●リプレイ本文
少女めいた顔立ち、いや少女そのものの風体のアリエス・アリア(ea0210)は白銀の元へ、子供を救い、薬草を獲得し、白銀と話し合う為に向かうに当たり、自分にひとつの誓いを立てていた。
「京都での私の初めての依頼‥‥。だからこそ、誰も傷付けさせたくないんです」
「全く優しすぎるぜ、お前さんは、だけどそれがいいじゃん」
平島仁風(ea0984)は優しい振りを装って‥‥少なくとも優しくいられる今の内は──アリエスに話しかける。
「‥‥蛇。しかもでっけぇの。うーん、ゾッとしないねぃ」
雪の降りしきる街道で、セブンリーグブーツを履いて、仁風と彼の愛馬、玄(くろ)と併走する、物部義護(ea1966)の愛馬の姿があった。
「土地神、か…しかも蛇。
知っているか?
信州諏訪大社の祭神はタケミナカタ命だが、遥か昔は山に住む蛇神を祀っていてその名残は蛇神がタケミナカタ命により退けられた 後も神事の随所に残っているそうな。
そして諏訪大社の神紋は『梶の葉』、序に東国有数の軍神でもある。
‥‥我が物部家の家紋にもその梶の葉を使っていてな。
早い話が諏訪大社の氏子なのだ、家は。
そんな訳でなるべく蛇神の類とは荒事を起こしたくは無い‥‥が、そうも言ってられんのがこの稼業の辛い所よなぁ。
最悪、白銀様を討つ事となっても条件がある
勿論個人的にな‥‥。
『白銀様を改めて村で祀る事』
『牙や鱗等体の一部を譲ってくれる事』
これが俺の条件だ。そう上手く行くかは置いておいて、だが」
言って、義護は街道を逸れて、予め依頼人の雪上から聞いておいた、村に縁のある寺、神社にて、不可侵の取決めが成された当時の記録を探しに向かう。
取決めがされた時の状況、高僧や神職による封印類の有無、白銀様が元々暴れるような性質であったのかとか読めそうな記録を優先的に調査。
寺社に口伝が残っていないかも聞くつもりであった。
そんな義護は脇にのけ、皆と同じく、街道を馬で邁進する月代憐慈(ea2630)は『基本的に俺は尊い者は敬う性質なんでな、今回は仲裁に向けて動こうと思う』と自分の立場を表明。
その上で、白銀様との契約の系譜を村の古老などを通じて探る心づもりであった。
それと、これは個人的に、村人は今回の件を、どう思ってるかを聞いておきたい。つまり、この子供たちに関して、罪悪感はあるのか? 白銀殿を未だに敬ってるのか? その辺に関してである。
依頼人のジャイアント、雪上刹那の話ではどちらも意識は薄い様であるが、
氷川玲(ea2988)はそういった学究的な態度よりも、実利を優先する質らしかった。
「さて、白銀も悪気があってやってるわけじゃねぇ、むしろ非は人にあるからな。ここら辺が難点か」
馬を走らせながら、核心を突いた発言をする玲。
可憐な少女にしか見えない、草薙北斗(ea5414)は魔法の道具で彼等と併走しながらも、心の内で割り切れないモノを抱いていた。「お爺さんを助けたい気持ちは解るけど、掟を破って白銀さまが怒っても、それはそれで解るし‥‥」
(だからって、お爺さんと子供たち。そして白銀さまを見殺しになんて‥‥。
皆を死なせないで、和やかな時を迎える。夢のようだと言われる道を僕は成し遂げたい──そのためにも、まずは皆で先を急がないとね)
一心不乱に脚を前に出しながらも、連れてきた馬の手綱は離さない。
水葉さくら(ea5480)はライディングホースにまたがりつつ──物思いに心を馳せる。
(大きな蛇の神様‥‥おっきな、蛇‥‥蛇‥‥む、昔、一時だけお友達だった蛇のかなちゃんは、元気にしているでしょう‥‥か‥‥)今回の件と関係有りそうで、実は無関係な事を考えながら、何とか遅れを取るまいと、懸命に手綱を内に締める。
村に着いた所で、蛟静吾(ea6269)が先頭を切って、村人達へ、自分達は依頼を受け、冒険者ギルドから派遣された者である事を告げ、積極的に情報収集を始める。
