【黙示録】ディーテ、阻むモノ。
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■イベントシナリオ担当：鳴神焔 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：0 G 13 C 参加人数：22人 サポート参加人数：-人 冒険期間：07月02日〜07月02日 リプレイ公開日：2009年07月13日 |
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●オープニング
濃密な瘴気。その気配を、ソレは感じ取っていた。それは遥か地獄の底、王が眠るその場所から漂ってくるように思える。その事実をソレは受け止め、その事実が示唆する未来を想う。（目覚められるか）
ついにその時が来たか――と。
そう思い、ならば本格的に動かねばならぬ、とソレはもはや我が身となり、我が手足となったディーテ城砦の各所に、分身を生み出し、各所を次々と作り変え、さらに己が存在の欠片を配置してゆく。幾つも、幾つも。ソレ自身にも数えられぬほどに。
いい加減、小さき者どもの存在を許しすぎた。冒険者、バアル軍をも下したその事実は認めるが、なればこそ王が眠りから目覚めんとする今、その存在は排除しておかなければならない。
ソレ――地獄の王の居城をも創りし悪魔ムルキベルは、その為にゆっくりと動き始めたのだった。
ディーテ城砦――ムルキベルによって今なお着々とその姿を変えようとするデビルの要塞。すでに幾度もの戦闘を重ねているが、今だ完全攻略には至っていない。
その一角に、それは居た。
「出たな、デビルめ‥‥ッ！」
「ひょひょひょひょひょひょッ！」
ディーテ内部の探索を行う、冒険者一行のうちの一つ。その行く手を阻むようにしてソレは、堂々とした体躯を見せ、何とも形容しがたい笑い声をあげる。
手に得物を持ち、或いはスクロールを広げ、または魔法詠唱に入ろうとする冒険者。ディーテに巣食う魔物達は、強さも千差万別だ。目の前の敵がどの程度のレベルかは具体的には判らないが、受けるプレッシャーからして、そこらの魔物というわけではないだろう。
気付かれていなければそっと逃げると言う選択肢もあったが、ばっちり目が合った上に変な笑いまでされていてはそれも叶わない。ならばやるしかない。
姿は、さながら馬頭鬼に似ている。似てるが、馬頭鬼であればそんな変な笑い方はしない。恐らくデビルの変身能力か何かで姿を馬頭鬼を模しただけなのだろう。お世辞にも趣味がいいとは言えない。
「覚悟‥‥ッ」
「あぁッ！ もっと！ もっとだ！」
高速で詠唱する冒険者の魔法をその身で受けながら何故か身悶えしている。一体何がそんなにいいのか―――見ている方は気分が悪くなる光景である。しかしそれで目の前の敵が相当に打たれ強いことがわかる。
さらに、馬頭鬼もどきに切りかかり、傷を負わせた冒険者。振り返ったときには既に傷がない。驚異的な回復スピードである。
混沌。その中で馬頭鬼もどきは冒険者たちに手招きをする。
「ひょひょひょっ！ もっとだ、もっと欲しいだべっ！」
「ク‥‥ッ」
「このドＭデビルめっ！」
舌打ちした者が、少し離れた場所からキリリと弓を引き絞った。放たれた矢は馬頭鬼の腹に命中。しかしすぐにポロリと落とされる。こんなのに勝てるのか―――そんな思いがよぎる。
「オラたちはムルキベル様の力を受けてディーテの一角を守護する義兄弟！ そしてオラの能力はこの肉体！ 一人二人の単体攻撃などオラには効かんべさ！」
「‥‥つまり、大人数で同時ならいいんだな‥‥？」
「‥‥‥‥知らないだす」
問い掛ける冒険者にぷいと顔を背ける馬頭鬼もどき。更にデビルを追い詰める致命的な情報が漏洩する。
知らせたのは同時に突入していた別班の冒険者たち。テレパシーであちらの情報が流されてくる。
「‥‥なるほど。もう一体も倒さなきゃお前らは死なないわけか」
「な、なんでそれを知ってるだすかっ！？」
「いや、向こうでお前の相方が自分でばらしてるって」
