●リプレイ本文
「京の都で一働きしていたが、江戸の漁師仲間の危機と聞いたら捨てちゃおけない。
海坊主を退治するぜ」
鷹波穂狼(ea4141)が筋骨逞しい拳を振り上げる。
対称的に淡々とした口調だが確実に──
「そうだ‥‥海の漢の誇りは失われたのか。立つ勇気はあるか」
──潮騒に負けぬ声で、ミュール・マードリック(ea9285)は8艘の船を失った村人に呼びかける。
「おお、俺はやるぞ、お蘭のとうちゃんには昔から世話になった。それを見捨てちゃ、海の漢の名が廃るぜ!」
一足早く辿り着いていた穂狼の手配で近隣から小舟を借りられ、一応の格好はついた。
「女性でしか──それも、またありでしょう」
山本建一(ea3891)が皆一丸となって裸体になり、分けて貰った寒さ止めの香油を身体にすり込んでいる際、穂狼が女性である事にようやく気がついた。
まあ、おおらかな健一故、また彼女が異種族、ジャイアントであるという事実も手伝って、羞恥心というものは湧かなかった。
「ま、そういう事だ。ちっちぇ、ちっちぇ」
自分の事を笑い飛ばす彼女を見ながら、トール・ウッド(ea1919)はわざわざ購入して江戸から運んできた小樽を小舟の陣容が整った事で、村で金子と交換。消耗品という事もありとんとんの値段がついた事に安堵の念を抱く。
「しかし、猟をした事はあるが、冬の漁をするのは初めてだ。やはり、船の上では踏ん張りも利きにくかろう、チャージングはできるのか?」
ゲレイ・メージ(ea6177)はトールの戦闘用に良く発達した筋肉と、手にする所の松脂を塗られた聖槍を見比べる。
ゲレイのローブにくるまれた膝の上には愛猫ムーン。
ほぼ全裸に近い大勢の為に、薪が燃え下がる中、パイプを吹かしながら、沈思黙考する。
「私は真実を追究する探索者だ。難しい依頼を達成し、腕を上げたい。さてはて、噂には使い手と共に名高い槍であるが、漁師としての経験も無い以上、一般論から言わせて貰うが、チャージングには6メートルもの助走が必要となる。海坊主に接敵する前に6メートルの助走が出来るかは潮の流れなどを見極め、タイミングを見切る事が肝心になるだろう」
「ならば、小細工は不要、正面から叩き潰すのみ!」
無愛想にマグナ・アドミラル(ea4868)が返す。
「落ち着け、若いの」
星霜を経た貫禄がにじみ出る。
「理由は知らぬが、8隻もの船を沈め、多くの漁師を亡き者にした海坊主を倒し、漁師の方々の仇を必ず討つ、それでいいではないか? 勝つのに手段は問えぬ、しばらくぶりに『暗殺剣士』に戻ると致そう」
「静かなる暴風か──」
トールが厳かに告げる。
「‥‥」
「そう、気張らずとも──まあ、何とかなるかな」
イギリス語で呟く、アシュレー・ウォルサム(ea0244)
ジャパン語も判らず、おっとりとしていて、常にマイペースの彼であるが、ジャパン最強のレンジャーとの噂もある。
「海坊主‥‥まあつまり、シージャイアントといったところかあ‥‥今までいろんな敵と戦ってきたけど、とうとう巨人‥‥何か行き着くところまで来ているなあ」
それに対してゲーレイ曰く──。
「巨人というなら、ほらそこにおるではないか?」
──と、穂狼を示す。
「まあ、確かに巨人と言えば、ジャイアントですけどね‥‥まあ、十二分に強敵なのは認めるよ、うん」
「久々にまともな依頼に入れたと思ったら──そりゃ、難度高いな、おい」
と、龍深城我斬(ea0031)が冷静に突っ込む。
一応、一同は海坊主との縁に関して書いてあるという経典を渡されたが、古代魔法文字らしき文字で書かれており、誰も読めなかった事を付記しておく。
一行は程なくして老兵、マグナの策通り、小舟と大船に分散して搭乗した。
我斬は冷静に帰った事の事を考えていた。吹きっ晒しの潮風の中、皆の武具は相当傷むであろう。
「さて、この戦いが終わったら、皆さんの武具の手入れでもしてやろうか? 一応、本業は刀鍛冶でな」