静吾が特に注目したのは禁断の沼、及びそれに関わる話と、大蛟と古代に不可侵の条約に及んだ過程の話であった。
しかし、軽く当たってみた感触を信じれば、事は神聖歴以前の話らしく、その辺りを、噂以上に、この村で残してあるのは分社の縁起だけであった。
当然一同の視点はそこに向かう。
しかし、その前に静吾は事の発端となった、心の臓を煩った老パラの下を訪れた。
「ご客人ですか、何も出来なくて──」
「いえ、そのままで結構です。この度の事、誠に心を痛めておらっしゃるでしょうが、ご心配なく僕が孫君と、その友人を無事つれ返してご覧に入れましょう。ですから、勇気を持って、お待ち下さい」
「おお‥‥ありがとうございます。まったく、腕白な孫でして」
「腕白なのは良いことです。ともあれ、心を安んじあれ」
閑話休題。
分社を訪れた一同をがっくりさせたのは、予想外の事であった。
縁起は一同誰もが読み書きできない文字──多分、古代魔法文字──で記されていたのだ。
「これ──読める?」
アリエスがボロボロになった門外不出の書物を丁重に広げようとするが、分社の禰宜は慌てて止めさせる。
禰宜が聞いた話では、本社の方に漢文に訳された、全文があるそうだが、如何せん今から行っていては時間が掛かりすぎる。
そこで一同はかんじきを準備して貰う事にした。代金を──という向きもあったが、そこは村人達が子供を救ってくれるなら、という事で笑って許してくれた。
蛟神に差し出す為の酒も『どぶろく』ながら用意してくれた。
無論、皆が京都から持ち込んだ洗練された酒の数々は別勘定である。
禁断の沼というだけあって、位置は精しく判らないし、薬草がどこに生えているかも知識が無ければ見当がつかない。
しかし──知識があれば、回りから見た植生で推し量れば、その森にはえていると子供たちが考えたのではないか、というのが、薬草を扱うパラ達の推測であった。
とにかく、森に入るという事自体が禁を侵す事であり、反対する向きもあった。
「お願いです。これ以上、白銀様を怒らせないで下さい」
ジャイアントの古老のひとりが冒険者達に訴えかけてきた。
仁風はその言葉に対し、厳しい意見で切り返した。
「ならば、それは依頼が出る前に止めるべきだったな。一度、こぼした水は取り返しがつかない物だよ」
「ですが、ここで終わらせれば、被害は5人で済みます」
そこへアリエスが口を開く。
「子供たちの、お爺さんを助けたい思い
その気持ちって、私には良く判ります。私は誰かを助けられる人になりたくて冒険者になったのですから。
だから‥‥その優しさで子供たちを死なせたくない。白銀さまと、戦いたくない。判って貰えませんか?
私は大切な人を助けたいという思いで、誰かに傷付いてほしくないんです。そんな優しい心から‥‥誰かが傷付くことになんて、なって欲しくない‥‥そんなの、厭なんです」
「だが、もう条約を破った事で白銀様の心は傷ついていらっしゃるだろう。その辺りも汲んでくれんか?」
憐慈は、それに対し自分達の態度を明らかにした。
「俺達はあくまで仲裁の為に向かうつもりだ。もう、事が始まったのだから、刹那さんを送り出す前にあんた等が論議を密にするべきだったのでは? 俺達も動いた以上、事は収束に向かう事になるだろう。それが冒険者という最終手段を使った結果だ」
しかも、彼等は京都でも名うての冒険者の一団である。長老達が如何に囲炉裏端での駆け引きに優れていようと、数多の修羅場をかいくぐった冒険者達の比ではなかった。
冒険者達は村を出た。
一方、義護は本社で丹念に保存された、白銀との対話の写しを記録した漢文を、神官達の付きっきりで解読して、ひとつの結論に達した。
「──このまま、交渉に向かっては不味い。白銀は神は神でも祟り神ではないか!?」
北斗と玲が森の外で一旦、沼が見えないかと凧を飛ばし、弐個所程度にまで絞り込んだ。
「結構、沼そのものは多いな〜」
しかし、大蛟が済んでいそうな、と呼べる規模の沼は多くない、良いところ凍って淀んだ水たまりである。
