辻殴りを追え
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月11日〜07月16日
リプレイ公開日:2004年07月16日
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●オープニング
「コナン流奥義! 鉄槌乱舞!」
冒険者街に響くゲルマン語の野太い声。
体重と武器の重みをかけて両手に握られたメタルロッドが振り下ろされた。
運の悪い冒険者は、鋭い音を立てて折れた、自らの剣を眺め見る。
とっさにダガーを出して、応戦しようとするが、冒険者は剣を折った相手が自らに無関心な風で向きを変えるのを月光の下、眺めるのみであった。
背中まで伸ばした金髪と、戦士という単語をそのまま彫刻にした様な見事な、筋骨たくましい上半身裸の姿だけが印象に残った。
「これで5人目──他愛もない」
「という事で、このパリの冒険者街で辻殴りに会った被害者は、10人になりました──その内ひとりが死亡しています。これまで生き残った皆さんの話を総合すると、夜にいきなり襲われる──それも必ず武装していて、尚かつひとりで歩いている場合です。仮面をつけて顔を隠して被害者に襲いかかり、相手の武器を破壊して、それで退くそうです。
おそらく殺された方は武器を破壊しても尚かつ抵抗したから殺されたのではないか、というのが統一した見解です。ところでわたし、こんなに長く喋ってよろしいんでしょうか?」
と、冒険者ギルドのお姉さんは長い説明を終えて、香草茶に口をつける。
「依頼はこの辻殴りの身柄を確保です。必ず生きて捉える事。それが条件です、たとえ正当防衛でも、殺害は許しません──相手の確認は出来ませんから。よろしいですか?」
異議を唱える声があったが、その条件に賛同した冒険者達がいそいそと契約書にサインを行う。
そして──その晩。
「秘伝、惚の太刀──6人目か‥‥いかんいかん、これでは勝負がつかんな」
●リプレイ本文
真夜中のパリ、屋根の上から声が降る。
「わしも同感じゃな。犯人はふたりいる。もっともそれに関する対策をこれっぽっちも考えておらんかったがな」
これがドワーフのカルロス・ポルザンパルク(ea2049)の──
「犯人はひとりなのだろうか。ひとりだと仮定すると犯行ペースが急ピッチ過ぎないか。むしろ犯人がふたりいて交互に競っていると考えたほうが自然な気がする」
という問いかけに関する忍者の割波戸黒兵衛(ea4778)の返答であった。
そこへアルフレッド・ノウマン(ea3910)の発した怒声が響く。
黒兵衛は屋根づたいに行こうとするが、光源も体術もない身では身動きもままならず、体で覚えた冒険者街の地理で予想される位置の退路を断とうと走り出した。
「貴様もコナン流か!」
アルフレッドと辻殴り、ふたりのコナン流のいくさ人がぶつかり合う。
「鍛え、砕き、護る。それが全て!」
「違うな──コナンは力だ」
「一撃が重い‥‥やはり、冒険者を倒してきただけあって流石に強いな。辻殴りよ、名は?」
「オイフリート」
相手のメタルロッドに十全の重量を遺憾なく発揮した辻殴りオイフリートのフィニッシュブロー、鉄槌乱舞が彼のラージハンマーを粉砕した。
「去れ。同じ流派同士で技の優劣を競うが本意ではない」
「ならばなぜ?」
「コナン流が異国の流派に優れていると証明するためだ。それ以上戦うか、ならば命を奪う!」
金髪の男の鋭い眼光がアルフレッドを射抜いた。
「させるか!」
カルロ・ジェスト(ea4528)がマントに刳るんだ槍を解放しつつ、オイフリートに向かう。自らぶつかる様な勢いで向かうが、メタルロッドの破壊力の前に、槍は月光に煌めきつつ、夜空にその破片を飛び散らかす。
