●リプレイ本文
ロシアのジャイアント、コロス・ロフキシモ(ea9515)は依頼人のルイに向かい。
「依頼が失敗すれば、報酬は無し‥‥の様だな。依頼人殿の持ち金ももう無いとなればこの依頼を必ず成功させる他、道はあるまいな」
「よろしくお願いします。もう縋る道はないのです」
「任されよ」
コロスに、ルイの娘に関しては関心は無い。仕事を忠実にこなすのみ。
「病患いの娘が居るとはご苦労な事だ‥‥俺には関係の無い事だがな」
動いたのかどうか判らない表情で、コロスは厳かに告げた。
「そうか、一朝一夕に出来るものではないか‥‥失われた技術というシロモノなのか──」
パリの冒険者ギルドで既に配備されたガーゴイルの命令を書き換える術が、このパリでは知られていないとギルドの係員に知らされた岬芳紀(ea2022)であった。
続けて彼は、ガーゴイルに守備された城の図面など無いか、短い時間を惜しんで調べていたが、他人の城の図面などを公開してくれる様な親切な施設はない。まがりなりにも城といえば、軍事上の拠点である。
「城と言うものは抜け道が有るとか──昔、聞いた憶えが‥‥、もっとも1日も調べずに判る抜け道では、逃亡の要を為さないな」
急ぎ、韋駄天の草履の速力で、先行した一同に合流する芳紀。
その翌日、仲間達が城に入る準備をしている間に、マート・セレスティア(ea3852)は高い木に登り城の様子を眺める。
「いるいる‥‥1、2、3、沢山──ガーゴイルがいっぱいいるよ」
周囲を巡り、城やガーゴイルの様子を確認して、楽しそうに叫ぶ。
「行きます」
緑色の淡い光に包まれながら、カレン・シュタット(ea4426)が印を組み、詠唱を為す。
指先から彼女の最大出力の稲妻が発せられ、動かないガーゴイルを打ち据えるが、表面で弾かれ、傷ひとつついた様子はない。
「しまった。ガーゴイルは石造り。石に電撃は利きません。風属性の攻撃で地属性のものを討とうとしても、無駄な事でした」
「なーに、下手な剣も数振りゃ、当たるってね。こいつの腕はからっきしだが、動かない相手ならどうにかなるだろう」
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)がヘビーボウを片手に闘気を膨れあがらせる。一瞬の内に淡い桃色の光に包まれた。
「なむはちまんだいぼさつ‥‥って何だっけ、この呪文?」
脱力した九紋竜桃化(ea8553)曰く。
「ジャパンの神ですわ」
「そっか。思い切り昼間だけど、星よ導き給え〜」
井伊貴政(ea8384)はそのフレーズに笑って──。
「建物の中に入ったら、なおいっそう困りそうですね。どうします?」
構わん、と言って、シルバーアローをロヴァニオンは番える。
「必殺必中シルバーアロー! ‥‥いや高いんだからちゃんと当たってくれよ」
射撃の腕は鍛えていなくても、動かない相手なら命中する、石の表面に当たりながらも矢は食い込んだ。
それを見て──。
「そうだった。俺も動き出す前に幾らか、弓矢でダメージを与えておくのだった」
──ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)は慌てて、馬の鞍を探って弓矢を探すが、見当たらない、苦笑いしながら──。
(ガーゴイル30匹か。またよくも集めたものだな、しかし、その遺産を残した相手はどんな人物だったのか?
