【胡蝶と竜】臥竜目覚める

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:15〜21lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 75 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月22日〜02月25日

リプレイ公開日:2006年03月02日

●オープニング

「ああ、長千代君様にはどうにも参りまして」
 髪は鴉の濡れ羽色、肌は雪のように白く、唇は牡丹の様に紅い。そんな如何にも色白で息も絶えなん風情の12、3歳の侍女、左子(さね)は江戸城の口には出せないとある方の、側仕えだという。
 そのとある方である筈の長千代が異人達が来るという月道見物に行くと言って、14日に唐突に出奔したというのだ。
 大脇差しを腰にしている所からも、左子も武芸の腕は暗くはない様だ。何も人を頼りにしなくても──と江戸の冒険者ギルドの受付は思い、こんなに江戸ばかりか、日の本に知られる様な腕自慢ばかり集めて行かなくても──と、問い質すが──。
「長千代君様はその父上であられるお方と、同じ師匠に学びまして、免許皆伝だのそういった格式こそ持っておられませんが、兵法の腕前は普通の芸者の域を軽く超えておられです。
 私も負けてはいないつもりですが、ひとりだけでは探せる広さにも限りがありましょう」
 との事であった。
「このままつらつらと時間が経ってしまいますと、人さらいの心配などないなれど──」
 普通、そこを心配するよな、と受付は思った。
「──旅芸人や、漂泊の民。それに冒険者にそのままついて行って、そのまま、江戸には帰ってこなくなるのでは? とそればかりが心配で」
 左子の言葉に、普通‥‥それを人さらい、と言うのでは、と受付は思ったが口には出さず。
「それはご心配でしょう、では早速人を集めますので、長千代君様の特徴をお教え下さい」
「はい、眦は吊り上がり、肌は浅黒く、服装は──おそらく城の服はとうに脱ぎ捨てているでしょうから、今までもそうでしたし。当てにはならないので省略はさせていただきます。しかし、小太刀は身に着けておられるでしょう。
 年は当年11になられますが、14、5にお見えになられるでしょう。それだけの体格はあります。されど、まだ声変わりはしておられません、また様々な国の言葉や、シフールの言葉に堪能です。また、我流ですが、芸事にも堪能で、形にとらわれぬ様々な技芸を見せてくれと言われれば、見せていただけるでしょう」
「何とも雲をも掴むような話ですね」
「ええ、ですが、江戸を出る際にごたつきが出ると思われますので、早めに身柄を確保したいのです」
 左子はそう言い切った。

●今回の参加者

 ea1241 ムーンリーズ・ノインレーヴェ(29歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4473 コトセット・メヌーマ(34歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

沖田 光(ea0029)/ ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)/ ピリル・メリクール(ea7976

●リプレイ本文

「マドモアゼル左子は磨けば10年、いや5年後が楽しみですね」
 ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)の言葉に、ゲレイ・メージ(ea6177)は一応礼儀として尋ねた。
「根拠は?」
「酒と女性への審美眼というものを信じて頂きたい」
「刀剣の醍醐味や、錬金術の理論展開の審美眼なら幾らでも話し合う準備はあるが‥‥」
 と、膝の上を定位置にした猫のムーンを撫でくりまわしながらのいつも格好である。
「長千代君に、冒険者に興味は抱かせるが、冒険に出たいとは思わせないように注意する──相手の気を引きすぎてはいかんからなぁ。う〜む、難しい‥‥」
 パイプを吹かしながら、ゲレイ。
 一方、ノルマン少年、キット・ファゼータ(ea2307)はとりあえず左子に会ってもっと詳しく長千代の特徴を聞く事にした。
 茶店で、左子と打ち合わせる。遠目から見ればデートであるが、イリア・アドミナル(ea2564)が通訳しているせいで実質はそうではない。
 まず、キットとしては、長千代君の好みのことを中心に。
 食べ物、服装、どんなところに行きたがるのか。
「食べ物は肉魚の類は一切食べませんね。
 服装は、城の中でこそ狩衣(かりぎぬ)姿ですが、表に出れば、流浪の芸人と服を取り替えてしまうので、どんな格好になるのか予想もつきません。
 まあ、武家お公家様の服ではない事は確実ですけれど」
「何か思い出深いものがあればそれを糸口に出来るかもしれないしな」 イリアは甲斐甲斐しくそれを訳する。
 彼女はジャパン最強のウィザードともうたわれているが、正確にはジャパン最強のバストだろう。
 その胸をキット少年、横目で見つつ。
(‥‥つーか依頼の内外問わず同年代と接するのは珍しいな)。
 やはり同年代なのに、色香が匂い立つようなのは焚きしめた香のせいだろうか?
「思い出深いものと言えば、子供の頃は父君は生まれたとき、特徴的な顔立ちとして、あまりにも吊り上がった瞳が、はっきりと出ていたので、一目見て、一言『捨てろ』と言われたそうです。
 それを産みの母君、お茶阿の局さまが懸命になって、江戸城にお上げするまで、下野長沼の皆川様の元で人となったそうですが‥‥これは余談ですね。
 自らを拾い直した母君への思慕が強い為、自らを捨てた父君の元からも飛び出せないというのが現状でしょう」
 故に江戸からは飛び出せないでいる、しかし。切っ掛けがあれば──。
 というのがイリア自身が訳していて、感じた長千代像であった。
「て、ちょっと待って。今の話を聞きますと、かなり高位の方ではございませんか、長千代君の父着とは?」
「だから、こうして内々にと‥‥」