「その剣筋、エンペランか? バランスに優れているが、それだけだな。これで8本目だ。下がれば命はとらん」
カル路はニヤリと笑う。
「知らないのか? エンペランには無手の技もあるじゃん、それこそが神髄だ。受けてみるか。その勇気はあるか?」
大法螺である。
「俺がやっているのは武器狩りだ、腕狩りではない。先ほどの素人同然の腕前を凌ぐ技なら是非とも拝見しよう。ただし、真っ二つだがな」
どうやってメタルロッドで相手を真っ二つにするか、想像もしたくなかった。
「ちっ、メンドくせぇな畜生」
緊張が高まった。
そこへ鋭い風切り音。辻殴りの足下の石畳に鋭い音を立てて跳ね返る。
「次は本気です」
屋根の上からリザ・フォレスト(ea4511)がショートボウに次の矢を番えながら宣告する。
そこへ流れる歌声。
「何故、襲うのです? 武器を 持つ者を
何故 壊したがる? 理由もないのに〜
武器を 壊して〜、ナンになる
意味はないのさ〜、ソンなこと〜そして明日はきっと」
三味線を弾きつつ、エルフのバード、オレノウ・タオキケー(ea4251)が歌う、哀愁と切なさに満ちあふれた曲であった。更に月精霊の呪力も乗せている。
「オレノウか待ってたぞ」
歓喜の声を上げるカルロ。
「そうだな‥‥どちらの流派が優位かなんて」
と、言った所で、魔法を切り替え銀色の淡い光で包まれ、スリープでオイフリートを眠らせる。抵抗は無意識の内に行われるのだが、脳味噌まで筋肉で出来ているような男にはそれで十分だったようだ。
「へへ、こういうのも騎士の務めみたいなもんでな。恨みぁないがお縄を頂戴してもらうぜ」
嬉しそうにカルロがリザから借りたロープでオイフリートを縛り上げる。
「さて、これでも辻殴り事件の半分しか解明出来ていないのだが、どうする」
「皆殺しで終わりだ。すばらしい結末だろう」
新たな声が響き渡った。
夜目が利く者にはそれが金髪の鬘を被った東洋人であることは判然とした。
そしてオイクリートと同様、メタルロッドを持っている。
その構えは子供が剣を振り上げた構えにただ左手を添えただけのものである。
「お前が辻殴りだな、降伏しろ」
カルロスが言う間もなく、間合いを一気に詰めてくる。
その東洋人は裂帛の気合いと共にメタルロッドを振り下ろしてくる。
盾で受けたが、そのまま勢いで押し倒されるカルロス、盾も木っ端微塵に砕け散る。
返す一撃で、ロングソードも砕け散った。
「やれやれ、道に迷った──何をするだーッ!」
黒兵衛は走りより、とっさに後ろから、東洋人に殴りかかる。
だが、軽く避けられる。
その隙に再びオレノウは術を唱え、眠らせようとするが、全く利いた気配はない。
「闘気を修めれば、そんなおためごかしの術など破る事は造作もない」
獲物を探すかの様に一同を見渡す。
飛び込む黒兵衛。
「おまえが堕ちるまでっ、わしは殴るのを止めないっ!」
相手を昏倒させようとするが、自分の得物であるロッドが逆に仇になってしまっている。
おまけに相手は闘気に自負を持つ、すなわち体力と精神力に自負を持っているのだ。それに魔力がプラスされたのでは手に負える相手ではなかった。当たっても利かないのだ。
黒兵衛の得物も次々と破壊されていく。
「判ったか示現流が最強なのだ。オイクリート共々死ね!」
「死なない程度に痛めつければいい。こうなったら、こいつを止めないと、死者が出かねん」
覚悟を決めたカルロスの指示の元、一同はサブウェポンの短刀を抜き、それぞれに間合いを取って、包囲する。
そこへ上からリザが根気よく矢を浴びせる。
幸いな事に矢止めの術は覚えていないらしく、何本か突き刺さる。
そして、士気に衰えが見えた──即ち、闘気が切れた段階で、オレノウが三味線を弾き、眠りとロープの下へ彼を誘う。
赤字だらけで烈しい戦いだったが、こうして冒険者街の安らかな眠りは守られたのであった。