「さて、どうしたものか?」
「う〜ん見当たらないな〜? 洞窟とかないのかな? 『かまくら』らしい影も見当たらないしね。少し、見当を外したかな」
互いに玲と北斗は声をかけあって、空中で互いの情報を補完し合う。どちらにしても、沼まではそれほどの距離はない。子供の脚でも1時間はかからないだろう。
それを確認して地上に降り立つと、玲は腕力に任せて酒樽を担ぐ。
「酒樽かついでえーんやこーら〜♪」
玲の声と共に、森に分け入る一行。
アリエスは土地勘がないなりに、その代わりとして、野営の後…焚き火の跡や不自然に木の枝や草が無くなったり、最近折られた跡はないかには注意を──と試みるが、そういう事の差を見極めるのが土地勘である。
自身の無力に少年は焦る。
「子供たちはもう10日程も森から帰ってきていないそうですから、体力も限界かもしれませんし、できる限り急がないと‥‥」
焦っても、それをフォローしてくれる仲間がいるのは有り難い事である。
もし、彼ひとりで来ていれば遭難は免れなかっただろう。
一方、イギリス渡りの風の精霊魔法を試みるさくら。結印と詠唱により、緑色の淡い光に包まれた彼女は、定期的にブレスセンサーの魔法を唱える。
しかし、半々程度の成功率というのは結構キツイものがあり、一団もその度に動きを止める必要があるため、予想以上に足どりを淀ませる事になった。
その中でも、玲だけは遅れを取り戻すかの様に、着実に脚を運んでいるが、全体の動きを遅れさせている事には変わりなかった。
「ご免なさい、みな様」
『まるごと猫かぶり』を着込んで寒さを凌いでいるさくらは、あまり寒気を感じないが、他の一同はそうも言っていられないようだ。
「成果は‥‥すみません」
レインボーリボンを巻いた妖精の杖で、自らを庇う様にするさくら。その両腕にも、それぞれレインボーリボンが巻かれていた。
パラの子供サイズの気配は時折感じるものの、行ってみるとイノシシが逃げていく所だったり、飢えた若クマだったりと、あまりプラスには働いていないようだ。
仁風の呼び子笛にも今の所、反応はない。
ともあれ、雪々のまにまに、一同の前へ、沼が見えてきた。
「白銀様、迷っている童を捜しに参りました。どうか、お姿を現し下さい」
静吾が雪に負けない声で呼びかける。
沼の表面に張っていた薄氷(うすらい)を破って、全身を青銀に染めた巨体が、姿を現した。
水没している部分を含めれば、10メートルはあろうかという優美にして酷薄な蛇そのものである。それは異形の美であった。
「ここをこの西方一の大蛟、白銀の結界と知っての狼藉であろうな、小さき者どもよ」
頭の中に響く声には『女性』のイメージが付きまとっていた。
静吾は後ろに退いて交渉を他の者に任せる意志を表明する。玲も以前の反省を踏まえて、一度に我も我もと交渉しようという愚を悟って、引き下がる。仁風も退きながら、思わずぼやく。
「‥‥うへぇ、ありゃ郷里のお袋に勝るとも劣らねぇ、おっかなさだぜぇ‥‥」
「‥‥──聞こえておるぞ」
「くわばら、くわばら」
「私は大切な人を助けたいという思いで、誰かに傷付いてほしくないんです。そんな優しい心から‥‥誰かが傷付くことになんて、なって欲しくない‥‥そんなの、厭なんです」
アリエスは、村でも訴えた思いをそのままぶつける。
「成る程、成る程。で、結界を侵された私は十二分に傷ついておるぞ? 素晴らしい理想論じゃな。翻って言うが、傷つけられた白銀も厭じゃ。故に話は聞きとうない」
「失礼。しがない神楽舞の月代憐慈と申す。白銀殿どうかそう言わず、酒を献上致しますので、どうか気をお鎮め下され」
今回は子供のした事とはいえ言うなれば村の監督不行き届きだしな 言って玲が酒樽を持って前に進み出る。
「白銀殿の方に否は無いし、この交渉内容も契約を破った側としては身勝手な言い分なのは重々承知だ。
だが、村人たちの思いと、祖父を思う孫の思いどうかご理解頂きたい」
