皆殺しの雄叫びをあげよ!!
|
■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜17lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 24 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:02月18日〜02月23日
リプレイ公開日:2006年02月26日
|
●オープニング
「ワシは自分のした事に一片の後悔もない」
自分の死期を陰陽師に占って貰ったところ、近い内に心の臓を煩って倒れるだろうと予知された、源徳家に録を貰っていた老武者、越知和豊(おち・かずとよ)が冒険者ギルドで眼光鋭く切り出した。
「しかし、ワシの死体は『火車』と呼ばれる妖怪によって持ち去られるだろうと予言されるに至っては、我慢が成らぬ、我が亡骸はせめて、新しくあつらえた我が家の墓所に葬られるが望み。妖怪などの好き勝手にはさせぬ。例え、屍山血河と、謀略の果てに作られた栄華であろうと、お家の為にやった事だ、悔いはない」
そこで和豊老が切り出した依頼は自分の死体が、無事墓所に収められるまで警護する事。争議を妨害する者は手段を問わず、排除する事が求められた。
「では、よろしく頼む──うっ」
そこまで言って仲介料を渡そうとした時、緊張が高まったのか和豊老は左胸を押さえて倒れ伏した。
「もしもし、越知さま、越知さま!」
受付嬢が懸命に抱え起こそうとするが、陰陽師の予言は成就される。
越知和豊62才、無念の死亡であった。
仲介料は改めて呼ばれた和豊老の身内から渡され、葬儀は6日後に行われる事となった。
墓所までは歩いて一日、それまでに妨害する者を打ち倒す事。依頼はシンプルであった。
政敵は多いが、亡骸を辱めてどうこうしようという者が源徳武士にいるとは思いにくい。
それ以外の外敵か、予言にあった火車か。単なる物取りといった偶発的な事柄を除けば、考えられる可能性はその程度であった。
「で、火車ってどういう妖怪でしょう?」
受付嬢が個人的に過去の記録を漁って調べたところが、下記に示された事である。
●リプレイ本文
「ジャパンには変わった妖怪がいるんだね。悪行を重ねた人間、とは言っても、亡くなった人の体は遺言通りに、葬って上げないと」
集めた火車の情報を聞きながら、イギリス語で呟く、レイジュ・カザミ(ea0448)。こんな事をジャパン語で言ったら大事である。
幾ら寒気厳しき折とはいえ、相応死体も傷んでくる。
弔問客も毎日押し寄せ──とはいえ、日向大輝(ea3597)の幼い目から見ても(もっとも15才ともなれば、立派に大人の責務を果たして然るべき年だが。外見が初見の人間は大抵パラだと思う様な幼い雰囲気を持っているのも事実である)
案の定、ホトケに恨みを持っている者や政敵は、と? 尋ねてみると、やはり『星の数ほど』とか『坊やは今まで食べた飯粒の数を覚えているのか?』などという質問に対し、質問で返す会話の成り立たない返答が返ってくるのであった。
最も、それよりは墓場までの行程で火車が襲いかかってきそうなポイントとその迎撃位置を確認し、入念にその下見に東奔西走していたほうが、大輝の性にはあっていたが。依頼人の家に戻ると、ひとり葬式饅頭にかぶりつくのであった。
こんな時間に大輝が館に出入り出来るのも陸堂明士郎(eb0712)が昼夜を問わず家臣の半分を警護に就けてくれと言う献策の賜物であった。 ともあれ、柚湯をすすり大輝は呟く。
「‥‥だから子供っぽい、って言われるのかな──?」
「まあ、そうかもしれんが気にするな、大器晩成という言葉もある。ところで、すまんが、ちょっと調べ物をしてくる。なに1、2刻で戻るから心配するな」
と、甘いスマイルを浮かべるジェームス・モンド(ea3731)。
「ただの勘なんだが、気になってな‥‥損な性分だ」
一転して苦々しげな笑みを昇らせた。
とりあえず、直接、和豊の葬儀に対し、侮辱を加えるだの何だのといった動きはなく。
件の陰陽師にも会えたが、単にフォーノリッジで見た未来をそのまま告げただけだという。
さすがに真偽の検証法をジェームズは思いつかなかったので、びた銭を握らせて、付近の子供に怪しげな動きをしたら教える様に頼み込む。「生前の悪行が災いを呼ぶのか、それとも悪行そのものが‥‥どちらにしても難儀な事だな‥‥」
明士郎はその陰陽師の言葉を聞いて呟く。
そして、葬儀の直前に火車の性質に関して、自分のジャパン語で判る範囲で火車の特性を家臣達に伝える。