まあ‥‥愛する娘さんが病弱、ね。治療費、生活費大変だからな‥‥チャンスがあれば藁をも掴む気持ちは、解るぞ。
まあ俺の恋人は、病で死んじまったが)
矢をロヴァニオンが撃ち尽くした所で、1体のガーゴイルがぐらつくように倒れた。
そこでクライフ・デニーロ(ea2606)が改めて一同を集めて、確認作業。
ガーゴイルの稼働条件に関して、である。
「其々が城から100m範囲での対象者への全力攻撃。
回避・防御・伝達・連携はしない。
感知は其々の目視におそらく依存。
表側円周に配置されているのは広い視角を確保する為で、石像1が動いたから、石像2も必ず動くわけでは無い。
条件消失後は所定位置に戻る──だと考えています」
そこで一呼吸置いて。
「また、ヒトより小さい者や小動物が対象になるかは確認が必要。
其々がメダルを着けている事から、稼動時は彼らも条件を満たすと被攻撃対象に為ると予想。
以上を僕の見解として、皆の判断を仰ぎたいのですが、どうでしょう?」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は更なる疑問を重ねる。
少年の作戦の前提はガーゴイル達が持ち場から100メートルを出た所で、反転して戦いを止めるかどうかであった。
100メートルを出たところで反転するか不明なので、もしガーゴイルが予定通り動かなかったら戦闘、となるしかなかったのだ。
誰もガーゴイルに関して、精しい知識を持ち合わせていなかったため、打ち合わせは個人の行動の是非に変わる。
「『があごいる』? 石の像が動くのですか? 此方には不思議な物の怪が居るのですね」
神剣咲舞(eb1566)は今まで着ていた防寒着を脱ぎ捨て丁寧に畳みつつ、一同に問うた。
それに対し、老齢のジィ・ジ(ea3484)はうなずきつつも、経験則からすると、もっと突飛な怪物も居るだろう、と告げる。
「ジャパンは狭いのですね──ですが、その『があごいる』とやらは、与えられた命令通りに動くのですか?」
咲舞は神妙に尋ねる。
「動くのでしょうな、さもなければ命令を下す意味がない」
神妙に返すジィ。
同じく、A〜C班の3班に分けられた内のB班に所属するキラ・ジェネシコフ(ea4100)はジィに作戦の決行を早く望む。
「30のガーゴイルとはいえ、石像に後れを取る程ではないつもりですわ」
不吉げなサイズを構えた彼女は既に、桃化からオーラパワーを付与され、続いてジィにバーニングソードをと、ねだっていた。
サラ・コーウィン(ea4567)も魔法が切れる前に、と。ジィに物欲しげな視線を投げて寄越す。
「仕方有りませんな。話は今度としましょう」
咲舞も桃化から、オーラパワーで己の大鎚と、十手にオーラパワーを付与して貰い、更にジィのバーニングソードで破壊力を強化される。
そして、100メートル上のラインで3方向から分かれた一同が陽動を始めた。
城から100メートルの距離に入ると、そのライン上に居たガーゴイルが動き出す。
そして、ガーゴイル達は素早い翼で、一気に距離を詰めにかかる。
だが、空中から冒険者に襲いかかろうとした所で、向かってこられた冒険者達は100メートルの圏内からとうに出ていた。
別の対象に攻撃しようと反転したところ、短い間に一気に間合いを詰めたB班のジィの鞭と、ヤングヴラドのチェーンホイップが唸りをあげて絡みつく。ガーゴイルはバランスを崩して落下した。
「ふはははははは! ラ・イレイザー参上なのだ〜!」
ヤングヴラドの高笑い。
ジィがメダルを得ると、危険を顧みず城に突入し、城内を調べる。しかし、ざっと見た限りでは、城内に怪しい物や、特に高価そうな物はなく、ガーゴイルが守っているのは城そのものであると判断せざるを得なかった。
「城には何もありませんぞ、ガーゴイルを同士討ちさせてください」
「何だ、残念‥‥だけど、ひゃっほー!」
