雪融け祭。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳴神焔

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月05日〜05月10日

リプレイ公開日:2008年05月09日

●オープニング

 寒さの残るキエフの街。
 様々な地域で春の訪れが感じられる一方、この地域ではようやく白銀の世界が終わりを告げようとしていた。もちろんそれが春の訪れであることはこの地域の住人であれば知っていることなのだが、ここ最近は冒険者や開拓者がよく来国する。そのため街の人の半分ぐらいはまだまだ寒い季節が続いているように思えてしまう。
 そんな中、街では一つのイベントが行われようとしていた。せっかく様々な種族の人が集まっているこのキエフで何もしないというのはもったいない、という人々が三ヶ月間準備をしてきた一大イベント。

 その名は―――雪融け祭。

「いいか皆の衆! 今回が初めてとなるこの祭り、何が何でも成功させなくてはならん! 」

 部屋の机をバンっと叩き、人だかりの中心にいる男はそう言い放った。その声に沸き立つように周りの人々が掛け声をあげる。皆精一杯の大声を張り上げているため、地鳴りのような振動が部屋を包んでいた。それぞれが「やってやろう」「盛り上げましょう」など思い思いの言葉を紡ぎながら手を取り合い団結力を確かめていた。と、突然大きな音と共に扉が開かれた。

「静かにしてくださぁぁぁぁぁぁい!! 」

 宿屋の女将の怒声と共に全員が追い出されることとなり、その日の会議は中止になった。

 数日後。
 その日キエフの冒険者ギルドは前代未聞の賑わいを見せていた。老若男女種族問わずの人々がギルドに押し寄せてきていたからだ。その数なんと三十五人。

「そ、それでどのようなご依頼でしょうか? 」

 余りの依頼人の多さに少し顔を引きつらせながら受付嬢は集団の中心にいる男に話しかけた。男はカウンターに手を叩きつけると、鼻先数センチ程にまで受付嬢に顔を寄せた。

「我等がキエフの一大イベントをしようと考えておるのだが・・・人手が足らん! 何でも良いから手伝ってくれ」
「な、何でもいいと言われましてもぉ・・・」

 目の前に迫り来る親父顔から必死に逃げながら困惑顔を浮かべる受付嬢。そこで中心の男だけでなくその他の依頼人三十四人全員が受付嬢にずいと顔を寄せてくる。

「キエフの発展のために!! 」
「ふえぇ〜・・・・・・」

 三十五人のハモリと共に受付嬢の泣き声がギルド中に木霊した。


 冒険者の皆様へ。
 今回の依頼はキエフでお祭りをやってみようというものです。今回お手伝いしていただく方は若干名になるとは思いますが、初めての試みとなりますのでお祭りに相応しい催し物を考えてみてください。

●今回の参加者

 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec2055 イオタ・ファーレンハイト(33歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 ec4804 櫻乃宮 瑠璃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4810 オルフェ・ガーランド(27歳・♂・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ec4851 テレーゼ・エンゲルハルト(23歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4862 ヒャーリス・エルトゥール(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

セツィナ・アラソォンジュ(ea0066)/ アド・フィックス(eb1085

●リプレイ本文

●準備で大忙し。
 祭を控えた街中は異様なほどの熱気で満ち溢れていた。元々この地方の人々は大層な祭好きが多く、雪融けと共に始められる今回の試みは数少ない娯楽の一つであった。
「せっかくの祭だ、やはりシンボルのようなものがあるとよいな。花は春の訪れを告げるもの、今回の祭にはぴったりではないか」
 そう言って花屋で大量の花を購入していそいそと抱えてきたのはオルフェ・ガーランド(ec4810)。どうやらこれを配って胸につけてもらおうということのようだが、あまりに大量のため手伝いに来ていたアド・フィックス共々花まみれになっていた。
「あたいはどんなお祭りにするにしても踊ったり歌ったりできる舞台があると嬉しいわ。何人か設営で人手を貸して貰えるかしら」『かしら☆』
 お色気シフールのシャリン・シャラン(eb3232)は、相棒のフレアと共に舞台設置に大忙し。手伝いに来ていたセツィナ・アラソォンジュに激を飛ばす。
「はい、そこ頑張って! あたいに力仕事なんてできないんだから!」『だから☆』
 その舞台の横ではヒャーリス・エルトゥール(ec4862)が自慢の名器「桜の散り刻」の手入れに勤しんでいた。音楽もまた祭を盛り上げるためには必要不可欠だ。
 一方今回のメインイベントとも言うべきブリヌィ露店の準備を進めていたのはルイーザ・ベルディーニ(ec0854)とケイト・フォーミル(eb0516)のカップル。お祭料理でもあるブリヌィのトッピングをお客さんが選べるようにしてさらに食べやすく、というのが今回の狙いだ。
「楽しめる祭りにしたいな! うむ!」
「あたしらがきたからにはカオスになるほど盛り上げてやるにゃー!」
 妙に気合が入ったケイトとルイーザ。やはり皆祭という響きには何やら燃え上がるものがあるようだ。
「おーい兄ちゃん、こっち手伝ってくれやー」
 実行委員会の人々が町並みを様々な飾りで彩っていくのを手伝っているのはイオタ・ファーレンハイト(ec2055)だ。元々はルイーザに無理矢理引き込まれたイオタだったが、やるからには全力でと実行委員会の手伝いをしていた。
「この小屋がちょうどいいわね。ここにしましょう」
「そうですね。ここならお祭の見学も出来ますし」
 事前に街の人から借りられそうな建物を聞いていたテレーゼ・エンゲルハルト(ec4851)と櫻乃宮瑠璃(ec4804)は街のお母さん用の託児所とけが人が出た際の救護所としての建物に目星をつけていた。その後テレーゼは祭当日屋台傍のテーブルセッティングや下拵えに、瑠璃は自身で出す占い場所の確保へと向かっていった。

