映ったのはキラキラと輝く小さな結晶。
「持っていてください。デビルとの戦いに‥‥必ず役に立つでしょう」
「あなたは一体‥‥」
顔を上げた導仁の前には既に人の姿はなく、ただ一枚の真っ白な羽だけがひらひらと彼の目の前に舞っているだけだった。
〜Fin〜