(やはり、情報を扱う者は言葉を使えないと不利だな)
ふたりが情報収集に入っている間に、ミリート・アーティア(ea6226)は策があると言い、続けて──。
「自分の家の墓地にしっかりと埋葬されたい、これは和豊さんの『遺命』と同じと考えて。その為には出来るだけの事をし、確実に埋葬してあげたいの」
と、4日間の時間をかけて、樽に鎖や重石、内底には薄い鉄板を施す様、鍛冶士に依頼。
大輝が実地で調べ込んできた、襲撃予測地点の説明を元に、イメージトレーニングに励むミリート。
しかし、聰暁竜(eb2413)が棺桶をロープでぐるぐる巻きにしようとし出して、騒ぎになったのに感づくと、自分も愛弓を片手に飛び出していった。
「ちょうど良いミリート、私のやっている事を彼等にも説明してやってくれ」
「あのねー日本人は恥をかかされる事を嫌がるのよね。私は見えない所で色々細工をしたけど、あなたは目に見える所にやっているからじゃないのかな? それに私は家臣の人に許可を取ったけど、あなたはいきなり縛りだしているじゃないの? それって大きく違うと思うのよね」
「む、修行不足」
暁竜はそこで改めて確認をしたが、外見上見えるものは止めてくれ、という返答に留まった。
そして、葬式当日。しずしずと鯨幕を後にして、葬儀の列は続いていく。
何事もなく、読経は終わり、葬儀は墓に入る事で終わるかと思われたが、一陣の生暖かい風が吹き荒れる。
「暁竜、きっと火車だよ」
大輝少年の言葉に、今を盛りの武闘家、暁竜が鎖で手近な木々に結びつける。
「火車ほどの大妖ならば、使い魔の一つや二つ連れていても驚かんよ」 明士郎が叫ぶが、風を切って現れたのは小柄な人ほどの猫一匹。しかし、空中に浮いている。
「手向かうか、ならば冥土の道連れにしようぞ!」
火車が吠える。
「我行くは修羅の道、死に挑みし者。故に冥土など恐れはせぬ!」
頑丈一点張りの胴田貫と軍配を手に明士郎は挑むが、相手は遠い間合いから詠唱結印し緑色の淡い光に包まれると雷撃を放ってくる。
「利かぬ!」
「ならば、ボクの出番だよ!」
ミリートがウィンドレスのスクロールを発動し終えた後、オークボウで矢を射るが、最初の一打がクリーンヒットしたが、深傷を与えた様には思えない。
火車は更に間合いを取って、改めて呪文で雷を撃ち放つ。
しかし、ミリートは耐えきり、無傷。
「落ち着け、お前達はまず参列者を安全な場所へ誘導してくれ‥‥安心しろ、和豊殿の死体を好きにはさせんさ」
ジェームスが侍の頭だった者に指示を飛ばしながら合掌し、レジストマジックの呪文を唱える。黒い淡い光に包まれたジェームスであったが、空を飛ぶ火車との間合いを詰めるのには苦労する。
「どんな人間でも、死体は安らかに眠る権利がある。この俺の目が黒いうちは、お前の好きにはさせん!」
業を煮やしてか、火車は自分から棺桶の方に近寄っていく。ミリートが狙い澄ました一矢を射るが、残念な事に、相手は全身を魔力で覆っているようで、弱点は無いようである。
「畜生、空を飛ぶなんて卑怯だぞ」
大輝が空中から迫ると火車に向かって怒りを向けるが、怒りは更に倍返しとなって返ってきた。
詠唱と結印と共に、疾風が刃となり、大輝の背を割る。
「この大猫!」
動きが鈍った所で、背中をぐいと掴まれ、そのまま天空に持ち上げられる。
大輝は魔力の籠もっていない日本刀を振り回すが、まるで利いた様子はない。
「さて、この童も冥土の道連れにしたくなくば、棺桶の蓋を開けよ」
レイジュが舌打ちしながら蓋を開けると見せて、そのまま蓋を力一杯投げ飛ばす。樽上の棺桶の蓋だから当然円形である。
そのまま、大輝を掴んでいた手に当たり、大輝自身の暴れっぷりもあって、火車は堪らず大輝を地面に落とす。
骨の折れる嫌な音。
しかし、大輝は道連れに火車のバランスを崩していた。
ミリートの極まった3本の矢がダメージを与える。
その合間に度胸をしていた僧侶がリカバーで大輝の傷を癒やしていく。
「これでサヨナラ! Bye−byeだよ!!」
ミリートは更に叩きつけるように3本の矢を射込む。
火車の亡骸はそのまま地面に落ちてきて、不快な音を立てた。
レイジュは呟く。
「火車に狙われるなんて、亡くなっても安心出来ないね。僕はこんな事にならないように、人生を送りたいものだよ」
ミリートは遺体が安置されるのを確認した上で、手はず通り葬送歌を送る。
次は、あったかい生き方を送って欲しいな‥‥。
──という願いを込めつつ。
そして、大輝少年は自分の無力さを実感しつつ、更なる精進を目指すのであった。
これが冒険の顛末である。