 大忙しで準備を進めた二日間―――ついに祭の当日がやってきた。

●祭だわっしょい。
「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! キエフ名物ブリヌィだにゃー!」
 東方ジャパンの巫女装束に身を包んだルイーザの威勢のいい呼び声が辺りに響き渡る。どんな層を狙ったのか眼帯にうさ耳まで装着していた。しかしそんなルイーザの姿を見て屋台の裏から悶えているのが一人。無論、ケイトである。どうやらツボに入ったらしくこそっとガッツポーズをしていた。
 街のあちこちではオルフェが買ってきた花をせっせと配って歩いていた。さすがに見た目優男でフェミニストなオルフェが花を手に配り歩いている姿は目を引くのか、オルフェの周りには女性が集まるようになっていた。そこを狙ってブリヌィを売っていくルイーザ。
「ちょ、ちょっと待てルイーザ! こっちには助け舟はないのか!?」
 必死の形相で叫んでいるのはイオタ。イオタの周りにも驚くほどに人が溢れていた。ただし、その全員が筋肉質でフリフリのドレスを着たおぢさまたちだったりするわけだが。
「そっち系は任せたにゃー」
「頑張るのだ!」
「いーやーどぅわぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ルイーザとケイトの激励にイオタの力一杯の悲鳴が木霊した。
 屋台の傍のステージではシャリンとフレアの踊りが客を賑わせていた。元々シフールや妖精を嫌う人間など滅多にいない。ましてその踊りということならば可愛さ満点というものだ。春になって芽吹く花のイメージというその踊りは、ゆっくり小さな動きからだんだん激しく大きな動きに変化していく。曲の盛り上がりがピークに達したところで観客から盛大な拍手が巻き起こった。
 シャランたちの踊りが終わった後はヒャーリスの横笛の音色が会場を優しく包み込んでいく。どうやら彼女の祖国の音楽であるようだが、音楽に国境はない。良い音楽はどこの国でも良いものだ。踊りの情熱的なメロディーとは打って変わって心地よい旋律が観客たちを魅了し、しばし時を忘れてその音色に聞き入っていた。一通りの音楽が鳴り止むと、一瞬の静寂の後、割れるような大歓声が会場を包み込んだ。
 盛り上がる中で少し異質な雰囲気を醸し出しているのは瑠璃の占い。ここでは珍しいト占はキエフの人々の好奇心を煽り、特に女性が瑠璃の言葉に耳を傾けていた。
「占いは万能では有りません。当たるも八卦、当たらぬも八卦‥‥結果を受け止める貴方のお心次第ですよ。何か、お悩みでも? 私に指し示せる道があれば、お手伝いいたしましょう」
 どうやら評判は恋占いのようだ。初めは見ているだけだった観客も、誰かが良く当たると言った途端列を成すほどまで大盛況になっていた。
 そんな女性に人気の占いには当然奥様連中が黙ってはいない。その奥様たちのために一役買ったのがテレーゼの託児所だ。奥様たちも純粋に楽しみたいときだってある、そう考えていたテレーゼの読みは見事に的中し、常に満員御礼の状態の託児所。
「お母さん方も子育て大変よね、いつもお疲れさま。今日ぐらいはゆっくり楽しんできてくださいな。大丈夫、私も楽しいし、皆にも楽しんでもらいたいから」
 申し訳なさそうに預けに来る奥様たちに、にこりと微笑みながら答えるテレーゼ。きっとこのときのテレーゼは聖母様のように耀いていたことだろう。

●始まりあらば終わりあり。
 祭りもいよいよ最終日に入り、人々のテンションも最高潮に達していた。皆で考えて呼び込みにも力を入れたブリヌィ屋台。ルイーザとケイトの表裏のコンビネーションがキラリと光り、イオタの絶妙なる引き寄せパワーにより予定していたよりもかなり好評であった。
 ちみっこコンビのシャランとフレアのダンス舞台。この祭によって二人の踊り子はキエフの春の名物になるのではないかと思われるほどに会場は沸きあがった。ついにはキエフにファンクラブができたとかできなかったとか。
 そしてその後会場を包み込んだヒャーリスの演奏。彼女の奏でる横笛はキエフの春の訪れに相応しい柔らかな、そして優しい音色で人々を魅了した。音楽があれば言葉がなくとも通じ合える、そんなことを思わせてくれる一時であった。
 最終日になり羽目を外す人が増えてきたため救護班に回っていた瑠璃は祭の前半に見事な占いを披露し、特に女性の心を鷲掴みにした。救護所では男性陣がその麗しき姿を見るためだけに怪我をするというハプニングもあったりした。
 そして祭の間託児所で子供たちの相手をしていたテレーゼ。キエフの奥様たちの間ではいつの間にか聖母様というあだ名で呼ばれるようになり、さらに子供たちの間では第二のママなんて呼ばれるほど祭の裏の顔となっていた。
 それぞれがアイデアを持ち寄り、キエフという街を巻き込んでの祭は、かくして大成功となり幕を閉じた。後日冒険者ギルドに、この祭を恒例としてキエフに根付かせるため尽力するという決意文と、その際はぜひともまた一緒にやろうという実行委員会からのお誘いの手紙が来ていたという。

Fin〜