「理解できぬのう。酒は貰うが、白銀は酔いたいときに幾らでも酔える。
村人の思い? 神との契約を破っておいて、何だその一方的な言葉は? 祖父を思う孫の思い? 白銀は天地(あめつち)の精から生まれたもの。故にその様な思いは解せぬ! 身勝手と判っているなら、森に入ってくるな。‥‥森を侵さなければ、何も事を荒立てようなどとは白銀は言っておらぬぞ」
「では、対価は‥‥?」
「ない」
「ならば──子供たちは?」
「この岸辺辺りの雪に埋もれて居るのう。氷の棺に封じてのう」
精霊魔法のアイスコフィンの魔法らしい。
また、状況は微妙になった。
そこへ、巫女装束姿に着替え、人見知りを一生懸命さくらは押さえつつ、言葉を挟む。
「あ、え、えと‥‥もし、白銀さまが何もお求めにならなくても、せっかく来たのですから、お、お世話、させていただけません‥‥でしょうか‥‥? 騒がしてしまった非もありますし‥‥ご、ご迷惑であれば、速やかに退散いたします‥‥けど‥‥」
結局、プレッシャーに耐えきれず、しゅんとなってしまう、さくら。
「白銀の結界を破っておいて──速やかに退散‥‥何を白銀の前で甘えた事を言っておるのじゃ、ああ?」
真っ向からさくらと視線を合わせる白銀。
「!‥‥──ご、ごめんなさい」
冷ややかな視線におずおずと後ろに退くさくら。
静吾はこの一連の交渉の中で、漠然とだが、この白銀が怒っているのは事実だが、それ以上に蛇の性、弱い者をいたぶるという傾向が見えてきたと思った。
「お話に加わっても構いませんか?」
尻の雪を払いつつ、立ち上がりながら静吾は言葉を発する。
「僕は『蛟』静吾。西に住む水神に仕えし一族の者です」
「ほう、それは面白いが、ただそれだけの事。白銀を祭っているのでなければ何の関係もないわ」
「そうですか。では、改めて、貴方に子供達が何をやったのか確認したいのです」
「知れた事を。森の中に入ってきて、草の根を掘り返し。白銀の誰何の声にこの沼まで来て、自らのした事を反省しながら、白銀の神通力の前に、氷漬けになって言っただけの事」
「‥‥そうですか、こちらに非があるものに対し素直に非を認めます。それは皆と同じです。
では、どうすれば、許しを得られるのか尋ねさせて下さい」
そこに義護の声が響いた。
「白銀は嘘をついている!」
後方に、木の枝をアリエスが折っていった痕跡を頼りに、到着した物部義護の姿があった。
仁風も日本刀を杖代わりに立ちあがる。
「縁起書を読みました。知恵有る大蛟白銀、周囲の夜刀神を率い、人々を大いに苦しめたる禍津神の総大将なれど、その性酷薄にして、配下の夜刀神からも離反する者相次ぎ、最後には蛟の定め、這って地を行く事も適わず、浮いて空を行くことも敵わない為、沼から出られない事を看破され、沼神として封じられ、神主達にこの森の守護者たる事を命じられた落ちたる神。それが白銀の正体だ。爪印とまではいかなかったが、牙型を取られているな? 分社に奉ってあった縁起書の原本にあるそれを見せてもらった。
この蛟は人並みの知性と、他の蛟より優れた牙捌き、そして高速詠唱を兼ね備えただけのただの蛟だ。決して、こちらから伏し拝むようなシロモノではない。氷に封じたのだって大方騙し討ちだろう、どうだ?」
「この白銀を愚弄するか?」
「なら、神通力を見せてみろ。一撃で子供も殺せない程度の魔力しか備えていないのだろう?」
「おのれ、おのれ!」
「おのれではない、物部だ。モノをノベるがモノノベなれば、当然の事」
義護の言葉に、白銀は巨体を波打たせて周囲の氷を叩き割る。
溢れた水が岸の雪を融かし、氷に封じられたパラの子供4人の姿を露わにした。
「まだ、生きています。大怪我を負っている様子はないみたいですから、氷を融かせば──」
さくらが優れた視力と、応急手当の腕前を以て、瞬時に判断する。
「よし、行くぜ!」
仁風が日本刀とライトシールドを構えて