「あ、兄者ぁぁぁぁぁぁっ！？ それは言っちゃダメだすよぉぉぉぉぉぉっ！？」
悲鳴にも似た世にも珍しいデビルの突っ込みはディーテ砦最深部まで届いたとか届いてないとか。人のこと言えない、という冒険者の言葉は華麗にスルーされたことは言うまでもない。
いくら攻撃しても堪えてない様子のデビルに現状戦力では不可能と判断した一行は、何とかデビルを巻いて仲間のいる陣地へと舞い戻る。
アレを倒すには人数がいる。それも同時に攻撃できる信頼でいた仲間が―――。
●今回の参加者
ヤングヴラド・ツェペシュ（ea1274）／ オラース・カノーヴァ（ea3486）／ アデリーナ・ホワイト（ea5635）／ リュリス・アルフェイン（ea5640）／ レティシア・シャンテヒルト（ea6215）／ レムリィ・リセルナート（ea6870）／ シャルロット・スパイラル（ea7465）／ エルンスト・ヴェディゲン（ea8785）／ ブレット・ワクスマン（ea8925）／ ラザフォード・サークレット（eb0655）／ 陸堂 明士郎（eb0712）／ アニエス・グラン・クリュ（eb2949）／ ヴァンアーブル・ムージョ（eb4646）／ セシリア・ティレット（eb4721）／ メグレズ・ファウンテン（eb5451）／ セイル・ファースト（eb8642）／ ステラ・シンクレア（eb9928）／ ハロルド・ブックマン（ec3272）／ 九烏 飛鳥（ec3984）／ リース・フォード（ec4979）／ ジルベール・ダリエ（ec5609）／ ジョリオ・アスベール（ec6048）●リプレイ本文
●辿り着け！「っりゃぁぁっ！」
轟音と共にセイル・ファースト（eb8642）の目の前の壁が粉砕。新たな通路が出現する。だがそれも束の間、その通路は妖しい光を放ったかと思うと、すぐに別の形へと姿を変える。ムルキベルの魔力を持つ要塞、ディーテ。これがその厄介な能力である。
「本当にこちらでいいんですよね‥‥？」
若干不安な表情を浮かべながら呟くアニエス・グラン・クリュ（eb2949）。グリフォンに騎乗しながら進軍する彼女は、自分の後方少し下にいるレティシア・シャンテヒルト（ea6215）の方に顔を向ける。先程から壁を壊しては現れた敵の掃討、これの繰り返しばかりでちっとも前に進んでいるような気がしない。同じような動作ばかりで、見える視界も似たようなものばかり。既視感、とでも言うのだろうか、同じ所をぐるぐると回らされているかのような不思議な感覚に襲われる。
「先に交戦していた方々の話では、方角は間違いありません。ですよね？」
向けられた視線に力強く頷くレティシア。彼女は予め今回先に敵と接触していた仲間に話を聞き、更にその記憶をレシーブメモリーにて一部受け取っている。恐らく報告にあった変なデビルのインパクトが強かったのか、比較的良く覚えてくれていた。
「なら、信じるしかぁないなぁ」
シャルロット・スパイラル（ea7465）はにやりと笑いながら、通路の向こうに現れた数匹のデビル目掛けてファイヤーボムを叩き込む。爆音。何匹かはその一撃で黒焦げになりその場で崩れ落ちる。運よく逃れた他のデビルもメグレズ・ファウンテン（eb5451）の振るう剣によってその命を絶たれていく。
「しかし相変わらずよくわからない砦ですね‥‥敵もどこから出てくるかわからないし」
苦笑しながらブレット・ワクスマン（ea8925）が呟いた。言った傍から壁の一部がぐにゃりと歪み数匹のインプが姿を現した。
「品がないですわね‥‥」
心底嫌そうな表情を浮かべるセシリア・ティレット（eb4721）は現れたインプを持っていた剣で両断していく。何かインプにうらみでもあるのだろうか、彼女の中では既にインプという存在自体が品のない物として認識されているようだ。
「後ろ！ また出てくるのだわ！」
上空をふわふわと漂いながら叫ぶヴァンアーブル・ムージョ（eb4646）の声に後衛陣が咄嗟に後ろを振り返る。見るとまたしても壁を抜けてきたのか数匹のデビル。だがその距離が近い―――デビルと後衛の距離があと一歩、というところでその間に割り込んできた影が一つ。レムリィ・リセルナート（ea6870）だ。