しかもジャパンに名の響くとさえ言われる刀鍛冶である。
「そろそろだぞ‥‥あの辺りだ──」
先日の襲撃での生き残りの漁師が、目前の海域を指し、一同に旗を振る。
ゲレイは途中でトールにフライングブルームを貸したが、地面から高さ30メートルまでしか浮かべないフライングブルームでは、海底から30メートル以上あるこの海域では使えない事が判明した。
それにフライングブルームに乗っていては自由に戦えない。
果たして幾度も淡い青い光に包まれたゲレイが、マグナと健一、それに我斬にウォーターダイブの施す頃には海中に巨大な影が現れていた、魔力を消耗しきりソルフの実を2個噛み締め、魔力の回復を図る。
しかし、海中のそれが印を組むと淡い赤い光に包まれる。
ストレッチと油の甲斐あって、突然の心臓麻痺という事に会う事無く、一同は水中に潜っていく、勿論魔力のせいで呼吸も万全。
我斬が先鋒となった、両手に十文字槍を構え突撃する。見事一撃を加えるが、深傷には至らなかった様だ。
「思った程、動きは速くないぞ、大技でも十分に仕留められる! というより大技でないとこの体格と皮膚の厚さでは仕留めきれない!」
「大きいですね。あれで魔法も使える反則ですよ。味方との連携が鍵になりますね。水の志士──山本建一参る」
と健一も勇んでは見る物の、日本刀では期待した程の破壊力は叩き出せず、また殺傷力に富んだ技も持ち合わせていないため、かすり傷に留まる。
「誓ったのに! 敵は討って見せます、とお蘭に」
「じれったいねぇ、まだ上がってこないのかよ!」
穂狼が櫓を取りながら焦るのを、アシュレーも聞きつつ『梓弓』を構えつつ船上で聞く。
「さすが、巨人だけあってやることが派手というか豪快だねえ‥‥まあ、でかけりゃいいものじゃないことを教えてあげるよ!!」
ようやく大型船側の海上に躍り出たところへ、針の穴をも通す様な一撃が貫く。
目元に刺さり、大量の海水と共に雄叫びを上げる海坊主。
一瞬の内に海坊主が結印すると、青い淡い光に包まれて、掌から円錐状に広がる凍気の渦が広がり、船員達を巻き込み、甚大な損害を与える。
咄嗟に同じくアイスブリザードを詠唱して相殺。ゲレイは致命傷は免れる。
しかし、一瞬とはいえ、冷気に晒された海の中を気配を殺して泳ぐマグナ。
「仇討ちか、暗殺剣士として、この依頼果たして見せようぞ。漁師の方々の仇め、海の藻屑と消えよ」
叩きつける霊力の籠もった斬馬刀の一撃、その大重量を乗せた攻撃に巨体も揺らぐ。
続けてもう一撃。
巨体のうねりから発生する波にミュールはソードボンバーで相殺しようとするが、なかなかにフォローしきれるものではなかった。
止めとばかりにトールが穂狼の漕ぎ寄せた小舟から槍でもって突きかかるが、最初の一打が決まった瞬間、彼の身体を足がかりにして、ミュールがよじ登って爛々と紅く光る目玉を刺そうとする。
無論、乱戦の最中ではその様な芸当が出来た訳ではない。
最も狂化しているハーフエルフに何を言っても無駄であるが、彼の行動は水上組の計算を大いに狂わせた。
しかし、アシュレイが慌てず騒がず次の矢を番えて、確実に打ち落とす。
血を溢れさせながら海坊主は海中へと沈んでいった。
マグナは情け容赦なく、斬馬刀を心臓と思われる個所に突き刺し、確実に止めを刺す。
かくして復讐劇の幕は下ろされた。
寒風吹き荒ぶ海上でゲレイはパイプを吹かし物思いに耽る。
「水域で最強の敵か、全力で魔法を使うのは久しぶりだ‥‥。
しかし。なぜ、このような事に? 古代魔法語の読めぬ身となっては仕方がないか‥‥」
冒険者達は操舵に突き合ってくれた、そして、アイスブリザードの影響を受けて怪我を負った漁師達に各々ポーションを渡して労い、自分達もリカバーポーションを飲み干すのであった。
村に帰れば暖かい炎とお蘭が待っているだろう。
斬我もしばし、鍛冶場を借りて、関係者の武具の調整をする事となった。
これが冒険の結末である。