「世の中ままならねぇって知っちゃいるがよ‥‥散々舌でいたぶってくれたお礼じゃん!」
ジャパンの実力者に恥じぬ身構えから突撃しようとするが、一瞬の内に複雑に尾をくねらせた、白銀からの淡い青い光に包まれ、子供たち同様に氷の棺に、得物を構えた姿勢そのままに封じられてしまう。
しかし、その奢りに義護が魔法を発動する時間を与える。結印と緑色の淡い光に包まれた彼の手からは三日月状の真空の刃が飛び放たれる。
これを迎撃する術無く、白銀は直撃を浴びる。憐慈も続けて緑色の淡い光に包まれ、雷撃を以て打ち据える。
ジグザグに伸びた光は激しかった。
「鬼道衆弐席、『喧嘩屋』。コワさせてもらう」
玲が新撰組一番隊隊士としての腕前を発揮する。一瞬にして懐に飛び込むと、月露を振るい、魔力の障壁を越えて尚、手傷を浴びせる。
先程の雷の分と合わせて、重傷に達した白銀は逃げを打とうとするが、さくらが義憤に任せて佐々木流の燕返しで追い打ちを駆ける。全力を込めた上段からの一撃、翻るは下段からの斬り上げ。妖精のスタッフなので殴り上げと称するべきなのだろうが、どちらにしろ、今の重傷を負った白銀でなければ、決まらない一打であった。「人の行動によって変わるのさ‥‥未来は。だから、この世が厭なら、あの世を楽しむ事だな白銀殿──」
さくらと同じく、静吾の燕返しの二刃が白銀を襲った。
その一撃を受けて尚、白銀は沼に潜り込む。
憐慈が沼底目がけてライトニングサンダーボルトを放つ。
濛々と泥が沸き立ち、それ以上の追い打ちは不可能になった。
しかし、1分ほどすると、無傷で白銀は沼の面(おもて)を割って現れた。
「ふふふふ、蛟には己の傷を癒やす力がある事を知らなかったようじゃのう」
その肌には傷跡さえあれど、傷と言うべき深傷はまるで負っていなかった。
そして、尾を複雑に振りながら、再び青く淡い光に包まれる白銀。
子供たちを雪から掘り出そうとしていた一団は不意打ちとも言うべき形で、アイスブリザードを受ける事になる。
「忍!」
北斗はその最中、煙に包まれながら一瞬にして印を組むと、周囲の氷を爆炎で相殺しつつ、一番近くの氷塊の上に現れた。そのまま両手に手にしていたアゾットで斬りかかる。しかし、非力、技無し。魔力の障壁の前に掠り傷しか与えられない。
一同は、氷水の中に、身体を漬け込みながら、心の臓が凍りそうな寒さと戦う一同。相手の攻撃はそれこそ子供でも殺せないような一撃であった。
しかし、憐慈の様な長射程の魔法を皆が持っている訳ではない。 憐慈のライトニングサンダーボルトの北斗に当たらぬ様、注意を払った控え目な攻撃の中で、今度こそ雌雄を決さんと一同は間合いを詰める。
足下が不安定な分。先程の様に大技の連発を出して決められるとは限らない。
しかし、白銀の爪は浪人に取っては止まって見える程度のものであった。注意するには値するが、自慢する程のものではない。
後は確実に打撃を与えていき、逃がさないようにするのみであった。
続く輪の様な一撃に白銀は水の精霊力に還元され、一握りの霧と化して、雪々に溶けていった。
最後にケダモノの絶叫が上がる。それが1’000年以上の年月を生きた大蛟の最期であった。
それから1時間。急場でたき火を準備して、子供と仁風を暖める。
解凍された一同は意識を取り戻す。子供たちは目を瞑って正座したまま。仁風は盾を構え、一歩を踏み出した格好のまま。
「うぉおおお! あれ、白銀は?」
仁風はバランスを取り戻すのに四苦八苦。
「──れ、ご免なさい」かける4。
パラの子供たちであった。
手にしているのは土の付いた布袋。
「薬草は採れた?」
さくらが小首を傾げながら尋ねる。匂いから察するにトリカブトだろう。毒草も量さえ間違えなければ薬草の内である。
「あれ、お姉ちゃん達は? いけない、それより早くお爺ちゃんの所に行かないと? あ、白銀さまの罰も‥‥」
「もういいの、もう」
子どもたちに話すのは長い話になりそうであった。
これが冒険の顛末である。