「ここは私に任せてっ！ 皆さんは早く離れてください！」
言いながら彼女は手にした武器でデビルの攻撃を受け止めて時間を作る。だが受け止めれるのは多くても二体まで、その隙に他のデビルが横をすり抜ける。何とか目の前のデビルを弾き飛ばして体の向きを変えるレムリィ。そこで目に飛び込んできたのはこちらに吹き飛ばされてくるデビル。
「え―――？」
轟音が鳴り響きそこらの壁に激突するデビルたち。一瞬何が起こったのか理解ができない。ただ、横をすり抜けたデビルが倒されたこと、後衛陣に被害はなかったというこの二つだけは理解できた。レムリィは首を傾げながらも目的が果たされたことにとりあえずほっと胸を撫で下ろす。
「―――ったく」
そんなレムリィの様子を見ながら小さく溜息をついたオラース・カノーヴァ（ea3486）。デビルを吹き飛ばしたのは彼、密かにレムリィの動きを見ていたオラースは彼女の為したいことを咄嗟に理解し、すぐにそのサポートに回ったのだ。
「優しいのね」
オラースの隣にふわっと移動したアニエスが一言ぼそり。今回オラースと行動を共にしていた彼女にはその様子が見えていたのだ。一瞬苦笑を浮かべるオラース。
「勘違いすんな」
ぶっきらぼうに言い放ったオラースは再び目の前の敵へと向かっていく。ふふ、と笑みを零しながらその後に続くアニエス。
もうどれ程の壁を破壊したのか、その感覚が麻痺し始めていたそんな時、一同の耳に奇妙な声が微かに聞こえてくる。
「ひょひょひょひょひょひょ‥‥」
特徴的であり且つ耳障りな笑い声。報告にあったデビルの笑い声と一致する。
「む‥‥近いのであるな」
ヤングヴラド・ツェペシュ（ea1274）は声のした方角へと顔を向ける。目の前にあるのは壁ではあるが、その向こうに奴がいるのだろうか。報告を聞いてから楽しみでしょうがないヤングヴラドは、口端を小さく上げて笑みを零す。
周りの敵を片付けた冒険者たちは笑い声が聞こえた方角の壁の前でずらりと並ぶ。
「この先にあの変なんがおるんやね」
手に持った漆黒の鞭をピシンピシンと唸らせながら言う九烏飛鳥（ec3984）。その姿はこれからまさに聞き分けのない下僕を調教しにいこうとする女王様のようである。
「あちらから何か連絡はありましたか？」
「‥‥いや、現状ではまだ向こうも向かっているところらしい」
セシリアの問い掛けにエルンスト・ヴェディゲン（ea8785）は静かに首を振る。
「んじゃ、先にどんな奴か拝ませてもらうとするかね」
セイルの言葉に冒険者達はお互いの顔を見合わせてコクリと頷く。
ゆっくりと壁に近付くメグレズが壁の前で武器を構えて集中していく。少しの間目を瞑っていたメグレズはカッと目を見開くと溜めていた息を吐き出した。
「飛刃、砕！」
声と同時に振り下ろされた剣が轟音と共に壁を粉砕する―――
●遭遇。
砦内の一室―――その壁を粉砕して入り込んだ冒険者たちは、徐々に晴れてくる視界の中に一匹の巨大な影を見る。筋骨隆々の身体に鎧を着込んだその姿は屈強な戦士にも見えなくはない―――ー顔は馬だが。勿論そいつだけではなく他のデビルも数体混じってはいるのだが。
「ひょひょひょひょ！ まぁた性懲りもなくきたズラか！」
壁の向こうから現れた冒険者に対して高らかに笑い声を上げる馬頭鬼もどき。
「うわぁ‥‥もう言葉あらへんわぁ‥‥」
げんなりした表情で言う飛鳥はコメカミを押さえながら思わず頭を振る。
「ふふ‥‥ふはははははははは！ ほんとに馬の頭なのだ！」
「何がおかしいだすか！？ 格好いいだす！」
開口一番指差して笑うヤングヴラドに馬頭鬼は怒り心頭といった様子で叫ぶ。
「テンションの高い馬頭様ですわねぇ‥‥」
最早苦笑しか出てこないアデリーナ・ホワイト（ea5635）。だが負けじと名乗りをあげるちょっと変わった冒険者もいた。
「はっはっは！ うさ耳のリューとは私のことだ！」