 一方、ムーンリーズは辻に立つ。
「‥‥始めまして江戸の麗しいご麗人達よ」と艶笑
「今から私目が魅せますのは泡沫の恋の話でございます」
と語る様に物語を話しながらカクテルを作っていく
シードル5割にワイン2割、残りの3割はゆずを使って作成、色は明るい赤紫。
「‥‥そう、此れが成熟したマドモアゼルの飲み物です、題して‥‥『朝日の情景』です」
 銀髪の美形エルフというジャパンにはそうそう居ない、エキゾチックさに人が集まる。
(取り合えずジャパンの権力者に恩を売るのも良い事だと思うので頑張りますかね)

「‥‥始めまして江戸の麗しいご麗人達よ」
 と、艶やかな笑みを浮かべるムーンリーズ。
「今から私めが魅せますのは泡沫の恋の話でございます」
 語る様に彼は物語を話しながら酒と果汁を合わせていく。
 シードル50%にワイン20%、ジャパン特産のゆずを使って作成、色は明るい赤紫。
「‥‥そう、此れが成熟したマドモアゼルの飲み物です、題して‥‥『朝日の情景』です」
(やれやれ──人が集まるのはいいのですが、肝心の方が全然来ないのでは──酒に興味が無かったのかな?」
 水でワインとシードルを薄めるのもこれが限界と、ムーンリーズが観念した時、

「身柄は推測するなということは、わかっても黙っていろということで、ギルドから非公開の依頼ということは、長千代君という人を探している事は知られないほうがいいんだよな」
 と連絡役を務めるラシュディア・バルトン(ea4107)は聖骸布のみに身を包み、町人の注意を引いていると、
 コトセット・メヌーマ(ea4473)はムーンリーズと組んで、驚嘆! 素手で茶釜沸かしをする男、と言った感じでヒートハンドを両手にかけて、もてる限りの重い茶釜を持ち上げ湯気を出すというパフォーマンスを行っていた。
 そこで集まった聴衆に講談をぶつ。
「如何な胆力の持ち主でも挫けそうになる時がある。そこで私は士気を鼓舞する呪文を唱え、勇者が奮い立ち、力を漲らせた‥‥」
 そんな彼を、屋根の上から、見下している、存在感溢れる毛皮の服の青年を見て、コトセットは思わず茶釜を落としそうになる。
 蕩々としたジャパン語での講談を唐突に打ち切り──。
「その者は勇者であろうか?」
──と、屋根の上に向かってゲルマン語で呼びかけ、言葉を理解するかと声変わり前の声かを確認。
 違うよ、と確かに声変わり前の声音でゲルマン語で返し、手をひらひらと振る。
「私は、この呪文は受くるに相応しい者にしか唱えない。この江戸で相応しい勇者を見出したいもの‥‥」
 と、ゲルマン語で返す。
「ただの捨てられ子だ」
 コトセットはムーンリーズと打ち合わせた、長千代発見の合図を彼に向かって行い、注意を促す。
 ムーンリーズも急いで商売道具を畳もうとするが、思い直して、甘いウィンクを聴衆の約7割に送る。
 そこへキットのカムシシが飛んで来る、指笛を長千代らしい人物が鳴らすと、その左腕へと爪も立てずに止まり行く。
「カムシシ、他の人の所に──」
 とキットが屋根瓦に滑りつつ、ゲルマン語で話しかけるが、下を小走りにするイリアと左子が、そのゲルマン語での会話に驚いた様に脚を止めた。
「いい鷹だな。目が死んでいない」
 俺は長千代だと堂々とゲルマン語で名乗り、キットが反射的に動くのに、驚きもしない。
「何だ、左門か? 今度は異人を集めたのか? 上手い手だな」
 驚くべき視力だ。
「左門、男性の名前らしく聞こえますが、気のせいでしょうか?」
 ムーンリーズが己の耳を疑うかの様にゲルマン語で問い返す。
「え、え、ちょ、ちょっと男? 女? 左子じゃないの?」
 キットがイリアがやや遅れて翻訳したのを聞いて、驚きを隠せない。
 同年代と冒険するなどと初めてだったのに。この感動を返せ、という感じであろうか?
 こうして、臨時の大道芸は終わり、彼等は冒険者ギルドで正式に左門──柳生左門と言うと長千代は語った──とその主、長千代君が江戸城に帰っていくのを見送る事となる。
「折角、冒険者にでもなろうかと思っていたのに、
 ラシュディアは、もし、冒険者になると言い出したら‥‥言うべき言葉を決めていた。
「――冒険者は常に何かが起こってから、既に泣いている人が出てからしか動けない。常に負け戦だということ、それがいつも悔しい。それに、目の前の人しか守れない。
 でも、あそこに居る人たちは――と江戸城を目で指して――もっと早くもっと多くの人を助けられる。そこが羨ましい」
 ‥‥などという話を、恐らくは身分が高いだろう彼に向かってぶった。
「それは嘘だな。上にいる人間は上の都合しか見えず。下の人間は上にいる相手は下を見下ろせるのだろうと勘違いしている」
「それがお前の意見だな?」
 ラシュディアは視線を見据えて尋ねる。
「そうだ。俺の意見だ」
「まあ、世の中色々ある。上にしか出来ない事など幾らでもな」
 左門ひとりを伴って、長千代がおそらく、彼等がそうは会えない場所に行くであろう姿を見送った。
「あ、そうそう。今の俺の名前は源徳長千代っていうんだ」
 長千代少年は最後に火種をひとつ落として去っていった。
 これが冒険の顛末である。