ジィの言葉を確認すると、身軽に攻撃を避けつつガーゴイルによじのぼったマートがメダルを手に入れていく。
後はねずみ算式にメダルの獲得数は増えていき、メダルを失ったガーゴイルは同僚からの攻撃対象になる。
更に破壊はガーゴイル同士の戦いでは互いの強靱なボディ故不可能であった。しかし、そんなカオスな状況を見て喜ぶキラ。
「秩序など革新の邪魔でしかありませんわ」
サラも日本刀でガーゴイルの戦いに割って入る。
「カララちゃんの病気を治すのよ!だから倒れて!」
必死だが、打撃力にどうしても欠ける。一方、ロヴァニオンが──。
「我がちゃぶ台は岩をも砕く! 壊されたくなければメダル置いてけー!」
ナイトとは思えない強盗まがいの発言であるが、ガーゴイルは言葉を理解しない。
そこで、メダルを下げたロヴァニオンが卓袱台を全力で一振りすると、一部とはいえガーゴイルの岩の体をも砕いた。
「いやー、やってみるもんだ。本当に岩も、卓袱台で砕いちまった」
返すガーゴイルの攻撃は、急所を逸らす事で、オーラで癒せる範疇に止め、次の一撃で止めを刺す。
「すげーな、コナン流」
一方──。
「はて‥‥ガーゴイル同士の戦いに巻き込まれないようにメダルを回収って結構難しそうなのだ。大丈夫であろうか?」
ヤングヴラドの懸念通り、ガーゴイル同士の戦いで損傷したメダルも幾つかあった。しかし、全員に行き渡るには十分であった。
自己防衛の命令が組み込まれていないガーゴイルはメダルを持った冒険者に片端から砕かれていった。
「終わりましたね──まるで墓場だ」
クライフが呟く。まさしくこの城はガーゴイルの墓場であった。
アイスコフィンでの捕獲は相手の抵抗を考えると──また、パリの市街に持ち込む事を考えるとあまりにリスクが高すぎると、判断せざるを得なかった。何しろ命令を書き換えられる人材を見つけるまで、どれだけの時間がかかるか判らないため、非現実的な事であった。
芳紀としてはガーゴイルの命令を書き換え、カンの領主に引き渡したかった所だ。あの地に出没する悪魔に備え、空への番犬になるのでは、と期待したのだが。
「ムウゥ‥‥この程度か」
コロスは何事も無かったかのように、立ち尽くす。
「では、お先に失礼させて頂きますわ。メダルだの、城だのに興味はありませんもの」
キラは踵を返す。
こうして、城の制圧は完了した。
芳紀はパリに戻るとルイ氏に確認をする。
(「城の方はルイ氏が決める事だが,一応,確認をしておこう」)
「ええ、買い手が付き次第売り払いますよ‥‥あんな城に住むのは性に合いません」
ロヴァニオンは“まるごとめりーさん”と、甘酒、それにスイートベルモットを詰め込んだ袋をルイに渡す。
「もう冬だからな。寒いときはあったかい格好で美味いもん食うのが一番だ。娘さんが元気になったら俺の店に顔出してくれよ。そろそろ冒険者引退して酒屋一筋でいこうかと思ってんだ」
「あれだけのお強いお方がですか? ともあれ、私の人生ではありませんし、引き留めるのもおかしな筋合いでしょう。冒険者街に行けば宜しいので?」
「ああ、迷うなよ」
「親心があるから千鳥足では帰りませんよ」
その言葉にカレンは──。
「なるほど親心ですか──やるだけやりました。しかし、相性が悪かったようですね、できる事も少ないのとカララちゃんの為に、報酬の半分はカララちゃんへの見舞金として下さい」
「忝ない」
「まあ、皆さん。一食しませんか?」
と、貴政。
「無事、依頼が完遂出来たら、カララさんに精の付く物でもご馳走しようかなーと思っていたんですよ。もちろん、自腹、自家製でね」
と笑いつつ。
「あ、希望者が居られれば、もちろんその方々にも。どうです? ジャパン料理を少々」
言うが、コロスは既に居なかった。キラも同様である。
11月28日‥‥パリの一角は暖かった。
これが冒険の顛末である。