びしっと指を突きつけるラザフォード・サークレット（eb0655）。彼が一つ動きをする度に頭のラビットバンドがぴょこぴょこ揺れる。その横で自らの手に持つ一冊の本になにやら書き込んでいるハロルド・ブックマン（ec3272）。
地獄は忙しい。新手が次から次へとやってくる。彼らの本拠地なのだから当然だが。
さて、中級を超えるデビルは狡猾で狡賢いというイメージが強かったが。
どうも何かが足りてない者もいるようだ。
それは即ちそれを補って余りある能力を持っている、と言う事に他ならないのだが。
尤も、足りてないという意味では我らにも同じ者がいるのかもしれないが。。
―――ハロルド書記
「‥‥それは私のことか？」
「‥‥ノーコメントだ」
ハロルドの本を覗き込んだラザフォードが額に一筋の汗を掻きながら問うが、ハロルドふいと顔を背けるばかり。
「むきぃぃぃっ！！ ちょっと名乗りが格好良かったからってオラを無視するなだすっ！」
「格好よくない‥‥ぜんっぜん格好良くない‥‥」
地団太を踏みながら暴れだす馬頭鬼に力一杯突っ込む飛鳥。最早デビルとか、ムルキベルの砦の中とか、そういうのは一切忘れてしまいそうになる光景ではある。だがそこは長く冒険者としてやってきた腕利きのメンバー、すぐに気持ちを切り替えて一斉に武器を構える。
「ま‥‥ここに居座られちゃ迷惑だ。さっさとどいてもらおう」
「同感ですね‥‥気分が悪くなりますし」
リース・フォード（ec4979）が高速で詠唱を開始し、陸堂明士郎（eb0712）は剣を持つ手に力を入れる。
こうして、世にも奇妙なデビルと冒険者たちの、本来は重要な戦いの幕が切って落とされた。
●戦闘開始。
超がつくほどの回復速度を誇るデビル。性格はともあれ強さは本物である。一度や二度の攻撃ではすぐに傷が塞がってしまうことは既にわかっている。そこで冒険者たちがとった作戦、それは―――波状攻撃。恐らくこういうタイプには最も有効な手段だと言えよう。前の傷が回復しきる前に次の攻撃、さらに次と前衛たちが武器を構え、後衛がすぐに高速で詠唱を開始する。
対する馬頭鬼は‥‥何故か腰を落として低く構えると、こちらを挑発するかのように手をくいっくいっと動かしている。
「ひょひょひょひょ！！ さぁ、早くオラを楽しませてくれだす！」
小馬鹿にしたような馬頭鬼の態度。若干どころではなく非常に不愉快極まりないその姿にはさすがに普段温厚な者でも嫌悪感を表に出してしまう。
「‥‥向こうへの連絡完了。こちらは先に交戦を開始する、と」
低い声で呟いたエルンストはやはり心なしか怒っているようにも見えた。
「では‥‥皆、準備はいいか？」
ラザフォードの言葉に「あぁ！」「いつでもいいぜ！」「うん！」「早くしろ！」等それぞれに返事が返ってくる。
「開始は任せてなのだわ！ ふふふ‥‥やっておしまい、なのだわ！」
ヴァンアーブルがどこかの悪役よろしく開始の合図を叫ぶと同時にアニエスが上空から鳴弦の弓をかき鳴らす。途端にデビルたちの動きが鈍くなる。遅くなったデビルたちに後衛陣の凄まじい魔法、射撃攻撃の嵐が一斉に発射される。並のデビルであればそれだけで存在ごと消滅してしまいそうなほどの弾幕―――アデリーナのウォーターボム、シャルロットのファイアーボム、エルンストのウインドスラッシュ、ラザフォードのグラビティキャノン、ハロルドのアイスブリザード、リースのライトニング、ジルベール・ダリエ（ec5609）のシューティングポイントアタックが一斉に飛来。一方の馬頭鬼は、さすがにまずいと思ったのだろう。すぐ傍にいたデビルをある程度盾にした上で、それでも自分に飛来するものだけを受け止める。その辺りはデビルならではの狡猾さ、なのだろう。いや、そうであると信じたい。
だが初撃が馬頭鬼以外の敵を粗方片付けたことは間違いではない。プラスで肝心の相手にも少し手傷を負わせている。勿論その傷は既に回復している。が、次の攻撃への布石としては十分―――
「妙刃、水月っ！」
「ふはははは！ ブースト全開なのだっ！」
飛び出したのはメグレスとヤングヴラド。神聖魔法で強化された二人が馬頭鬼とすれ違いざまに斬撃。銀の閃きと共に馬頭鬼の両の腕が瞬く間に切り裂かれていく。開いた傷はすぐに修復を始め、数秒で切れ掛かっていた腕が元に戻ると、馬頭鬼は先程の二人の方へと体を向ける。だがそこにはセイルとオラース、その両方が最大限に強化された自分の武器を振りかぶった状態で待機していた。
爆砕。
盛大な音と共に放たれるバーストアタック。更に素早く離れた二人の上空からアニエスのソニックブームがすぐさま追い討ちに入る。それが済んだらジョリオ・アスベール（ec6048）と明士郎が既に次の斬撃を放っていた。一閃、二閃、爆砕、三閃、四閃。傷が塞ぎかけたところへの攻撃―――これはどうやら効いたようでガクリと膝を付く馬頭鬼。だが冒険者たちの攻撃は止むことはない。回復中の馬頭鬼を後方から見えない力で縛り上げるのはラザフォード。更に相手の両脇へと移動していた飛鳥とリュリス・アルフェイン（ea5640）の二人は、お互いの持つ鞭を器用に振るって馬頭鬼の足元を絡めとり、一気に引っ張る。足を取られた馬頭鬼は背中から盛大にすっ転んだ。倒れた相手の頭に清酒「般若湯」をどばどばとかけていくリュリス。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉっ！？」
「ようドＭ野郎、酒の味はどうだ？ 回復しない痛みってドＭにとっちゃ快感だろうなあ。鞭で絡まれ動けず、目の前からは想像もしたことないような攻撃が突っ込んでくるぜ。よく見て、味わっておけ。長い人生、最初で最後の大連鎖をよぉ‥‥」
にやりと笑みを浮かべたリュリスは言いながらすぐさまその場から離れる。
一方苦悶の声を上げる馬頭鬼に後衛陣の魔法第二弾が一斉に飛来。
「ぐおぉぁぁぁぁっ！？ だ、だがオラには同じ攻撃は―――」
「効かない、でしょ？ 知ってるわ！」
いつの間にか馬頭鬼の死角へと回りこんでいたレムリィが叫びながらドレスの裾をひらりと舞わせる。見る人が見れば十分なサービスカットになりそうなそれは見えぬ攻撃への布石。裾から剣を抜き放ったレムリィはそのまま一太刀を浴びせてすぐさま後方へ。それと入れ替わるようにオラース、明士郎にジョリオの三人が手持ちの武器を入れ替えて攻撃を放つ。
「ぐあぁぁっ！？ オラは‥‥オラは‥‥っ！」
「残念ながら次はねぇ。さっさと眠りな！」
オラースが吼え、更に一斉砲火を浴びせる冒険者たち。前衛が切り裂いたかと思うと後衛の魔法と弓の混合射撃。かと思えば今度は前衛が攻撃手段を変えて更に襲い掛かる。その一撃一撃は既に冒険者としての域を遥かに超えたもの。それが繰り返されるのだ、回復が強かろうが間に合うわけがない。次第にその回復力は弱まっていった。
「なぁ‥‥先に倒しちまっていいのか？ 何か向こうのと二匹一組の能力だって誰か言ってなかったっけ？」
「‥‥それについて、朗報、です」
セイルの言葉に反応するかのように切り出したステラ・シンクレア（eb9928）は閉ざしていた目をすっと開いた。
「向こうの‥‥牛さんが白状しました‥‥二つの能力に特別な因果関係はない、とのことです」
言いながらブイサインをするステラはこの勢いをそのまま持続させるために心を込めて歌を紡ぎだす。俄然勢いづいたのは冒険者。
ありったけの力を込めた後衛陣の一斉射撃と前衛陣の斬撃と打撃。回復力の弱くなった馬頭鬼など熟練の冒険者たちの敵となるはずもなく、為すがままにされていく。さすがに耐え切れず両膝をついて崩れる馬頭鬼の上空にふわりと飛び立ったセイル。
「これが‥‥最後だっ！」
上空から重力を乗せて渾身の力で叩き付けた剣が馬頭鬼の脳天に突き刺さる。
「ひょ‥‥ひょひょ‥‥嗚呼‥‥オラ‥‥こんなの‥‥初めてだべさ‥‥」
口元ににやりと笑みを浮かべながら倒れこんだ馬頭鬼は―――完全に沈黙した。
●時間まで。
「何とか終わりましたね‥‥」
言いながらふぅと息を吐くハロルド。なんだかんだと言ってしぶとさは本物だった馬頭鬼。
「結局コレの正体なんだったのかしら‥‥」
ずっと不思議に思っていたアデリーナが馬頭鬼の成れの果てにそっと近付いてミラーオブトゥルースの詠唱を開始する。地面に現れる透き通った鏡は、その表面に馬頭鬼を映し出し、すぐにその形をぐにゃりと歪めて別の形へと変貌する。現れたのは―――
「これは‥‥結晶？」
小首を傾げるアデリーナ。映し出されていたのは紫色の奇妙な結晶のようなもの。完全に沈黙はしているはずなのだが、ソレは不気味な光を放ったままだ。と、そこで一方の壁が突然動き出し、近くのアデリーナに襲い掛かる。
「危ないっ！？」
咄嗟に壁とレティシアの間に割り込んだレムリィがその身を挺して壁を受け止める。受け止めた壁をメグレズが粉砕。壁は一時止まるものの、周辺の床や壁からデビルが次々と姿を現す。
「これは‥‥ムルキベルか！？」
「いかん、もう魔力が‥‥リュリス！」
ラザフォードの声にリュリスは頷いてハーミットスタッフを取り出す。他のメンバーは回りに沸いたデビルの一掃に取り掛かる。冒険者達も残る力はそんなに多くはない。が、それでも現れたデビルたちを片付けるぐらいには十分だったが。
「さぁ、魔力が尽きた奴は俺の前に来い！」
反応したのはアデリーナとラザフォードとリースの三人。
まずリュリスが選んだのはアデリーナ。
「‥‥えっと‥‥痛くしないでくださいね‥‥？」
「いや‥‥そこで頬赤らめられるとすんごいやり辛いんですけどっ！？」
何故かぽっと頬を赤らめてもじもじと言うアデリーナにちょっと涙目になったリュリスは彼女の身体をこつりと杖で叩く。同時にアデリーナの身体に力が漲る。
「‥‥痛くしない―――」
「野郎は別だぁっ！ 気合入れろーっ！」
アデリーナの真似をして顔を赤らめたラザフォードのお尻に容赦なく打撃を喰らわせるリュリス。魔力は回復したがちょっとダメージを食らったラザフォード。リュリスはそのままリースの方へと視線を向ける。
「‥‥俺はアレとは違うので普通に‥‥」
倒れている馬頭鬼を指差しながら言うリース。一瞬迷ったリュリスは普通にリースの頭をこつと叩く。
「向こうの様子はどうですか？」
「‥‥まだ交戦中だ」
目の前のデビルを切り裂きながら問い掛ける明士郎にエルンストが首を横に振る。
「こっちの情報は向こう知ってるん？」
「無論だ」
飛鳥の問い掛けに首を縦に振るエルンスト。
「ふっ。では時間までこ奴らの相手でもして待とうではぁないかぁ！」
仰々しく言うシャルロットに苦笑しつつも答える冒険者たち。タイムリミットは三十分―――冒険者達は倒れる馬頭鬼を護りながら戦うという不思議な状態で戦い始めた。
●真実。
「向こうチームが目的を撃破。今連絡が入った」
「時間はっ！？」
テレパシーを繋いでいたエルンストの報告にジルベールが振り向きざまに問い掛ける。あれからどれぐらいの時間が経ったのか、体感ではある程度把握できるが、さすがに正確ではない。
「‥‥大丈夫のはずです」
答えたブレットは馬頭鬼を倒してからリヴィールタイムで時間を記録していた。それ故に間違いはほぼない。
と、そこで馬頭鬼の本来の姿として映し出されていた結晶が小刻みに震えたかと思うと一気にパリンと割れる。
「‥‥あ、割れました‥‥」
魔法でその姿を映し出していたアデリーナがぼそりと呟く。同時に動いていた壁はその動きを完全に止め、壁から排出されていたデビルも来なくなった。
「な、なんだ‥‥？」
「そういえば‥‥この砦には核があるんですよね？」
アデリーナの何の気なしの言葉に全員の動きが固まる。
「まさか‥‥ムルキベルのＭって‥‥ドＭのＭとちゃうやろか！？」
「いや、それはないだろ‥‥」
ジルベールの思い付きにも程がある言葉は仲間たちの冷たい目線と溜息で静かにかき消された。
とにもかくにも、ディーテ城砦の一角を守護する義兄弟、牛頭鬼モドキと馬頭鬼モドキは滅んだ。これによって、義兄弟が守護する一角はムルキベルの支配から解放され、変化が止まる事になるのだが――その喜ばしい事実に気付くまでには、まだもう少しだけ時間が掛かるようだ。
咄嗟にその事実に気付けないほどの強烈なインパクトを残して散った、義兄弟の事はしばしの間、冒険者の記憶に鮮明に残されることだろう。
〜Ｆｉｎ〜
